スジアオノリ
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1. 海岸に打ち上げられた藻体 | ||||||||||||||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||||||||||||||
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| 学名 | ||||||||||||||||||||||||
| Ulva prolifera O.F.Müller, 1778[1] | ||||||||||||||||||||||||
| シノニム | ||||||||||||||||||||||||
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スジアオノリ(筋青海苔[2]、筋青苔[3]、学名: Ulva prolifera)は、アオサ目アオサ科アオサ属に分類される緑藻の1種である。以前は、本種を含むアオノリ類はアオノリ属に分類されていたが(学名: Enteromorpha prolifera)、21世紀初頭にアオサ属に移された。藻体は1層の細胞からなる管状体であるが扁圧していることもあり、大きさや形態は変異が大きい。分枝していることが多く、学名の種小名である prolifera は、ラテン語で「多数分枝する」を意味する[1][3]。世界中の沿岸域に分布しており、河口など汽水域に多い。日本では四万十川河口域のスジアオノリがよく知られている。黄海では大規模な緑潮(グリーンタイド)を形成する。日本ではアオノリの中で最も美味とされ、最も多く養殖されている。
藻体は緑色、大きさや形は変異が大きいが、ふつう細長く長さ 10–30 cm(100 cm に達することもある)、円柱状または扁圧しており、多数の枝を生じることが多い[4][5][2][3]。細胞は表面観で角の丸い多角形から四角形、直径 10-19 µm、葉緑体は1個、1(–3)個のピレノイドを含む(藻体基部ではピレノイド数が多い)[4][5]。
基本的に、同形同大で単相(染色体を1セットのみもつ)の配偶体と複相(染色体を2セットもつ)の胞子体の間で同形世代交代を行う[6]。配偶体から放出される配偶子は2本鞭毛性であり、細胞長 6.0–7.2 µm、わずかに異形配偶子である[6]。胞子体から放出される遊走子は4本鞭毛性、細胞長 11.1–11.5 µm[6]。また、2本鞭毛性(細胞長 7.5–9.3 µm)、または4本鞭毛性(細胞長 8.7–11.0 µm)の無性遊走子による無性生殖を繰り返す個体群もある[4][6]。
分布・生態
ほぼ世界中に分布しており、北極海(バレンツ海、スヴァールバル諸島など)、北米から南米(太平洋岸、大西洋岸)、大西洋諸島(グリーンランド、アイスランド、アゾレス諸島、マデイラ諸島など)、ヨーロッパ(大西洋岸、北海、バルト海、地中海、黒海など)、アフリカ(地中海、大西洋岸、インド洋岸)、中東(紅海、ペルシャ湾など)、カスピ海、南アジア、東アジア(ロシア、中国、韓国、日本など)、東南アジア(インドシナ半島、インドネシア、フィリピンなど)、ミクロネシア、ニュージーランド、ポリネシア、ガラパゴス諸島から報告されている[1]。タイプ産地はデンマーク、ロラン島[1]。
沿岸域の潮間帯に分布し、汽水域に多く、岩や石に付着しており、河口からかなり上流域まで見られることもある[2][3]。ただし、付着しない浮遊性の個体群も存在する(下記参照)。塩分濃度に対する広い耐性をもち(広塩性)、四万十川では河口域の 33.1 psu から、河口から 7 km 上流の 0.3 psu の場所まで生育している[7][8][9]。また河川における天然藻体の調査からは、海水よりもやや塩分が低い環境を好むことが示唆されている[9]。四万十川などでは晩秋から芽生えが生じ、冬と春の2回繁茂することが多く、夏には大型の藻体は消失し、川底の石などに付着した微小な藻体で越夏する[9][10]。
人間との関わり
食用
日本では、スジアオノリはアオノリの中で最も美味とされ、広く食されている[10]。ふつう青のり粉として利用され、お好み焼きや焼きそばに振りかけて食べられる[10]。和菓子や雑煮、餅、おかき、煎餅、ポテトチップスなどにも利用される[10]。アオサや他のアオノリも同様に利用されるが、その香りの良さからスジアオノリ使用を強調している製品もある[10]。千葉県では、スジアオノリを板のりにし正月の雑煮に入れる風習がある[6][11]
『日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』には「あおのり<青海苔>の素干し」(09002)が掲載されているが、これはスジアオノリを主体としてウスバアオノリを混ぜたものとしている[12](成分表はアオノリ#食用を参照)。アオノリは、鉄、マグネシウム、カルシウム、ビタミンA、ビタミンB12などに富んでいる[7][13][14]。アオノリの香気主成分はジメチルスルフィドであるが、スジアオノリはアオノリ中でも香気が強いとされる[10][7][13][14]。
生産
日本では、アオノリの中でスジアオノリが最も多く生産されている[7][6]。ほとんどは養殖によるものだが、天然品も採集されている。
天然のスジアオノリとしては高知県四万十川産のものがよく知られ、ブランドイメージがあり、乾燥kg単価15,000–20,000円で買い取られる例もある[7][15]。四万十川の天然スジアオノリは、「四万十川の青のり」として地域団体商標に登録されている[16]。1960年代には年間収穫量30–50トンであったが、近年では激減している[17][7]。四万十川では河口から 6 km 上流でもスジアオノリが生育しているが、その収穫期は11–1月と4–5月であり、それぞれ冬ノリ、春ノリとよばれる[17]。冬ノリは10月下旬ごろから芽生え、比較的浅い場所に繁茂し、長さ数十cm、幅が狭いものが多い[17]。3月ごろには冬ノリは衰退し、4月下旬ごろから春ノリが比較的深い場所で繁茂するが、期間は2–3週間と短く、年により繁茂程度は大きく異なる[17]。冬ノリに比べて春ノリは長く(時に 1 m 以上)、幅広い傾向がある[17]。2回の繁茂期があることは、高知県新庄川や徳島県吉野川、愛媛県北川でも報告されているが、繁茂期が連続している河川もある[17][9]。
日本では、アオノリの中でスジアオノリが最も多く養殖されている。2023年時点でのスジアオノリの主な養殖産地は千葉県、三重県、岡山県、山口県、徳島県、香川県、熊本県などである[18]。特に徳島県のスジアオノリ生産量は全国の7–8割を占めており、「とくしまのスジアオノリ」はプライドフィッシュに登録されている[19]。また韓国でも、スジアオノリが養殖されている[20]。
スジアオノリの養殖では、まず養殖用の網(ノリ網)に遊走子(鞭毛をもつ胞子)を付着させる(採苗)[10][21][6]。種場(たねば)と呼ばれる場所に網を張って自然に採苗する天然採苗が一般的であるが、スジアオノリを細かく刻んだものを水槽の海水中に2–3日置くことで放出される遊走子を付着させる人工採苗も行われている[10][21][6]。人工採苗は天候に左右されず確実に採苗できるが、大きな施設を必要とする[10]。採苗した網は冷蔵保存が可能であり、5°Cで数カ月程度保存できる[10]。採苗した網は種網(たねあみ)とよばれ、これを養殖漁場に張り込んで本養殖を開始する[10][21][6]。漁場の水深が浅いところでは支柱張り方式、水深が深いところでは浮き流し方式で設置する[10][21][6]。日本で最も生産量が多い徳島県吉野川では、11月に本養殖を始め、2–3週間で 20–50 cm に成長するので、これを網ごと回収し、新たな種網に張り替え、生漁期の間は育成が繰り返される[10][6]。スジアオノリの成長適温は15–20°Cであるが、高温耐性がある株の選抜も行われている[21][22]。また、スジアオノリ養殖に関しては、陸上養殖も行われており、しばしば地下海水を用いている[23][24]。
機械摘みや手摘みなどで網から摘採された原藻は真水で洗浄され、水切りの後に乾燥される[10]。 ふつう乾燥機(冷風乾燥、温風乾燥)によって乾燥するが、昔ながらの天日乾燥もあり、天候に左右されるが最も単価が高くなる[10][21][6]。
緑潮

アオサ属藻類はふつう基質に付着しているが、基質から離れて海中を浮遊することがあり、富栄養化などによってこのような浮遊性のアオサが大増殖する現象は緑潮(グリーンタイド)とよばれる[25][26]。緑潮を構成する種は地域によって異なるが、黄海ではスジアオノリが大規模な緑潮を形成する。スジアオノリによる黄海の緑潮はもっとも大規模であり、2008年北京オリンピックのセーリング会場であった青島で発生した緑潮は 600 km2に拡がり、回収量は100万トンに達した[26](図2)。山東省では、2009年の緑潮によって約1億ドルの直接的な経済損失があったと試算されており、また青島では、2008年から2024年の間に計3,561万トンの緑潮を回収し、2億ドル以上が使われたとされる[27]。黄海では4月ごろに江蘇省沿岸で発生し、風と表層流によって北東に拡がり、7月下旬に消失する[27]。大量のスジアオノリはバイオマス資源としての利用が研究されており、実用化されているものとして、中国では1日で藻体10,000トンを処理できる肥料生産ラインが建設されている[27]。