パレスチナ国の国際的な承認
From Wikipedia, the free encyclopedia
イスラエルのガザ侵攻以降
2023年10月7日にガザ地区を実効支配するハマース(日米欧などがテロ組織に指定)などの武装組織[1]が、イスラエル領において治安部隊要員(イスラエル国防軍兵、警察職員、シンベト要員など)と民間人を合わせて1,163人を殺害し[2]、245人以上を人質に取った[3]。これに対し、イスラエルはハマースの無力化と人質の解放を目的として[4]空爆と地上侵攻を行い、2024年5月12日までにガザ地区では3万5千人以上が殺害され[5]、推計1万人が瓦礫に埋もれたままとなった[6]。そして、中東の和平における二国家解決の重要性が再認識され始めた[7]。
2024年国家承認の加速
2024年に入ると、カリブ海諸国のバルバドスとジャマイカ[8]が4月に、トリニダード・トバゴ[9]とバハマ[10]が5月に、次々とパレスチナ国の国家承認を行った。
2024年5月22日には、EU加盟国でNATO加盟国であるスペイン、EU加盟国であるアイルランド、NATO加盟国であるノルウェーが、5月28日の公式承認に向けて、それぞれの国内で国家承認の手続きを始めると発表した[7][11]。
アイルランドのサイモン・ハリス首相は、パレスチナ国の国家承認が二国家解決へ道筋の重要なそして歴史的な一歩となるとし、正しいことをするのに間違ったタイミングはないと述べた。また、ハリス首相は、アイルランドは占領国イギリスのもとでパレスチナと似た歴史を経ていることからアイルランドとパレスチナ国を重ね合わせ、アイルランドの独立の際に、同国の国家としての特有のアイデンティティ、独立への困難な闘い、自決権、そして正義を自由主義諸国へ訴えたように、パレスチナの国家承認に際して同じ言葉を自由主義諸国へ訴えるとした[12]。また「アイルランドはイスラエル国とその平和で安全に生存する権利を認めている。そして、パレスチナの人々も同等の権利を持たなければならない」と話し、「IRAがアイルランドの人々ではないことと同じように、ハマースはパレスチナの人々ではない」と注釈をつけた[13]。また、3カ国以外のEU諸国との連絡と協議を続けている事も明かし、その他のEU諸国が3か国を追随することに「自信がある」とも述べた[7]。既にEU加盟国でNATO加盟国であるスロベニアと、EU加盟国であるマルタも近日中に承認予定であることがロイター通信によって伝えられている[14]。一方で同様に承認予定と伝えられていたベルギーは、選挙が3週間後に控えている事もあり、今回の発表に加わらなかった[7]。
ノルウェーのヨーナス=ガール・ストーレ首相も、二国家解決の重要性を訴え、イスラエルとパレスチナ国の国境は第三次中東戦争勃発前日の1967年6月4日の境界線、つまりグリーンラインとすべきだと述べた[7]。また国家承認には権利だけでなく国際社会での義務も生じることを指摘し、「国際法を遵守し、国際的に認められた国境内で平和的に生きる」必要性を訴えた[7]。
スペインのペドロ・サンチェス首相は、この発表を同国の国会で行い、国会議員達はスタンディングオベーションと拍手で発表に同調した[7]。EU諸国のパレスチナ国家承認議論を先導してきたサンチェス首相は、国家承認は正しい事だと述べた[7]。また、イスラエルとの友好関係を強調して「イスラエルに反対するものではない」と話し、「そして、この決定は二国家解決に反対しているハマースへの絶対的拒絶を示すものだ」と述べた[15]。
2024年5月28日、スペイン、アイルランド、ノルウェーは、和平を促すことを狙い正式にパレスチナ国を国家として承認したことを発表した[16]。
同年5月30日、EU加盟国でNATO加盟国であるスロベニア政府もパレスチナ国を正式承認する方針であると発表した。まだ国内での議会承認が必要だが、ロベルト・ゴロブ首相「これは平和のメッセージだ」と述べ、ガザ地区での戦闘の即時停止と人質全員の解放を訴えた[17]。そして同年6月4日、臨時議会でパレスチナ国家を承認する動議について採決が行われ、90議席中52人の賛成により動議は可決された[18][19]。ただし野党は現時点での承認は反対するとし投票をボイコットしたため、反対票はゼロだった[19]。
同年6月21日、アルメニア共和国もパレスチナ国を正式承認した[20]。アルメニア外務省は、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとハマースの戦闘の即時停止に関する国連決議を支持し、パレスチナとイスラエルが平和で安全に共存する「2国家解決」を支持すると表明した。
これらの一連の正式承認は、パレスチナ・イスラエル戦争を終わらせるべくイスラエルに圧力をかける狙いがあるとされている[17]。
しかしイスラエルは「対抗措置」「懲罰」「制裁」と号し、過去にヨルダン川西岸地区から撤退した入植地の再承認[21][22][23]、代理徴収していたパレスチナ国の税収のノルウェーを介した送金の停止[24]、軍占領地の実権の多くを民間移譲することによる事実上の領土化[25][26][27][28][29]、前哨地(イスラエル国内法でも違法な入植地)の公認、パレスチナ国政府職員のイスラエル通行ビザの剥奪[30]、パレスチナ人私有地・未登記地の国有化宣言による没収[31][32][33]など、かえって「パレスチナ国家の樹立を阻止するため[34]」(スモトリッチ・イスラエル財務相兼国防省付大臣[35])の行動を加速させている。
ノルウェーは1993年に中立の立場でオスロ合意を仲介し、パレスチナ(PLO・パレスチナ自治政府・State of Palestine)とイスラエルの双方から信頼され、その後も税金の受け渡しの橋渡し役やパレスチナ支援調整委員会(Ad Hoc Liaison Committee, AHLC)の議長[36]を任されていたが、ノルウェーがパレスチナ国家を承認したことで、イスラエルはノルウェーを信頼しなくなった[37]。
パレスチナからの働きかけ[38]に応えて国際社会がイスラエルに圧力をかけているとして、イスラエルの国会(クネセト)は、ヨルダン川から西にあるすべての土地でのパレスチナ国家のいかなる形の樹立にも(イスラエル政府がパレスチナと取引した結果でも)反対する決議の中で「ヨルダン川より西にある土地にパレスチナ国家が樹立されると、すぐにハマースがパレスチナ国家を乗っ取るだろう。そして、このタイミングでパレスチナ国家を推進することは、テロリズムにテロの褒美を与えるようなものだ」と主張している[39][40][41]。
2025年の動き
2025年1月に、2023年から続くパレスチナ・イスラエル戦争の一時停戦が発効した[42]。
一時停戦中の2月5日、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は、パレスチナもイスラエルも国家として承認している同国の立場を明確化した[43]。
しかし3月には一時停戦が崩壊し戦闘が再開されたうえ[44]、イスラエルは人道支援物資のガザ地区への搬入を10週に渡って停止したため、人道状況は悪化の一途をたどり飢餓のリスクが高まった[45]。大規模な飢餓が懸念され、同地区のさらなる惨状とヨルダン川西岸でのイスラエルの入植地の拡大が伝わり始めると、ガザ紛争に反対する声とパレスチナの国家承認への圧力の高まった[46][47][48]。
7月24日、フランスのマクロン大統領は、パレスチナを国家として承認することを決定したとSNSで表明した[49]。同年9月に開催予定の国連総会で正式に表明する[49]。
同月25日、イギリスでは、与党・労働党の議員を含む国会議員221人が、キア・スターマー政権に対してパレスチナ国家の正式承認を要求[46]。同月29日にはスターマー首相が、ガザ地区での惨劇が終わらなければ9月にパレスチナを国家承認する意向を表明した[50]。
同29日にはマルタのロベルト・アベーラ首相も、9月の国連総会においてパレスチナを国家として承認すると表明した[47][51]
同日、サンマリノのルカ・ベッカーリ外務長官が、パレスチナ国家承認に向けて同国内の手続きを始めたことを発表した[52]。手続きは徐々に進め2025年末までの終了を目指しているとした[52]。
やはり同日には、アンドラのインマ・トール外務大臣が、近い将来パレスチナを承認できるよう取り組んでいると述べた[53]。
翌30日には、カナダのマーク・カーニー首相が、条件付きで9月の国連総会で「パレスチナを国家として承認する意向がある」と表明が続いた。2023年に始まったパレスチナ・イスラエル戦争の状況悪化を受け、従来通りの交渉による和平は「もはや持ちこたえられない」とし、「パレスチナ国家の見通しが、私たちの目の前でどんどん損なわれている」と外交の方向転換の意図を説明した[48]
7月31日にはポルトガル政府が9月の国連総会でパレスチナを国家として承認すると発表した。欧州メディアによるとポルトガルのルイス・モンテネグロ首相が9月の国連総会での承認を予定していると報じている[54]。
同日にはフィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領が、首都ヘルシンキで共同通信の単独インタビューに応じ、その中でパレスチナの国家承認を巡り、パレスチナ自治区ガザでの和平プロセスに有益だと判断すれば「われわれは国家として認める」と表明した。将来の承認に前向きな姿勢を示した[55]。
8月11日にはオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相が記者会見し、9月の国連総会でパレスチナを国家として承認する方針を表明した[56]。
同日にはニュージーランドのウインストン・ピータース外相が、パレスチナを国家として承認することを検討していると明らかにした。外相は内閣が9月に正式に決定し、国連総会で政府の立場を示すと述べた[57]。
8月22日、食料危機の程度を5段階で示す「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」による分析を実施していた世界食糧計画(WFP)などの国連機関は、ガザ地区北部のガザ市などが最高レベルのフェーズ5、つまり飢饉に陥ったことを確認したと発表した。これは、世界で5例目であった。今後飢饉に関連した死者数は急増すると警告され、各国がなんらかの行動を起こすべく圧力が強まった[58]。
9月2日に、ベルギーのマキシム・プレヴォ外相は、9月の国連総会でパレスチナ国家を承認する意向を表明した[59]。ただし、正式な承認には2023年10月7日にイスラエルからガザ地区に連れ去られた人質の解放とハマースの政治権力からの排除が必要だとした[60]。
9月12日、先立って7月に開催されたフランスとサウジアラビア主催の会議において発表された、イスラエルとパレスチナの2国家共存による和平の実現を「具体的で期限付きの不可逆的な措置を講じる」ことを呼びかける「ニューヨーク宣言」に対する支持を表明する決議案が、国連総会において日本を含む142か国の賛成多数で採択された。アメリカとイスラエルを含む10か国は反対票を投じ、12か国が棄権した[61][62]。この宣言にはハマースの武装解除とガザ地区統治権のパレスチナ自治政府への移譲、ハマースによる人質全員の解放とそれに伴うイスラエルによるパレスチナ人被拘禁者との交換、ガザ地区からのイスラエル軍撤退と人道支援の完全な自由化及びヨルダン川西岸など占領地でのすべての入植活動の即時停止、戦闘終了後のガザで活動する暫定行政委員会の設立、パレスチナとイスラエルに対する安全保障の保証、一時的な国際安定化部隊の展開などを求める内容が織り込まれた[61][63][64]。また2024年に国際司法裁判所によってイスラエルの西岸地区および東エルサレムでの占領政策と慣行、そしてガザ地区における実効支配は国際法違反だとの勧告的意見による判断が出ていることもあり[65][注 1]、「パレスチナとイスラエルが、1967年の境界線に基づき、エルサレムを含む安全で承認された国境内で、平和と安全のうちに共存する」と長年に渡る国連のパレスチナ国の国境に対する見解を再度明確に示した[64]。
9月15日、ルクセンブルグのリュック・フリーデン首相とグザヴィエ・ベッテル外相が、同月22日から開催される国連総会の一般討論演説においてパレスチナの国家承認を行う意図があることを明らかにした[66]。
9月21日、G7参加国としては初となるカナダが公式にパレスチナの国家承認を発表し、その直後にオーストラリア、イギリス、ポルトガルが続いた。カナダのカーニー首相は、このパレスチナ自治政府統治によるパレスチナ国の承認は「いかなる形でもテロを正当化するものではなく、また、それに対する報酬でもない」とし、再度人質全員の解放と、ハマースの完全武装解除と将来のパレスチナ統治への無関与を求めると同時に、カナダのイスラエル国家とその国民の安全保障に対する同国の揺るぎない支持も強調した[67][68]。
9月22日、各国の首脳らによる年次会合である国連総会一般討論演説に先立ち、フランスとサウジアラビア共催の「パレスチナ問題の平和的解決及び二国家解決の実現のためのハイレベル国際会議」においてG7参加国では3か国目となるフランスのマクロン大統領が公式にパレスチナの国家承認を宣言した。それに続いてモナコ、ベルギー、マルタ、ルクセンブルクも公式な国家承認をそれぞれの演説中に明らかにした[69]。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相はこれら一連の動きに関して、「10月7日の後にエルサレムのそばにパレスチナ人へ国家を与えることは、米同時多発テロの後にニューヨークのそばに(国際テロ組織)アルカイダへ国家を与えるようなものだ」と持論を展開し、批判した[70]。
パレスチナを国家承認している国
国連加盟国
一覧は承認順に並んでいる。
アルジェリア[71]
バーレーン[71]
イラク[71]
クウェート[71]
リビア[71]
マレーシア[71]
モーリタニア[71]
モロッコ[71]
ソマリア[71]
チュニジア[71]
トルコ●[71]
イエメン[71]
アフガニスタン[71]
バングラデシュ[71]
キューバ[71]
インドネシア[71]
ヨルダン[71]
マダガスカル[71]
ニカラグア[71]
パキスタン[71]
カタール[71]
サウジアラビア[71]
アラブ首長国連邦[71]
セルビア[71]
ザンビア[71]
アルバニア●[71]
ブルネイ[71]
ジブチ[71]
モーリシャス[71]
スーダン[71]
キプロス◎[71]
スロバキア●◎[71]
エジプト[71]
ガンビア[71]
インド[71]
ナイジェリア[71]
ロシア[71]
セーシェル[71]
スリランカ[71]
ベラルーシ[71]
ギニア[71]
ナミビア[71]
ウクライナ[71]
ベトナム[71]
中国[71]
ブルキナファソ[71]
コモロ[71]
ギニアビサウ[71]
マリ[71]
カンボジア[71]
モンゴル[71]
セネガル[71]
カーボベルデ[71]
朝鮮民主主義人民共和国[71]
ニジェール[71]
ルーマニア●◎[71]
タンザニア[71]
ブルガリア●◎[71]
モルディブ[71]
ガーナ[71]
トーゴ[71]
ジンバブエ[71]
チャド[71]
ラオス[71]
シエラレオネ[71]
ウガンダ[71]
コンゴ共和国[71]
アンゴラ[71]
モザンビーク[71]
サントメ・プリンシペ[71]
コンゴ民主共和国[71]
ガボン[71]
オマーン[71]
ポーランド●◎[71]
ボツワナ[71]
ネパール[71]
ブルンジ[71]
中央アフリカ[71]
ブータン[71]
ルワンダ[71]
エチオピア[71]
イラン[71]
ベナン[71]
赤道ギニア[71]
ケニア[71]
バヌアツ[71]
フィリピン[71]
エスワティニ[71]
カザフスタン[71]
アゼルバイジャン[71]
トルクメニスタン[71]
ジョージア[71]
ボスニア・ヘルツェゴビナ[71]
タジキスタン[71]
ウズベキスタン[71]
パプアニューギニア[71]
南アフリカ共和国[71]
キルギス[71]
マラウイ[71]
東ティモール[71]
パラグアイ[71]
モンテネグロ●[71]
コスタリカ[71]
レバノン[71]
コートジボワール[71]
ベネズエラ[71]
ドミニカ共和国[71]
ブラジル[71]
アルゼンチン[71]
ボリビア[71]
エクアドル[71]
チリ[71]
ガイアナ[71]
ペルー[71]
スリナム[71]
ウルグアイ[71]
レソト[71]
南スーダン[71]
シリア[71]
リベリア[71]
エルサルバドル[71]
ホンジュラス[71]
セントビンセント・グレナディーン[71]
ベリーズ[71]
ドミニカ国[71]
アンティグア・バーブーダ[71]
グレナダ[71]
アイスランド●[71]
タイ[71]
グアテマラ[71]
ハイチ[71]
スウェーデン●◎[71]
セントルシア[71]
コロンビア[71]
セントクリストファー・ネイビス[71]
バルバドス[8]
ジャマイカ[8]
トリニダード・トバゴ[9]
バハマ[10]
スペイン●◎[16]
アイルランド◎[16]
ノルウェー●[16]
スロベニア●◎[18]
アルメニア[20]
メキシコ[43]
カナダ★●[67]
オーストラリア[67]
イギリス★●[67]
ポルトガル●◎[68]
フランス★●◎[69]
モナコ[69]
ベルギー ●◎[69]
マルタ◎[69]
ルクセンブルク●◎[69]
アンドラ
サンマリノ
国連非加盟国
サハラ・アラブ民主共和国(但しパレスチナはサハラ・アラブ民主共和国を承認していない)
バチカン
