ヒネルペトン

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ヒネルペトン
生息年代: 365–363 Ma
ホロタイプの軟骨性左肩帯 (ANSP 20053) を内側から見た様子
地質時代
後期デボン紀
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 肉鰭綱 Sarcopterygii
亜綱 : 扇鰭亜綱 Tetrapodomorpha
階級なし : 堅頭類 Stegocephalia
: ヒネルペトン属 Hynerpeton
学名
Hynerpeton Daeschler et al., 1994
  • Hynerpeton bassetti Daeschler et al., 1994

ヒネルペトン学名Hynerpeton)は、アメリカ合衆国ペンシルベニア州キャッツキル層から不完全な化石が産出している、後期デボン紀に生息した初期の四肢動物の[1]。当時のキャッツキル層は泥地の広がる熱帯域の河口であり、初期の四肢動物に適した環境であった[1]。ヒネルペトンは体重支持能力を持つ四肢を有し、河川や河口において水陸両方の環境で過ごしていたと考えられる[1]。指は8本であり[1]石炭紀ペデルペスやその後の四肢動物の5本[2]を上回る。

1993年、古生物学者のエドワード・テッド・デシュラー英語版とニール・シュビンはアメリカ合衆国ペンシルベニア州ハイナー英語版付近のレッド・ヒル化石サイトで最初のヒネルペトンの化石を発見した。彼らは四肢動物の起源の化石証拠を探すべくペンシルベニア州のデボン紀の岩石を調査している最中であった[3][4]。最初に発見されたものは頑強な軟骨性左肩帯であり、強力な付属器官を持つ動物のものであった。化石はフィラデルフィア自然科学アカデミーに所蔵され、標本番号 ANSP 20053 に指定を受けた。1994年に『サイエンス』誌に掲載された論文中でデシュラーらは本属を命名し、上述の化石がホロタイプ標本に指定された。発見時点において、ヒネルペトンはアメリカ合衆国で発見された最古の四肢動物であった。また、レッドヒルに保存されていたような複雑な生態系の中に四肢動物が存在したことは、デシュラーとシュビンが四肢動物の起源と生態に抱いていた疑問のいくつかに答えをもたらすものでもあった。属名 Hynerpeton はハイナーおよび「這い回る動物」を意味する herpeton に由来する。後者のギリシア語の単語は新たに命名された太古の両生類に対して一般に接尾語として用いられる語である。種小名 bassetti はアメリカの都市計画者でありデシュラーの祖父でもあるエドワード・バセット英語版への献名である[3][5]

レッドヒル・サイトのうちもっとも化石に富む層である "Hynerpeton lens" は、本属にちなんで命名された。当該の地層は中期 - 後期ファメニアン期(約3億6500万年前 - 3億6300万年前)に堆積したと考えられている[3]。1993年以降、Hynerpeton lens からは多くの堅頭類英語版の化石が産出しており、肩帯・顎・頭蓋骨の断片・腹肋大腿骨上腕骨が産出している[6]。2000年には1組の顎の骨が第二の属デンシグナトゥス英語版に分類されている[7]。他の研究によれば、このサイトにはさらなる未命名の分類群が多く存在しており、その中には最古のワトケエリア科英語版の化石もある可能性があるとされる[6]

ヒネルペトン属に分類された化石はいくつかあるが、多くの場合においてその分類は訂正されている。例えば、古生物学者ジェニファー・クラックは1997年に行ったデボン紀の足跡化石の再検討に際し、追加の化石を本属に分類した。これらの化石はそれまで科学的文献で扱われたことがないもので、頬骨と腹部の鱗および下顎の部位が含まれていた[8]。2000年にデシュラーはこの下顎 (ANSP 20901) をより詳細に記載し、デンシグナトゥスの化石と比較・対比した[7]。2009年にデシュラーとクラックおよびシュビンはレッドヒルの四肢動物化石についてより包括的な再検討を行い、オリジナルの軟骨肩帯が発見された場所との近接性に基づき、大部分の化石をヒネルペトン属に分類した。しかし彼らは、当該地点の付近には特徴的な上腕骨を持つワトケエリア科のデンシグナトゥスをはじめとする他の固有の動物がおり、近接性はこの分類を有効と考える十分な根拠ではないとも主張した。このため彼らは Clack (1997) と Daeschler (2000) で記載された標本がヒネルペトン属の保証が無いものと判断した。ただし、ANSP 20054 という左擬鎖骨英語版については、ホロタイプと実質的に等しい形態をしていることから本属に分類している[6]

形態

Nobu Tamura による想像図

ヒネルペトンの個体はイクチオステガアカントステガといった他の初期の四肢動物に類似していたと考えられる。ヒネルペトンの解剖学的特徴について特定の結論を導くには化石があまりにも欠如しているが、保存された軟骨肩帯の構造から、その分類に関する情報は提示されている。軟骨性肩帯は肩甲骨烏口骨擬鎖骨の部位を含むが、鎖骨間鎖骨英語版を含まない。肩帯の全体的な形状は頑強かつ肉切り包丁状である。大部分の有羊膜類で喪失した刃状の骨である擬鎖骨は、ヒネルペトンにおいて上側に突出する骨体を形成する。後側に突出するブレードは、肩甲関節窩を持つ板状の骨である肩甲烏口骨で構成される。この骨は後の四肢動物では肩甲骨と烏口骨に分かれていくことになる。ユーステノプテロンといった肉鰭類において軟骨性の肩帯は頭蓋骨に付着するが、真の四肢動物の軟骨性肩帯は擬鎖骨と肩甲烏口骨の2つに分かれる。ヒネルペトンの肩帯は両者の中間型であり、肩帯は頭蓋骨からは離れているものの、まだ2つの骨に区分されてはいない。このため、ヒネルペトンは石炭紀まで化石記録が確認されていない真の四肢動物よりも、デボン紀のステム四肢動物と共通している[3]。骨の大きさに基づくと、ヒネルペトンの推定全長は約0.7メートルである[9]

擬鎖骨の部位は滑らかであり、四足形類が持つ粗いテクスチャの擬鎖骨とは異なる。加えて、擬鎖骨の上部は拡大していてかつ僅かに前側へ傾斜する。これはチュレルペトンや真の四肢動物との共有派生形質である。肩甲烏口骨の領域は側面から見た際に大きいが、腹側から見ると非常に薄い。肩甲関節窩は肩甲烏口骨の後外側縁に位置し、チュレルペトンを除く他のデボン紀の四肢動物よりも顕著に外側に位置している。上記の肩甲関節窩は隆起しており、supraglenoid buttress としても知られる[3]

ヒネルペトンには複数の固有派生形質もある。肩甲烏口骨の内側面には肩甲下窩として知られる大きな深い窪みが存在する。この窪みの上側の縁は筋痕に被覆されているため、テクスチャが粗い。一方で肩甲下窩の後側の縁は大きく隆起した領域で構成されており、この領域は infraglenoid buttress として知られる。また関節下窩として知られる第二の窪みが肩甲関節窩と連続しており、骨の後側を包むようにして infraglenoid buttress を二等分する[3]

これらの形質の組み合わせから、ヒネルペトンの軟骨性肩帯肩のうち甲烏口骨部分には強靭な筋肉が付着していたことが示唆される。関節下窩は本属において特に卓越する部分であり、後引筋の起始点であった可能性もある。この骨の前側縁には同様の溝があり、四肢の挙上や伸展に寄与した可能性がある。肩甲下窩の縁にも筋肉の付着部が明らかに存在する[3]。これらの特徴が他のステム四肢動物やクラウン四肢動物では知られていないため、ヒネルペトンの筋肉はデボン紀以降に継承されない固有の運動に用いられていた可能性が高い[10]。記載者らは、強靭な筋肉のためヒネルペトンが遊泳も歩行も可能であったことを提唱している[3]

他の同時代の生物と異なり、ヒネルペトンは鰓孔列後葉 (postbranchial lamina) を欠く。この骨のブレードは多くの魚類やアカントステガをはじめとするいくつかのステム四肢動物で保存されており、擬鎖骨の内側縁に沿って長さ方向に伸びる。典型的にこの構造は鰓室の後側の壁を形成し、鰓を通る水の長さが一方向に定めることに寄与する。ヒネルペトンにこの構造が存在しないことは、本属に鰓室が存在しない可能性、さらには本属の系統がこの適応を遂げた最初期の脊椎動物の一つであった可能性を示唆する[3]。しかし、この解釈には議論もある。Janis & Farmer (1999) は鰓孔列後葉がいくつかのトリスティコプテルス科英語版魚類に存在しないこと、またワトケエリア英語版に存在することを指摘した[11]。Shoch & Witzmann (2011) は鰓孔列後葉が保存された時期や過程は数多くの堅頭類英語版の擬鎖骨が適応放散を遂げているため必ずしも明らかではないと指摘している。加えて彼らは、外鰓で呼吸する水棲の有尾目が鰓孔列後葉を必要としないことも指摘している[12]。Daeschler et al. (1994) は、鰓孔列後葉が存在しないことについて、ヒネルペトンがアカントステガよりも進化的であることを示す派生的特徴であると考えた[3]。それに反し、Schoch & Witzmann (2011) は分椎目トレマトレステス英語版プラギオスクス英語版といったクラウン四肢動物においても鰓孔列後葉の証拠があることを指摘した。このため、ヒネルペトンの鰓孔列後葉の喪失はクラウン四肢動物とは独立に進化したものである可能性が高い[12]

分類

古環境

出典

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