世界推理短編傑作集
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旧版
| 編集者 | 江戸川乱歩 |
|---|---|
| 出版社 | 東京創元社 |
| 出版日 | 1960年 |
| 出版形式 | 文庫 |
| ページ数 | 旧版:全5巻(各巻約400頁) |
編者は江戸川乱歩。乱歩は短編推理小説を評価する際に「謎の構成に重きを置くもの」と「奇妙な味に重きを置くもの」という二種のベストテンを提示し、本シリーズはそれを基盤として編集された。 19世紀後半から第二次世界大戦後までの約一世紀にわたる海外短編推理小説を厳選し、全5巻に収録している。既に創元推理文庫で独立短編集が刊行されていたエドガー・アラン・ポー、アーサー・コナン・ドイル、G・K・チェスタトンなどの作家は省かれ、むしろ一冊の短編集として刊行されにくい作家の優れた作品が優先的に収められた点が特色である。
収録作家は英米が中心だが、アントン・チェーホフ(ロシア)、モーリス・ルブラン(フランス)、グローラー(ハンガリー)なども含まれる。内容的にも「本格」や「奇妙な味」以外に、ユーモア探偵やハードボイルド派の作品が収録されている。 なお、ジョルジュ・シムノン(フランス)は、江戸川乱歩の序文において、収録する旨の言及があるが、旧版には収録されておらず、新版の第6巻に収録された。
全5巻の構成は以下の通りである。
- 第1巻:1860年代のウィルキー・コリンズから20世紀初頭まで(短編推理小説の創成期)
- 第2巻:1920年代前半まで
- 第3巻:1920年代後半
- 第4巻:1930年代前半(黄金時代)
- 第5巻:第二次世界大戦後〜1950年代
第5巻巻末には、エラリー・クイーンによるエッセイ『黄金の二十』が付録として収録されている。これは推理小説の重要作二十冊(短編集ベスト10と長編ベスト10)を選び、簡潔な解説を付したもので、シリーズ読者への参考資料となっている。江戸川乱歩の序文では「すぐれた短編集を二十えらんで、それにクイーンが簡潔な解説を加えているもの」と述べられているが、実際には短編集と長編をそれぞれ十冊ずつ選んだ内容である。(詳細は『黄金の二十』の節を参照)
編集方針
編者の江戸川乱歩は、短編推理小説を評価する際に提示した二種のベストテンを基盤として編集を行った。
謎の構成に重きを置くもの
| 作品名(日本語) | 原題(英題) | 作者 |
|---|---|---|
| モルグ街の殺人 | The Murders in the Rue Morgue | エドガー・アラン・ポー |
| 曲がった男 | The Adventure of the Crooked Man | アーサー・コナン・ドイル |
| オスカー・ブロドスキー事件 | The Case of Oscar Brodski | オースティン・フリーマン |
| レントン館盗難事件 | The Lenton Croft Robberies | アーサー・モリスン |
| ブルックベンド家の惨劇 | The Tragedy at Brookbend Cottage | アーネスト・ブラマ |
| ズームドルフ事件 | The Doomdorf Mystery | M・D・ポースト |
| 見えない人 | The Invisible Man | G・K・チェスタトン |
| 十三号独房の問題 | The Problem of Cell 13 | ジャック・フットレル |
| 茶の葉 | The Tea Leaf | E・ジェプスン・R・ユーステス |
| 密室の行者 | Solved by Inspection | ロナルド・A・ノックス |
奇妙な味に重きを置くもの
| 作品名(日本語) | 原題(英題) | 作者 |
|---|---|---|
| 盗まれた手紙 | The Purloined Letter | エドガー・アラン・ポー |
| 放心家組合 | The Absent-minded Coterie | ロバート・バー |
| 赤髪組合 | The Adventure of the Red-Headed League | アーサー・コナン・ドイル |
| 奇妙な足跡 | The Queer Feet | G・K・チェスタトン |
| 二びんのソース | The Two Bottles of Relish | ロード・ダンセイニ |
| 銀仮面 | The Silver Mask | ヒュー・ウォルポール |
| オッタモール氏の手 | The Hands of Mr. Ottermole | トマス・バーク |
| 夜鶯荘 | Philomel Cottage | アガサ・クリスティ |
| 偶然の審判 | The Avenging Chance | アントニイ・バークリー |
| 爪 | The Fingernail | ウィリアム・アイリッシュ |
『黄金の二十』
第5巻巻末に収録されたエラリー・クイーンによる『黄金の二十』のランキングは下記の通り。 推理文学における、歴史的重要性、内容の絶対的な価値、初版本の稀覯性を基準に選ばれている。
最も重要な短編推理小説10
| 作者 | 作品 | 出版年 |
|---|---|---|
| エドガー・アラン・ポー | 小説集 | 1845年 |
| アーサー・コナン・ドイル | シャーロック・ホームズの冒険 | 1892年 |
| アーサー・モリスン | マーチン・ヒューイット探偵 | 1894年 |
| バロネス・オルツィ | 隅の老人 | 1909年 |
| オースティン・フリーマン | ジョン・ソーンダイクの数々の事件 | 1909年 |
| ウィリアム・マクハーグ & エドウィン・ボルマー | ルーサー・トラントの功績 | 1910年 |
| G・K・チェスタトン | ブラウン神父の童心 | 1911年 |
| アーネスト・ブラマ | マックス・カラドス | 1914年 |
| M・D・ポースト | アブナー伯父 | 1918年 |
| H・C・ベイリー | フォーチュン氏を呼べ | 1920年 |
最も重要な長編推理小説10
| 作者 | 作品 | 出版年 |
|---|---|---|
| エミール・ガボリオ | ルルージュ事件 | 1866年 |
| ウィルキー・コリンズ | 月長石 | 1868年 |
| アンナ・キャサリン・グリーン | リーヴンワース事件 | 1878年 |
| アーサー・コナン・ドイル | 緋色の研究 | 1887年 |
| E・C・ベントリー | トレント最後の事件 | 1913年 |
| フリーマン・ウィルス・クロフツ | 樽 | 1920年 |
| アガサ・クリスティ | アクロイド殺害事件 | 1925年 |
| S・S・ヴァン・ダイン | ベンスン殺人事件 | 1926年 |
| ダシール・ハメット | マルタの鷹 | 1930年 |
| フランシス・アイルズ | 犯行以前 | 1932年 |
新版
| 編集者 | 江戸川乱歩、戸川安宣 |
|---|---|
| 出版社 | 東京創元社 |
| 出版日 | 2018年-2022年 |
| 出版形式 | 文庫 |
| ページ数 | 新版:全6巻(各巻約400頁) |
2018年に刊行された新版『世界推理短編傑作集』では、戸川安宣監修により、収録作品を発表年代順に並べ直し、推理短編小説の歴史的な流れを俯瞰できるよう再編された。既収録作品の翻訳も原典からの直接訳に改められるなど、翻訳も全面的に見直された。旧版で省略されていたエドガー・アラン・ポー「盗まれた手紙」やアーサー・コナン・ドイル「赤毛組合」、G・K・チェスタトン「奇妙な足跡」が新たに収録された。旧版ではディクスン・カーは「見知らぬ部屋の犯罪」(The Crime in Nobody's Room、カーター・ディクスン名義)が収録されていたが、新版では「妖魔の森の家」に差し替えられた。2022年には、旧版で漏れていた名作を集めた13篇を収録した第6巻が追加され、全60編の短編小説と1本のエッセイ(エラリー・クイーン「黄金の二十」)による全6巻構成となった。各巻には戸川安宣による新解説「短編推理小説の流れ」が付され、読者が作品群を歴史的文脈の中で理解できるよう工夫されている。
評価
本シリーズは「翻訳ミステリの入門書」として広く読まれ、旧版以来、半世紀以上にわたり版を重ねている。新版刊行後も研究者や評論家から評価され、博士論文や学術研究においても参照されることがある。
年表
収録作品
以下のリストは新版のものである。配列や訳者などが旧版とは異なる場合がある。
翻訳者の変遷
| 巻 | 作品名 | 原題 | 作者名 | 旧版訳者 | 新版訳者 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 安全マッチ | Шведская спичка (The Swedish Match) | アントン・チェーホフ | 宇野利泰 | 池田健太郎 |
| 1 | ダブリン事件 | The Dublin Mystery | バロネス・オルツィ | 宇野利泰 | 深町眞理子 |
| 2 | 奇妙な跡 | Die Seltsame Fahrite | バルドゥイン・グロラー | 阿部主計 | 垂野創一郎 |
| 4 | いかれたお茶会の冒険 | The Adventure of the Mad Tea-Party | エラリー・クイーン | 井上勇 | 中村有希 |
| 5 | ボーダーライン事件 | The Border-Line Case | マージェリー・アリンガム | 宇野利泰 | 猪俣美江子 |
| 5 | 爪 | The Fingernail | ウィリアム・アイリッシュ | 阿部主計 | 門野集 |
第1巻
| 作品名 | 原題 | 作者名 | 訳者 |
|---|---|---|---|
| 盗まれた手紙 | The Purloined Letter | エドガー・アラン・ポオ | 丸谷才一 |
| 人を呪わば | The Biter Bit | ウィルキー・コリンズ | 中村能三 |
| 安全マッチ | Шведская спичка (The Safety Match) | アントン・チェーホフ | 池田健太郎 |
| 赤毛組合 | The Adventure of The Red-Headed League | アーサー・コナン・ドイル | 深町眞理子 |
| レントン館盗難事件 | The Lenton Croft Robberies | アーサー・モリスン | 宇野利泰 |
| 医師とその妻と時計 | The Doctor, His Wife, and the Clock | アンナ・キャサリン・グリーン | 井上一夫 |
| ダブリン事件 | The Dublin Mystery | バロネス・オルツィ | 深町眞理子 |
| 十三号独房の問題 | The Problem of Cell 13 | ジャック・フットレル | 宇野利泰 |
第2巻
| 作品名 | 原題 | 作者名 | 訳者 |
|---|---|---|---|
| 放心家組合 | The Absent-minded Coterie | ロバート・バー | 宇野利泰 |
| 奇妙な跡 | Die Seltsame Fahrite | バルドゥイン・グロラー | 垂野創一郎 |
| 奇妙な足音 | The Queer Feet | G・K・チェスタトン | 中村保男 |
| 赤い絹の肩かけ | L’Echarpe De Soie Rouge | モーリス・ルブラン | 井上勇 |
| オスカー・ブロズキー事件 | The Case of Oscar Brodski | オースチン・フリーマン | 大久保康雄 |
| ギルバート・マレル卿の絵 | Sir Gilbert Murells’ Picture | V・L・ホワイトチャーチ | 中村能三 |
| ブルックベンド荘の悲劇 | The Tragedy at Brookbend Cottage | アーネスト・ブラマ | 井上勇 |
| ズームドルフ事件 | The Doomdorf Mystery | M・D・ポースト | 宇野利泰 |
| 急行列車内の謎 | The Mystery of the Sleeping Car Express | F・W・クロフツ | 橋本福夫 |
第3巻
| 作品名 | 原題 | 作者名 | 訳者 |
|---|---|---|---|
| 三死人 | Three Dead Men | イーデン・フィルポッツ | 宇野利泰 |
| 堕天使の冒険 | The Adventure of the Fallen Angel | パーシヴァル・ワイルド | 橋本福夫 |
| 夜鶯荘 | Philomel Cottage | アガサ・クリスティ | 中村能三 |
| 茶の葉 | The Tea Leaf | E・ジェプスン&R・ユーステス | 阿部主計 |
| キプロスの蜂 | The Cyprian Bee | アントニー・ウィン | 井上一夫 |
| イギリス製濾過器 | English Filter | C・B・ベックホファー・ロバーツ | 井上一夫 |
| 殺人者 | The Killers | アーネスト・ヘミングウェイ | 大久保康雄 |
| 窓のふくろう | The Owl at the Window | G・D・H・コール&M・I・コール | 井上勇 |
| 完全犯罪 | The Perfect Crime | ベン・レイ・レドマン | 村上啓夫 |
| 偶然の審判 | The Avenging Chance | アントニイ・バークリー | 中村能三 |
第4巻
| 作品名 | 原題 | 作者名 | 訳者 |
|---|---|---|---|
| オッターモール氏の手 | The Hands of Mr. Ottermole | トマス・バーク | 中村能三 |
| 信・望・愛 | Faith, Hope and Charity | アーヴィン・S・コッブ | 田中小実昌 |
| 密室の行者 | Solved by Inspection | ロナルド・A・ノックス | 中村能三 |
| スペードという男 | A Man Called Spade | ダシール・ハメット | 田中小実昌 |
| 二壜のソース | The Two Bottles of Relish | ロード・ダンセイニ | 宇野利泰 |
| 銀の仮面 | The Silver Mask | ヒュー・ウォルポール | 中村能三 |
| 疑惑 | Suspicion | ドロシー・L・セイヤーズ | 宇野利泰 |
| いかれたお茶会の冒険 | The Adventure of the Mad Tea-Party | エラリー・クイーン | 中村有希 |
| 黄色いなめくじ | The Yellow Slug | H・C・ベイリー | 宇野利泰 |
第5巻
| 作品名 | 原題 | 作者名 | 訳者 |
|---|---|---|---|
| ボーダーライン事件 | The Border-Line Case | マージェリー・アリンガム | 猪俣美江子 |
| 好打 | The Sweet Shot | E・C・ベントリー | 井上勇 |
| いかさま賭博 | The Mud’s Game | レスリー・チャーテリス | 宇野利泰 |
| クリスマスに帰る | Back for Christmas | ジョン・コリアー | 宇野利泰 |
| 爪 | The Fingernail | ウィリアム・アイリッシュ | 門野集 |
| ある殺人者の肖像 | Portrait of a Murderer | Q・パトリック | 橋本福夫 |
| 十五人の殺人者たち | Fifteen Murderers | ベン・ヘクト | 橋本福夫 |
| 危険な連中 | Dangerous People | フレドリック・ブラウン | 大久保康雄 |
| 証拠のかわりに | Instead of Evidence | レックス・スタウト | 田中小実昌 |
| 妖魔の森の家 | The House in Goblin Wood | カーター・ディクスン | 宇野利泰 |
| 悪夢 | Nightmare | デイビッド・C・クック | 小西宏 |
| 黄金の二十 | The Golden Twenty | エラリー・クイーン | 小西宏 |
第6巻
| 作品名 | 原題 | 作者名 | 訳者 |
|---|---|---|---|
| バティニョールの老人 | Le Petit Vieux des Batignolles | エミール・ガボリオ | 太田浩一 |
| ディキンスン夫人の謎 | The Mystery of Mrs. Dickinson | ニコラス・カーター | 宮脇孝雄 |
| エドマンズベリー僧院の宝石 | The Stone of the Edmundsbury Monks | M・P・シール | 中村能三 |
| 仮装芝居 | A Costume Piece | E・W・ホーナング | 浅倉久志 |
| ジョコンダの微笑 | The Gioconda Smile | オルダス・ハックスリー | 宇野利泰 |
| 雨の殺人者 | Killer in the Rain | レイモンド・チャンドラー | 稲葉明雄 |
| 身代金 | Ransom | パール・S・バック | 柳沢伸洋 |
| メグレのパイプ | La Pipe de Maigret | ジョルジュ・シムノン | 平岡敦 |
| 戦術の演習 | Tactical Exercise | イーヴリン・ウォー | 大庭忠男 |
| 九マイルは遠すぎる | The Nine Mile Walk | ハリイ・ケメルマン | 永井淳 |
| 緋の接吻 | The Case of the Crimson Kiss | E・S・ガードナー | 池央耿 |
| 五十一番目の密室またはMWAの殺人 | The 51st Sealed Room; or, The MWA Murder | ロバート・アーサー | 深町眞理子 |
| 死者の靴 | Dead Man’s Shoes | マイケル・イネス | 大久保康雄 |