極分解

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極分解(きょくぶんかい、: polar decomposition)は、線型代数学において、正方行列または正方複素行列を、2つの直交行列または2つのユニタリ行列を左右から乗ずることによって、半正定値対角行列対角化する手法である。

対称行列またはエルミート行列の場合は、左右から直交行列またはユニタリ行列と、その転置行列または随伴行列を乗ずることによって対角化可能であり、極分解はこれを対称行列またはエルミート行列でない場合に拡張したものである。

定理の証明

階数 次正方行列とする。ただし、行列の要素は であり、実数体 または複素数体 のいずれかであるとする。このとき、

という の分解が存在する。 ここで およびはn次の直交行列またはユニタリ行列であり、随伴行列(転置し、さらに各要素をその複素共役で置換えた行列)とする。

の場合は、の転置行列 に等しい。この場合、は実対角行列であり、各対角要素は非負の実数である(つまり 0 の場合もあり得る)。

の場合は、は複素対角行列であり、各対角要素は任意の値を取り得る(つまり 0 の場合もあり得る)。

上式は、

と書き直すこともできる。これは が2つのユニタリ行列によって対角化可能なことを表している。

いくつかのケースに分けて証明を行う。

(1) が正則な実次正方行列の場合 ===

と置く。転置行列である。であるからは正則な対称行列である。対称行列は適当な直交行列によってが実対角行列となるようにできる。この実対角行列をと置く。も正則行列であり、各対角要素は 0 ではない。

であるからと置けば、

である。行列は正則な実次正方行列である。その成分表示を次のように表すことにする。

ここで の第行が成す行ベクトルとする。つまり、

である。を用いれば、は次のように表される。

ここで は行ベクトル内積である。の各対角成分 は 0 ではないので、も零ベクトルではない。であるからの異なる行ベクトルは直交している。ただし、 は必ずしも 1 ではないので、 は直交行列ではない。そこで、

と定義すれば、 は直交行列になる。ただし である。

であるから、は実対角行列であり、これをと置けば、は、直交行列 によって、

と対角化できることが分かる。

(2) が正則な複素次正方行列の場合

と置く。随伴行列である。であるからは正則なエルミート行列である。エルミート行列は適当なユニタリ行列によってが実対角行列となるようにできる。この実対角行列をと置く。も正則行列であり、各対角要素は 0 ではない。

であるからと置けば、

である。行列は正則な複素次正方行列である。その成分表示を次のように表すことにする。

ここで の第行が成す行ベクトルとする。つまり、

である。を用いれば、は次のように表される。

の各対角成分 は 0 ではないので、も零ベクトルではない。であるからの異なる行ベクトルは直交している。ただし、 は必ずしも 1 ではないので、 はユニタリ行列ではない。そこで、

と定義すれば、 はユニタリ行列になる。

であるから、は実対角行列であり、これをと置けば、は、ユニタリ行列 によって、

と対角化できることが分かる。

と置けば、 はユニタリ行列である。ただし、各は複素数の位相を表す実数であり、とする。

と置けば、 はユニタリ行列であり、 は複素対角行列である。これらを、それぞれ改めて と書き直すことにすれば、

と複素対角行列に対角化できることが分かる。

(3) が階数の複素次正方行列の場合

階数に等しい場合は、(2)と同じになるので、の場合とする。

と置く。であるからエルミート行列であり、その階数はと同じくとなる(証明略)。エルミート行列は適当なユニタリ行列によってが実対角行列となるようにできる。この実対角行列をと置く。正則行列を乗じても行列の階数は変わらないので、も階数の行列であり、各対角要素のうち 0 ではないものは 個である。行列の基本変形のうち、2つの行を入換える変形は、ユニタリ行列を左から乗ずる操作であるから、を適切に選べば は次の形式にできる。

対角要素は 0 ではなく、値の降順に並んでいるものとする。

であるからと置けば、

である。行列の成分表示を次のように表すことにする。

ここで の第行が成す行ベクトルとする。つまり、

である。を用いれば、は次のように表される。

の対角成分 は 0 ではないので、も零ベクトルではない。 一方、 は 0 であるので、は零ベクトルでなければならない。

の異なる行ベクトルは直交している。これらはn次元ベクトルであるから、これらと直交し、さらに互いに直交する個のn次元ベクトルが存在する。これらをとする。なお、これらはと規格化されているものとする(グラム・シュミットの正規直交化法参照)。

と定義すれば、 はユニタリ行列になる。

であるから、は実対角行列であり、これをと置けば、は、ユニタリ行列 によって、

と対角化できることが分かる。(2)と同様の方法で、を複素対角行列とすることもできる。

正規行列、スペクトル定理、固有値との関係

複素n次正方行列正規であるとは、

が成り立つことを言い、この場合正規行列と呼ぶ。 と置けば、

であるから、 はエルミート行列である。 また、エルミート行列であれば、

であるから、は正規行列である。

正規行列に関しては、次のスペクトル定理が成り立つ。

スペクトル定理

行列が正規行列であるための必要十分条件は、それが対角行列 とユニタリ行列 により、なる形に書けることである。ただし、対角行列の各成分 の固有値であり、の各列はの固有ベクトルで与えられ、の対角線上に並ぶ固有値の順番との列に並ぶ固有ベクトルの順番は対応する。

極分解定理を用いたスペクトル定理の証明

(1) 十分性

であれば、

従ってであるからは正規行列である。

(2) 必要性

極分解定理の証明(3)で示したように、は、適当なユニタリ行列 によって、

と対角化できる。は複素n次対角行列である。

であるから、は正規行列であるとすれば、

ただし、である。

であるから、

と置けば、

つまり、を変えないユニタリ行列である。 の対角要素が全て異なる値を持つ場合は、このようなは恒等変換以外にはない。従って、

となって、

が成り立つ。

特異値分解との関係

極分解を必ずしも正方行列ではない実行列または複素行列の場合まで拡張したものが特異値分解である。この場合、一般に、行列の階数 rがmまたはnより小さくても、この分解は存在する[1][2]

その他の性質

参考文献

関連項目

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