祈る聖ドミニクス
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| スペイン語: Santo Domingo en oración 英語: St Dominic in Prayer | |
| 作者 | エル・グレコ |
|---|---|
| 製作年 | 1585-1590年ごろ |
| 種類 | キャンバス上に油彩 |
| 寸法 | 118 cm × 86 cm (46 in × 34 in) |
| 所蔵 | 個人蔵、マドリード |
『祈る聖ドミニクス』(いのるせいドミニクス、西: Santo Domingo en oración、英: St Dominic in Prayer) は、ギリシャ・クレタ島出身で主にマニエリスム期のスペインで活動した画家エル・グレコが1585-1590年ごろ、キャンバス上に油彩で制作した絵画である。画面左下の石に「Δομήνικος Θεοτοκόπουλος」という画家のギリシャ語の署名が記されている[1]。作品は現在、マドリードの個人蔵となっている[1][2]。
聖ドミニクスはドミニコ修道会の開祖である[1][2]。彼は1170年に名門貴族グスマン家の一員としてスペイン北東部カラオラに生まれ、バレンシア大学で学んだ後、教会の政務に就いた。1215年にローマに赴き、教皇から説教団設立の認可を得ると、ヨーロッパ中に活発な布教活動を展開する。1220年にドミニコ修道会は清貧の誓いを採択して托鉢修道僧となった。ドミニクス自身、絶えず旅して、その行く先々で説教をし、1251年にボローニャで他界した[1]。彼は一般に黒と白のドミニコ修道会の僧衣を纏った姿で表される。また、念珠の祈りを始めたことから念珠 (ロザリオ) が彼のアトリビュート (人物を特定する事物) である。ユリも彼のアトリビュートであるが、これは純潔を象徴する[1]。

本作は、岩のある高地で1人跪いて、イエス・キリストの磔刑像の前で祈るドミニクスの姿を描いている[1][2]。背後には、渦巻く雲に満ちたエル・グレコ特有の憑りつくような空が広がっている。聖人の個性的な容貌を考えると、画家が個人的に知っていた特定の人物の容貌にもとづいていると推測される。 岩の上に十字架を立てかけ、その前に祈りを捧げるという図像は聖人を表すエル・グレコの数々の作品で反復されており、画家は参照用の手本となるような素描か油彩画を描いたにちがいない[2]。
本作を同様の図像の『瞑想する立ち姿の聖フランチェスコ』 (ジョスリン美術館、オマハ) と比較してみると、ドミニクスはフランチェスコのような感傷を見せず、不動の姿勢を保っている。ドミニクスの容貌は、画家がその高貴な出自に配慮したのか、孤高の中にも気品を感じさせる。本作には通常ドミニクスを示すアトリビュートは何も描かれていない。彼は修道会の黒と白色の衣服を纏うだけであるが、その衣服は空の青色を背景に美しい対比を示す[1]。
研究者ハロルド・ウェゼイによれば、「祈る聖ドミニクス」という図像は、エル・グレコによる最も偉大な発明であるという[1]。エル・グレコはこの聖人にまつわる様々な逸話の叙述的表現を排除し、ただひたすら祈ることによって神の精神と一体化しようとする姿を描いた。現存作品に限っても、エル・グレコは同主題作を少なくとも3点描いており、それらはユニセフ、ボストン美術館、トレド大聖堂に所蔵されている。しかし、本作は特に完成度が高く、また技法の点から、これら同主題作の中の第一作と見なされている[1]。ちなみに、エル・グレコの図像は17世紀にスルバランらによって継承され、スペインでは極めて一般的なものとなった[1]。