パリオスコーピオ

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パリオスコーピオ
生息年代: 437.5–436.5 Ma[1]
パリオスコーピオの復元図
地質時代
古生代シルル紀テリチアン
(約4億3,750万 - 4億3,650万年前)[1]
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : incertae sedis [2]
: パリオスコーピオ属 Parioscorpio
学名
Parioscorpio
Wendruff et al., 2020a [1]
タイプ種
Parioscorpio venator
Wendruff et al., 2020a [1]

パリオスコーピオParioscorpio[1])は、約4億3,700万年前のシルル紀に生息した所属不明[2]化石節足動物の一。先頭に鎌のような付属肢をもつ[2]アメリカで見つかった Parioscorpio venator という1のみによって知られる[1]。どの節足動物の分類群にも当てはまらない特徴をもち[2]、かつては甲殻類サソリなどと誤解釈されていた[3][4][5][6][1][7][2]

学名Parioscorpio」はラテン語の「pario」(先祖)と「scorpio」(サソリ)の合成語で、これは命名当初の本属が原始的なサソリと誤解釈されたためである(後述参照[1][2]模式種タイプ種)の種小名はラテン語の「venator」(ハンター猟師)による[1]

形態

ウィスコンシン大学マディソン校地質学博物館(University of Wisconsin-Madison, Geology Museum)所蔵のパリオスコーピオの化石標本

体長約1.6 - 4.5cmで[2][8]、鎌に似た先頭の付属肢関節肢)と複雑な胴肢が特徴的な節足動物である[2]。全身の輪郭は楕円形だが、頭部の背甲と背板の出っ張りは貧弱で化石に保存されない場合が多いため、ほとんどの化石標本はやや細い本体部分(軸部 axial region)のみ見られる[2]。本質が不確実で複数の解釈を与えられる特徴が多い[2]

頭部

頭部の本体部分は台形で、全貌不明の1枚の背甲(carapace, head shield)に覆われ、は少なくとも中央やや前方に1対ある[2]。この眼は発達した個眼らしき構造をもつため複眼(側眼)だと考えられるが、他の部位の解釈(後述)により発達した中眼(単眼)とも考えられる[2]。腹面中央は1枚のハイポストーマ(hypostome)に覆われ、はその奥で後ろ向きに開いたと考えられる[2]

確実に頭部の付属肢対として判断できる部分は次の2対のみ知られる[2]。先頭に突出した1対は強大な鎌状(亜鋏状)で内側に折れ曲がり、少なくとも4節(尖った最終肢節・外側が出張った長い肢節・長方形のやや短い肢節・Yの字型の目立たない肢節)が含まれる[2]。もう1対は細短く、鎌状の付属肢の基部辺りに配置される[2]

鎌状の付属肢の基部は、ハイポストーマの左右にある長方形の構造体に連結されており、これは頭部内部の筋組織、もしくは鎌状の付属肢の最初肢節だと考えられる[2]。前者の場合、鎌状の付属肢は前述の通り4節で、細短い付属肢より前から生えたとされるが、後者の場合、鎌状の付属肢は5節で細短い付属肢より後ろから生えたとされ、細短い付属肢も退化的な触角として解釈できる[2]。この解釈の違いは、パリオスコーピオの頭部付属肢と体節の対応関係や他の節足動物との類似性に対する見解を大きく左右している(詳細はパリオスコーピオ#体節と付属肢の対応関係パリオスコーピオ#他の節足動物との比較を参照)[2]

細短い付属肢の直後は更に1対の丸い構造体があり、これは細短い付属肢の外肢、更に1対の頭部付属肢、もしくは側眼だと考えられる[2]。側眼解釈の場合、前述の頭部中央の眼は中眼だと考えられる[2]

この頭部に含まれる体節数は不明確である[2]。2対の付属肢(鎌状の付属肢と細短い付属肢)のみに基づくと、頭部は3節の体節(眼とハイポストーマをもつ先節と、それぞれ1対の付属肢をもつ第1と第2体節)のみを含んだとされる[2]。ただし細短い付属肢直後の丸い構造体は更に1対の付属肢だった場合、もしくは正中線に並んだ丸い内部構造の数(9対、これは胴部では1体節つきに2対、詳細は後述参照)に基づくと、頭部は4節以上の体節を含んだと考えられる(丸い構造体は更に1対の付属肢でなかった場合、余った体節の付属肢が退化したと考えられる)[2]

胴部

胴部は同規的な体節(胴節)が14節含まれ、それぞれ1枚の背板(tergite)に覆われている[2]。背板左右の出っ張り、いわゆる肋部(pleurae)は前方の胴節ほど前に、後方の胴節ほど後ろに向けて湾曲し、後方の数節に棘がある[2]。横幅は第7胴節で最も広く、第8胴節以降から徐々に狭くなりながら緩い曲線を描くが、第8-14胴節辺りでは本体部分のみややくびれている[2]。尾端は三叉状で、少なくとも中央1本の棘が尾節(telson)である[2]。残り左右2つの棘は最終胴節(第14胴節)の出っ張りの棘、もしくは尾節由来の尾叉(furcae)だと考えられる[2]肛門は尾節直前の腹面にある[2]

各胴節の本体部分の両腹面に1対の付属肢(胴肢)がある[2]。前の12対は複雑な多枝型(multiramous)の脚で、内側から外側にかけて原節(basipod、分岐直前にある最初の肢節)由来と思われる内突起(basipodal endite)・内肢由来と思われる毛束(walking leg bundle)・歩脚型の内肢(endopod)・前後2枚の鞘状構造に覆われる総状の毛束(racemose bundle)・羽毛状の突起という5つの分岐が並んでいる[2]。しかし一部の分岐は付け根が不明のため、由来は判断しにくい[2]。特に最後2つの分岐は、それぞれ内肢由来の外葉(exite)と外肢(exopod)、もしくは外肢と原節由来の外葉という2つの解釈が考えられる[2]。最終2対の胴肢は扇形に広げた櫛のような構造体で、最後の1対は肛門を被っている[2]

内部構造

消化系筋肉組織・神経系などと思われる痕跡が知られている[2]。正中線で対になる丸い構造体は頭部に最多9対、各胴節に2対並んでおり、これは消化管の分岐(消化腺、digestive gland)もしくは付属肢の筋肉の付着面(apodeme)だと考えられる[2]。1対の腹神経索(ventral nerve cord)は胴部の正中線で密着するが、第1胴節でYの字型に分かれ、直前の頭部に食道孔(oesophageal foramen、と腹神経索の間に消化管が貫通する穴)があることを示唆する[2]。各胴節の左右には胴肢の筋組織と思われるアーチ状の痕跡がある[2]

体節と付属肢の対応関係

パリオスコーピオの体節付属肢の対応関係、特に他の節足動物の頭部付属肢との相同性は、前述の長方形の構造体の正体によって次の通りに解釈が変わる[2]

体節(脳神経節)
分類群
1(中大脳) 2(後大脳)
パリオスコーピオ(長方形の構造体=頭部内部の筋組織) 鎌状の付属肢 細短い付属肢
パリオスコーピオ(長方形の構造体=鎌状の付属肢の最初肢節) 細短い付属肢(触角) 鎌状の付属肢
フーシェンフイア類 触角 SPA(異説あり[9][10]
メガケイラ類 大付属肢
Artiopoda類(三葉虫光楯類ケロニエロン類など) 触角
鋏角類クモサソリカブトガニウミグモなど) 鋏角 触肢
大顎類多足類甲殻類六脚類など) 第1触角 第2触角/(退化)

他の節足動物との比較

フーシェンフイア類チェンジャンゴカリスの前半身
様々なメガケイラ類
ケロニエロン類ケロニエロン

節足動物として一般的な共通点(例えば複眼背甲背板・肋部・関節肢などをもつこと)を除き、パリオスコーピオは独特で難解な部分が多い[2]。解釈によって特定の節足動物(主にフーシェンフイア類)との類似性が僅かに見出せるものの、残りの相違点が著しいため、全体的にどの節足動物の分類群の基本体制にも当てはまらない[2]。類似点と相違点は次の通り。

鋏角類
パリオスコーピオの頭部は鋏角類として決定的な鋏角と5対の歩脚型付属肢はなく、胴部は14節で鋏角類の上限である13節を上回り、胴肢も鋏角類との類似性が低い[2]
大顎類
パリオスコーピオの多枝型の胴肢は一部の大顎類(甲殻類など)に似ているが、頭部は大顎類として決定的な顎(大顎小顎)はない[2]
Artiopoda類・メガケイラ類フーシェンフイア類
パリオスコーピオの鎌状の付属肢は後大脳性/第2体節由来だった場合、後大脳性付属肢が強大化した所はフーシェンフイア類のSPAとごく一部のArtiopoda類(ケロニエロン類Kodymirus)の第2付属肢に似ている[2]。それに踏まえて、もしパリオスコーピオの頭部は本当に3節のみを含めば、頭部の体節数までフーシェンフイア類に似た可能性もある(ただしフーシェンフイア類の頭部構成に関しては、前述の対応関係に疑問をかける異説もいくつかある。詳細はフーシェンフイア類#頭部付属肢と体節の対応関係を参照[11][9][10][2]。一方、パリオスコーピオの鎌状の付属肢は中大脳性/第1体節由来だった場合、中大脳性付属肢が強大化した所はメガケイラ類の大付属肢に似ている[2]。ただし、パリオスコーピオの頭部は多肢節型の触角や(Artiopoda類とメガケイラ類がもつ)複数対の歩脚型付属肢はなく、胴肢もこれらの群の二叉型付属肢との類似性が低く、胴肢と背板もお互いに対応しておりフーシェンフイア類のような非対応性がない[2]

上述の分類群以外では、マーレロモルフ類(強大な突起をもつ頭部・肋部をもたない胴部・環節に細分された外肢)、ユーシカルシノイド類(前後分化した胴部・胴肢と背板の非対応性・多肢節で単枝型の胴肢)、Hymenocarina類(発達した背甲・肋部をもたない胴部)、イソキシス類(二枚の半円形の背甲・背板のない胴部・二叉型付属肢)、ラディオドンタ類放射状の口器・前大脳性の可能性がある頭部付属肢・背板と関節肢をもたない胴部)などもパリオスコーピオとは明らかに異なる[2]

生態

パリオスコーピオの鎌状の付属肢の可動域と動作予想[2]

パリオスコーピオは浅いもしくは汽水域にかけて生息し、待ち伏せ型の捕食者であったと考えられる[2]筋肉質で鎌状の頭部付属肢は水生カメムシ類タガメコオイムシタイコウチアシブトメミズムシなど)の前脚のように、普段は頭部の左右に折りたたんで、捕食の際に前へ射出して獲物を捕獲できたと推測される[2]。脚の一部の毛束は感覚に、最終2対の胴肢は尾扇のように突進や後退に用いられ、特に最終の胴肢は肛門を被うため、を掃除する機能もあったと考えられる[2]

発見と分類

脚注

関連項目

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