寿司ロボット
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江戸前寿司の技術は、魚介類を調理する技術とシャリ玉を握る技術の2つに大別されるが、寿司ロボットは後者を自動化するものである[6]。熟練の寿司職人が握ったシャリ玉は、外側はつまんでも崩れない保形力の固さがありつつ、内側は口に入れた時ホロリとほぐれるよう均等に適度な空気が入っており[6]、このいわゆる「うかし握り」は[7]板前が最低5 - 7年は修業しないとできない技術だが[8]、寿司ロボットはこれを本物と遜色ないレベルで再現可能にしている[2]。また4 - 5年修業した寿司職人が手で握れるシャリ玉はせいぜい毎時300 - 350個だが[9]、寿司ロボットは1983年時点で1,200個[10](150人前[6])、2004年時点で3,600個[4]の製造を可能にしている。機械の操作自体は簡便でパートのような単純労働力でも扱えるようになっている[8]。
- パック寿司のシャリ玉
- うかし握りをしたシャリ玉の断面のイメージ
構造
(以下、特記ない限り1980年代 - 2000年代の鈴茂器工の機種を前提に説明する)
寿司ロボットの構成は、まずシャリをほぐして空気を含ませる「供給機構」、次いでシャリを一定量に取り分ける「定量分割機構」、最後にシャリをシャリ玉の形に整える「成形機構」の3段階に大別される[11]。これらはいずれも内蔵されたコンピュータが制御・調整している[2]。
- 供給機構
- シャリは客や店の好みによって水気や粘り気が違っていたりするが[12][† 1]、3升の容量があるホッパー[1](シャリの受入口)に投入されたそうしたシャリの状態、量、密度をセンサーが分析し[15]、それに基づいて攪拌羽根ないし櫛ローラーでシャリに空気を含ませながらほぐし[8][12][1]、上下方向のコンベアないしローラーで程よくシャリを圧縮して[8][12]適量の空気が抱き込まれるよう調整しながら下の定量分割機構へ送ってゆく[2]。
- 定量分割機構
- ここでシャリは1貫(1個)分の適量へ順に切り分けられる[8]。シャッター式だと米粒が切断されてしまうため、機種によっては両脇から櫛歯を差し込んで米粒を傷めないよう取り分ける形式になっていたりする[12]。機種によってはシャリ玉のサイズを何段階かから選べるものもある[2][3]。
- 成形機構
- 1貫分のシャリが水平方向のベルトコンベアに落ちると[6]、上から2本の弾性成形体(キャビティ、いわゆるロボットアーム)が下りてきて[8]、まず1本目がシャリを左右から押さえて予備形成し[14]、2本目が上から押さえて本形成して[14]シャリ玉の形になる[8]。この「ニギッ、ニギッ」という二回握りは寿司職人の動作を再現したものであり[1]、おにぎりのように強く握って風味を損なわないよう、熟練職人の手加減も再現されている[14]。出来上がるシャリ玉の形は、握り寿司で最も一般的な利休である[1][† 2]。
- 機種によっては、寿司ロボット用に調合されたワサビをシャリ玉の定位置へ塗ったり[1]、カセットにセットされた寿司ネタを自動的に乗せたり[15]、セロファンで1貫ずつラッピングしたり[16]するものもある。
部品の衛生状態を保つため、日常的に洗浄が必要な部品は工具なしで分解・取り出しできるようになっており[8]、1985年時点で分解に2分、洗浄に3分、再組立てに5分となっている[8]。電源は 100V の家庭用電源を用い、設置面積は1985年時点で 1/3 畳程度となっている[8]。コンパクト化はその後も進み、外観は木目調の飯櫃のようにして厨房の卓上に置いても違和感のないタイプが1999年に発表された[3]。
運用

寿司ロボットは、一般消費者から認知されることは少ないが回転寿司の運営やパック寿司の製造に欠かせない設備であり[9][17]、大衆化路線の外食産業、給食、各種パーティー[10]、宅配専門業者[16]など多くの業種で活用されている。寿司ロボットは寿司フランチャイズ業界の経営合理化に貢献し[8]、和・洋食レストランや焼肉レストランなど外食業界全般でも本職の寿司職人なしでの寿司の提供を可能にした[8]。また従来、スーパーなどの持ち帰り寿司は稲荷寿司かちらし寿司が主流だったが[7]、寿司ロボットの登場により握り寿司もバリエーションに加わるようになった[7]。
一方で、客の目の前で寿司を握るような寿司専門店の場合、客と板前のコミュニケーションも食事体験の一部であり[18]、そこへロボットを持ち込むなど興覚めだという批判はある[14]。特に寿司ロボットが登場したばかりの頃は、寿司業界のみならず世間からも[10]賛否両論が巻き起こり[6]、職人の聖域を侵すものとして寿司職人らから反対やボイコットの声が大きかった[8]。とはいえ一般的な寿司店の場合、売り上げの半分以上は出前や持ち帰りが占めているにもかかわらず、営業中は店内の客を優先せざるを得ないため、繁忙期の突発的な出前注文はやむなく断って商機を逃しがちというのが悩みでもあった[8][† 3]。そうした店は寿司ロボットを導入することで、出前の迅速化、オーダー待ち時間の短縮化が可能になり[2]、昼・夜のピーク時、日曜・祝日の大量注文をさばけるようになった[9]。銀座の高級寿司店でも大量注文をさばくため、やむなく寿司ロボットをこっそり導入している例はある[7][† 4]。日本の寿司専門店で寿司ロボットを導入する場合、客の目に入らない場所へこっそり設置している例が多いが[18]、海外では素手で握る調理に抵抗を感じる客が多いことから、逆によく見える場所に置いてアピールするケースも見られる[19]。
寿司ロボットの価格は1984年時点で1台180万円[6]、リースなら3.5万円/月[2]としており、いずれにせよ人間の職人を雇うより格段にコスト削減につながり[15]、機械なので腱鞘炎の心配もない[9]。1987年時点で全国の寿司店は8万軒と見積もられていたが、その時点で寿司ロボットの出荷台数は5千台に達していた[9]。
また寿司職人の調達が難しい海外において寿司ロボットの需要は高く[20]、鈴茂器工が寿司ロボットを発表した直後の1982年の時点で既に米国から鈴茂器工に問い合わせが相次いでいた[14]。鈴茂器工は1985年に米国の製品安全規格であるUL規格を取得して輸出可能な体制を整え[20]、2021年時点で米国やシンガポールの拠点を中心に20か国以上で販売代理店を開いている[20][† 5]。
