淀五郎
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初日を前に『仮名手本忠臣蔵』の塩冶判官の役者が急病で出られなくなった。座頭の市川團蔵[注釈 2]は、前から見込みがあると目をつけていた芝居茶屋の倅でまだ相中(あいちゅう。最も地位の低い役者)の澤村淀五郎を抜擢する。
淀五郎はここぞと張り切るが、演技が過剰になって上手くいかない。肝心の四段目「判官切腹の場」になると、大星由良助役の團蔵は舞台に出ないで七三で平伏したまま。そんなことが何日[注釈 3]も続き、評判が悪くなる。
皮肉屋の團蔵ならではの叱咤激励なのだが、淀五郎には解らない。「親方、どのように判官を務めたらよろしゅうございますか」と團蔵に訊くが、「お前は役者だろ。そんなことも解らない? 本当に腹を切れ。お前みてえな下手な役者は腹を切って死んじまえ」とやりこまれる。
思い余った淀五郎は、舞台で本当に腹を切ろう、その前に憎い團蔵を殺してしまおうと心に決め、世話になった初代中村仲蔵[注釈 4]のもとに暇乞いに行く。しかし様子を察した仲蔵に「お前さんは、三河屋の気持ちが分からないのかい」「名人の團蔵だ。自分が演って見せたいけど、おまえに見どころがあるからそれとなく諭してくれるんだ」「良薬口に苦し。ああいう人が人の為になるんだ」と諭され、判官切腹の正しい務め方まで教えてくれる。喜んで淀五郎は徹夜で稽古する。
その甲斐あって、翌日、淀五郎は見違えるように上達していた。團蔵も「大したもんだ。富士のお山は一晩で出来たっていうが、あの野郎、一晩で判官を作りやがった」と感心し、舞台まで出て淀五郎の判官の傍で平伏する。それに気づいた淀五郎「ウム、待ちかねた。」