カキドオシ
From Wikipedia, the free encyclopedia
カキドオシ(垣通し・垣通、学名: Glechoma grandis または Glechoma hederacea subsp. grandis)は、シソ科カキドオシ属の多年草の1分類群である。レンセンソウ(連銭草)、カントリソウ(癇取草)ともよばれる。茎は直立し、葉腋に花をつけるが、のちに地面をつる状に這う。葉は対生し、円腎形で粗い鋸歯がある。花は唇形、淡紫色、下唇に濃紅紫色の斑紋があり(図1)、やや小型の雌花のみをつける株と、大きな両性花をつける株がある。日本、台湾、中国東南部に分布し、庭や公園にも生育する。食用とされることがあり、また疳の虫の薬など薬草としても利用される。
| カキドオシ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1. 花(大阪府、5月) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| Glechoma grandis (A.Gray) Kuprian. (1921)[2][3] または Glechoma hederacea subsp. grandis (A.Gray) H.Hara (1954)[4] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| Japanese grand ivy[7], Japanese gill-over the ground[7] |
特徴
多年草であり、茎は高さ5–20センチメートル (cm) ほどに直立するが、花後に伏臥し節から根を下ろして地面をつる状に這い、長さ1メートル (m) 以上になる[8][9][10][11]。所々から横枝が生じ、ときに多少立ち上がって高さ30 cm前後になる[12]。茎の横断面は四角形[13]、基部は紫色を帯び、茎や葉の全体に細毛があり(図1, 2)、揉むと爽やかな香気がする[14][15][11][16]。
葉は対生し、葉柄は長さ0.5–5 cmで軟毛があり、葉身は円腎形で、大きさは長さ1–5 cm、幅1.2–5.5 cm、葉縁には粗い円鋸歯があり、先端は円形[14][13][8][17][10][11](図2)。一般に春の葉は小さいが、夏の葉になると大きくなる[8]。草質で柔らかく、表面に伏毛があり、裏面の脈上に長軟毛がある[11]。
花期は春(4–5月)、雌性両性異株(雌花のみをつける株と両性花をつける株がある)、花は1–3個ずつ葉腋につく[8][18][15][10][11]。苞や小苞は線状針形、長さ約2 mm、縁に繊毛がある[11]。萼は筒状で先端がわずかに広がり、長さ7–10 mm、15脈があり、長軟毛に覆われ、萼裂片は卵形で長さ1.5–2 mm、わずかに二唇形、上唇は3裂、下唇は2裂、先端は針状で縁に毛がある[8][10][11][19](図2b)。花冠は薄い紫色から淡紅紫色、長さ1.5–2.5 cm(雌花は小さい)、喉部内面には長毛があり、二唇形、上唇はほぼ円形、下唇は左右の側裂片と中央裂片に分かれ、中央裂片は幅広くさらに2裂し、内面には濃紅紫色の斑紋がある[14][13][8][18][15][10][11](図1, 2b)。雄蕊は4本、前方の2本は花冠側裂片の下方につき、後方の2本は花冠上唇の下方の喉部付近につく[19]。花糸は無毛[19]。雌蕊は1個、子房は無毛、花柱は細く、先端はほぼ等しく2裂する[19](図1)。果実は4分果からなる分離果、分果は暗褐色、長球形でやや扁平、長さ約1.8 mm、微細な腺点があり、基部はわずかに三稜形、先端は円形[10][11][19]。
日本からは、染色体数 2n = 36, 45, 54 のものが報告されており、それぞれ基本染色体数 x = 9 の四倍体、五倍体、六倍体であると考えられている[20]。四倍体が最もふつうで分布域が広く、五倍体は本州中部から四国、六倍体は本州東北地方から九州まで分布している[20]。五倍体は、ふつう四倍体と六倍体の分布が重なる地域にあることから、四倍体と六倍体の交雑によって生じたものと考えられている[20]。
分布・生態
利用
カキドオシは、食べられる野草として知られる。また、茎や葉を乾燥させたものは民間薬として用いられ、健康維持やダイエットに良いとし、販売されていることもある[12]。
食用
春の若くてやわらかな茎葉と花は、食用にすることができる[17]。採取時期は暖地で3–4月ごろ、寒冷地では5月ごろが適期とされ、花が開く前のやわらかいものは根元から、少し伸びたものは先端を摘み取って利用する[23][17]。灰汁は少ない方であるが、塩を少し入れた熱湯で軽く茹でてから水にさらし、細かく刻んで和え物やおひたしに調理される[24][17]。生のまま、他の野菜と一緒にサラダにも使える[23]。花を咲かせたころのものは、衣を付けて天ぷらにする[17]。葉や茎を揉むとハーブのタイムに似た芳香があり、茹でたスパゲッティに刻んだカキドオシを混ぜ込んで野趣あふれる一品に仕上げるといった使い方もできる[17]。乾燥したものを小袋に入れてホワイトリカーに3か月ほど漬け込むと、健康酒になるとされる[23]。
薬用
4–5月の開花期(または収量が多い6–7月[25])に地上部の茎葉を採取して水洗いし、束ねて陰干しにしたものは生薬とされ、日本では連銭草(れんせんそう)、中国では金銭草[注 2]とよばれる[13][14][7][27]。地上部の茎葉は、リモネンなどの精油、ウルソール酸、硝酸カリウム、コリン、タンニンなどを含んでいる[13]。
民間療法では、尿道結石、胆石、利尿、消炎薬として、連銭草1日量5–15グラムを、約500–600 ㏄の水で半量になるまで煮詰めた煎じ汁を、1日3回に分けて分けて服用する用法が知られる[28][14][12]。尿道結石にはウラジロガシと一緒に、胆石にはカワラヨモギと一緒に煎じるとよいともされる[28]。糖尿病や腎臓炎にも用いられる[29]。また、幼児の疳の虫の治療薬とされ、前記の3分の1量以下の連銭草の煎じ汁を用い、苦いので甘味を加えて複数回に分けて服用するものとされている[14]。このほか、湿疹の患部に濃い煎じ汁を直接塗ったり、水虫やたむしには生の葉を何回も擦り込むといった民間療法がある[13][7]。冷え症や妊婦への服用は禁忌とされている[28]。
抽出物には血糖値降下作用、体内の脂肪や結石を溶解させる作用があるなどとして漢方薬、ダイエット茶とされることもある。マウスやラットによる動物実験では、血糖上昇抑制[13][30]、血圧上昇抑制[31]、発毛効果[32]などの効果があることが報告されている。しかし、国立健康・栄養研究所によれば、ヒトでの安全性を証明する十分なデータは不足している[33]。また「過剰摂取をすると胃腸粘膜や腎臓の炎症を引き起こす可能性」「ワルファリンを成分とする医薬品との相互作用」「発作性疾患のある人は使用禁忌」「腎疾患、肝疾患に罹患している人は使用禁忌」などの注意が促されている[33]。
園芸
近縁種(または同種別亜種)のセイヨウカキドオシには斑入りなどの栽培品種があり、属名をカナ読みした「グレコマ」や英名由来の「グラウンドアイビー」の名で流通しており、花壇の縁取りやロックガーデンなどに植栽される[9][24][34]。
名称
和名カキドオシは漢字で「垣通し」[9][16]や「垣通」[17]、「籬通」[35]と表記され、垣根を突き抜けて伸びてくる様子に由来する[16][36][37]。また、丸い葉が並んで見えることから、連銭草(れんせんそう)という別名もある[13][17]。小児の疳の虫の薬にすることから(上記参照)、カントリソウ(疳取草、癇取り草)[14][38][18][39]やカンキリソウ(疳切草、癇切り草)[28][40]という別称もある。他にも別名が多く、カイドトオリ[23]、カイトリグサ[41]、カイトリバナ[42]、ゼニクサ[28]、ツルハッカ[23]、バテイソウ[23]、ジシバリ[43][注 3]、ミソバナ[28]のほか、ヤマスミレ(青森県)、モーセン(秋田県)、カジバナ(新潟県)、アサッペイ(島根県)、カキドクサ(熊本県)などがある[24]。
中国名は「日本活血丹」[4][28][11]、「金錢薄荷」[4]。「積雪草」や「連銭草」ともよばれるが、現在中国では「積雪草」はツボクサ(セリ科)のこととされ、「連銭草」はカキドオシのほかにもツボクサやチドメグサ(ウコギ科)、ホトケノザ(シソ科)、リュウキンカ(キンポウゲ科)などさまざまな植物を意味する[24][27]。
学名(Glechoma grandis)のうち、属名 Glechoma はミントの一種(ペニーロイヤルミント、Mentha pulegium)のギリシャ名 glechon に由来し、種小名の grandis は「大型の、偉大な」を意味する[24][7]。また Glechoma hederacea の一亜種とされることもあるが、この種小名 hederacea は「キヅタに似ている」を意味する[24][7]。
分類
カキドオシは、一般的に独立種(Glechoma grandis)として扱われるが[3][11][44]、日本ではセイヨウカキドオシと同種の別亜種(Glechoma hederacea subsp. grandis)とされることが多い[4][10][16]。
白花の変異体はシロバナカキドオシ、葉に斑が入る変異体はフイリカキドオシとよばれ、それぞれ品種(Glechoma hederacea subsp. grandis f. albiflorens、Glechoma hederacea subsp. grandis f. albovariegata)とされることもあるが[6][45][46]、分類学的には分けないこともある[3]。
カキドオシの近縁別種(Glechoma hederacea L. (1753)[47])または同種別亜種(Glechoma hederacea subsp. hederacea[48])とされるセイヨウカキドオシ(コバノカキドオシ、中国名: 欧活血丹[49]、図3a)は、茎や葉に毛が少なく、花は小さく、萼が長さ5–7 mm、花冠は長さ10–15 mmである[10][47]。ヨーロッパから中央アジア、シベリアに分布しているが、日本でも北部の都市周辺の路傍などに帰化している[10][47]。本種はカキドオシと同様に民間薬とされ、またホップの代りにビールに用いられていた[29]。また、同じく近縁別種(Glechoma longituba (Nakai) Kuprian (1948))または同種別変種(Glechoma hederacea var. longituba Nakai (1921))とされるコウライカキドオシ(中国名: 活血丹[50]、図3b)はハバロフスク、アムール州、沿海州、朝鮮半島、中国、ベトナムに分布し、葉は心形から卵形、基部の葉の葉柄長は葉身の2–3倍程度、萼裂片は長さ3–5 mm[19][51]。本種も薬用に用いられている[50]。