電位依存性カリウムチャネル

From Wikipedia, the free encyclopedia

電位依存性カリウムチャネル英語: Voltage-gated potassium channels、略称:VGKCsKv)は膜電位の変化によりカリウムイオンK+を通過させる電位依存性イオンチャネルである。神経細胞においては活動電位再分極のときに開口し、細胞が興奮した後に静止膜電位に戻るために重要である。

domain-swapped

電位依存性カリウムチャネルサブユニットの簡易的な構造。6回膜を貫通し、N末端側4つが電位センサードメイン(VSD)、C末端側2つがポアドメイン(PD)である。

電位依存性カリウムチャネルは各サブユニットが4つ集まってできた四量体でK+を通すイオンチャネルとして機能する。電位依存性ナトリウムチャネル電位依存性カルシウムチャネルは電位依存性カリウムチャネルでいう6回膜貫通の部分が4つつながったような構造であり、つまり24回膜貫通なのでこの点で異なる。4つのサブユニットは全て同一の場合(ホモテトラマー)もあれば、異なるもので構成される場合(ヘテロテトラマー)もある[1]

N末端は細胞内側にあり、T1ドメインと呼ばれる。T1ドメインはテトラマーが細胞内で会合するために重要である。ヘテロテトラマーを形成する場合、T1ドメインによってテトラマーを形成する相手が同じファミリータンパク質などに制限されている。T1ドメインはβサブユニットのような補助的なタンパク質が結合する部位でもある[2]

膜貫通部分は6回膜を貫通していて、いずれもヘリックス構造をとっている。膜貫通構造はN末端側から順にS1~S6と呼ばれ、その機能からS1~S4は電位センサードメイン(VSD)、S5~S6はポアドメイン(PD)と呼ばれている。ポアドメインが四量体の中心で4つ集まることによって一つのイオン通過経路を形成する[3]

電位依存性カリウムチャネルを細胞外側から見た構造。左では電位センサードメインから隣のポアドメインを跨いでもう片方の隣の電位センサードメインに隣り合うようにポアドメインが配置する。一方で、右では電位センサードメインとポアドメインの位置は対応している。つまり、左がdomain-swapped、右がnon-domain-swappedである。 電位依存性カリウムチャネルを細胞外側から見た構造。左では電位センサードメインから隣のポアドメインを跨いでもう片方の隣の電位センサードメインに隣り合うようにポアドメインが配置する。一方で、右では電位センサードメインとポアドメインの位置は対応している。つまり、左がdomain-swapped、右がnon-domain-swappedである。
電位依存性カリウムチャネルを細胞外側から見た構造。左では電位センサードメインから隣のポアドメインを跨いでもう片方の隣の電位センサードメインに隣り合うようにポアドメインが配置する。一方で、右では電位センサードメインとポアドメインの位置は対応している。つまり、左がdomain-swapped、右がnon-domain-swappedである。

電位依存性カリウムチャネルのポアドメインの電位センサードメインとの位置関係には2種類ある。電位センサードメインと相互作用するポアドメインが隣接するサブユニットのポアドメインであるような構造をdomain-swapped構造という。一方で電位センサードメインと相互作用するポアドメインのサブユニットがその電位センサードメインのサブユニットと同一である場合をnon-domain-swapped構造という[1]。多くの電位依存性イオンチャネルにおいてはdomain-swapped構造をとる方が一般的であり、Kv1~Kv9はdomain-swapped構造をとってる。non-domain-swapped構造をとる例としては電位依存性カリウムチャネルの中ではEAGチャネル(Kv10.1)、hERGチャネル(Kv11.1)が挙げられる。他にHCNチャネルBKチャネルもnon-domain-swapped構造をとる[4]

選択性フィルター

ポアドメインにはカリウムチャネルの性質である、K+を選択的に通過させるために必要な選択性フィルターが存在する。カリウムチャネルでは一般的にTVGYG[注 1]という配列が保存されている。このTVGYのカルボニル基 -CO- の酸素原子とTのヒドロキシ基 -OH の酸素原子がポアの方向を向いている。K+一つにつき上下8つ[注 2]の酸素原子に囲まれる。Na+はK+よりも直径が小さいため一見このポアを通過できそうであるが、逆に小さいがためにカルボニル基との距離が遠すぎてK+の方が圧倒的に通過しやすくなる[5]

この選択性フィルターによるイオン選択性はNa+に対して特に優位であるが、他の陽イオンでは比較的通過するものもある。報告されたイオン選択性によると、K+ > Rb+ > NH4+ > Cs+ >> Na+であったという[注 3][6]

電位センサー

電位センサードメインの中でも特にS4が電位センサーとしての機能を担っている。S4には3残基ごとにアルギニン(R)やリシン(K)から成る正電荷が複数個配置されている。この正電荷が膜電位の変化により細胞外側へ移動することでチャネルの開・閉という構造変化が起こって電位依存性という性質を顕現する。このときに流れる電流はゲート電流と呼ばれ、厳密な測定を行えばイオンチャネルを流れるイオンの電流とは別に測定することができる[5][7]

S4に正電荷があるのに対し、S1~S3に負電荷が存在することでS4が動きやすくなっている。負電荷は酸性アミノ酸のアスパラギン酸グルタミン酸により供給される[7]

S4の外側への移動によりポアドメインの開口が起こる。S4がS4-S5リンカーを引っ張り、S4-S5リンカーがS6の移動を誘導することで開口・閉鎖に至る、というモデルが考えられている[8]

不活性化

イオンチャネルは開口した後にはもちろん閉じる。この閉じるパターンには2種類あり、膜電位の低下により開口に必要な電位を下回ることによる脱活性化deactivationと電位は十分であるが開口→閉鎖と構造変化を起こすことによる不活性化inactivationがある。電位依存性カリウムチャネルの不活性化にはN型不活性化C型不活性化が知られている。

N型不活性化とはカリウムチャネルのN末端が開口しているポアドメインに結合することで開口状態であるにもかかわらずK+が通れなくなることである。数ミリ秒単位で起こる速い不活性化である。N末端を欠失させるとN型不活性化は無くなり、その後にN末端ペプチドを追加すれば不活性化が起こることから関与は明らかである[5]。N末端にはリン酸化可能なセリン残基が存在しており、リン酸化のもとではN型不活性化は阻害される[9]

C型不活性化とは数秒単位で見られる遅い不活性化である。選択性フィルターの細胞外側が関与していると考えられている[10]

ホジキン・ハクスリー方程式

ホジキンとハクスリーらはイカの巨大軸索を用いることでNa+とK+のチャネルにおける性質を式に表すことに成功した。彼らはカリウムチャネル電流について、と表した。はカリウムチャネルのコンダクタンスの最大値、nは開口に関わる因子が活性化している状態である確率(今でいう開口確率)、は膜電位、はカリウムチャネルの平衡電位である[10]

早期不活性化と遅延整流性

電位依存性カリウムチャネルは主に早期不活性化カリウムチャネル(A型カリウムチャネル)と遅延整流性チャネルに分かれる。早期不活性化K+チャネルは活性化した後にミリ秒単位ですぐに不活性化する。一方で遅延整流性K+チャネルは不活性化が遅い、または不活性化しない[10]。ホジキンとハクスリーがイカの巨大軸索で発見した再分極に関わるチャネルとして有名なのが後者の遅延整流性K+チャネルである[10]。Kvのどのチャネルが早期不活性化か、遅延整流性かについては下の#種類の節で示した。

種類

電位依存性カリウムチャネルはKv1~Kv12まで12種類のタンパク質ファミリーが存在し、αサブユニットの種類は合計40種類にのぼる。以下に、各ファミリーごとに一覧する[11]。なお、Kv5、Kv6、Kv8、Kv9はホモテトラマーでは電位依存性カリウムチャネルとして機能せず、Kv2ファミリーの電位依存性カリウムチャネルとヘテロテトラマーを形成することでKv2の機能を制御することができ、これらはmodifierと呼ばれる[12]

Kv1

ショウジョウバエでいうShaker型チャネルのことである[10]。以下の8つが存在する。

  • Kv1.1 (KCNA1) 遅延整流性
  • Kv1.2 (KCNA2) 遅延整流性
  • Kv1.3 (KCNA3) 遅延整流性
  • Kv1.4 (KCNA4) 早期不活性化(A型)
  • Kv1.5 (KCNA5) 遅延整流性
  • Kv1.6 (KCNA6) 遅延整流性
  • Kv1.7 (KCNA7) 遅延整流性
  • Kv1.8 (KCNA10) 遅延整流性

Kv2

ショウジョウバエではSnabと呼ばれる[10]。以下の2つが存在する。

  • Kv2.1 (KCNB1) 遅延整流性
  • Kv2.2 (KCNB2) 遅延整流性

Kv3

ショウジョウバエではShawと呼ばれる[10]。以下の4つが存在する。

  • Kv3.1 (KCNC1) 遅延整流性
  • Kv3.2 (KCNC2) 遅延整流性
  • Kv3.3 (KCNC3) 早期不活性化(A型)
  • Kv3.4 (KCNC4) 早期不活性化(A型)

Kv4

ショウジョウバエではShalと呼ばれる[10]。以下の3つが存在する。

Kv5

  • Kv5.1 (KCNF1) Kv2のmodifier

Kv6

  • Kv6.1 (KCNG1) Kv2のmodifier
  • Kv6.2 (KCNG2) Kv2のmodifier
  • Kv6.3 (KCNG3) Kv2のmodifier
  • Kv6.4 (KCNG4) Kv2のmodifier

Kv7

以下の5つがある。

  • Kv7.1 (KCNQ1) 遅延整流性
  • Kv7.2 (KCNQ2) 遅延整流性
  • Kv7.3 (KCNQ3) 遅延整流性
  • Kv7.4 (KCNQ4) 遅延整流性
  • Kv7.5 (KCNQ5) 遅延整流性

Kv8

  • Kv8.1 (KCNV1) Kv2のmodifier
  • Kv8.2 (KCNV2) Kv2のmodifier

Kv9

  • Kv9.1 (KCNS1) Kv2のmodifier
  • Kv9.2 (KCNS2) Kv2のmodifier
  • Kv9.3 (KCNS3) Kv2のmodifier

Kv10

ショウジョウバエではether-à-go-goと呼ばれ、略してEAGチャネルという[10]。以下の2つがある。

Kv11

ether-à-go-go related geneを略してERGチャネルという[10]。以下の3つがある。

Kv12

ether-à-go-go like K-channelを略してELKチャネルという[10]。以下の3つがある。

補助タンパク質

Kv1チャネルは補助タンパク質と会合することがあり、この補助タンパク質はβサブユニットと呼ばれ、β1、β2、β3が同定されている。Kv1.1やKv1.2はN型不活性化のできない遅延整流性のカリウムチャネルであるが、β1サブユニットが会合するとN型不活性化を誘導することができる[10]

また、KCHIPという補助タンパク質もあり、これはKv4チャネルの調節を行う。他にもminKという補助タンパク質がhERG(Kv11)を調節したり、カルモジュリンがEAG(Kv10)を調節したりすることが知られている[10]

脚注

出典

関連項目

外部リンク

Related Articles

Wikiwand AI