アジア・ゼロエミッション共同体
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アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)(アジア・ぜろゼロエミッションきょうどうたい)は、太平洋地域の11カ国のパートナー国が参加し、域内のカーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出に向けた協力のための枠組みである[1]。
パートナー国
背景
アジアにおける脱炭素化の重要性
アジア地域は、経済成長やエネルギー需要の増加に伴い、 温室効果ガス排出量を1990年から2023年現在までに3倍以上に増加させている。 同時に、1990年時点では、欧米の排出量が世界の排出量の3分の2を占めていたのに対し、2023年現在はアジア地域が 世界の排出量の半分以上を占める。アジア地域の脱炭素化は、世界のカーボンニュートラル実現に向けての鍵となる。
経済成⻑・エネルギー安全保障・ 脱炭素の同時達成
カーボンニュートラルは各国共通の目標ではあるが、その道筋は各国の実情に応じて多様かつ現実的であるべきだ。 今後更なる経済成長が見込まれる中、経済成長とエネルギー安全保障を両立させ、カーボンニュートラルを目指すことが重要である。 エネルギー需要の急増、再生可能エネルギーポテンシャルの偏在、島嶼部が多く、大陸でもグリッドのカバレッジが狭い、グリッド間の連結性も低い、パイプラインは限られておりガス供給はLNGが中心となっている、日射量や風量に恵まれておらず、太陽光発電や風力発電の潜在力は欧州などと比べると豊かではないなどのアジアのエネルギー事情を考慮すると、3E(環境、経済、 安定供給)を確保できる単一のアプローチはなく、多様なアプローチを検討する必要がある[4][5]。
各国のエネルギー移行の動向
オーストラリア
オーストラリア連邦は、2030年までに43%排出削減(2005年比)、2050年までにネット・ゼロエミッションという排出削減目標を掲げている。また2030年までに再生可能エネルギーによる電力供給を82%にするという目標を掲げている。
主要政策
- 国家再生基金により、再生可能エネルギーによる製造と低排出技術の導入を支援する。
- 地域振興基金により、クリーンエネルギー新産業の育成及び既存産業の脱炭素化の優先課題を支援する。
- 初の国家電気自動車戦略により、排出量を削減し、電気自動車の普及を加速する。
- 再生可能エネルギーによる水素生産についての専門知識を国内で構築し、国際的なサプライチェーンを形成する。
ブルネイ
ブルネイ・ダルサラームは、2030年までに温室効果ガス排出量をBusiness-As-Usual(BAU:気候変動対策を実施しなかった場合)レベルに対して20%削減し、2050年にネット・ゼロを達成する目標を設定する。
ブルネイ・ダルサラーム国家気候変動政策の主要戦略
- 50万本の植林を目標に、植林と再植林を通じて炭素吸収量を増加する。
- 2035年までに、再生可能エネルギーの割合を総発電量の30%以上にする
- 2035年までに、電力消費の需給管理を改善することにより、GHG排出量を少なくとも10%削減する。
カンボジア
現在、カンボジア王国に設定される発電設備容量の62%が再生可能エネルギーであり、2050年までにネット・ゼロ・エミッションを達成することを目標としている。その中心は、再生可能エネルギーの統合、エネルギー効率の向上、電化の拡大である。カンボジアは電力開発計画2022-2040を改定し、2030年までに再生可能エネルギーの発電設備容量を70%にすることを目標としている。
カンボジアは国産石炭のフェードアウトに取り組んでおり、メコン川本流に水力発電を建設しないというコミットメントを守っている。カンボジアは、2030年までにエネルギー消費量を19%削減するという国家エネルギー効率化政策2022-2030に沿って、国家エネルギー効率化委員会を設立した。
カーボンニュートラルのためのカンボジア長期戦略
- 2050年までに電気自動車と都市バスを40%、電動バイクを70%にすることを約束し、 2021年には電気自動車の輸入関税を引下げた。
- 国内の電気自動車組立工場への投資を奨励
- 年間 100万本以上の植林を行い、森林被覆率60%を達成することを目標とする。
インドネシア
インドネシア共和国は、カーボンニュートラルと気候変動対策に取り組んでおり、パリ協定を批准し、NDCを29%から32%に 引き上げた。FITを活用して再生可能エネルギーを導入し、 地熱発電、屋根置き太陽光発電、省エネルギーなどあらゆる対策を実践している。 最近、発電におけるカーボン・キャップ・アンド・トレードを 開始し、AZECやJETPとの多国間パートナーシップ、オー ストラリアとの二国間パートナーシップなどの国際的な支援を受けて、2030年以降の石炭火力発電の設置・拡張を行わず、既設の石炭火力発電所の退役を推進することを決定した。
インドネシアは、再生可能エネルギーの導入を加速すると同時に、天然ガスをエネルギー移行期のエネルギー源として重要視し、バイオエネルギー、地熱、水素、アンモニア、CCS/ CCUSを利用し、電気自動車も推進する。インドネシアでは、エネルギー管理を通じて産業と建物にお けるエネルギー効率化を促進し、家電製品の最低エネル ギー性能基準を通じて家庭におけるエネルギー効率化を促進している。2023年6月、インドネシア政府は省エネルギーに関する新しい政府規則第33/2023号を発行した。これは、特定の産業、建築物、運輸部門に対する エネルギー管理の実施を義務付けるものである。
ラオス
アジアのバッテリーと呼ばれるラオス人民民主共和国は、豊富な水力発電 (32TWh:320億KWh)をタイやベトナムに輸出している。
発電量(40TWh:400億KWh)は水力(71%)と石炭火力(28%)で構成されている。輸出電力量(32TWh: 320億KWh)は水力発電容量とほぼ同じである。
一方、水力発電は雨季に輸出され、乾季に輸入されるという季節変動が課題となっている。
ラオスは国内石炭資源が豊富なため、ベースロードを石炭火力に依存している。2030年のラオスの計画は、水力発電(75%)、石炭火力発電(14%)、太陽光発電(11%) である(現在のポートフォリオは水力発電(71%)と石炭火力発電(28%)である)。
マレーシア
マレーシアは、2030年に経済全体の炭素集約度(対GDP)を2005年比で45%削減予定だ。 マレーシアは2023年8月に国家エネルギー移行ロードマップ(NETR)を発表した。NETRのResponsible Transition Pathway 2050(RT2050)では、エネルギー 部門の温室効果ガス排出量を2億5900万トン(CO2 換算)(2019年)から1億7500万トン(CO2 換算)(2050年) へ32%削減するとしている。 2050年までの一次エネルギー総供給量(TPES)は、天 然ガス(56%)、再生可能エネルギー(22%)、原油・石油 (21%)、石炭(1%)で構成される。再生可能エネルギー(RE)の発電設備容量は70%に増加し、石炭発電所は新設しない。 NETRは、エネルギー効率(EE)、再生可能エネルギー (RE)、水素、バイオエネルギー、グリーンモビリティ、炭素 回収・利用・貯留(CCUS)という6つの移行分野と、マ レーシアを低炭素経済に移行させるための50のイニシアチブを特定。 NETRはまた、エネルギー移行に取り組むために必要なさまざまなレベルの技術とソリューションを実証する10のフラッグシッププロジェクトの概要も示している。
フィリピン
フィリピン共和国のエネルギー移行の道筋は、再生可能エネルギー、省エネルギーとエネルギーの節減、水素やアンモニ ア、電気自動車、蓄電池システム、原子力発電などの新技術や新興技術に関する政策や対策を積極的に実施することで成り立っている。
フィリピンのエネルギー移行に欠かせないもう一つの要素 は、金融と技術へのアクセスである。
フィリピンは、発電量に占める再生可能エネルギーの割合を、現在の22%から2040年には50%まで引き上げること を計画している。 フィリピンでは、外国資本100%による再生可能エネル ギー・プロジェクトが認められている。加えて、LNGはエネルギー移行に重要な燃料であり、変動する再生可能エネル ギーによる影響を補完すると考えられている。
シンガポール
シンガポール共和国は国土が狭く、代替エネルギーに恵まれない国である。にもかかわらず、シンガポールは2050年までにネット・ゼロを達成することを目指している。電力部門の脱炭素化を図るため、シンガポールは3つのクリーン・エネル ギー源を活用している。
第一に、シンガポールで最も現実的な再生可能エネルギーである太陽光発電の導入を加速させている。シンガポール の太陽光発電導入量は1ギガワットピーク(GWp)を突破し、2030年までに2GWpを導入するという目標達成に向け、半分以上進んでいる。
第二に、地域のパートナーと協力して地域の電力網を整備 し、2035年までに最大4GWの低炭素電力を輸入する。 2023年、シンガポールはカンボジア、インドネシア、ベトナムから最大4.2GWの低炭素電力を輸入するプロジェクトに 条件付き承認を与えた。
第三に、水素や地熱などの新たな代替エネルギー源を模索 している。2022年、シンガポールは国家水素戦略を発表 した。シンガポールは今後、発電とバンカリングに低炭素アンモニアを利用する小規模商業プロジェクトの提案要請を実施し、最終選考に残った6つのコンソーシアムから主要開発者を特定する。これは、アンモニアを燃料として試験・ 展開する世界初の商業プロジェクトのひとつとなる。シンガ ポールはまた、発電のための深部地熱資源の可能性を研究してお り、全島を対象とした物理探査を実施する予定である。 脱炭素化を目指していても、天然ガスはシンガポールのエネルギー・ミックスにおいて重要な役割を果たし続ける。シンガポールは、最もクリーンな化石燃料である天然ガスを2000年から採用している。今後、天然ガス発電の効率を高めるための新たな規制を導入する予定だ。

タイ
タイ王国は、2030年までに温室効果ガス排出量をBusiness As-Usual(BAU:気候変動対策を実施しなかった場合)から30%削減する予定である。 タイは、2022年国家エネルギー計画と2022年電力開発計画を実施し、2050年のカーボンニュートラル達成とエネ ルギー安全保障の両立に取り組んでいる。
タイは、CCUS、電気自動車、BESS(蓄電システム)、送電網の近代化、カーボンリサイクル、アンモニア、水素などの技術を導入する。 タイは5カ年CCUSロードマップ(2022-2027)を策定しており、CCUSに関する日本などのパートナーからの技術・ ファイナンス支援を期待している。タイは2030年にEVを30%まで拡大する。APEC首脳会議での合意を受け、タイは独自のバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルを推進している。
ベトナム
ベトナム社会主義共和国は2050年にネットゼロを達成する目標を掲げてい る。第8次国家電力開発基本計画(PDP8)では、年間 GDP成長率を7%と予測しており、経済成長を満たすために需要に応じて供給する計画である。総設備容量は 2022年の80,704MWから2030年には150,489MWに増加する。
ベトナムは2030年に5670億kWhの電力供給を目標としており、そのうち30.9%〜39.2%が再生可能エネルギーである。 LNGと陸上風力発電の開発を優先し、バイオマスと廃熱利用技術を導入する。屋根置き太陽光発電は、オフィスビルと住宅の50%に導入される。 2050年に向けては、洋上風力発電と蓄電池が開発され、 石炭火力発電所はバイオマスとの混焼やアンモニア専焼に移行する。[4]
AZEC首脳会合
第1回AZEC首脳会合
2023年12月18日、最初のAZEC首脳会合が東京で開催され、AZEC首脳共同声明が採択された。この最初の首脳会合には、岸田首相を含む11の加盟国の首脳らに加え、齋藤健経済業産大臣、ゲストのダニエル・ヤーギン氏、オブザーバーとしてERIAが参加した。
採択された共同声明
基本原則
- 各国の事情を踏まえた、多様で現実的な道筋の認識
- AZEC構想への支持、AZEC原則の共有
- エネルギー安全保障の確保、地政学的リスクの低減
- イノベーションを通じ、経済成長、エネルギー安全保障と両立する形で脱炭素化
- 各国の事情を踏まえた、多様で現実的な道筋、多様なエネルギー源・技術の重要性
政策・プロジェクト
- ERIAにおける「アジア・ゼロエミッションセンター」の立上げ、政策支援
- AZECを支援する賢人会議の立上げ
- 現地の枠組み等を通じた官民協力
- トランジション・ファイナンスの重要性
- 製造業の競争力強化に向けたサプライチェーングリーン化 、公正で持続可能なビジネス環境整備
- エネルギー移行の協力やクリーンエネルギー取引市場の確立を視野に、他国へも働きかけ
多様な道筋
- 再エネの規模拡大、離島マイクログリッド・ペロブスカイト等次世代太陽光の導入、SMR等の原子力の利用
- トランジション燃料としての天然ガス・ LNGの活用
- 電力部門、産業部門での、水素・アンモニア、バイオマス、CCUS、重要鉱物リサイクルの活用
- 運輸部門での、EV 、 水素や CCUS、重要鉱物リサイクルの活用 e-fuel、バイオ燃料といった多様な技術の活用
- ヒートポンプなど省エネ技術 の活用
第2回AZEC首脳会合
2024年10月11日、2回目のAZEC首脳会合がラオス・ビエンチャンで開催され、首脳共同声明「今後10年のためのアクションプラン」及び付属文書が採択された[6]。この会合には、日本からは石破茂首相と武藤容治経済産業大臣が出席し、他の10のすべての加盟国も出席した[7]。
第3回AZEC首脳会合
2025年10月17日に3回目の閣僚会合が行われ、26日にはマレーシア・クアラルンプールでアンワル首相と高市早苗首相を共同議長とする首脳会合が開催された[8][9]。第2回会合からの1年間で約120件の協力案件が結ばれ、アジアの脱炭素化に資する活動を促進するルールの形成、セクターごとのイニシアティブ、官民一体の個別プロジェクト等が進められていることを確認した[10]。また、AZEC首脳共同声明及び付属書「2024-2025年における今後10年のためのアクションプランの進捗」が採択された[11]。
エネルギー強靱化に関するAZEC+オンライン首脳会合
ホルムズ海峡封鎖によるエネルギー・資源供給の滞りが、主としてアジア地域に影響を及ぼしていることを背景に、2026年4月15日に臨時のオンライン首脳会合が開かれた[12]。高市早苗首相は、緊急対応と中長期な構造的対応の両輪からなる、新たな協力の枠組みとして「アジア・エネルギー・資源供給力強靭化パートナーシップ(パワー・アジア)」の立ち上げを発表した。
フェルディナンド・マルコス・フィリピン大統領、アンワル・イブラヒム・マレーシア首相、ローレンス・ウォン・シンガポール首相、アヌティン・チャーンウィーラクン・タイ首相、レ・ミン・フン・ベトナム首相、ジョゼ・ラモス=ホルタ東ティモール大統領、タリク・ラーマン・バングラデシュ首相、金民錫韓国国務総理をはじめとする出席者から構想への歓迎の意が示され、現下の課題に各国で連携して対応していくことが確認された。
アクションプラン
3つの柱[13]
- AZECソリューション(ルール形成等)の推進
- GHGの算定や報告の促進、サプライチェーン全体の排出量の可視化
- トランジション・ファイナンスの推進
- 農林・運輸・港湾や道路インフラのなどの面における脱炭素化
- 個別プロジェクトのさらなる組成
- イニシアティブの始動・推進
- 再エネの最大限の導入
- 火力発電のゼロエミッション化の促進に向けた水素・アンモニア・CCUS技術などの利活用
- 持続可能燃料に関する実施可能性調査
- 工業団地の脱炭素化の促進に必要な政策策定支援
- 「アジア・ゼロエミッションセンター」による取り組み全体の牽引(知的エンジン化)
進捗
第2回首脳会合で採択されたアクションプランは、2025年から本格的に実行に移された[5]。
アジア開発銀行や国際エネルギー機関などが策定した、アジアの現実的なエネルギー移行に必要なトランジション・ファイナンスについてのレポートを発出したほか、AZECでの炭素市場構築に関する国際会合(AZEC-DCM)を通じたGHG排出量の可視化や、質の高い炭素市場の構築に向けた議論の進捗が成果物に盛り込まれた。
課題解決のためのメカニズムとしては、ERIAによるプログレスレポート(各国の取り組みの現状と課題を整理する)の策定、IEAによる進捗状況や取り組み内容をレビューする仕組み、実務者レベルで取り組み状況や課題の共有をおこなうフォーラム「AZEC LEAF」の立ち上げなどが機能している。
民間企業の取り組みを支援するものとしては、各国に適した組織が立ち上げられている。インドネシアの脱炭素化に協力するためのプラットフォーム「AZEC Indonesia Joint Task Force」、ベトナムでグリーン成長とエネルギー移行を推進する「AZEC/GX推進ワーキングチーム」、タイで産業の省エネを支援する枠組み「AZEC-SAVE」などである。
パワーアジア
2026年4月15日のオンライン会合で発表された枠組み「アジア・エネルギー・資源供給力強靭化パートナーシップ(パワー・アジア)」は、アジアにおける、原油・石油製品等の調達やサプライチェーン維持のための融資などの緊急対応や、アジア域内の原油備蓄日数の拡大に向けた、備蓄・放出制度の構築や備蓄タンクの建設・利用、重要鉱物の確保・バイオ燃料といったエネルギー源多様化及び省エネへの取組を通じた産業の高度化等の構造的対応に取り組むため、総額約100億ドルの金融面での協力等を行うものである[14]。これはアジア諸国の原油や石油製品の調達に換算すれば、最大で約12億バレル、ASEANの約1年分の原油の輸入にも相当する。
緊急対応
- 現地企業への金融支援
- 米国原油など代替原油・石油製品の調達のための与信供与・信用補完
- アジアにおける日本とのサプライチェーン構成企業の生産維持のための資金
- アジア各国政府への財政支援
- 日本とのサプライチェーンを構成する関係各国政府の対応費用等
- 国際機関との連携強化
構造的対応
- エネルギー供給体制の強化
- 原油備蓄・放出システム構築支援
- 備蓄タンク等インフラ建設・利用への支援
- 中東産油国の生産力回復(原油施設等)への支援
- 安全なシーレーンの構築
- エネルギー源多様化
- LNG
- バイオ燃料
- 次世代太陽光
- 原子力(SMR)
- 重要鉱物
- 産業の高度化
- 省エネ投資・協力
- 新技術の導入を通じたものづくりの効率化