ツメレンゲ

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ツメレンゲ
山地の岩場に生育するツメレンゲ、伊豆半島、静岡県にて、2021年10月28日撮影
山地の岩場に生育するツメレンゲ
2021年10月、伊豆半島静岡県にて
分類APG III
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: ユキノシタ目 Saxifragales
: ベンケイソウ科 Crassulaceae
亜科 : Sempervivoideae
: イワレンゲ属 Orostachys
: ツメレンゲ O. japonica
学名
Orostachys japonica
(Maxim.) A.Berger[1]
シノニム
和名
ツメレンゲ

ツメレンゲ(爪蓮華、学名: Orostachys japonica[9] (Maxim.) A.Berger[1])は、ベンケイソウ科イワレンゲ属分類される多年生常緑[10]多肉植物の1[3][11][12][13][14][15]キリンソウ属[3][16]ベンケイソウ属[11]に分類されたこともある[2][4][5]シノニム名(Sedum)は、にはりついた様子を表したもの[11]和名イワレンゲに似ていて、ロゼットの様子が仏像台座(蓮華座)に似ており、かつロゼットを構成する多肉質のの先端が尖っていて、その形状が獣類のに似ることに由来する[11][12]1826年オランダ人H.Buegerによって広島県福山市仙酔島で採集された標本にもとづいて、ロシアマキシモビッチが新種として発表した[17][18]。別名がヒロハツメレンゲ、ヒロハイワレンゲ[1]。ところによってはタカノツメと呼ばれる場合がある[19]

草丈は6[11]-30[13] cm。太い主根から細いを出す[10]。葉は多肉質、全縁で無毛[10]、著しく多肉で断面は楕円形でロゼット状にそう生し、披針形で長さ2.5[13]-6 cm、幅0.5-1.5 cm[12]、先端に状の突起があり[3]、緑色[13]または赤みを帯びたり、粉白を帯びる[12]。葉の大きさ、帯粉の程度などの変異は大きい[13]のロゼットは直径12 cmにもなり、のロゼットの葉は夏のものより小さく、上方は硬くなり、ふつうはガラス質状の細歯牙をわすかに生じ、先端は短針状[13]。根元からは盛んに腋芽を出し、群落を形成する。茎葉は披針形、上方のものほど小さい[13]

ロゼット状の葉の中心から花茎をだし、総状花序[11]に数百の小さなを密につける[3][12]。花は5数性[10]花柄は約1 mm[10]。短日性で、花序の下方から順に咲き上がる。裂片は長さ約2 mmで披針形[13]花弁は白色、披針形で長さ5-6 mm、鋭尖頭、花時には直立する[13]蜜腺四角形、長さ約0.7 mmで、白色。裂開直前のは赤紫色[13](イワレンゲは黄色[12])。雌蕊は直立し、花柱は短い[13]雄しべは10個[10]。花期は9-11月[3][12][16]果実袋果[11]、熟すと上部から裂ける[10]虫媒花で、種子は微小で軽く、風によって散布される[10]。花をつけた株が枯れる[3][11]一稔性植物[20](一回結実性[21])で、種子と親株の周囲に数個の子株が出て殖えていく[16]。岩場に生えるものは、ロゼット・花穂ともかなり小さくなる場合が多い。染色体数は2n=48[13]。葉の幅が1 cmをこえ、越冬葉に細葉牙のないものが本州中国地方以西)、四国九州にみられ、ヒロハツメレンゲとして区別されることもある[13]

開花しない年には、氷点以下に気温が低下する地域だと、中心に鱗片状の葉が球状に固まった冬芽を形成する。厳寒期にはそれまであった葉は枯れるが、春が来ると中心で守られていた生長点から再び新しい葉を出し始める。冬芽を形成しても、氷点以下まで冷え込まないような場所では生長を継続することもある。ベンケイソウ科の園芸植物は海外から多種多様なものが移入されており、一般に季節ごとに生長と休眠のサイクルがあるが、ツメレンゲほど季節ごとに形まで明確に変わる種は珍しく、四季の変化がはっきりしている日本の環境への適応と考えられる。多年生で、発芽から開花までおよそ3ほどの月日がかかり、開花した株は結実後には枯死する。ただし株の成長途上にその周囲に幾つもの子株を形成するので、次々開花していっても生息地その他の株がすぐに消えてなくなることはない。昨今個体数の減少が取りざたされているが、元来競争相手のあまりいない過酷な環境を好み、また環境変化に対する適応性も強い植物である。自然環境では山中の日当たりのよいロックガーデンであるとか、崩落地、岩の露出した断崖絶壁に生えるが、自生する本種を見つけたいのであれば、そういった場所に赴くより、むしろ瓦屋根の古民家が多数残る地方の古い町を散策したり、山中や海岸の崩落した廃道や、廃棄された古いトンネルなどを探した方が良い。ただし、花崗岩玄武岩が露出しているような硬い岩場には自生せず、ある程度柔らかい岩場に見られる。硬い岩場の場合にはマルバマンネングサタイトゴメなどのマンネングサ類が映える場合が多い(対馬など)。

分布と生育環境

民家周辺の石垣に群生するツメレンゲ、すぐそばの岩の斜面にも生育している

中国(東北)、朝鮮半島日本[22]暖帯[11]に分布する[13]。日本では北海道藻琴山羅臼岳[23]、本州(関東地方以西)、四国、九州に分布する[3][12][13][24]基準標本は広島県福山市仙酔島のもの[17][18]香川県小豆島などにも分布する[25]

日当たりの良い[13]乾いた[26]海岸[10]山地[11]の岩上、[27]屋根の上[3][12]寺院石垣[28]河川の石積みの土手[29]などに生育する。例えば高知県では足摺岬の岩場に生育する[3]

ツメレンゲの花を吸蜜中のムシャクロツバメシジミクロツバメシジミの近縁種)

ほとんど土があるとは思えないような[30]乾燥し岩だらけの場所が生息地であり、その岩の隙間にを下ろして群生する。自然のに自生する場合、多くは西向きの崖であり(埼玉県秩父地方長野県南佐久郡)、ある程度乾燥した環境に自生する。一方、長野県の梓川高瀬川山梨県笛吹川釜無川岡山県和気町などでは河川敷に自生しているところがあり、堤防の石組みやコンクリートのすき間に群生する場合がある。人工物に好んで根をおろす性質があり、古くは人家石垣塀や瓦屋根の隙間などから自然に生えていた。また人工的に切り通したなどにも見られることがあり、その場合、コンクリートの吹き付けの上から生えている場合もある(群馬県南牧村)。岡山県倉敷市美観地区など、地方の古民家の連なる街では瓦屋根の隙間から花穂を伸ばす本種をよく見かける。年々個体数を減少させており、分布域内でも生息地は局所的である。ただし、生息に適した場所ではしばしば盛大な群落を目にすることができる。対馬北部では対馬層が露出したところに群生する。シジミチョウの1種で、絶滅が危惧されているクロツバメシジミの主要な食草[26][31]、同蝶も本種の分布に従い分布している。しかし、クロツバメシジミの分布とツメレンゲの分布は完全には一致しない。

種の保全状況評価

丘陵地の岩場を切り開いて道路を通し、法面に落石防止のネットが設置された岩場に生育するツメレンゲ、コンクリートの吹付の程度により工事で消滅してしまう恐れがある

中国のレッドリストではLC(軽度懸念)、朝鮮民主主義人民共和国大韓民国ではN(自生する非絶滅危惧植物)とされている[32]。日本では環境省により第5次レッドリストで準絶滅危惧(NT)の指定を受けている[33]。また以下の都道府県でレッドリストの指定を受けている。広島県では2021年に要注意種から選外に変更された[18]。分布域の一部において、過度の採取圧による圧迫が指摘されていて[27][33]、生育地によってはほとんど取りつくされた地があり[34]、手が届く範囲にはほとんど見られなくなった地域もある[35]愛知県東三河では、園芸業者が岩ごと運び出している[35]。自然遷移も大きな危険要因となっている[21]道路工事、河川改修工事[29]ダム建設[36]シカによる食害も懸念されている[21]。かつては茅葺屋根などにも生育する個体が多く見られたが家屋構造の変化に伴い、そうした生育地も極端に減少している[26]上信越国立公園秩父多摩甲斐国立公園[21]中部山岳国立公園[37]秩父多摩国立公園[21]玄海国定公園耶馬日田英彦山国定公園北九州国定公園[20]などで地域の指定植物の対象となっている。生物多様性キャラクター応援団として、兵庫県宝塚市武庫川の河川生態系を代表する植物のひとつである本種をモチーフとしたツメレットが登録されている[38][39]。応援団として倉敷美観地区の旧家の改修に伴い、その古い屋根に生えていたクロツバメシジミの食草のツメレンゲが、2011年9月10日にしげい病院屋上庭園に移植された[40]神奈川県愛甲郡愛川町中津川の人工的な構築物の堤防のツメレンゲ群落は、植栽起源のものが逸出したものと見られている[41]

Status jenv NT.svg
Status jenv NT.svg

[33]

天然記念物

岐阜県加茂郡川辺町鹿塩にある「ツメレンゲ群生地」が2011年平成23年)3月30日に町の天然記念物の指定を受けている[62]。静岡県浜松市天竜区の「クロツバメシジミとツメレンゲ」が市の天然記念物の指定を受けている[63]

人間との関係

鉢植えで観賞用に栽培されているツメレンゲ

本種は古くから園芸価値が認められており、各地で広く観賞用に栽培されている[13]。庭植えや鉢植えで楽しまれている[16]

先述の様に人家に出ることも多く、こうした生態が人の目にとまり、園芸化されたものと考えられる。江戸時代の中ごろに園芸種として盛んに栽培され、多くの園芸品種が生み出された。それらには今日まで残っているものがあり、そういった苗を園芸店で安価で買うことができる。地上部のさまが風変わりで栽培に手間がかからず、挿し木で簡単に増えるので今日でも愛好家は多い。ただし、園芸対象としての本種は流通上名に由来するオロスタキスの名で一括りにして、種、変種品種、産地などの違いを園芸品種のような属性として扱っているので、オロスタキスの名で買い求めたそれが同属別種のイワレンゲや、その他の別種であることがままある。チャボツメレンゲキバナツメレンゲなども別種である。しかし一方で、多数のシノニムが見られることからもわかるように、本種の分類学上での位置付けがかなり混乱している事実もある。ミセバヤ同様、ヨーロッパへはシーボルトにより紹介された。江戸参府途上のおり、で採集したもっとも古い標本が現存している。

栽培

ミセバヤなど他のベンケイソウ科植物同様、栽培は比較的容易である。サボテン用の用土を用い、日当たりのよい場所に置く。潅水は控えめにして、夏場は風通しのよい場所に置く。日陰においたり、水をやり過ぎると根腐れをおこす。増殖も挿し木で容易にできる。

近縁のイワレンゲと共に、朝鮮半島や中国では瓦松(がしょう)の名で花穂が漢方薬として服用される。清熱解毒作用があり、腫れを取る効果があるとされる。民間薬としても胃腸薬に使用される。ただし日本では薬用として処方されることはあまりない。

品種

元禄(げんろく)
野生種に似る。ちなみに野生種そのものは流通上山採り(やまどり)と呼ぶ。
爪蓮華錦(つめれんげにしき)
5割近くの葉が葉緑素を欠いて白変し、株全体が絞りのような様相を見せる。
昭和(しょうわ)、白肌爪蓮華(しろはだつめれんげ)
緑白色になり、強い陽光の元にさらすと紅を帯びる。
八頭(やつがしら) Orostachys japonicus f. polycephalus
分類学上の品種なので野外でもこの変異株は見られる。園芸においてもこの名で呼ばれるが、元禄と同品種として扱われることもある。多数の腋生枝を出し、いわゆる子吹きとなり(株元に多数の子株をつくって殖える)八頭と呼ばれ[16]、園芸的に珍重される[13]

脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

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