内向き整流性カリウムチャネル
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内向き整流性カリウムチャネルの結晶構造。 | |||||||||
| 識別子 | |||||||||
| 略号 | IRK | ||||||||
| Pfam | PF01007 | ||||||||
| Pfam clan | CL0030 | ||||||||
| InterPro | IPR013521 | ||||||||
| SCOP | 1n9p | ||||||||
| SUPERFAMILY | 1n9p | ||||||||
| TCDB | 1.A.2 | ||||||||
| OPM superfamily | 8 | ||||||||
| OPM protein | 3SPG | ||||||||
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内向き整流性カリウムチャネル(うちむきせいりゅうせいカリウムチャネル、英語: Inward-rectifier potassium channels、略称:Kir、IRK)は脂質依存性なカリウムチャネルの分類の一つである。これまでに7つのファミリーが哺乳類[1]、植物[2]、細菌[3]などにおいて知られている。脂質の中でもホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸(PIP2)により活性化されるという特徴がある。内向き整流性カリウムチャネルの機能不全は様々な疾患に関与していることが明らかになっている[4][5]。内向き整流性チャネルには電位依存性イオンチャネルと同様のポアドメインがあり、膜貫通部分がポアの側面を構成する。各サブユニットの単量体は2回膜貫通で、ホモオリゴマー(一種類のサブユニットで構成)またはヘテロオリゴマー(複数種のサブユニットで構成)として存在する。機能として内向き整流性カリウムチャネルは名前の通り、カリウム(K+)を輸送し、細胞外への流出よりも細胞内への流入の方が優位である[3]。この内向き整流性という性質は1960年代に心筋細胞でデニス・ノーブルにより発見され[6]、後にリチャード・ヒューム・エイドリアンやアラン・ロイド・ホジキンらによっても1970年に骨格筋細胞で確認された[7]。

陽イオンのチャネルで内向き整流性という場合、イオンが細胞から見て外側の方向よりも内側の方向へ流れやすいという性質を指す。このような電流は細胞が静止膜電位を安定化させるために神経細胞などの活動の制御において役立っていると考えられている[8]。
慣例として、膜電位固定法においては内向き電流はグラフの下向き、外向き電流はグラフの上向きとして表すことが多い[9]。K+チャネルにおいては膜電位がK+の逆転電位よりも負である場合、内向き整流性K+チャネルがK+を細胞内へ流入させ、膜電位を静止膜電位へ戻そうとする。これを右の図に示した。しかし、膜電位がより正の値となると内向き整流性チャネルはほとんどイオンを通さなくなる。つまり、内向き整流性チャネルは外向きよりも内向きの方が通しやすいということである。なお完全な整流ではなく、逆転電位から20~40mV程度で外向き電流がピークになることが多い[10]。
内向き整流性チャネルは活動電位の発生に続く再分極の過程に重要な電位依存性カリウムチャネルとは違いがある。電位依存性カリウムチャネルは膜電位が脱分極すれば外向きに電流を流し、一部は外向き整流性であるものもある。発見された当初は内向き整流性という性質はカリウムチャネルによくある外向き電流と区別して異常整流(英語: anomalous rectification)として言及されていた[11][12]。
内向き整流性チャネルはリーク電流の多くを占めるK2Pチャネルとも異なっている[13]。
内向き整流性カリウムチャネルのうち、いくつかは弱い内向き整流性と呼ばれているものもあり、K+の逆転電位より正の膜電位で測定可能なレベルの外向き電流を流すことができる(図でいう横軸より上の部分で、弱い内向き整流性ではより大きい電流となる)。弱い内向き整流性チャネルはリークチャネルと同様に静止膜電位の維持に役立っている。その他の内向き整流性チャネルとして強い内向き整流性と呼ばれるものもあり、外向きではほとんど電流が見られず、もっぱらK+の反転電位より負でのみ内向き電流を流す[14]。
機構
PIP2による活性化
全ての内向き整流性チャネルは活性化のためにホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸(PIP2)が必要である[17]。例えばKir2.2においてはPIP2は直接結合して活性化するアゴニストのような特性を有する[18]。この点で、KirはPIP2をリガンドとするリガンド依存性イオンチャネルであるともいえる。
機能
内向き整流性カリウムチャネルはマクロファージ、心臓、腎臓、白血球、神経細胞、内皮細胞といった様々な細胞種において確認されている。膜電位が負になったときにK+を内向きに流して小さく脱分極させることで静止膜電位の維持を担う。GIRKチャネル(Kir3)の場合、阻害作用のある神経伝達物質の応答に役立っている。ただし、細胞の種類によってその機能は異なっており、細胞ごとの機能を表に示す。
| 細胞 | 機能 |
|---|---|
| 心筋細胞 | 内向き整流性カリウムチャネルは脱分極によって閉鎖し、膜の再分極を遅らせ、心筋における活動電位がより長く維持されるように働く。また、静止膜電位の維持にも関わっている[19]。 |
| 内皮細胞 | 一酸化窒素合成酵素(NOS)の制御に関与している[20]。 |
| 腎臓 | 集合管の尿中へのK+分泌に役立つ[21]ほか、K+の体内への再吸収にも関わっている可能性がある[22]。 |
| 神経細胞、心臓の細胞 | GIRKチャネル(Kir3)は神経伝達物質により調節される重要な制御因子である。マウスにおけるGIRK2チャネル(遺伝子名:KCNJ6)の変異ではドーパミン作動性神経の神経炎症による変性により失調症状を示すことが報告されている[23]。失調のないマウスをコントロールとして比較した場合、変異マウスでは運動の協調性の欠如や局所的な脳代謝の変化が確認された[24]。 |
| 膵臓β細胞 | 内向き整流性チャネルでもあるATP感受性カリウムチャネル(Kir6.1、Kir6.2)はインスリンの分泌を制御する[25]。 |
調節
内向き整流性カリウムチャネルの電位依存的な性質は細胞外K+や細胞内Mg2+、細胞内ATP、Gタンパク質などによって調節されうる。内向き整流性カリウムチャネルのPドメインは電位依存性イオンチャネルファミリーと配列における類似性がややある。内向き整流性カリウムチャネルは細胞の膜電位の調節に重要であり、脱分極によりこれらのチャネルが閉鎖することにより活動電位の最中に電位が平坦に近くなるプラトー期が起こる。内向き整流性カリウムチャネルには電位依存性イオンチャネルファミリーでみられるような電位センサードメインを欠いている。Kir1.1a、Kir6.1、Kir6.2といったいくつかの内向き整流性カリウムチャネルはABC輸送体と直接的に相互作用しており、ヘテロな複合体を形成することでATP感受性といった特徴的な機能や制御能を与えると考えられている。これらのATP感受性チャネルは様々な組織において確認されており、細胞質のATP/ADP比に反応してATP/ADP比が上昇するとチャネルが閉鎖する。ヒトのSUR1、SUR2らスルホニルウレア受容体はATPに応じてKir6.1とKir6.2の両方を制御するABC輸送体であり、CFTRはKir1.1aを制御している可能性がある[26]。
構造
分類
内向き整流性カリウムチャネルには7つのファミリーが存在しており、Kir1 - Kir7までで表される[1]。各ファミリーには複数のタンパク質が存在し、哺乳類の種間でのアミノ酸配列がほとんど同一である。
内向き整流性カリウムチャネルはホモテトラマーでタンパク質を形成する。各サブユニットは2回膜を貫通したαヘリックスで構成され、M1・M2と呼ばれる。チャネルが過剰発現している場合、同じファミリーであればヘテロテトラマーを形成することもでき、Kir2.1とKir2.3がその一例である。
種類
| 遺伝子 | タンパク質 | 別名 | 関連するサブユニット |
|---|---|---|---|
| KCNJ1 | Kir1.1 | ROMK1 | NHERF2(Na+-H+交換輸送体制御因子) |
| KCNJ2 | Kir2.1 | IRK1 | Kir2.2、Kir4.1、PSD-95、SAP97、AKAP79 |
| KCNJ12 | Kir2.2 | IRK2 | ヘテロ四量体形成:Kir2.1、Kir2.3 補助サブユニット:SAP97、Veli-1、Veli-3、PSD-95 |
| KCNJ4 | Kir2.3 | IRK3 | ヘテロ四量体形成:Kir2.1、Kir2.3 補助サブユニット:PSD-95、Chapsyn-110(PSD-93) |
| KCNJ14 | Kir2.4 | IRK4 | ヘテロ四量体形成:Kir2.1 |
| KCNJ3 | Kir3.1[注 1] | GIRK1, KGA | Kir3.2、Kir3.4、Kir3.5 |
| KCNJ6 | Kir3.2 | GIRK2 | ヘテロ四量体形成:Kir3.1、Kir3.3、Kir3.4 |
| KCNJ9 | Kir3.3 | GIRK3 | ヘテロ四量体形成:Kir3.1、Kir3.2 |
| KCNJ5 | Kir3.4 | GIRK4 | Kir3.1、Kir3.2、Kir3.3 |
| KCNJ10 | Kir4.1 | Kir1.2 | ヘテロ四量体形成:Kir4.2、Kir5.1、Kir2.1 |
| KCNJ15 | Kir4.2 | Kir1.3 | |
| KCNJ16 | Kir5.1 | BIR 9 | |
| KCNJ8 | Kir6.1 | KATP | SUR2B |
| KCNJ11 | Kir6.2 | KATP | ABCC8、SUR2A、SUR2B |
| KCNJ13 | Kir7.1 | Kir1.4 |
チャネロパチー
- 先天性高インスリン血症 - Kir6.2の常染色体潜性遺伝の変異が関連している。この遺伝子変異ではチャネルがインスリン分泌を制御する能力が低下し、乳児期からインスリンの過剰分泌により低血糖となる[29]。
- バーター症候群 - 内向き整流性カリウムチャネルの変異で生じうる。腎臓におけるカリウム再吸収の不全によって起こり、低カリウム血症を引き起こす[22]。
- アンデルセン・タウィル症候群 - Kir2.1の複数種の変異によって生じうるまれな疾患である。変異によって顕性遺伝か潜性遺伝かは異なる。周期性四肢麻痺、不整脈、身体奇形などを特徴とする[30]。
- バリウム中毒が危険な原因の一つとして内向き整流性カリウムチャネルを阻害できることが挙げられる。
- アテローム性動脈硬化 - 内向き整流性カリウムチャネルにPIP2が必要な一方、高コレステロール血症では内向き整流性カリウムチャネルが抑制されることが明らかになっており、動脈硬化に伴う内皮障害に内向き整流性カリウムチャネルが関与している可能性がある[31]。
- 甲状腺中毒性周期性四肢麻痺 - Kir2.6の機能変異が関連している[32]。
- EAST/SeSAME 症候群 - KCNJ10の変異によって起こる、てんかん、失調、感音性難聴、尿細管障害を特徴とする症候群[33]。