台湾の半導体産業

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新竹市のTSMCグローバルR&Dセンター

台湾の半導体産業(タイワンのはんどうたいさんぎょう)は、台湾の情報技術産業の中心的存在であり、集積回路(IC)の製造、設計、パッケージングを含む産業である[1]。半導体ウェハ受託製造における高い技術力と完全な産業サプライチェーンにより、台湾は有力なマイクロチップ製造国として、グローバル市場において支配的地位を確立している[1][2]。台湾の半導体産業の生産額は1150億米ドルを計上し、世界シェアの約20パーセントを占める。ファウンドリ(受託製造)分野では台湾企業が世界市場の約50パーセントを占め、台湾積体電路製造(TSMC)が最大手である[3]

TSMC Fab 12Bの夜景

低技術製造業が主体であった台湾は1970年代に、後に台湾ハイテク産業の父と呼ばれる李国鼎英語版 らによる政策決定により、先端技術産業へと転換を果たした[4] 。その最初の大きな政策転換となった1976年のRCAプロジェクトは、米国からの重要な技術移転を実現し、台湾初のIC工場を誕生させ、技術的自立の基盤を築いた[5]。その後の初期の展開としては、工業技術研究院(1973年)、聯華電子(1980年)、新竹サイエンスパーク(1980年)の設立が挙げられる[6]

モリス・チャンこと張忠謀が1987年台湾積体電路製造(TSMC)を設立したことは、台湾半導体産業における決定的な出来事であった。シリコンバレーとの密接な関係や、米国で教育を受けた技術者の帰国により、日本大韓民国のような財閥主導型とは異なるスタートアップ・エコシステムが形成された[7]

現在、TSMCは世界の先端半導体の過半数を生産し、AppleNvidiaといった企業に供給している[8]

中国は台湾の半導体産業を標的にした産業スパイ活動を繰り返している[9]。これに対して台湾は、サイバーセキュリティの強化、投資規制の厳格化、国内人材の確保策などを講じている[10]

歴史

NXPセミコンダクターズ高雄工場
聯華電子本社
聯華電子 8AB Fab
MediaTek(聯発科技)台北支社

台湾は国共内戦後、アメリカ合衆国の支援の下で経済復興を進めていたが、1960年代に米国が支援打ち切りを宣言したため、経済的自立のため輸出産業の強化を始めた。1966年高雄市に輸出加工区を設置。ジェネラル・インストゥルメントが出資した高雄電子が台湾初の半導体組立工場を建設した[11]。1976年、政府はRCAコーポレーションを説得し、半導体技術を台湾へ移転させることに成功した[5]蒋経国の指示のもと、政府は工業技術研究院(ITRI)を中心機関に据え、純粋な学術的進歩ではなく商用製品の開発を重視する方針で産業育成を進めた。ITRIは4チームの技術者をRCAに派遣して研修を受けさせ、台湾にデモンストレーション工場を建設した。この工場は米国にあるRCAの工場よりも高い歩留まりを達成した。1980年、このデモンストレーション工場はITRIから分社化され、聯華電子(UMC)が設立された。UMCは官民から出資を受けた[12]

1987年、TSMCはファブレス・ファウンドリモデルを創始し、世界の半導体産業構造を根本から変えた[13][14]1977年にITRIが建設した初の3インチウェハー製造工場[13]1980年のUMC設立を起点に、産業は急速に拡大した[15]1997年5月28日MediaTek(聯発科技)がUMCから分社化・法人化され、2001年7月23日台湾証券取引所へ上場した[16]2002年には稼働中の工場が40カ所に達し、産業は世界トップレベルに成長した[1]2007年には半導体生産額で米国を抜き、日本に次ぐ世界第2位となった[17],

2009年の生産額は390億米ドルに達し、IC製造・パッケージング・テスト分野で世界市場シェア1位、IC設計分野で2位となった[13]2008年金融危機で売上・輸出は一時落ち込んだが[18]2010年には企業が過去最高益を更新する形で回復した[19][20]2010年には300nm、90nm、60nmの生産能力で世界シェア1位となった[21][22]2020年には、TSMC単独で世界市場の50 %超を占めるまでに至り、台湾は世界半導体産業を牽引する存在となった[23]

2020年代に入ると人工知能処理需要が台湾半導体産業の新たな成長ドライバーとして浮上した[24]

台湾の半導体産業は、グローバルサプライチェーンにおける決定的な役割ゆえに、特に米中間の地政学的緊張の中心に置かれている。サプライチェーンの強靭性に対する懸念の高まりや、第1次トランプ政権時代に「台湾がアメリカ合衆国の半導体産業を奪った」と批判されたことを背景に、TSMCはアリゾナ州に新たに3つの製造工場と2つのパッケージング施設を建設するため1000億米ドルの投資を表明した[25]。台湾は今なお半導体製造のグローバルリーダーであり、TSMCはその最前線に立つ。TSMCは世界の先端半導体の50 %以上を生産し、Apple、Nvidia、AMDといった技術大手へ重要な部品を供給している[26]

産業発展が直面する課題

サイバー諜報活動とサイバーセキュリティ対策

台湾の半導体産業は世界的な戦略的重要性から、中国による対外諜報活動の主要な標的となっている。中国政府が支援する行為者は、台湾独自の半導体技術を取得し、サプライチェーンの強靭性を損なうことを目的としたサイバー諜報活動を展開している。たとえば、2024年にサイバーセキュリティ企業ファイア・アイが発表した報告書では、中国関連の脅威グループAPT41が急増し、スピアフィッシングメールやコルバットストライク、PlugXといったカスタムマルウェアを用いて台湾の半導体研究機関を標的にしていることが明らかになった[9]

2024年9月、新竹市台北市新北市の検察当局による共同捜査で、 北方華創科技集団 英語版、上海新視覚微電子、南方硅谷半導体など中国の半導体企業8社が企業実態を隠して新竹科学園区の技術者を不正に引き抜いていた疑いが発覚した[27]。これらはサイバー攻撃と人的諜報活動が連動した広範なパターンの一部であり、法務部調査局(MJIB)によると、2024年の台湾に対するサイバー侵入試行は1日平均240万件を超え、2023年の2倍に達している。[28]

これらの脅威に対抗するため、台湾は国家安全法を改正し、重要技術への外国投資規制を強化するとともに、無許可技術移転に対する刑事罰を重くした[10]。また、アメリカ合衆国サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(CISA)や日本の国家サイバー統括室(NISC)などと連携し、情報共有やベストプラクティスの交換を進めている[29]。併せて、政府は官民連携のサイバーセキュリティ事業に予算を投じ、企業や学術機関向けのサイバーハイジーン教育プログラムも拡大している[30]

人材引き抜きと産業政策

サイバー攻撃に加え、中国は台湾の半導体ノウハウ獲得のため積極的な人材引き抜きを展開している。2024年の国防安全研究院英語版(INDSR)の分析によれば、中国企業は台湾技術者に現地給与の最大3倍の報酬や移住支援パッケージを提供して大陸企業への転職を誘引している[31]

台湾はこれに対し、半導体産業人材育成プログラムを通じて補助金・税制優遇・キャリア開発助成を拡充し、高度人材の国内定着と産学連携を促進している[32]。世界最大の受託製造企業である台湾積体電路製造(TSMC)も、最優秀の工学・理学系学生を対象とした競争率の高い博士課程奨学金制度を創設した[33]

政府はまた台湾版CHIPSおよび科学法英語版を制定し、研究開発費に対して25 %、先端製造装置への設備投資に対して5 %の税額控除を提供している[34]

中国政府側は国家主導の技術窃取疑惑を否定し、こうした産業発展は中国製造2025戦略の一環であると主張している。[35]

台湾の政策と地域協力

これらの多面的な課題に対し、台湾は政策革新と地域連携を進めている。サイバーセキュリティ改革に加え、米台技術貿易投資枠組みや、日韓との三か国対話を通じて半導体サプライチェーン英語版の強靭性強化を図っている[36]

地政学

アリゾナで建設中のTSMC Fab 21

先端半導体産業においてTSMCは競合のサムスンを大きく引き離している。グローバル生産能力が少数の国に集中した状況は、深刻な地政学的課題を生み出し、世界の技術政治の変動に大きく寄与している[37]

台湾は米国と中国の両技術産業サプライチェーンで重要な位置を占めるため、米中貿易戦争の技術面や両大国間の広範な地政学的対立に深く巻き込まれている[38]。米国は自国製装置や知的財産を使用する企業に対し、中国の禁止企業への製品輸出を禁じた。これにより、台湾の半導体企業はファーウェイなどの中国の顧客との取引を停止せざるを得なくなった[39][40]

2021年1月、ドイツのペーター・アルトマイヤー経済相は台湾の王美花中国語版経済部長に対し、半導体不足により自動車生産ラインが停止しており、COVID-19パンデミック後の経済回復を阻害しているとして、台湾半導体企業に生産拡大を促すよう要請した[41]。米国、欧州連合、日本からも同様の要請があった。台湾政府とTSMCは、可能な限り台湾の地政学的同盟国である自動車メーカーを優先すると発表した[42]

2021年4月、米国政府は中国人民解放軍(PLA)、中国の軍産複合体、大量破壊兵器(WMD)プログラムへの装備供給関与の疑いで、中国のスーパーコンピューティング企業7社をブラックリストに登録した。これに関連して、 世芯英語版とTSMCは、中国のスーパーコンピューティング企業天津飛騰信息技術からの新規注文を停止した[43]

半導体産業の地政学的強みはしばしば台湾の「シリコン・シールド」と呼ばれる[44]。『ニューヨーク・タイムズ』は、「台湾はマイクロチップ産業の支配力を防衛に頼っており、その半導体産業が中国の製造業と米国消費者経済に極めて重要であるため、ファウンドリを脅かす行動はリスクが大きすぎる」と分析している[45]。他方、マシュー・ポッティンジャー英語版はシリコン・シールドの存在を疑問視し、中国の行動が民主主義国では合理的でないと指摘した[46]

TSMCの生産持続性を確保するため、米国などの第三国による国際政策措置が講じられている。「CHIPSおよび科学法」などの政策努力により、米国と台湾政府はTSMCの米国本土での製造能力強化を進めている[47]。これらの政策は、米中関係の地政学的緊張が外国製造依存の弱点を露呈したことを受け導入された[47]。特に、TSMCはアリゾナ州に120億ドルの半導体製造工場を建設する計画を発表した[47][48]

TSMC会長兼CEO魏哲家英語版が、ドナルド・トランプ大統領ハワード・ラトニック商務長官の隣に立ち、TSMCの米国投資計画を発表する様子、2025年3月3日

2024年4月、アメリカ合衆国商務省はCHIPSおよび科学法に基づき、TSMCアリゾナ工場に対し総額66億ドルの補助金を供与した[49]。また、両国は共同研究イニシアチブや労働力開発プログラムに投資し、半導体産業向けの熟練労働者の安定供給を図っている[49]。TSMCの米国進出はアリゾナ工場で特に課題を抱えており、予定稼働日が1年遅延した[50]。一部のTSMC幹部は、工場開発のトラブルをTSMCの管理層とアメリカ人労働者の文化摩擦に帰している[50][51]

2025年2月、中国は台湾が半導体セクターを米国への政治的便宜を図るために利用していると非難している[52]

環境・持続可能性に関する問題

関連項目

脚註

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