臨床検査医学

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臨床検査室の自動分析装置

臨床検査医学(りんしょうけんさいがく、英語: laboratory medicine, clinical pathology)とは、臨床検査を通じて、病気の診断、治療方針の決定、経過の判定などに寄与する医学の分野である[1][2]

臨床検査医学総論・検査管理学

臨床検査医学は、臨床検査技術を用いて病態を解析し、病気の診断、治療方針の決定、経過の判定などに寄与する医学の分野である[2]。病院中央検査室を現場とする臨床医学の一領域ともされ[3]臨床医学に属するが、基礎医学と臨床医学を結ぶ掛け橋となる総合的な学問と位置づけられている[2][4][5]。臨床検査医学の主要な分野を以下に述べる[6]

検査の精度管理

検査の精度管理とは検査の精密さ(同一検体を繰り返し測定したときの結果のばらつきが小さい)と正確さ(真の値にどれだけ近いか)を維持・改善する活動である。 施設内で行われる内部精度管理により検査で得られる値が過去の値や未来の値と比較可能であることが担保される。また、外部精度管理および検査の標準化[注 1]により、自施設の検査値が他の施設で得られた値とも比較可能であることが担保される[7][8][9][10]

精度保証

検査の精度保証とは、検査の工程に関わる検査部門内部の精度管理に加え、検査の全ての過程、すなわち、検査前の工程(医師による検査の選択と指示、検体の採取と保存・搬送など)および検査後の工程(検査の報告、結果解釈、その結果により新たに必要となる検査の計画など)が適切に行われることにより、検査が正しく実施され[注 2]、正しく活用されること[注 3]を保証しようとする活動である[9][7][11]

診療の支援・教育

臨床検査医による診療の支援は、検査データの解釈や検査の選択・進め方についてのコンサルテーション対応、検査データへのコメント記載などが代表的である。また、各施設のチーム医療活動、例えば感染制御栄養サポートチーム、遺伝子医療、医療安全などに検査部門の立場から参加することがある。その他、新薬治験時の検査データの提供、臨床検査を含む共同研究、検査データの作成や専門的知識による研究支援などが行われている。 教育面では、臨床検査技師等の職員の教育に加え、施設によっては医学生の臨床実習や専門医の教育を行う[12][9]

検査部門の運営管理

機器・試薬の管理[注 4]、標準作業書、検査情報の管理(検査情報システム、検査の自動化も含む)、安全管理、経営管理、人事管理、関連法規遵守、その施設に必要な検査の取捨選択や新規導入、検査に関する診療科の要望への対応などが含まれる。また、精度保証とも重なるところであるが、基準値パニック値の適切な設定、および、検査を適切に選択し結果を正しく解釈するための情報提供なども重要である[注 5][6][9][11]

一般臨床検査学

尿沈渣中のストルバイト結晶

一般臨床検査とは、尿、便、穿刺液など血液以外の体液を対象とする検査である。(なお、「一般」というのは、これらの検査が日本では歴史的に「一般検査」と呼ばれてきたことに由来しており、特殊検査に対する一般という意味ではない)[6]

臨床化学

正常な血清蛋白分画パターン

臨床化学は生化学的検査ともよばれるが、血液・尿などの化学的成分を対象とする検査である。 電解質、タンパク質、非蛋白性窒素(BUN尿酸クレアチニンなど)、酵素、糖質、脂質、心筋マーカー、ホルモン、ビタミン、微量金属、血中薬物濃度、各種の疾患マーカーなど非常に多岐に渡る物質が測定対象である[6]

臨床血液学

骨髄塗抹標本の顕微鏡写真(ライト染色

臨床血液学では、血液系の細胞の算定検査(全血球計算)、形態観察(末梢血塗抹検査骨髄像)、止血凝固・線溶検査フローサイトメトリーなどの血液学的検査を扱う[6]

臨床微生物学

結核菌チール・ネルゼン染色

臨床微生物学には、検体中の病原微生物細菌真菌ウイルス原虫など)の同定や抗微生物薬の感受性を調べる微生物学的検査の他、 感染管理(院内感染対策、耐性菌対応、サーベイランスなど)が含まれる[6]

臨床免疫学

臨床免疫学であつかうのは、炎症や免疫に関連するタンパク質の検査(免疫グロブリン補体サイトカインなど)、細胞性免疫関連検査、アレルギー関連検査( アレルゲン特異IgEなど)、自己抗体検査(抗核抗体など)、感染症の免疫学的検査などである[6]

輸血学

ゲルカラム凝集法による血液型検査:検体はO型Rh(D)陽性

輸血学分野では、輸血に関連する検査(ABO血液型検査RhD血液型検査直接・間接クームス試験不規則抗体検査交差適合試験)、および、血液製剤管理、輸血の適応や輸血副作用などを扱う[注 6][6][13]

遺伝子関連検査学

遺伝子関連検査とは、ゲノム染色体を対象とする検査である。 病原体核酸検査(病原体の遺伝子を検出して同定や定量をする検査)、体細胞遺伝子検査(悪性腫瘍などの遺伝子異常を検出する検査)、生殖細胞系列遺伝子検査(遺伝疾患の診断に用いる検査)、薬物関連遺伝子検査(薬剤の投与量を調節するために薬物代謝に関わる遺伝子多型を調べる検査)などがある[6]

臨床生理学

呼吸機能検査(スパイロメトリー)

臨床生理学分野では、心電図血圧脈波検査脳波検査、筋電図検査、呼吸機能検査超音波検査など、 主に病院の臨床検査部門で取り扱う生理機能検査が対象となる[6]。 なお、欧米の臨床検査医学は基本的に検体検査が対象であるが、 日本では生理検査も臨床検査医学の範疇に含まれる[注 7][14][注 8]

医学的検査と臨床検査

臨床検査医学で扱う臨床検査は検体検査と生理検査(呼吸機能検査、循環機能検査、神経生理検査、超音波検査)であり、医学的検査の全てを含むものではない。たとえば、放射線検査放射線医学)、内視鏡検査消化器病学呼吸器病学など)、眼科検査眼科学)、耳鼻科検査耳鼻咽喉科学)、心理検査精神神経科など)などは、それぞれ、関連の臨床医学分野で取り扱われる[2]

関連する診療科

臨床検査医学を担当する診療科は臨床検査科である。 臨床検査科標榜診療科の一つである[15]

関連する疾患

臨床検査は全ての診療科の疾患の診療の基礎となっており、米国およびドイツでは医療上の決定の60〜70 %が臨床検査(ここでは検体検査)に影響を受けているとの報告がある[16]。臨床検査医学は全ての専門領域に横断的に関連するとされ[6]、 特に内科系の診療科では臨床検査の結果が診断や治療方針決定に重要な意義を持つことが多い。 内科系以外の科でも、臨床検査は全身状態や合併症の把握に重要な地位を占めるほか、鑑別診断に重要である場合がある。たとえば、精神科で精神疾患の診断をする場合でも、臨床検査により甲状腺機能低下症などの身体疾患の除外をすることがしばしば必要である[17]

関連する職種

病院の臨床検査部門では、臨床検査医や関連診療科の臨床医も検査に従事しているのが通常であるが、 日々の臨床検査の実務の大部分を担当しているのは臨床検査技師である。 日本の臨床検査技師の業務には、検体検査以外に生理検査や検体採取(採血など)も含まれるのが 欧米との差である[18][19]

大学の講座

日本の大学の医学部や医科大学で臨床検査医学を扱う講座は、2024年10月の時点では69あり、多くは臨床検査医学講座とよばれている。臨床検査医学講座の教授は、通常、中央臨床検査部の部長を兼任している[2]

専門医・資格

日本専門医機構の管理する専門医制度においては、臨床検査医学は19の基本領域の1つとして位置づけられており、日本専門医機構が臨床検査専門医の認定を行っている[20]

歴史

古代ギリシャのヒポクラテス(紀元前400年前後)は既に尿の観察を行っており、尿の表面の泡を疾患と結びつけている。 これが臨床検査の起源とも考えられている[21][22][23]。 近世には、16世紀の顕微鏡の発明と血球の観察に始まり、医学に化学や物理学に基づく検査が導入され始めた[21]。 19世紀後半には、ウィルヒョウによる細胞病理学の確立、 パスツールコッホベーリングらによる微生物学と免疫学の樹立、と 近代医学の基盤が形成されていき、 20世紀に入ってからは血液が検査診断に広く用いられるようになった[21][14][22][24]

近代医学の黎明期においては、臨床検査臨床医学の一環として各診療科で実施されており、 病理学英語: pathology )は解剖学生理学とならんで基礎医学の一領域であった。

米国の病院では、外科学教室の一部門として病理組織検査病理診断を担当する病理部が誕生し、 1950年代には外科から独立した。同時期に検体検査も発達し、米国の病院の病理部門は、 病理診断(英語: anatomic pathology, surgical pathology、直訳すると「解剖病理」・「外科病理」)と臨床検査/検体検査(英語: clinical pathology、直訳すると「臨床病理」)を 包括するものとして発展してきた[25]。 この経緯から、米国では、臨床検査に関する医学領域をさす名称としては、「臨床病理(clinical pathology)」が用いられてきた[21][26]

一方、日本では、明治以降、西洋医学とともに各種の臨床検査も導入されたが「主治医が受持患者の検査をする」体制が長く続いていた[14][1]

第二次大戦後は米国の医学の取り込みと検査の中央化が始まり、1950年代には各診療科でおこなっていた検査が病院の検査部門に中央化され、専門職としての検査技師により実施されるようになった。また、各診療科で行っていた生理検査も同時に中央化されて検査部門で実施するようになった(欧米と異なり日本の臨床検査医学に生理検査が含まれるのはこのためである)[14]

その後、日本では、検査部門の専任医師たちが米国の「臨床病理」の導入を進めていった。 しかし日本では、米国とは異なり、臨床検査は基本的に病理とは別の、中央検査部を中心とした医学領域として発達してきた。 1951年に日本で初めて山口県立医科大学に設置された臨床検査医学の講座は 米国流に臨床病理学講座とよばれた。また、医学としての臨床検査の学会も、1955年創立当初は米国流に臨床病理学会とよばれていた。 しかし、「臨床病理」という語は「診断病理」の意味で用いられていることも多く[注 9]、混乱を招いたため、 各大学に設置された臨床検査医学の講座は、 「臨床検査」、「病態検査」、「検査診断」など、「検査」を含む名称を名乗ることが多くなった。 また、日本臨床病理学会も2000年に日本臨床検査医学会(The Japanese Society of Laboratory Medicine:JSLM)と改名している[22][27] [2][14]

名称

歴史の章で述べたように、日本では臨床病理学から臨床検査医学へと名称が移行しており、今日、臨床検査の意味で臨床病理ということはまれである[注 10][28][29]。 しかし、米国では、今日でも臨床検査医学の意味での臨床病理学(Clinical Pathology)が広く用いられている。 米国の病理学は病理診断学(Anatomic Pathology:AP)と臨床病理学(Clinical Pathology:CP すなわち臨床検査医学)から構成されており[注 11]、 米国の病理学会(College of American Pathologists:CAP)の専門医のコースは、APとCPを選択することができるが、両方履修する(AP/CP)医師も多い[22][21]。 しかし、国際的には、laboratory medicine(臨床検査医学)の名称が広く用いられており[注 12]、例をあげれば、世界病理・臨床検査医学会連合はWorld Association of Societies of Pathology and Laboratory Medicine(WASPaLM)、国際臨床化学連合(IFCC)の正式名称は国際臨床化学・臨床検査医学連合(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine:IFCCLM)である[2][22][1]

脚注

関連項目

外部リンク

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