カンクウルウ

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カンクウルウ学名Khankhuuluu)は、モンゴル国南東部に分布する後期白亜紀地層化石が発見された、ティラノサウルス上科に属する獣脚類恐竜[1]。タイプ種カンクウルウ・モンゴリエンシスKhankhuuluu mongoliensis)が知られ、その学名は「モンゴルの王子の竜」を意味する[1]

タイプ種は全長約4メートル、体重500キログラム未満と推定されており、ティラノサウルス類として中型の分類群である[1]。タイプ標本は同じく東アジアから化石が産出したアレクトロサウルスとしてかつて分類されていたが、カルガリー大学北海道大学の研究により別属別種と判断され、新属新種として2025年に記載・命名された[2]

バイシン・ツァフの標本

バイシン・ツァフ産地(C)とツァガン・テグ産地(D)を示す地図

Voris et al. (2025)によるタイプ種の記載では、タイプ標本を含め、モンゴル科学アカデミー英語版に所蔵された3個の標本が本種に分類されている[3]。これらの3個の標本はいずれもモンゴル国の南東部で回収されたものであり、上部白亜系の地層であるバインシレ層から産出した[3]。バインシレ層の詳細な地質年代には諸説あるが[4]、Voris et al. (2025)は上部バインシレ層をチューロニアン階からサントニアン階とするAverianov and Sues (2012)に基づき[5]、バイシン・ツァフ産地の露頭を当該の年代のものとしている[3]。3個の標本のうち、MPC-D 100/50とMPC-D 100/51はバイシン・ツァフ産地、MPC-D 102/4はツァガン・テグ産地から産出している[2]

Voris et al. (2025)はMPC-D 100/50をホロタイプ標本、MPC-D 100/51とMPC-D 102/4を参照標本とし、新属新種としてカンクウルウ属のタイプ種カンクウルウ・モンゴリエンシスを命名した[3]。属名Khankhuuluuモンゴル語で「王子」を意味するханхүүと「竜」を意味するлууをラテン語化して組み合わせたものである[3]。タイプ種の種小名は化石がモンゴルから産出したことに由来し[3]、属名と併せて「モンゴルの王子の竜」という意味をなす[2]

発見された箇所から構築された頭蓋骨の復元

バイシン・ツァフ産地の標本は、1972年から1973年にかけてのモンゴル国とソビエト連邦との共同調査により発見された[6]。ソ連・モンゴル合同古生物学調査は中生代の地層・化石のみに留まらず、先カンブリア時代から新生代新第三紀までの幅広い時代レンジの地層・化石を対象とするプロジェクトであった[7]。発見された2個の標本は当時セノマニアン階から産出したものと見なされ、またPerle (1977)によりアレクトロサウルス・オルセニの頭骨と体骨格を代表する新標本として記載された[6]

バイシン・ツァフの標本は以下の要素がVoris et al. (2025)により確認されている[3]。Perle (1977)による記載時点では以下の骨に加えて前上顎骨頬骨歯骨・前肢の第I末節骨が報告されているが[6]、これらは2025年時点で確認されていない[3]

MPC-D 100/50
癒合した左右の鼻骨、部分的な左涙骨、部分的な左右の方形骨鋤骨、左右の外翼状骨の頬骨突起、部分的な左右の翼状骨英語版、3個の中部 - 後部胴椎、17個の連続した後部尾椎叉骨、左肩甲烏口骨、左第III中足骨
MPC-D 100/51
後眼窩骨、右方形頬骨、部分的な左腸骨、左坐骨、右大腿骨、左脛骨、右中足骨の近位部、4本の趾骨

Perle (1977)はこれらの化石を2つの異なる標本に区分しているが、これらの骨が1個体に由来するものであるように議論した[6][8]。アレクトロサウルスのタイプ標本を再記載したMader and Bradley (1989)は、これら2標本がそれぞれ異なる個体に由来する可能性や、そうであった場合に各個体が異なる分類群に属する可能性に言及した[8]。また、Mader and Bradley (1989)はPerle (1977)が本標本をアレクトロサウルスに分類した具体的根拠が後肢の比率しか示されていないことを指摘した[8]

バイシン・ツァフの標本はCurrie (2003)において保存の良好なアレクトロサウルスの標本として取り扱われた一方[9]、『The Dinosauria』第2版では本標本がアレクトロサウルスに属するか否かの判断に十分な記載が必要であるとされた[4]。また、Carr (2022)はPerle (1977)で図示されたMPC-D 100/50の前肢末節骨とMPC-D 100/51の中足骨の形態に基づいて分類に懐疑的な見解を示し、バイシン・ツァフ産地の標本の分類の明確化に直接的な研究が必要であると指摘した[10]

ツァガン・テグの標本

ツァガン・テグの標本MPC-D 102/4は、2008年に実施された日本林原自然科学博物館とモンゴル科学アカデミー古生物学センターとの共同調査で発見された[11]。ツァガン・テグ産地の露頭は砂泥互層からなり、MPC-D 102/4が産出した層準の岩相は粗粒 - 中粒砂岩であった[11]。当該層準もバインシレ層に属するものとされる[3][11]。Tsuihiji et al. (2012)による記載時点では、バインシレ層全体の年代は磁気層序学と生層序学とを組み合わせたHicks et al. (1999)に基づき[12]セノマニアン階からサントニアン階とされた[11]

MPC-D 102/4はティラノサウルス上科の部分的な前頭骨としてTsuihiji et al. (2012)により報告された[11]。Voris et al. (2025)では、MPC-D 102/4とMPC-D 100/50との間で固有派生形質が共通したことから本標本もカンクウルウ・モンゴリエンシスの参照標本として加えられている[3]

特徴

ヒトとの大きさ比較

カンクウルウは体重500キログラム未満の中型ティラノサウルス類である[2]。MPC-D 100/50および100/51から示唆される頭蓋骨長は約60 - 70センチメートルに達する[3]。鼻骨に凹凸が見られる点、方形頬骨の背側突起が前側に拡張する点、方形骨が含気化している点などは従来的にエウティラノサウルス類で進化した特徴と考えられていたが、より基盤的な本属において既に獲得されていたことが示されている[3]。一方で後眼窩骨は背側の角状突起や腹側の突縁が存在せず、大型のエウティラノサウルス類と異なる[3]

胴椎の椎体は頭尾長を背腹高が上回っており、また神経棘が椎体の背腹高を上回る[3]。椎体の側面には含気孔が存在しており、シオングアンロンと共通する[3]。肩甲烏口骨長は49センチメートルで、同程度の頭蓋骨長を持つタルボサウルスよりも40%以上長い[3]。腸骨は寛骨臼後側の突起が先細っており、長方形をなすティラノサウルス科よりも、ジュラティラントストケソサウルスといった基盤的なティラノサウルス上科と共通する[3]。坐骨は三角形の坐骨結節が発達する一方で後側が拡張しておらず、エウティラノサウルス類と共通する[3]

MPC-D 100/51の大腿骨長は66.8センチメートルである[3]。既存のティラノサウルス類の大腿骨長はアレクトロサウルスが72.7センチメートル、ドリプトサウルスが77.8センチメートル、アパラチオサウルスが78.6センチメートルであるため[13]、カンクウルウの大腿骨長はこれらをやや下回る。大腿骨の小転子は大転子と同程度に高く伸びており、エウティラノサウルス類やシオングアンロンと共通する[3]。破損した脛骨は51.5センチメートルにわたり保存されているが、完全であれば約73.5センチメートルに達し、大腿骨長を上回ったと推定されている[3]

Perle (1977)に基づく特徴

MPC-D 100/50および100/51には、Perle (1977)により図示されたもののVoris et al. (2025)で確認されていない骨が存在する[3][6]。Perle (1977)に基づき、Currie (2000)はカンクウルウ[注 1]の上顎骨歯が17本、歯骨歯が19本であったとしている[14]。またCurrie (2000)によれば上顎骨歯の前側の2本あるいは3本が切歯状である[14]。Carr (2022)はPerle (1977)が図示した前肢末節骨に基づき、屈筋結節がティラノサウルス科と同様に肥大していることを指摘した[10]

固有派生形質ほか

カンクウルウの固有派生形質は、鼻骨のアーチ部のほぼ全体に亘って薄く粗い正中線稜が伸びること、鼻骨において涙骨との接触部の前端に気腔窩が存在すること、同じく鼻骨において前頭骨との接触部に数多くの突起を持つものの内側前頭突起を欠くこと、方形頬骨と方形骨との背側の接触面が方形孔内縁よりも外側に位置すること、方形骨が方形気腔窩の内側の壁を欠くこと、方形気腔窩が方形骨頭に接触しないこと、肩甲骨烏口骨の外側に肩峰下の深い窪みが存在すること、烏口骨の関節下窩が腹外側稜により外側小窩と腹側小窩とに二分されることが挙げられる[2][3]

また、第III中足骨の遠位関節面が足底側において過伸展しない点はアレクトロサウルスと、胴椎の神経棘が背腹方向に高い点はティムルレンギアと、方形頬骨の背側突起が前側に拡張する点はシオングアンロンとの差異として挙げられる[2][3][注 2]

個体成長

カンクウルウはより派生的なエウティラノサウルス類における幼若個体の特徴と成熟個体の特徴とを併せ持つ[2]。幼若的な特徴としては、華奢な体格、涙骨と後眼窩骨における未発達の装飾、上下に薄い頭蓋天井英語版、円形の眼窩、細く平坦な歯、大腿骨長を上回る脛骨長が挙げられる[3]。ただし、骨組織学的分析は化石の保存状態を考慮して実施されなかったものの、MPC-D 100/50および100/51に代表されるカンクウルウの個体は成熟していると判断されている[3]。MPC-D 100/50は鼻骨や涙骨に粗い装飾が存在すること、涙骨の外側のラミナが前側枝の腹側縁に癒合すること、胴椎の椎体神経棘とが癒合し縫合線が閉鎖していることが成熟の根拠とされる[3]。またMPC-D 100/51は後眼窩骨が前頭骨と関節面で強固に噛み合っていたと見られ、ゴルゴサウルスのようなティラノサウルス科の例を参考に成熟の根拠とされる[3]

系統

古環境

脚注

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