松曳き
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ある所に、そそっかしい殿様がおり、その家老(用人)の三太夫もまたかなりの粗忽者であった。ある日、江戸屋敷で殿様が庭の赤松の位置を変えたいと三太夫に相談する。この松は先代が植えて、命の次に大事にしていたものであり、それが成長して月を隠してしまうために、池端に移したいということであった。しかし、枯らしてしまっては先代に申し訳が立たないとして、そこで三太夫は「餅は餅屋」の格言通り、植木屋に頼むべきだと進言する。
そこで屋敷に呼ばれた植木屋であったが、三太夫は殿様の前では言葉を丁寧にするよう厳命する。そのため、そのような物言いに慣れない植木屋は全ての名詞・動詞に「御~たてまつる」をつけるなどし、かえって言葉が通じなくなってしまう。それでも最終的には、松を枯らさずに植え替えられると知って殿様は大喜びする。そして殿様は無礼講として庭で植木屋と酒宴を催す。
そんな中、三太夫に国元から早馬で書状が届く。読めば「国表において御殿様姉上様、御死去」とあり、慌てて殿様に報告に行く。殿様も驚き、いつ亡くなったのかと聞けば、三太夫は急ぎ大事と考え読み飛ばしたと言い、改めて書状を確認すると言って、使者の元へ戻る。使者に書状を出すよう頼むと、貴殿の懐に入っていると教えられるなど、相変わらずのそそっかしさを見せながら、三太夫は落ち着いて書状全文を読む。そこで「国表において御貴殿様姉上様、御死去」、すなわち殿様ではなく、名宛人である三太夫の姉が亡くなったことを伝える書状だと気づく。その場で三太夫は、申し訳が立たないといって慌ただしく切腹しようとしたため、慌てて使者がまずは殿様に報告するべきだと言って押し止める。
三太夫から話を聞いた殿様は激怒し、いくら粗忽者といえ今回の失態は許されるものではないとして切腹を申し付ける。三太夫は親愛なる姉の死による悲しみや、死なねばならなくなった無念さから落涙しつつ、覚悟を決め、いざ切腹しようとしたところで殿様が止めに入る。なぜ止めるのかという三太夫に殿様は言う。
「よう考えてみれば、余に姉はなかった」