サッフォーとファオン
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| ロシア語: Сафо и Фаон 英語: Sappho and Phaon | |
| 作者 | ジャック=ルイ・ダヴィッド |
|---|---|
| 製作年 | 1809年 |
| 素材 | キャンバス上に油彩 |
| 寸法 | 225.3 cm × 262 cm (88.7 in × 103 in) |
| 所蔵 | エルミタージュ美術館、サンクトペテルブルク |
『サッフォーとファオン』(露: Сафо и Фаон、英: Sappho and Phaon)は、フランスの新古典主義の巨匠ジャック=ルイ・ダヴィッドが1809年にキャンバス上に油彩で制作した絵画である。キューピッド、サッフォー、彼女の恋人ファオンを表している。1808-1811年にパリに居住していた富裕なロシアの外交官で美術コレクターでもあったニコライ・ユスポフ公爵から[1]モイカ宮殿のために委嘱された[2][3]。現在、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に唯一のダヴィッドの作品として所蔵されている[1][2][3]。

『サッフォーとファオン』は、ダヴィッドがナポレオンのための公的作品をもはや描かず、個人的依頼によって絵画を制作した時期に描かれた[3]。この時期に画家は英雄的主題よりも恋愛的主題を好んだ[2]が、『サッフォーとファオン』は 1788年の『パリスとヘレネの恋』 (ルーヴル美術館、パリ) に続き、彼がギリシア神話の恋物語を主題とした2作目の主要作品である[4]。
本作は一見して『パリスとヘレネの恋』に非常に類似しており、その準備素描は伝統的に『パリスとヘレネの恋』のためのスケッチであると特定されてきた[5]。本作はまた、ダヴィッドの絵画の師ジョゼフ=マリー・ヴィアンの『自身の詩を歌い、リラで伴奏するサッフォー (Sappho Singing her Poetry and Accompanying Herself on the Lyre)』を想起させるものであったかもしれない。しかし、マリー・ヴィアンの作品は失われており、その図像を示すものも残っていない[6]。
紀元前7世紀のレスボス島の女性詩人サッフォーに関しては、様々な逸話が後世にまで伝えられた[1]。ヴィーナスの信奉者であった若い女性に対する彼女の愛は、「レズビアン」という語の起源となった。一方で、彼女はヴィーナスの被保護者であった若い青年ファオンと恋に落ち、彼が彼女の愛にわずかにしか応えなかった時、レウカディア (Leucadia) の岩から飛び降りて自殺した[3]。しかし、この恋物語は、おそらく後世に作られた伝説に過ぎない[1]。

本作のサッフォーは、ベッドの端にある椅子に腰かけた姿で表されている。部屋は柱と大理石の床のある古典的なもので、田舎の風景を示す外の眺めが垣間見える。ヴィーナスの鳥であるハトが窓枠の上に停まっている。ファオンは槍と弓を持って、椅子の後に立っている。サッフォーの膝の上には、ファオンを賛辞する彼女の詩が書かれた巻物がある[2]。彼女の前にはキューピッドが跪いており、彼女のリラを持っている。サッフォーは、ファオンの左腕で撫でてもらうために自分の頭部をもたせかけている。
伝説的、あるいは神話的なサッフォーとファオンの主題は『パリスとヘレネの恋』に類似しているものの、本作の恋人たちは我を忘れているわけではなく、鑑賞者を見つめている。ファオンは真剣に鑑賞者を見つめている一方、サッフォーは恋人のファオンに触れられて悦びに酔いしれている。実際、彼女は夢見心地になっているため、今やキューピッドが持っているリラをまだ奏でているのだと思っている[3]。
この身体的愛とその個人への影響を表す絵画で、ダヴィッドは恋人たちをほとんど肖像画的に個性化し、彼らを鑑賞者近くの画面最前景に配置している。非現実的な神話世界が生命感を与えられているのに加え、画家はさらに場面をまばゆい昼間の光で照らしだし、鮮やかな色彩と硬い輪郭線を用いている[3]。この時期のダヴィッドには比較的珍しい、曲線を多用した装飾的構成、人物たちの表情の通俗的ともいえる甘美さが特徴的な作品である[1]。