両利きの経営

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両利きの経営(りょうききのけいえい、英: Organizational ambidexterity)、組織が現在のビジネスを効率的に管理(深化)しつつ、将来の変化する需要に対応するための適応性(探索)を同時に備える能力を指す。このような組織を、両利きの組織(りょうききのそしき、英: ambidexterity organization)という。左手と右手を同様に使える「両利き」の状態と同様に、組織が成功するためには「探索」と「深化」の両方の技術を用いることが求められる[1]

両利きの経営は、組織が今日のビジネス需要の管理において一貫性と効率性を維持すると同時に、環境の変化に対して適応する能力として定義された[1]。この用語はダンカンによって初めて使用されたが[1]、概念をさらに発展させ、20世紀末から21世紀初頭にかけて大きな関心を集めるきっかけを作ったのはジェームズ・G・マーチである[2]。組織における両利き性は、探索と深化をバランスさせることで達成される。これにより、組織は創造性と適応性を発揮しながら、伝統的で実証済みのビジネス手法にも依存し続けることができる[2]

探索には、「調査」「変動」「リスクテイク」「実験」「柔軟性」「発見」「革新(イノベーション)」などが含まれる。一方で、深化には、「洗練」「選択」「生産」「効率」「選別」「実装」「実行」などが含まれる[2]。探索のみに焦点を当てる企業は、有用性が証明されない、あるいは開発に至らないアイデアにリソースを浪費するリスクがある。逆に、深化のみに焦点を当てる企業は、現状維持のパフォーマンスや製品に甘んじ、最適な成功に到達できない可能性がある。

両利きの経営は広く定義されており、組織学習技術革新、組織適応、戦略マネジメント組織デザインなど、他の多くの用語とも密接に関連している。深化と探索の調和、誘導的戦略プロセスと自律的戦略プロセスの同時性、漸進的イノベーションと不連続なイノベーションの同期、そして調査と安定のバランスなどは、いずれも「両利きの組織」という同一の基礎的構成概念を指す傾向がある[3]

構造的・行動的メカニズムが組織の両利き性にどのように影響するか、また両利きの組織デザインがどのように作用するかについての研究が行われてきた。初期の研究では探索と深化のトレードオフは克服困難とされていたが、近年の研究では、両利き性を生み出すためのさまざまな組織的解決策に注目が集まっている。この分野における最近の主要な研究テーマの一つは、組織が直面する矛盾を管理し、両利き性を達成することを可能にするリーダーシップの特性に焦点を当てており[4][5][6]、これが「両利きのリーダーシップ」という概念の起源となった。

両利きの組織デザイン

「両利きの組織」に関する研究では、組織を分析単位とし、漸進的なイノベーションと不連続なイノベーションの同時追求および組み合わせとして概念化されている[7][8][9]。深化と探索のバランスの失敗を克服するためには、両利きの組織が必要とされる。つまり、「相矛盾する複数の構造、プロセス、文化を包含することによって、漸進的および不連続なイノベーションの両方を同時に追求する能力」が重要となるのである[10]

実証研究により、能力の深化は急進的なイノベーションのパフォーマンスと負の相関がある一方で、能力の探索は正の影響を与えることが判明している。能力の探索は、能力の深化のレベルが低い場合により価値が高まり、その逆も同様である[11]。両利きの組織は、整合性と適応性の間の緊張を解消するのではなく、異なる種類の整合性の間の緊張に対処することで、漸進的かつ不連続なイノベーションを可能にすると理論化されている。両利きの組織は探索と深化を交互に行うのではなく、両方を同時に実行する[12]

構造的・行動的メカニズム

両利きの経営は主に2つの視点から検討される。一つは「構造的な両利き(structural ambidexterity)」であり、二重の組織構造と戦略を用いて、深化と探索への取り組みを分化させるものである[13][14][15]。これは「空間的分離」とも呼ばれる。

もう一つのアプローチは「文脈的な両利き(contextual ambidexterity)」である。これは行動的および社会的な手段を用いて、組織ユニットレベルで深化と探索を統合するものである[16][17]。これは「並行構造」や「ハイブリッド戦略」とも呼ばれる。

これら2つのアプローチのどちらが正しいかについては長年議論がある。構造的な分離は各ユニットでの最適化を可能にするが、組織ユニット間に不適合を生む可能性がある[18]。一方、文脈的な両利きは多次元にわたる適合を図るシステムアプローチと一致するが、組織の選択は不連続であるという意見と矛盾する[19]

両利き性の先行要因

両利き性はしばしば能力やスキルと見なされ、CEOや経営幹部などのマネージャーによって促進される[20]。構造的な視点では、深化の期間と探索の期間を交互に繰り返すことでも矛盾を解決できるとしている[21]。一方、文脈的な視点では、深化と探索に同時に取り組むべきであるとされるが、これは組織内で2つの不一致な整合性を同時に管理する必要があるため、非常に複雑である[22]

組織文化の特性も重視される。成功する組織は、組織の文脈において「ハードな要素(規律とストレッチ)」と「ソフトな要素(支援と信頼)」のバランスを保つことができる[16]。また、共通の目標の設定、集団的アイデンティティの形成、支援の文化の創造などが両利き性に寄与することが示唆されている。

組織的成果

両利き性は多くの側面で組織に利益をもたらす。中心的な成果はイノベーションである。イノベーションは「社会ユニットに新しい要素を導入する活動の連続」と定義され[23]、アイデアの生成(探索)と実装(深化)の両方を必要とする。両利きの組織は、新しい製品やサービスを追求しながら、実証済みの技術を使い続けることで自己を維持することができる[2]

また、実証研究により、探索と深化の相互作用が売上成長率と正の相関があることが証明されている[24]Appleノードストロームブリティッシュ・エアウェイズなどの企業は、両利き性の能力によって長年にわたり成功を収めてきた例として挙げられる[15]

調整要因

両利き性と組織成果の関係には、いくつかの調整要因が存在する。環境のダイナミズムや競争の激しさがその代表である。動的な環境下では探索的イノベーションを追求することが効果的であり、競争の激しい環境下では深化的なイノベーションが財務パフォーマンスに寄与しやすい[25]

また、市場志向性も重要な要因である。強力な市場志向性を持たずに両利き性を追求すると、新製品の財務パフォーマンスが著しく低下する場合がある。さらに、組織のリソースも影響し、豊富なリソースを持つ企業は探索と深化を同時に行いやすいが、小規模な企業はどちらか一方の志向性に特化した方が利益を得やすい可能性が示唆されている。

両利きのリーダーシップ

近年、組織の両利き性を達成するためのリーダーの行動、すなわち「両利きのリーダーシップ」に注目が集まっている。シニアマネージャーは、探索と深化を維持するための動員、調整、統合活動において不可欠な役割を果たす[26]

両利きのリーダーシップは、以下の3つの要素で構成される[27]

  1. 探索を促進するための「オープニング」行動(複数のやり方の許容、実験、エラーの容認など)
  2. 深化を促進するための「クロージング」行動(ルーチンの監視、計画の遵守、エラーの最小化など)
  3. 状況に応じて両者を切り替える「時間的柔軟性」

議論と今後の展望

一部の学者は、確立された企業には新しい領域を探索するための柔軟性が欠如していると主張している。その理由の一つが「成功の罠」である。歴史的に成功してきた現在のビジネス活動に集中しすぎることで、探索が抑制される現象を指す。この解決策として、ベンチャーキャピタルモデルの採用や、クロスファンクショナルチーム(部門横断チーム)の活用が提案されている。

また、従業員が組織的な報酬を求めることも両利き性を阻害する要因となり得る。評価システムがルーチン業務の完了に基づいている場合、従業員は標準化された手順に従う傾向が強まるため、革新的な思考も報酬の対象とする必要がある[13]

関連項目

脚注

参考文献

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