尿道

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尿道(にょうどう、: Urethra)は、有胎盤類泌尿器の一部を成し尿膀胱から体外へ運ぶ管で、男性では膀胱の出口で精管に接続されており、射精時に陰茎を通じて精液を運ぶ役割も果たす[1][2][3]ので生殖器の一部でもある。

尿道括約筋は、排尿を随意に制御することを可能にする横紋筋である[4]。膀胱頸部と尿道の内側を覆う不随意平滑筋によって形成される内尿道括約筋は、自律神経系交感神経による支配を受け[5]、男性と女性の両方に存在する[6][7][8]

男性

尿道は、膀胱外尿道口を結ぶ繊維と筋肉から成る管である。ヒトの場合は、骨盤内にある膀胱から恥骨結合の下を通って外陰部へと続く。女性では膣前庭に開口するが、男性では膀胱を出ると前立腺の中心を貫通し、陰茎内部の尿道海綿体を通って、陰茎亀頭先端に開口する。そのため、男性と女性とで尿道の形状が大きく異なる。尿道の壁の構造は、内側に粘膜があり、外側には主に2層の平滑筋が存在するのが基本であるが、男性の尿道海綿体内では平滑筋層は明確ではない。尿道内部の壁の潤滑剤としての粘液を分泌する尿道腺と呼ばれる小型の分泌腺が多数存在し、尿道の内壁を湿らせている。

男性尿道を前面(上面)から見た図

ヒト男性の尿道は平均で18~20cmの長さであり、外尿道口の先端で開口している[9][10]。109人の男性を対象とした研究では、平均長さが22.3cm(標準偏差=2.4cm)で、15cmから29cmの範囲であった[11]

男性尿道はその場所により下記の様に区分される[9][12]

区画 説明 上皮[13]
前立腺前部尿道英語版 尿道の内腔部分で、内尿道括約筋に囲まれており、膀胱の充満度に応じて0.5cmから1.5cmの間で長さが変化する。 移行上皮
前立腺部尿道英語版 前立腺を貫通する部位であり、後壁には複数の開口部がある:
  1. 射精管が2箇所に開口し精管から精子が、精嚢から精漿の主成分が進入する。
  2. 前立腺洞英語版には複数の前立腺管英語版が開口し、前立腺液が流入して精液となる。
  3. 後壁中央に開口する前立腺小室は女性の子宮に相同する痕跡器官であり男性子宮と呼ばれることもあるが、機能のない単なる陥凹である。

これらの開口部は、総称して精丘英語版と呼ばれる。BPH患者における尿の排出障害では、通常この部位が狭窄する。

尿路上皮
膜様部尿道英語版 外尿道括約筋を通過する短い(1~2cm)部分。尿道の最も狭い部分であり、深会陰隙英語版内に位置している。この領域の後方にある尿道球腺(カウパー腺)は、海綿体部尿道に開口している。 多列円柱上皮
海綿体部尿道英語版 (陰茎部尿道[14]、旧:振子部尿道) 陰茎の腹側(下側)表面に沿って伸びる。長さは約15~25cm[15]、直径は6mm[16]で一定であり、尿道海綿体を通過する。尿道腺英語版(リトレ腺)からの管はここで合流する。尿道球腺の開口部もここに存在する[17]。テキストによっては、海綿体部尿道を球部と振子部の2つに分けている。尿道腔は陰茎とほぼ平行に走っている。 多列円柱上皮
亀頭部尿道 外尿道口は尿道の中でも非常に狭いが、その直前には尿道舟状窩と呼ばれる空洞がある。これにより尿に螺旋状の流れが生じ、外尿道口を洗浄する効果がある。女性の尿道にはこれに相当する機構がないため、尿路感染症が女性で非常に多く発生する理由の一部が説明できる。 重層扁平上皮英語版

有胎盤類のオスの尿道は多くの場合、メスよりも長い[18]

女性

ヒト女性の尿道は長さ約3~4cm[9][16][19]、直径約6mmであり[16]陰核膣口の間から体外に開口し、内尿道口から外尿道口まで伸びている。尿道口は陰核の下部、恥骨結合英語版の後方に位置し、膣の前壁に埋め込まれている。その方向は斜め下前方へ向けられ、やや湾曲し、前方に向かって凹んでいる。尿道の近位23移行上皮細胞で、遠位13重層扁平上皮英語版細胞で覆われている[20]

女性の尿道は尿生殖隔膜英語版上部筋膜英語版下部筋膜英語版の間で、尿道括約筋に囲まれている。

有胎盤類のメスの尿道は多くの場合、オスよりも短い[18]

微小解剖

尿道の内壁を覆う細胞(上皮)は、膀胱から出る部分では移行上皮細胞(尿道の内容物で圧縮されるかどうかに応じて形状を変える扁平から立方体の細胞)の層である[21]。尿道の更に下流側には、尿路上皮と多列円柱上皮が存在する[13]。尿道の末端付近では内壁は重層扁平上皮英語版となり、周囲表面の皮膚と同じ構造になる[21]

尿道には、小さな粘液分泌性尿道腺英語版と、尿道を潤滑する粘液を分泌するカウパー腺(尿道球腺)がある[21]

尿道は筋層、海綿体層、粘膜層の3層から構成されており、筋層は膀胱の筋層から延長している。

血管、神経、リンパ管

外尿道括約筋体性(意識的)神経支配は、陰部神経英語版により齎される。

発達

発達中の胎児の後端には総排泄腔がある。これは4週目から7週目にかけて尿生殖洞英語版肛門管英語版の起始部に分離し、これら2つの間に尿直腸中隔と呼ばれる壁が形成される[22]。尿生殖洞は3つの部分に分岐し、中央部が尿道を形成する。上部は最も大きく、膀胱となる。下部は胎児の生物学的性別に応じて変化する[22]。尿道の内壁を覆う細胞(上皮)は内胚葉に由来し、結合組織と平滑筋は中胚葉に由来する[22]

妊娠3ヶ月目以降、尿道は胎児の生物学的性別に応じて関連する構造の発達にも寄与する。男性では、上皮が増殖して前立腺を形成する。女性では、尿道上部が尿道と傍尿道腺を形成する[22]

機能

排尿

尿道は、膀胱から尿を排出する管である。排尿時には、膀胱が収縮して加圧された尿流を排出するのに伴い、尿道の平滑筋が弛緩する。その後、尿道は平滑筋層を収縮させることで筋緊張を回復し、膀胱は弛緩した静止状態に戻る。尿道の平滑筋細胞は互いに機械的に結合しており、機械的な力と電気信号を組織的かつ一元的に調整している[23]

射精

男性の尿道は、射精時の精液の通路でもある[2]。尿は射精前に、尿道球腺から分泌される尿道球腺液(カウパー液)により排除される[24][25]

臨床的意義

尿道の稀少疾患である尿道癌(尿路上皮癌)の顕微鏡写真

尿道の感染症は尿道炎と呼ばれ、膿性の尿道分泌物を生じることが多い[26]。女性の尿道開口部は男性に比べて肛門に近く、雑菌が侵入しやすいこともあり、女性のほうが尿路感染症を起こしやすいといわれる。一般に見られるのは淋病クラミジア症などの性感染症であるが、他にもウレアプラズマ英語版マイコプラズマトリコモナスなどの細菌や、単純ヘルペスウイルスアデノウイルスなどのウイルスによる感染症も見られる[26]。分泌物のグラム染色などの検査で原因が判明する場合もある。また、1日の最初の尿サンプルを用いる核酸検査や、尿道ぬぐい液を細菌培養する検査も行われ得る[26]。淋病とクラミジアは重複感染することが多いので、治療には通常、両方に有効な抗生物質が使用される[26]。 尿道炎の治療を受けている期間中は感染を拡大しないよう性行為を控えるべきであるが[26]、症状が現れる前の潜伏期間中に感染拡大する可能性があるので、感染者の性交渉相手を見つけて治療を提供できるように接触者追跡が行われることが多い[26]

尿道の内壁に癌が発生することもある[27]。癌に罹患した際に最も多く見られる症状は血尿である。身体診察では、病気の末期を除いて、血尿以外の症状が見られない場合がある[27]。尿道癌は殆どの場合、尿道の内壁の移行上皮細胞が癌化する。但し慢性住血吸虫症などにより尿道内壁の細胞種が変化した場合は、扁平上皮癌として発生することもある[27]。その検査には、尿サンプルを用いた細胞診(悪性細胞が病巣から溢れ出てくるのを顕微鏡下で検出する)や、尿道鏡検査(尿道から柔軟なカメラを挿入して目視検査する)が含まれる。悪性腫瘍が見つかった場合は生検を実施すると共に他の部位のCTスキャン(胸部、腹部、骨盤部)を実施し、転移病変の有無を確認する[27]癌のステージ英語版が決定した後、化学療法などの治療が実施される。

外傷

尿路結石が尿道を通過する際は痛みを伴うことがある。腎結石、慢性感染症、がん、またはカテーテル挿入による尿道の損傷は、尿道狭窄と呼ばれる狭窄を引き起こす危険性がある[28]逆行性尿道造影英語版で尿道に造影剤を注入し、狭窄の部位と構造を確認できる[29]超音波検査コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)などの画像検査により更に詳細な情報を得ることができ得る[29]

骨盤骨折などの外傷により尿道が損傷する場合もある[30]

尿道への異物挿入の頻度は少ないが主に自慰行為や性的虐待で見られる。異物の残留時間が長いと損傷が大きくなることがある[31]。無症状の場合もあるが、血尿や下腹部痛、尿意切迫感、腫脹、発熱などが生じる場合もある[31]

その他

尿道下裂尿道上裂は男性尿道の発達異常であり、外尿道口が陰茎の遠位端に位置していない状態を指す(尿道下裂では正常より低い位置(腹側)、尿道上裂では正常より高い位置(背側)にある)。重度の尿道下裂では、尿道が陰茎と陰嚢の間に開口する場合がある。

カテーテル留置

カテーテルと呼ばれる管を尿道から挿入して膀胱から尿を排出する方法(留置型尿道カテーテル)と尿道を迂回して腹壁から直接膀胱にカテーテルを挿入する方法(恥骨上カテーテル)がある[32]。これは尿路の閉塞を緩和または迂回するため、尿の排出量を監視するため、神経疾患(例えば多発性硬化症)などにより排尿困難な場合などに実施される[32]。カテーテル挿入に関連する合併症には、カテーテル関連感染症、尿道や周辺組織の損傷、疼痛などがある[32]

ヒト以外の動物

単孔類を除く全ての哺乳類において雄雌ともに、尿道は主に尿を排出する役割を果たしている。哺乳類では尿は膀胱に貯留され、そこから尿道へと排出される。更に尿道閉鎖機構と免疫グロブリンは、体内への細菌の侵入をほぼ防いでいる[33]有袋類ではメスの尿道は尿生殖洞英語版に開口している[34]

歴史

「尿道」という単語は、中国の『銅人針灸經[35]』や『千金翼方[36]』などに現れる。日本にも漢方医学などを通じて伝来しそのままの語で受容されたと思われる[要出典]。更に江戸後期〜明治の西洋医学受容期にオランダ語: Urinebuis の訳語として充てられ定着したと考えられる。例えば『解体新書』巻之四に記載が見られる[37]

一方、ラテン語の “urethra” の語は古代ギリシア語: οὐρήθρα(ourḗthrā)に由来する。尿排泄に関連する “uro” の語幹を持ち、その構造はヒポクラテスの時代から既に記述されている[38]が、混乱を招くことに、当時は “ureter”(尿管)と呼ばれていた。その後、約一千年間にわたり “ureter” と “urethra” という用語は互いに混用されていたが[38]、16世紀後半の1550年代になってエウスタキウスジャック・デュボワ英語版などの解剖学者が、“ureter” と “urethra” と呼ばれる構造物を明確かつ一貫して指すために定義して使用し始めた[38]。その後19世紀から20世紀にかけて、尿道炎尿道造影術英語版など、これらの構造物に関連する複数の用語が考案された[38]

腎結石は、書かれた歴史記録が存在し始めた頃とほぼ同時期に発見され記録されてきた[39]。尿路および腎臓から尿を排出する機能については、西暦2世紀のガレノスによって記述されている[40]。腎臓結石を除去するための尿道手術は、少なくとも西暦1世紀にはアルウス・コルネリウス・ケルススによって記述されている[40]


ギャラリー

出典

関連項目

外部リンク

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