本作は、画家トマス・ゲインズバラの娘メアリー (愛称「モリー」、1750年1月31日-1826年7月2日) [2]とマーガレット (愛称「ぺギー」、1751年8月19日-1751年12月18日) [3]が作品の題名通り蝶を追いかける姿を描いている。彼女たちは、画家が生まれ故郷のサフォーク州サドベリー(英語版)で暮らし、働いていた時期に生まれた。画家の子供たちの中で彼女たちだけが成人に達している[1]。本作が制作された1756年ごろ、ゲインズバラの一家はイプスウィッチで暮らしており、メアリーは6歳くらい、マーガレットは4歳か5歳くらいである[1]。
蝶を追っている2人の少女は森の中で手をつないで立っている。妹のマーガレットは、アザミの上に止まった白い蝶に右腕を伸ばしている。右側では、姉のメアリーがドレスのエプロンを網の代用品のように肩の上に持ち上げている[1]。蝶を掴もうと手を伸ばしている妹は人生の儚さを表す一方、姉の心配そうな顔の表情は、成長しつつある少女の慎重さを明らかにしている[4]。また、メアリーとマーガレットが捕まえにくい蝶を捉えようとしているのは、子供時代の移ろいやすさを示唆する意図があったのかもしれない[1]。
本作は、ゲインズバラの芸術における転換点を示す作品となっている。ジョナサン・ジョーンズ(英語版)が記しているように、「ゲインズバラが初期のオランダ黄金時代の絵画的な写実主義から、後の活気に満ちた肖像へと変化していく最初の作品の1つであった」[5]。実際、この絵画以前に、画家はほとんど等身大の2人の人物像を描いたことはない。屋外で表された以前の肖像で、人物像は『アンドリューズ夫妻』 (ロンドン・ナショナル・ギャラリー) のように非常に小さく、いくぶん人形めいて見える[1]。
ゲインズバラ『画家の娘たちとネコ』 (1760-1761年ごろ)。ナショナル・ギャラリー (ロンドン)
ゲインズバラ『画家の娘たちの肖像』 (1760年代初頭)。ウスター美術館(英語版)、米国マサチューセッツ州
対照的に、本作の画家の娘たちはずっと大きく大胆に表現され、まったく自然な態度である。自身の子供たちを描くことで、画家は自由に絵具を扱う実験をすることができたため、この肖像には見事な自発性と新鮮さが与えられている[1]。ピンク色がかった茶色の地塗りが明らかにマーガレットのドレス、エプロン、伸ばした足の下に透けて見える一方、厚く塗られた白色の筆致が陽光の中で布地が動いている感覚を示している。少女たちの顔は高度に仕上げられているが、他の部分で画家の筆触は緩く、表現主義的である[1]。
ゲインズバラは、1756年から1770年にかけて2人の娘たちの別々の肖像画に加え、2人いっしょの二重肖像画を6点描いたことが知られている[1]。『画家の娘たちとネコ』 (ロンドン・ナショナル・ギャラリー) [6]のような2人いっしょの肖像画で、画家は彼女たちがいつも仲良く手をつないでいるか、腕を伸ばしてお互いを抱くようにしている姿で表している。5番目の娘たちの二重肖像画『画家の娘たちの肖像』 (ウスター美術館(英語版)、米国マサチューセッツ州) [7]は彼女たちが素描を学んでいる姿を表しており、彼女たちが生計を立てられるくらいの画家になれることをゲインズバラが望んでいたことを明らかにしている。しかし、どちらの娘の絵画も現在知られていない[1]。