コレステロール

すべての動物細胞で生合成されるステロール From Wikipedia, the free encyclopedia

コレステロール: cholesterol)は、ステロイドの中で、ステロールと呼ばれているサブグループに属する有機化合物の一種である。トリテルペノイドの一つでもある。1784年胆石からコレステロールが初めて単離された。室温で単離された場合は白色もしくは微黄色の固体である。生体内ではスクアレンからプロトステロール(ラノステロールなど)を経て生合成される。

概要 物質名, 識別情報 ...
コレステロール
物質名
識別情報
3D model (JSmol)
ECHA InfoCard 100.000.321 ウィキデータを編集
KEGG
RTECS number
  • FZ8400000
日化辞番号
  • J2.804E
性質
C27H46O
モル質量 386.65 g/mol
外観 白色または微黄色固体[1]
密度 1.052 g/cm³
融点 148–150 ℃[1]
沸点 360 ℃(分解)
0.095 mg/L (30 ℃)
溶解度 アセトンベンゼン
クロロホルムエタノール
ジエチルエーテルヘキサン
ミリスチン酸イソプロピル
メタノールに溶解
比旋光度 [α]D 31.5° (c = 2, Et2O, 20 ℃)[2]
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。
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コレステロールは動物細胞にとっては生体膜の必須構成物質であり、さらに細胞内のさまざまなプロセスに関わる主要生体分子の一つである。一方、精製物は化粧品医薬品液晶の原材料など工業原料として広く利用されている。コレステロールを含めてステロールは脂質の主要カテゴリの一つを構成する(ステロール脂質)。

いわゆる「善玉/悪玉コレステロール」と呼ばれる物質は、血管中を流れているリポタンパク粒子をあらかじめ高密度リポタンパク質(HDL)と低密度リポタンパク質(LDL)に超遠心分離法または化学的な分別剤を使って分離し、各粒子中のコレステロールを、生化学的分析法で測定したもので、HDL中のコレステロールを善玉、LDL中のコレステロ-ルを悪玉と呼称し、決してコレステロール自体に差があるというものではない。最近はコレステロールそのものの違いより、リポタンパク質の「質」の違いにより動脈硬化性疾患の治療や予防が行われるようになってきた。

名称

1815年、フランスの化学者ミシェル・ウジェーヌ・シュヴルール(Michel Eugène Chevreul)は、この物質をギリシア語の χολή(kholḗ, 「胆汁」)と στερεός(stereós, 「固体」)に由来する「cholestérine」と命名した[3]。その後、化学構造がアルコール体であるため、化学命名接尾辞 "-ol" が付けられて現在の名称となっている[注 1]

生物界における分布

ヒトのあらゆる組織細胞膜に見出される脂質である。ヒトを始めとした哺乳類においては、コレステロールの大部分は食事に由来するのではなく、体内で合成され、血漿に含まれるリポタンパク質と呼ばれる粒子を媒体として輸送される。コレステロールはそれを生産する臓器や細胞膜や小胞体のような膜組織が密集している細胞で構成される臓器、例えば肝臓脊髄に高濃度に分布している。成人の体内にはコレステロールが100〜150 g[4](約2100 mg/kg[5])存在し、そのうち約1/4が脳に集中している[6]動脈硬化叢に形成されるアテローム(血管の内側に詰まるカスのようなもの)にも高濃度で存在する。また、コレステロールが胆汁中で結晶化すると胆石の原因となる。

植物の細胞膜においてはわずかな量のコレステロールが認められるに過ぎず、他の種類のステロイドフィトステロールと呼ばれる)が同様の役目を担う[7]。真核生物は、一部の例外(昆虫繊毛虫など)を除き大部分の種が何らかのステロールを自身で生合成する。そして各真核生物はそれぞれが特有のステロール組成を有する。動物の主要ステロールがコレステロール、植物ではフィトステロール、菌類はエルゴステロールを合成することが知られている。真核生物以外では、コレステロールの合成は極めてまれである[8](ステロール自体が稀)。

さらに見る ヒト組織, コレステロールの重量比 ...
ヒト組織 コレステロールの重量比[9] 胆石(コレステロール結石)
胆石(コレステロール結石)
胆石(コレステロール結石)98%–99%
上皮脂肪13%–24%
毛髪1%–5%
2.7%
神経1.5%
血液0.015%–0.025%
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資源

コレステロールは、工業製品原料として化粧品医薬品液晶などに利用される。これらは全て天然物から精製し原料に供される。コレステロールを多く含む高等動物の組織、あるいはイカ内臓からも抽出され、工業原料として利用される。

精製

コレステロールを多く含む天然物から抽出すると、ヒドロキシ基(OH基)の部分に脂肪酸が結合したエステル体であるアシルコレステロール、さらに他のステロイド(コレスタノール7-デヒドロコレステロール)のアシル体などが含まれる粗精製物が得られる。この混合物から純粋なコレステロールを取り出すには、脂肪酸を鹸化して取り除いたあと、鹸化されない分画を抽出し、アセトンあるいはアルコールを用いて再結晶する。二重結合を持たないコレスタノールや7-デヒドロコレステロールなどを取り除くために、臭素付加してコレステロールの二臭素体とすることがある。二臭素体は難溶性を示すので再結晶などで容易に精製することが可能であり、そのあと二臭化物を脱臭素化してコレステロールに戻すことにより、純粋なコレステロールを得る[10]

化学

瓶に入ったコレステロール

物性

単離された純粋なコレステロールは白色ないしは微黄色の固体で味は無い。クロロホルムジエチルエーテルに溶けやすく、1,4-ジオキサンにやや溶けやすく、エタノール (99.5%)、石油エーテル、冷アセトンにやや溶けにくく、水にほとんど溶けない。含水エタノールからは一水和物が板状晶として析出する。比旋光度 = 31.5°(c = 2、エーテル、20 ℃)[2]。遮光された気密容器中に保存する[10][11]

定性試験

分析化学において、コレステロールを同定する定性反応が幾つか知られている。これらのうちいくつかはコレステロールと同じ部分構造のステロイドに対しても反応する。日本薬局方ではサルコフスキー反応とリーバーマン‐ブルヒアルト反応とでコレステロールを同定するよう指示している。

サルコフスキー反応 (Salkowski reaction)
クロロホルム溶液 (0.01 g/1 mL) に濃硫酸 (1 mL) を加えて室温で振り混ぜると、クロロホルム層は赤色を呈し、硫酸層は緑色の蛍光を発する[11][12]
リーバーマン・ブルヒアルト反応 (Liebermann-Burchard reaction)
クロロホルム溶液 (5 mg/2 mL) に無水酢酸 (1 mL)、硫酸1滴を室温で振り混ぜると、クロロホルム層は赤色を呈し、黄色を経て緑色に変わる[11][13]
チュガーエフ反応 (Chugaev reaction)
氷酢酸溶液に塩化亜鉛塩化アセチルを加えて煮沸する。液は紅色を呈し紫色に変じる[13]
トーテリィ・ヤッフェ反応 (Tortelli-Jaffe reaction)
酢酸溶液に臭素のクロロホルム溶液を重層すると8位に二重結合を持つステロールは境界面に緑色のリングを形成する[9]
ジギトニン沈殿反応
ジギトニン (Digitonin) のアルコール溶液を加えると、3-β-ヒドロキシステロールは沈殿を生じる[9]

コレステリック液晶

コレステロール脂質を含むいくつかのコレステロール誘導体はある種の液晶として知られており、この分子はコレステリック液晶と呼ばれる配向状態をとる。コレステリック液晶はネマティック液晶の一種であり、ネマティック液晶のダイレクタ(分子集合体の向き)が空間的に歳差運動のようにねじれながら回転していき、らせん状に配向する性質を持つ。これはコレステリック液晶分子がキラリティを有することに起因している(下図参照)。コレステリック液晶はキラルネマティック相とも呼ばれる。コレステリック相のらせんピッチは可視光線の波長と同程度であることが多く、このとき選択反射という現象が観察されて色が見える。刺身から緑色の反射光が見えることがあるのはこのためである。らせんピッチは微小な温度変化に応答するため、温度によって色彩が変化する。それゆえ、コレステロール誘導体は液晶温度計や温度応答性インキとして利用される。カナブン玉虫のようなメタリックな色彩を示す甲虫の一部の構造色はこれによると考えられている。

コレステリック液晶は表示の書き換え時にのみ電圧印加が必要となるだけで、透過状態でも反射状態でも電気を消費しない。低い電圧で横向きらせん姿勢をとるため透過状態となり、通常は背面の黒を表示する。より高い電圧を加えれば縦向きらせん姿勢をとるため反射状態となる。

コレステリック液晶は色彩を反射するのでバックライトが不要であるという長所の一方、単色では1層の表示構造で済むが、擬似フルカラーでは少なくともRGBのような3層分を積層する必要があり、透過時の光損失によって表示が暗くなるという短所がある。

2005年には日本の家電メーカーがコレステリック液晶の試作品を製作した[14]。コレステリック液晶を液晶ディスプレイとして用いたChLCD英語版の研究は1989年よりケント州立大学アメリカ国立科学財団などでも行われており、その研究者たちによってKent Displays社が創立された。同社のChLCDを用いた商品にはブギーボード英語版があり[15]、米国の小学校などでも使われている。日本ではキングジムから発売されている。

生化学

コレステロールは生体内の代謝過程において主要な役割を果たしている。まず多くの動物でステロイド合成の出発物質となっている。また動物細胞においては、脂質二重層構造を持つ生体膜細胞膜)の重要な構成物質である。人間では肝臓および皮膚で生合成される。肝臓で合成されたコレステロールは脂肪酸エステル体に変換され血液中のリポタンパク質により全身に輸送される。

構造と生合成

HMG-CoAリダクターゼ経路(メバロン酸経路)。画像クリックで拡大と解説
ステロイド骨格形成反応。画像クリックで拡大と解説

コレステロールの存在自体は18世紀から知られていたが[16]、20世紀に入るまでその構造は長い間不明であった。1927年にコレステロールのステロイド骨格が4つの環構造6, 6, 6, 5員環が繋がっているものであると決定したのはオットー・ディールスである。彼はセレンを使った脱水素反応を利用した炭化水素の構造に関する系統的な研究を行っている。すなわち構造が未知の炭化水素を脱水素して二重結合を生成したり骨格を切断したりして既知の炭化水素に導き、元の炭化水素の構造を推定していくのである。ステロイド骨格もその一環でディールスの炭化水素と呼ばれる化学式 C16H18 の炭化水素から現在の立体配置を除くステロイド骨格の構造を決定した。この方法では構造変換の過程で立体構造に関する手掛かりが失われるため、コレステロールの立体構造は解明されないままであった。

1930年代はステロイドホルモンの単離と構造決定が相次いで研究された。この段階ではディールスの研究では立体構造が不明なため、これらのステロイドホルモンの構造はコレステロールを化学的に構造変換してステロイドホルモンへ変換しそれによって立体構造を決定している。

立体構造を最終的に決定したのはE・J・コーリーである[要検証]。彼の天然物合成の研究方法に基づき、ほとんど立体構造が分からない状態から天然物の生成経路ならびに中間体立体配座反応機構からステロイド骨格の生成反応が立体特異的に進行することを見出した[17][18][19]

コーリーの見つけ出したステロイド骨格(ラノステロール)の構築反応は、生体内で生じる生化学反応のなかでも非常にエレガントなものの一つである。動物の場合では、メバロン酸経路およびゲラニルリン酸経路を経て生合成されるスクアレンの2,3-位が酵素的にエポキシ化オキシドスクアレン)されると、逐次閉環反応が進行するのではなく、一気にラノステロールが生成する。酵素によりエポキシ酸素がプロトネーションされるのをきっかけに、4つの二重結合のπ電子ドミノ倒しのように倒れこんでσ結合となりステロイドのA, B, C, D環が一度に形成される。それだけでなく、ステロイドの20位炭素上に発生したカルボカチオンを埋めるように、2つの水素(ヒドリド)とメチル基がそれぞれステロイド環平面を横切ることなく1つずつ隣りの炭素に転位することで、熱力学的安定配座となりラノステロールが生成する。

一方、植物の場合、ラノステロールではなく、シクロアルテノールと呼ばれる別のプロトステロールを経てコレステロールが合成される。シクロアルテノールは6, 6, 6, 5のステラン骨格に加えて3員環をもつ。スクアレンもしくはオキシドスクアレンから、ステロールと同様の環化機構により別のテルペノイドであるホパノイドやβ-アミリンを生成する生合成経路も知られている。

ラノステロールもしくはシクロアルテノールからさらに先は、リダクターゼとP450酵素によるメチル基の酸化が繰り返されて適用される。その結果、3つのメチル基が二酸化炭素として切断される酸化的脱メチル化によって(ラノステロールから17段階で)コレステロールが生成する[10][20]

生体膜とコレステロール

生体膜模式図
リン脂質の二重膜構造(橙のリン酸部分+水色の脂肪鎖)にタンパク質(緑褐色 (4))やコレステロール(黄色 (7))が埋め込まれている
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リン脂質から人工的に製造した脂質2分子膜電気容量屈折率との界面張力が実際の生体膜とよく類似するが、生体膜と異なり相転移温度Tcを持つ。すなわちTc以上では流動性を示すが、Tc以下では硬くなり流動性を失う。

これに30–50 mol%のコレステロールを加えると流動性はさらに増し、しかもTcが消滅することが知られている。脂質2分子膜上では次のように埋め込まれる。すなわち、親水性を示すコレステロールのヒドロキシ基は外向きに配置されリン脂質の燐酸基部分と水素結合する。そして嵩高いステロイド骨格と炭化水素側鎖は内側のリン脂質の脂肪酸鎖の間に埋め込まれる。

コレステロールは細胞内膜系にも普遍的に存在するが、ミトコンドリアの脂質膜には例外的にほとんど含まれていない[注 2]

生理学

コレステロールは生体の細胞膜の必須成分であり、また動脈硬化症の危険因子として、ヒトにおけるコレステロールの生理学は注目を集めている。

まず、コレステロールが含有することでリン脂質より構成される脂質二重膜は、生体膜特有のしなやかさを発現する。そして、コレステロールから代謝産生されるステロイドホルモン類は、細胞核内の受容体タンパク質と結合して転写因子となり遺伝子の発現を制御する。

複雑な体制を持つ多細胞動物の体内では、コレステロールは胆汁酸リポタンパク質など輸送分子と共に複合体を形成して移送される。そして、どの輸送分子と組み合わされているかによって、どの組織からどの組織へ移送されるのかが制御されている。

コレステロールに関する研究では、コンラート・ブロッホフェオドル・リュネンがコレステロールと脂肪酸代謝の調節機序を解明した功績で1964年ノーベル生理学・医学賞[21]マイケル・ブラウンジョーゼフ・ゴールドスタインがコレステロール代謝調節の研究により1985年ノーベル生理学・医学賞を受賞している[22][23]

機能

コレステロールは細胞膜の構築や維持に必要で、広範囲の温度帯で膜の流動性(粘性度)を安定にする働きがある。いくつかの研究によるとコレステロールは抗酸化剤としての作用を持っている[24]

人の代表的な胆汁酸、コール酸の構造式

コレステロールは(脂肪消化を助ける)胆汁酸の産生も助けている。胆汁酸は、肝臓にてチトクロムP450(CYP)の作用でコレステロールを酸化することにより産生される。胆汁酸は、タウリンアミノ酸であるグリシンと結び付いて、あるいは硫酸塩、グルクロン酸と抱合して、脱水により塩にまで濃縮されて胆嚢に蓄えられる。人においては、コレステロール7-α-水酸化酵素(チトクロムP450のCYP7A1)により、ステロイド環の7の位置にヒドロキシ基(水酸基)が付加され 7α-ヒドロキシコレステロールが合成される反応が律速反応となっている[25]。 人体では1日あたり 800 mg のコレステロールを産生し、その半分は胆汁酸の新たな生成に使用されている。毎日、合計で20-30 gの胆汁酸が腸内に分泌されている。分泌される胆汁酸の90%は回腸能動輸送され再吸収され再利用され、腸管から肝臓や胆嚢に抱合胆汁酸が移動することを、腸肝循環と呼んでいる。

ビタミンD3の構造式。コレステロールの脱水素化と紫外線による開環により生成する

ビタミンADEおよびKなど脂溶性ビタミンの代謝にも重要な役割を果たしている。ビタミンDは、コレステロールが7-デヒドロコレステロールに変化し、これに紫外線が当たることによって生成される。

そしてコレステロールはビタミン以外にも色々なステロイドホルモンコルチゾールアルドステロンなど副腎皮質ホルモンプロゲステロンエストロゲンテストステロンや誘導体など性ホルモン)の合成の主要な前駆体である。

最近、コレステロールが細胞シグナル伝達に関与していることが発見された。それによると、原形質膜で脂質輸送の役割を果たし、原形質膜の水素イオンやナトリウムイオンの透過性を下げる働きがあることが示唆されている[26]

脳の冠状断面
  白質

脳、神経系にコレステロール全量の1/3も多く含まれているのは、神経細胞から伸びた神経伝達を司っている軸索を覆っているミエリン鞘にコレステロールが大量に含まれているためである。コレステロールは、ミエリン鞘の絶縁性を保持する役割を果たしている。絶縁されたミエリン鞘の切れ目であるランヴィエの絞輪ごとでの跳躍伝導により高速の神経信号伝達に寄与している[27]。実際、哺乳類である豚や牛などでは脳総重量の2-3%がコレステロールで占められている。

脳の灰白質は、中枢神経系の神経組織のうち、神経細胞の細胞体が存在している部位のことである。これに対し、神経細胞体がなく、神経線維ばかりの部位を白質と呼ぶ。白質は明るく光るような白色をしているのに対し、灰白質は、白質よりも色が濃く、灰色がかって見えることによる。これは、有髄神経線維のミエリン鞘の主成分として大量に存在しているコレステロール[27]ミエリンが白い色をしているためで、白質には、灰白質に比べて、有髄神経線維が多いからと考えられている。

カベオラ依存エンドサイトーシスクラスリン依存エンドサイトーシスにおいて、カベオラやクラスリン被覆ピットを構成したり陥入する作用にコレステロールは必須である。これらのエンドサイトーシスにおけるコレステロールの役割は、コレステロール欠損原形質膜とメチルベータシクロデキストリン (MβCD) とを使って研究されている。

生合成と吸収・貯蔵

人体のコレステロールの供給源は、体内での生合成(内因性)と食事からの吸収(外因性)に大別される。 文献により異なるが、食事から吸収されるコレステロール量は体内で合成される量の七分の一から三分の一程度とされ、比率としては内因性の方が多い[28]

コレステロールの生合成

コレステロールはアセチルCoAを起点として合成されるが、主要な律速酵素はHMG-CoA還元酵素である。コレステロールの合成量の調節は主にHMG-CoA還元酵素を介して行われており、代表的な脂質降下薬であるスタチンはHMG-CoA還元酵素を阻害することによりコレステロール産生を低下させる[29][30]。(合成経路等の詳細については#構造と生合成の節、およびメバロン酸経路参照。産生量の調節については#調節の節参照。)

人体のコレステロール合成量は文献により異なるが、およそ1 g/日前後[31]、ないし、約12〜13 mg/kg/日(体重60 kgに換算すると750 mg/日前後)[32][33]とされる。ただし、食事からのコレステロール摂取量が増えると、その程度には個人差があるが、フィードバック調節により合成は抑制される[28]#調節の節も参照)。

人体の有核細胞のほとんどはコレステロールを合成する能力を持っているが、主要な合成臓器は肝臓であり、それに次ぐのが腸管と考えられている [注 3] [34] [35]

血液脳関門のために脳にはLDLがほとんど移行しないため、脳のコレステロールはほぼ全て脳内で合成される。コレステロール合成は主にアストロサイトオリゴデンドロサイトが担っており、ニューロンでの合成量は相対的に少ない。オリゴデンドロサイトによるコレステロール合成はミエリン形成に重要である。また、脳内のコレステロールの輸送は、アポリポプロテインEを含む独自のリポタンパク質粒子により行われている。脳は人体のコレステロールのおよそ25 %を含むが、脳のコレステロールは代謝回転が遅いため、全身のコレステロール合成量に対する脳での合成量の比率はそれほど高くない[36][37][38]

脳以外の末梢組織は血中のLDLをLDL受容体を介して取り込みそのコレステロールを利用することができるが、 自らもコレステロール合成は行っており、全てのコレステロール供給をLDLに依存しているわけではない[35][39]

コレステロールの吸収

食事から吸収される外因性のコレステロールは、一般に食事中に含まれるコレステロールの50 %前後とされるが、個人差が大きい(29〜80 %)と報告されている[40][41]。 なお、腸管を通過して吸収の対象となるコレステロールは、食品に含まれるものだけではなく、 胆汁に含まれるもの(約800〜1200 mg/日)や、剥離した腸管上皮細胞に含まれるもの(300 mg/日程度)もあり、 腸管内では人体由来のコレステロールの方が食事由来のコレステロールよりもはるかに多い[40] [注 4]

食品や胆汁に含まれるコレステロールは主に遊離型である。エステル型コレステロールも存在するが、膵液中の膵コレステロールエステラーゼ[注 5]により加水分解されて遊離型となってから吸収される。 コレステロールは、主に小腸内で、消化液の作用により中性脂肪(トリアシルグリセロール)の消化産物である脂肪酸やモノアシルグリセロール、リン脂質などと混合したエマルジョン(乳化液)となる。エマルジョンに含まれる脂質はさらに胆汁の胆汁酸塩により混合ミセルを形成し、小腸上皮細胞の刷子縁(微絨毛)に接触することにより、コレステロールの吸収が可能となる(エマルジョンは大きすぎて腸管上皮細胞には直接取り込まれない)。 腸内の胆汁酸は回腸で再吸収され、腸肝循環する(#異化・排泄と腸肝循環の節も参照)[注 6] [40] [42]

小腸でのコレステロール取り込みに重要な役割を果たすのは、小腸上皮細胞の刷子縁膜に高発現している輸送タンパク質 NPC1L1(Niemann-Pick C1-like 1)である。脂質降下薬のひとつであるエゼチミブはNPC1L1依存性のステロール取り込みを阻害することにより コレステロールの吸収を抑制する[42]

植物や植物油に含まれる植物ステロール(フィトステロール)[注 7]もコレステロールとともに取り込まれるが、 大部分がATP結合カセット輸送体(ABC)のABCG5/ABCG8ヘテロ二量体によって、再度、腸管腔に排出されるので、正味の吸収率は低い。 植物ステロールはミセルへの溶解に際しコレステロールと競合するなどの機序でコレステロールの吸収を減らすとされている。 植物ステロールの摂取量は食習慣により大きく異なるが、日本人については、平均 378 mg/日程度との報告がある[43]。 なお、稀な疾患のシトステロール血症英語版では、ABCG5やABCG8の変異のために植物ステロールが体内に蓄積し、黄色腫や早発性冠動脈疾患を呈する[40][44]

吸収されたコレステロールは小腸上皮細胞内でSOAT2(ステロールO-アシルトランスフェラーゼ2、または、アシルCoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ2、ACAT2ともいう)によりエステル化されて、細胞内で合成された中性脂肪やリン脂質とともに、MTP(ミクロソームトリグリセリド転送タンパク質)によりカイロミクロンに取り込まれる[注 8][40][45]。 カイロミクロンはリンパ液中に放出され、胸管を経て循環血液中に出現する[46]。その後の代謝は#体内輸送を参照。

コレステロールの体内分布と貯蔵

ヒトで体内の全コレステロール量はおよそ100〜150 gほどである[4]。 ヒトの体のコレステロールの大部分は細胞膜に存在しており、リン脂質とともに生体膜の重要な構成成分である[47]。哺乳動物の細胞膜の脂質の30 mol%前後はコレステロールで構成されているとされる(細胞種や膜の種類により異なる)[48][49]。コレステロールは、膜以外には、血中のリポタンパク質(主にエステル化コレステロール)、細胞内の脂肪滴、胆汁(主に遊離型コレステロール)などに分布している[40][46]

細胞内に遊離コレステロールが過剰に存在すると膜機能の障害等の毒性を発揮するため、細胞内の余剰なコレステロールはSOAT(ACAT)[注 9]によりエステル化されて中性脂肪等とともに細胞内脂肪滴の疎水性コアに貯蔵される[50][51] [52] [注 10] なお、脂肪滴表面のリン脂質単分子層には遊離コレステロールも分布する[50]

なお、脂肪組織は人体中の主要なコレステロールプールの一つであり、人体内の全コレステロールの25 %から肥満者では50 %以上が脂肪組織に存在しているとされる[53]

体内輸送

リポタンパク質の構造:親水性の外殻(アポリポタンパク質・コレステロール・リン脂質)と疎水性の脂質コア(コレステロールエステル・中性脂肪)から構成されている。

コレステロールや中性脂肪は疎水性の脂質であり、水にはほとんど溶解しないため、血中ではリポタンパク質により輸送される。 リポタンパク質は、アポリポタンパク質・コレステロール・リン脂質からなる親水性の外殻が、 主にコレステロールエステルと中性脂肪からなる疎水性の脂質コアを包む構造をとっている(リン脂質は親水性の頭部と疎水性の脂肪鎖をもち、血漿側に頭部、脂質コア側に脂肪鎖という配置になっている) [注 11] [46][54]

リポタンパク質は、古典的には、比重超遠心法の主要分画により、カイロミクロン(chylomicron)[注 12]超低比重リポタンパク質(very-low-density lipoprotein : VLDL)、 中間比重リポタンパク質(intermediate-density lipoprotein : IDL)、低比重リポタンパク質(low-density lipoprotein : LDL)、および、高比重リポタンパク質(high-density lipoprotein : HDL)の5種類に大別されている[注 13]

さらに見る リポタンパク質, 比重 ...
リポタンパク質の種類と含まれる成分[54] [46]
リポタンパク質 比重 粒子径 アポリポタンパク質 中性脂肪重量比 コレステロール重量比
(エステル体重量比[注 14]
補足
カイロミクロン〜0.9375〜1,200 nmB-48, A, C, E86 %5 % (3 %)小腸粘膜で合成され、主に食事性の中性脂肪を輸送する。
VLDL0.93〜1.00630〜80 nmB-100, C, E55 %19 % (12 %)肝臓で合成される。肝臓由来の脂質の輸送に関与している。分泌後、末梢において酵素リポタンパク質リパーゼの作用でトリグリセリドを失って、IDLを経由しLDLへと変化する。
IDL1.006〜1.01925〜35 nmB-100, C, E23 %38 % (29 %)VLDLがLDLに代謝される中間体。健常人の場合の存在量は僅か。
LDL1.019〜1.06318〜25 nmB-1006 %50 % (42 %)末梢組織へのコレステロールの輸送の主要な担い手である。
HDL1.063〜1.2105〜12 nmA, C, E4 %20 % (15 %)肝臓および小腸で合成される。末梢組織のコレステロールを肝臓に輸送する(逆輸送)。
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リポタンパク質の表面のアポリポタンパク質は、リポタンパク質の構造維持、リポタンパク質受容体への結合、脂質代謝酵素の補酵素ないし活性調整など、 さまざまな機能を果たしており、各リポタンパク質の機能の差は主にアポリポタンパク質に由来している[46][54]

リポタンパク質の代謝経路は、外因性代謝経路、内因性代謝経路、コレステロール逆輸送系の3つに大別される[46][54]

外因性代謝経路

食事のうちトリグリセリド中性脂肪の一種)の摂取量は50–125 g/日[55] であるのに対して、コレステロールは200–300 mg/日程度である。 食事で摂取した脂質を全身組織および肝臓に輸送するのが外因性代謝経路であり、カイロミクロンにより担われている。 小腸粘膜では吸収した脂質から大量の中性脂肪を含むカイロミクロンが合成され、リンパ管経由で胸管から大循環に入る。 血中のカイロミクロンは血管内皮上のリポタンパク質リパーゼ(LPL)により中性脂肪が加水分解されて末梢組織に脂肪酸を供給しながら、より小さなカイロミクロンレムナントとなる。 カイロミクロンレムナントはLDL受容体などを介して肝細胞に取り込まれる[46][54]

内因性代謝経路

肝臓で合成した脂質を末梢組織に輸送するのが内因性代謝経路であり、VLDL、IDL、LDLが担当する。 肝臓では、中性脂肪を多く含む大きな粒子であるVLDLが合成・分泌される。 VLDLは血管内皮細胞表面に結合しているリポタンパク質リパーゼ(LPL)により中性脂肪が加水分解されて末梢組織に脂肪酸を供給しながら、より小さなIDLとなる。 IDLは肝臓で一部は取り込まれ、一部はHTGL(肝性リパーゼ)により中性脂肪が加水分解されて減少し、さらに小さなLDLとなる。 LDLは主に肝臓のLDL受容体により血中から除去される。また、末梢組織の細胞もLDL受容体などが発現しており、LDLなどを細胞内に取り込む[46][54]

コレステロール逆輸送系

末梢組織の細胞は基本的にコレステロールを分解できないので、余剰のコレステロールは肝臓に逆輸送して処理する必要がある。これを担うのがHDLである。 HDLは肝臓および小腸で合成される。HDLは末梢組織の細胞膜のコレステロールを除去しエステル化して内部に蓄える。このエステル化を担うのが LCAT(レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ)である。HDLに蓄えられたコレステロールの一部は、VLDL(IDL・LDL)にCETP(コレステリルエステル転送タンパク質)の作用により中性脂肪と交換で取り込まれ、さらに、肝臓のLDL受容体を介して肝細胞に取り込まれる。また、HDL中のコレステロールエステルを直接肝細胞に取り込む経路も存在する[46][54]

LDL受容体
セルビア語の説明:
LDL reseptor - LDL受容体
LDL patikula - LDL粒子
klatrin - クラスリン
lizozom - リソゾーム

血中LDLを除去する役割は主にLDL受容体が担っており、血漿中LDLコレステロール濃度の主要な調節機構としての役割を果たしている[56]。 LDLはアポB100を介して細胞膜表面の糖タンパク質であるLDL受容体と結合すると、受容体介在性エンドサイトーシスによりクラスリン被覆ピットから細胞内に取り込まれ、 エンドソーム内の低pHによりLDLが受容体から解離する。解離後のLDLは後期エンドソームを経てリソソームで分解され、コレステロールエステルは加水分解されて遊離コレステロールとなる[57]。 一方、内在化されたLDL受容体は、大部分が細胞膜へリサイクルされ、再びLDLの取り込みに利用されるが、一部はPCSK9英語版と結合してリソソームで分解される[57]家族性高コレステロール血症の大部分は、LDL受容体遺伝子LDLRの病的バリアントにより引き起こされており、 小児期から著明なLDL-C高値が持続し、若年期から動脈硬化性心血管疾患を発症するリスクが高い[56]

異化・排泄と腸肝循環

胆管周辺の模式図
肝臓、右肝管、左肝管総肝管胆嚢管総胆管胆嚢オッディ括約筋ファーター膨大部膵管膵臓十二指腸
肝臓から分泌された胆汁は一時的に胆嚢で濃縮される。食事によりCCKホルモン等が放出されると総胆管を通じて胆汁は十二指腸中に分泌される。
胆汁酸(bile acid)は親水性(hydrophilic)の側面と疎水性(hydrophobic)の側面を持ち、脂質(lipid)を囲んでミセルを形成し、脂質の吸収を促進する。

ヒトをはじめとする哺乳類はコレステロールの環構造を分解することはできず、主に肝臓でコレステロールを水酸化して胆汁酸に変換することにより処理している。胆汁酸は一日300〜600 mg前後合成されている[58]。胆汁酸はグリシンやタウリンなどと抱合して胆汁成分となる[58]。 胆汁は胆嚢に蓄えられ、総胆管を経由して十二指腸乳頭から消化管内に放出される。胆汁中の胆汁酸は疎水性のコレステロール環と親水性のカルボキシル基やヒドロキシル基をもち、食事中の脂質をミセル化して吸収するのに重要な役割を果たす[58][59]

胆汁には胆汁酸、ビリルビン、の他、コレステロールそのものも含まれている。 (胆嚢胆汁には胆汁酸 12 %、リン脂質 4 %、コレステロール 0.7 %が含まれている[60]。) 胆汁の中のコレステロールは胆汁酸やリン脂質によりミセルを形成して溶解しているが、 胆嚢で胆汁が濃縮される際に何らかの原因でコレステロールが沈殿し、胆嚢あるいは胆管においてコレステロール胆石を形成することがある[60]。(#胆石症とコレステロールも参照。)

胆汁中の胆汁酸およびコレステロールは、大部分が回腸で再吸収されて肝臓に戻る。 これを腸肝循環とよぶ。胆汁酸は、約95 %が門脈経由で肝臓に戻って、再度、胆汁中に分泌される。人体内の胆汁酸総量は2〜4g程度であるが、一日あたりの胆汁酸分泌量は20〜40g程度であり、胆汁酸は一日に10回程度は腸管循環を行っていると考えられている。便中に排泄される胆汁酸は一日300 mg程度である[58]

便中に排泄されるコレステロール、および、腸内細菌によりコレステロールが代謝されて生じるコプロスタノールは、あわせて、一日 600〜1300 mg程度である。これは食事中のコレステロールや胆汁中のコレステロールで吸収されなかったものと、脱落する腸管上皮細胞に含まれるコレステロールを合わせたものに由来する[58]

食物繊維を多く含む食事は食物繊維が胆汁酸の吸収を抑制することにより、コレステロールや他の脂質の吸収も抑制すると考えられている[61]。また、植物由来のフィトステロールはコレステロールのミセル溶解を阻害すると考えられている[40]

上記の胆汁酸への異化以外にコレステロールが代謝される経路としては、ステロイドホルモンの合成経路もあるが、一日50 mg前後で、胆汁酸と比較するとごく少量である[58]。) また、皮膚あるいは髪の毛など上皮細胞が脱落するとその細胞膜のコレステロールも失われることになるが、皮膚から失われるコレステロールは一日約 80 mg程度で僅かである[62]

調節

食事由来コレステロールの吸収量が増大すると一般に内因性コレステロールの合成は抑制され、吸収量が減ると反対に作用する。コレステロールの生合成量は主として細胞内コレステロール量(特に小胞体膜中のコレステロール)により調節されている。主要な調節機構は次の通りである[63][30]

  1. 細胞内のコレステロール量は小胞体上のSCAP (SREBP切断活性化タンパク質、SREBP-cleavage activating protein)により検出される。コレステロールが十分あると、SCAPとステロール調節配列結合タンパク質 (SREBP; sterol regulatory element-binding protein、コレステロール恒常性には主にSREBP-2が関与) の複合体に 小胞体膜タンパク質 INSIG(insulin-induced gene protein)が結合して小胞体内に留まる。
  2. コレステロールレベルが減少すると、INSIGが遊離することでSREBP-SCAP複合体はゴルジ体へと移動する。
  3. ゴルジ体に移行したSREBPは二種類のプロテアーゼ、S1P (site 1 protease) とS2P (site 2 protease)により切断され、SREBPは活性型となる。
  4. 活性型SREBPは核へ移動しSRE (sterol regulatory element) と結合して転写因子として作用し、幾つかの遺伝子発現させる。これらの遺伝子の中にLDL受容体遺伝子とHMG-CoAレダクターゼ遺伝子が含まれる。
  5. LDL受容体は血流中を循環するLDLの細胞内取り込みを増加させる。同時に、コレステロール生合成の律速酵素であるHMG-CoAレダクターゼの発現増加によりコレステロール生合成が促進される[23]
  6. 細胞内のステロール量が増加すると、小胞体膜上のHMG-CoAレダクターゼとINSIGが結合し、HMG-CoAレダクターゼのユビキチン化が促進される。その結果、HMG-CoAレダクターゼはプロテアソームによる分解を受ける。すなわち、HMG-CoAレダクターゼは分解と遺伝子の転写の二重の制御を受けている。

コレステロール恒常性の研究はマイケル・ブラウンジョーゼフ・ゴールドスタインによって推進された。彼らは主にLDL受容体に関する業績により1985年ノーベル生理学・医学賞を受賞し、その後もさらにSCAP、SREBP、INSIGなどによるコレステロール恒常性維持機構を解明していった[23]

コレステロールとホルモン

ステロイドホルモン

コレステロールはステロイドホルモンの前駆体である。ステロイドホルモンの産生は、コレステロールがStAR英語版(ステロイド産生急性調節タンパク質)によりミトコンドリアの外膜から内膜に供給されて、内膜に存在するP450scc(CYP11A1)によりプレグネノロンに変換されるところから始まる。 ステロイド産生の急性調節ではStARによるコレステロール供給が主要な律速・調節段階とされる。 プレグネノロンは、さらに、各組織に発現する酵素の組み合わせに応じて各種の経路でステロイドホルモンに変換されていく[64]

副腎皮質では副腎皮質ホルモンコルチゾールアルドステロン、副腎アンドロゲンなど)が合成される。 また、性ホルモンとして、精巣ではテストステロン卵巣ではエストラジオールエストロンプロゲステロンなどが合成される。 また、妊娠中の胎盤では、主に母体由来のコレステロールからプロゲステロンが合成される。胎盤ではエストロゲンの前駆体となるC19ステロイドが十分合成できないため、母体および胎児副腎由来のアンドロゲン前駆体(デヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEA-S)など)からエストリオールエストラジオールなどが合成される[64][65][66][67]

副腎皮質・性腺などは、血中のLDLからコレステロールを得るほかに、自らもコレステロールを合成する能力をもっているため、スタチンによる脂質降下療法においては、通常、ステロイドホルモンの欠乏は問題にならないとされる[68]。 重篤な低コレステロール血症を来す家族性低βリポ蛋白血症のホモ接合体では、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)刺激に対する副腎皮質の反応低下が報告されている[69]

コレステロール代謝の先天異常では、二次的にステロイドホルモンの合成が障害される場合がある。 例えば、スミス・レムリ・オピッツ症候群(7-デヒドロコレステロール還元酵素の異常)では、ステロイドホルモン合成障害がみられる場合があり[70]。 また、先天性リポイド副腎過形成症(ミトコンドリアの外膜から内膜へのコレステロール供給を促進するタンパク質、StARの異常)[71]では、 副腎や性腺のステロイドホルモンの合成が広範に障害される。

ビタミンD

ビタミンDセコステロイド(環の切断が生じているステロイド)であり、活性体のカルシトリオールはステロイドホルモン(セコステロイドホルモン)の一つとみなされる。 ビタミンDは食物から摂取されるほか、皮膚でも日光の作用により生成される。 コレステロールの前駆体である7-デヒドロコレステロール(7-DHC)[注 15]は、皮膚においては、紫外線(UV-B)によりプレビタミンD3に変換され、熱異性化によりビタミンD3となる。ビタミンD3は主として肝臓で水酸化されて25-ヒドロキシビタミンD3(カルシジオール)になり、さらに主として腎臓での水酸化を経て、最終的に生理活性をもつ 1,25-ジヒドロキシビタミンD3(カルシトリオール)となる[72][73]

コレステロールに及ぼすホルモンの影響

甲状腺ホルモンは肝臓のLDL受容体を増加させる。 甲状腺機能低下症では高コレステロール血症が、甲状腺機能亢進症では低コレステロール血症がみられる[74]

エストロゲンはLDL受容体を増加させることが知られている。女性は閉経に伴い総コレステロールが増加する傾向がある。一般にLDLコレステロール(LDL-C)が増加するがHDLコレステロール(HDL-C)の変化は一定しない[75][74]。 経口エストロゲン製剤投与[注 16]でLDL-C減少とHDL-C増加がみられる一方、中性脂肪も増加することがある[74][76]

動物におけるコレステロール

動物において、コレステロールは細胞膜を構成する主要なステロールであり、生理的に重要な役割を果たしている。 コレステロール合成能力は、動物の祖先となる真核生物から継承されたものと考えられており、 ヒトなどの脊椎動物棘皮動物ウニヒトデなど)を含む後口動物のほとんどではコレステロールの新規合成に必要な遺伝子群を保持している。 一方、後口動物以外の動物の複数の系統ではしばしばコレステロール新規合成能が失われている。その代表例は、節足動物昆虫甲殻類など)や線形動物線虫など)を含む脱皮動物である[77]昆虫は体内で必要とするステロール骨格の新規合成ができないため、肉食性の昆虫では食物からコレステロールを得ている。草食性の昆虫の食物となる植物にはコレステロールが乏しいため、多くの草食性昆虫ではシトステロールなどの植物ステロールを体内でコレステロールに変換していることが知られている[78][77]

植物におけるコレステロール

ステロール類の構造式

植物の細胞膜を構成する主要なステロールは植物ステロールであるが、広範な植物種でコレステロールも合成されることが知られている。 例えば、ナス科植物では、ジャガイモソラニントマトトマチンのようなステロイド性糖アルカロイドの前駆体としてコレステロールを産生している[79]。 ベールマン (Behrman) とゴパラン (Gopalan)は、教科書を含む書籍で植物にはコレステロールが含まれないという誤った記述が見られ、誤解の一部は、米国の食品医薬品局が食品中のコレステロール含有量が少ない場合はゼロと表示してよいとしていることに起因すると指摘している。実際には植物性食品にも少量のコレステロールは含まれ得る(ベールマンとゴパランによれば、総脂質1 kgに対するコレステロール量が、動物由来脂質では約5 gなのに対し、植物由来脂質では約50 mg である)[80]。動物とは異なり、植物ステロールの生合成と複数の段階を共有する植物特有のコレステロールの合成経路も解明されている[79]

真菌におけるコレステロール

大部分の真菌は膜のステロールとしてエルゴステロールを利用している。 ただし、ニューモシスティスのように、コレステロールを膜ステロールとして利用するものも存在する[81]

抗真菌薬の中にはエルゴステロールをターゲットとするものがある。アゾール系(フルコナゾールなど)はエルゴステロール合成を阻害し、また、 ポリエン系(アムホテリシンB)は細胞膜のエルゴステロールとの相互作用により細胞膜に孔を形成する[82]

細菌におけるコレステロール

細菌の細胞膜は基本的にリン脂質と糖脂質で構成されており、多くの種ではステロールは含まない(ステロールの代替としてホパノイドを含むことはある。) ほとんどの細菌はコレステロールを合成できない[83](例外はある[8]</ref>)。 また、大部分の細菌はコレステロールを必要としないが、 例外的に膜成分としてコレステロールが必要な細菌としては、マイコプラズマエールリキアアナプラズマブラキスピラ英語版ヘリコバクターボレリアなどがあげられる。これらの菌は宿主から必要なコレステロールを得ている[83]

その他、結核菌はコレステロールを炭素源・エネルギー源として利用でき、この能力が慢性感染期において、活性化マクロファージ内での持続感染に必須と報告されている[84]

健康とコレステロール

コレステロールが生命維持に必須な役割を果たす物質であるという事実は、科学者以外にはあまり知られていない。むしろ、一般社会には健康を蝕む物質として認知されていることが多い。すなわち、脂質異常症を介して循環器疾患の一因になるとの認識が強い。

血液検査におけるコレステロール

血液検査で脂質代謝の評価をする場合、よく用いられる項目としては、コレステロール関連では、総コレステロールTC、または、T-Cho)、HDLコレステロールHDL-C)、LDLコレステロールLDL-C)の3項目がある。これに、さらに中性脂肪TG)を加えた4項目が、標準的な脂質代謝のスクリーニング検査となる。 なお、LDL-Cはリポタンパク質LDLに含まれるコレステロール(俗称「悪玉コレステロール」)、HDL-Cはリポタンパク質HDLに含まれるコレステロール(俗称「善玉コレステロール」)を意味する。コレステロール分子自体の違いではない。 その他、TC値からHDL-C値を引いたnon-HDLコレステロール(non-HDL-C)も指標として用いられることがある。non-HDL-Cは、動脈硬化惹起性リポタンパク質全般(LDLに加え、IDLVLDL、レムナントリポタンパク質[注 17]Lp(a)[注 18])を反映すると考えられている[85][86]

検査法

TCは、通常、酵素法で定量される。HDL-CはHDL以外のリポタンパク質との反応を抑制した上で、酵素法で測定する。 LDL-Cについては、他のリポタンパク質との反応を抑制した上で酵素法で測定する方法(直接法)もあるが、 TC、HDL-C、TGから計算によって求めることも多い。伝統的に用いられてきたのはフリードワルド(Friedewald)式である[86][85] [注 19]

フリードワルド式:    (単位は全てmg/dL。)[85]

この式で(TG/5)はVLDL-Cを近似している(単位がmg/dLの場合)[68]。 なお、フリードワルド式は非空腹時やTG 400 mg/dL以上の場合は適用されない。また、TG高値やLDL-C低値などでは精度が落ちるため、直接法や、non-HDL-Cの利用が検討される[注 20]

基準値

下の表に、コレステロール関連の検査項目の日本における基準範囲と臨床判断値(脂質異常症の診断基準)を示す。 表で「基準範囲」と記載しているのは、基準集団(健康とみなしうる集団)の中央の95 %が含まれる範囲であり、 この範囲内であれば病気ではないという意味ではない。 例えば、LDL-Cの基準範囲は65〜163 mg/dLであるが、高LDLコレステロール血症と診断するためのカットオフ値は140 mg/dL以上である。 すなわち、LDL-C値が 140から163 mg/dLの間であれば、基準範囲(すなわち基準集団の95 %)には含まれるが、高LDLコレステロール血症と診断され得る。その場合、既往歴・家族歴・合併疾患などのリスク因子によっては、動脈硬化性疾患予防のための生活習慣改善や薬物療法の要否が検討されることがある。詳細は基準値参照[85][87]

さらに見る 項目, 略称 ...
日本人成人のコレステロール基準範囲と脂質異常症の診断基準値
項目略称単位範囲種別
総コレステロールTCmg/dL142〜248基準範囲(JCCLS)[87]
HDLコレステロールHDL-Cmg/dL40未満低HDLコレステロール血症の診断基準(日本動脈硬化学会)[85]
男性:38〜90
女性:48〜103
基準範囲(JCCLS)[87]
LDLコレステロールLDL-Cmg/dL140以上高LDLコレステロール血症の診断基準(日本動脈硬化学会)[85]
120〜139境界域高LDLコレステロール血症の診断基準(日本動脈硬化学会)[85]
65〜163基準範囲(JCCLS)[87]
non-HDLコレステロールnon-HDL-Cmg/dL170以上高non-HDLコレステロール血症の診断基準(日本動脈硬化学会)[85]
150〜169境界域高non-HDLコレステロール血症の診断基準(日本動脈硬化学会)[85]
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  • この表では日本で広く用いられている日本臨床検査標準協議会(JCCLS)の共用基準範囲[87]や日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」[85]を参照しているが、海外のガイドライン等とは異なる場合がある。
  • 日本および米国ではコレステロールの検査値の単位には、通常、mg/dL が用いられるが、国際的には mmol/Lで表示されることも多い。mg/dL から mmol/L へ変換する際は 0.02586 を乗じる(コレステロールの分子量は約387である)[86][87]
  • 医療機関によっては、基準値内なら病気ではないとの誤解を避けるため、基準範囲から脂質異常症の範囲を除いた数値を参考基準値として示すことがある。たとえば、LDL-Cなら、下限を基準範囲下限の65 mg/dL、上限を高LDLコレステロール血症の診断基準未満の139 mg/dLとする[88]

結果の解釈

TCはLDL-C、HDL-Cなど各リポタンパク質のコレステロール全てを合計したものであるため、 TC高値を単独で解釈するべきではなく、LDL-C、HDL-Cの動きを参照して評価する必要がある。

TCまたはLDL-Cが高値となる場合

原発性のものとしては家族性高コレステロール血症を始めとする遺伝性高脂血症がある。 続発性のものとしては、甲状腺機能低下症胆汁うっ滞英語版ネフローゼ症候群などの他、 肥満糖尿病などでは脂質異常症がみられることがある[86]

TCまたはLDL-Cが低値となる場合

原発性のものとしては、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症、PCSK9英語版機能喪失型変異などがある。 続発性のものとしては、甲状腺機能亢進症肝硬変吸収不良症候群英語版悪液質を始めとする栄養状態不良などがあげられる[86]

HDL-Cが高値となる場合

有酸素運動や飲酒習慣で上昇する(ただし、飲酒は他の健康リスクを伴うため、HDL-Cを上昇させる目的には推奨されていない)。 原発性疾患としては、CETP(コレステロールエステル転送タンパク質)欠損症(日本人に多い)、肝性リパーゼ欠損症などがある。 (なお、HDL-Cが高値であれば常に動脈硬化性疾患のリスクが低いとは限らず、著明な高HDL-C血症では逆に動脈硬化のリスクが高い可能性がある[89][86]

HDL-Cが低値となる場合

喫煙で低下する。 原発性疾患としては、タンジール病英語版、アポA-I欠損症、LCAT欠損症、リポタンパク質リパーゼ欠損症、アポC-II欠損症などが知られている[86]。 続発性のものとしては、肝硬変甲状腺機能亢進症などがある。また、HDL-C低値に関連する病態として、虚血性心疾患、糖尿病、肥満などがあげられる[86]

脂質異常症

動脈硬化症とコレステロール

アテローム動脈硬化
動脈を切り開いたところ。内面一面は黄色のアテロームに覆われ正常な内膜(通常は無色)は見られない
動脈のアテローム硬化の顕微鏡像:白く抜けているのはコレステロール結晶が存在した跡(標本作成時にコレステロールが溶出したため)
動脈構造の模式図
内側から動脈基底膜(basement membrane;黄緑)
動脈内膜(Tunica intima;緑)
動脈中膜(Tunica media;黄橙)
動脈外膜(Tunica externa;褐色)
アテローマは内膜中で増大する
冠動脈疾患
閉塞 (1) した先の心筋 (2) が障害される

血液中のコレステロール値 (TC) は動脈硬化症と単純に結び付けて語られることが多かったが、現在はTC値そのものよりも、LDL-CやHDL-Cなどリポタンパク質に関連するコレステロール値が危険因子(リスクファクター)として重視されている。

アテローム性動脈硬化心筋梗塞脳梗塞、末梢動脈疾患など様々な疾患を引き起こし、主要な死因の要因となっている。 リポタンパク質LDL(コレステロールそのものではない)が動脈内膜に入り滞留するのがアテローム性動脈硬化の最初の段階であると考えられている。内膜に滞留したLDLは酸化・変性して炎症を惹起するとともにマクロファージに貪食されて泡沫細胞アテローム性プラークの形成に関与する[注 21]。逆にリポタンパク質HDL(コレステロールそのものではない)は、動脈硬化巣を含む末梢組織からコレステロールを除去する作用があると考えられている[90]。 詳細は、動脈硬化アテローム性動脈硬化アテローム脂質異常症体内輸送およびリポタンパク質変性LDL血中コレステロールを参照のこと。

冠動脈疾患 (CHD) とコレステロール

総コレステロール(TC)が冠動脈疾患狭心症心筋梗塞など)の危険因子であることは確立されている。 約100万人のデータを対象としてメタ解析で、総コレステロール 1 mmol/L(約38.7 mg/dL)上昇による冠動脈疾患のリスク比[注 22]は、男性で 1.24、女性で 1.20 と報告されている[91]。日本人を対象とした研究においても、総コレステロールが220 mg/dL以上では、冠動脈疾患死亡のハザード比は 1.55 倍とされている[85][注 22][92]。 しかし、近年の日本および海外のガイドラインでは、総コレステロールではなく、 LDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、non-HDLコレステロール(non-HDL-C)などのコレステロール分画を 動脈硬化性疾患のリスク評価や管理目標に用いるのが一般的である[85][93]

LDL-C(俗称「悪玉コレステロール」)は、動脈硬化性疾患を引き起こす最も重要な危険因子である[93]。 日本人では、LDL-C 30 mg/dL上昇の冠動脈疾患発症のハザード比は、男性で 1.3 倍、女性で 1.25 倍と報告されている[85][94]。 また、治療によるLDL-C低下が動脈硬化性疾患のリスクを低減させることは確立されており[93]、 日本(2022年)および米国(2026年)のガイドラインではLDL-C値が管理目標値として設定されている[93][85]

non-HDL-Cは、LDL-Cに加えて、レムナントリポタンパク質[注 17]などその他の動脈硬化惹起性リポタンパク質(アポB[注 23]を含むリポタンパク質)のコレステロールを含む指標であり、日本人において、心筋梗塞発症予測能はLDL-Cと同等であり、総コレステロールより優れていたと報告されている[85]。また、高中性脂肪血症のある例や糖尿病において、LDL-Cをコントロールした後の残余リスクの評価に有用とされる[85]。non-HDL-CもLDL-Cに準じて、管理目標値が設定されている[93][85]

HDL-C(俗称「善玉コレステロール」)は、観察研究において[注 24]、低値は冠動脈疾患のリスクと関連するとされている。 日本人においても、HDL-C 40 mg/dL未満では冠動脈疾患発症リスクが上昇することが報告されている[85]。 ただし、HDL-Cについては、単純に「高ければ高いほど良い」とは言えず、 HDL-C 90 mg/dL以上の著しい高値では、逆に、冠動脈疾患や脳梗塞の死亡リスクが上昇することが報告されている[85][95]。 (HDL-Cの著高値は飲酒者でよく見られることから、飲酒による動脈硬化リスクの上昇を反映している可能性も指摘されている[85]。) また、総コレステロール高値または中性脂肪高値を伴わないHDL-C低値単独では冠動脈疾患や脳卒中のリスク因子にならないとの報告もあり[25][85]、 HDL-CとHDLの抗動脈硬化作用の関係は単純ではない[85]

さらに見る リスク区分, LDL-C目標値(mg/dL) ...
日本の脂質管理目標値の概要(動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版)[85]
リスク区分LDL-C目標値(mg/dL)non-HDL-C目標値(mg/dL)中性脂肪目標値(mg/dL)HDL-C目標値(mg/dL)
一次予防(低リスク) 160未満 190未満 空腹時150未満
(随時175未満)
40以上
一次予防(中リスク) 140未満 170未満
一次予防(高リスク) 120未満 150未満
一次予防(特に高いリスク) 100未満 130未満
二次予防(既往あり) 100未満 130未満
二次予防(特に高いリスク) 70未満 100未満
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  • まずLDL-Cの管理目標値を達成し、次いでnon-HDL-Cの管理目標値達成を目指すとされる。HDL-C低値については、薬物治療ではなく、基本的に生活習慣の改善で対処するものとされている。
  • リスク評価は「久山町研究によるスコア」(年齢・性別・収縮期血圧・糖代謝異常(糖尿病以外)・LDL-C・HDL-C・喫煙有無から算出)などによる。詳細は文献[85]および日本動脈硬化学会の計算サイト参照。
  • 一次予防の「特に高いリスク」は糖尿病に末梢動脈疾患、細小血管症(網膜症など)合併、または喫煙ありの場合を指す。二次予防の「特に高いリスク」は、急性冠症候群、家族性高コレステロール血症、糖尿病、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞合併の4病態の何れかを合併する場合[85]
さらに見る リスク区分, LDL-C<100 mg/dL non-HDL-C<130 mg/dL ...
米国のリスク区分別LDL-C/non-HDL-C管理目標値より一部を抜粋
(2026 ACC/AHAガイドライン)[93]
リスク区分LDL-C<100 mg/dL
non-HDL-C<130 mg/dL
LDL-C<70 mg/dL
non-HDL-C<100 mg/dL
LDL-C<55 mg/dL
non-HDL-C<85 mg/dL
一次予防 中等度リスク以下 高リスク 該当せず
糖尿病 リスク因子なし リスク因子あり 該当せず
二次予防(既往あり) 該当せず 特に高いリスク以外 特に高いリスク
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胆石症とコレステロール

胆石

胆汁の中のコレステロールは胆汁酸やリン脂質により混合ミセルを形成して溶解しているが、胆汁構成成分のバランスが崩れたときにコレステロールが沈殿してコレステロール胆石を形成することがある[60][97]胆石症は通常は無症状であるが、胆石により胆嚢頸部や胆管の閉塞が起こると胆石疝痛胆嚢炎胆管炎膵炎閉塞性黄疸などを来すことがある[97]。 胆石のうち、約7割がコレステロール結石であり、残りの大部分はビリルビンに由来する色素結石である[60]。コレステロール結石は胆汁酸のうちのウルソデオキシコール酸(やケノデオキシコール酸)を経口服用することにより溶解する場合がある(経口胆石溶解療法)。しかし、適応例は多くなく、近年はあまり行われない[97]。 (#異化・排泄と腸肝循環の節も参照。)

がんとコレステロール

コレステロールとがんの関係は複雑であり、疫学研究の結果も一貫していない[98]。現状では、食事からのコレステロール摂取や脂質異常症の予防・治療において、がんとの関係を特別に考慮する必要があるとは一般的には考えられていない[93][28]

がんとコレステロールの生化学

コレステロール自体に明確な発がん作用があるとはされていないが、コレステロールやその代謝産物は、既に生じたがんの増殖(膜合成、シグナル伝達)や浸潤・転移・アポトーシス回避などには重要な役割を果たすと考えられている。 がん細胞においてはコレステロール合成や取り込みが亢進していると報告されており、がん細胞内のコレステロール代謝ががんの増殖や進展に関与する可能性が示唆されている。また、血中コレステロールの高値ががんの増殖や転移を促進しうる可能性についても検討されている[98][99][100]

コレステロール高値とがん

観察研究においては、 前立腺がんなど、一部のがん種とコレステロール高値の関連を示唆する報告[101]もあるが、がんとコレステロール値の関係を認めない報告も多い[98][102]。 関連があるとしても、交絡因子(たとえば、発がんとコレステロール高値をともに促進するライフスタイル)の影響を否定することは困難であり、 因果関係についての結論は出ていない[98][100]

コレステロール低値とがん

肝細胞がんなど一部のがんについては、観察研究でコレステロール低値との関連が報告されることがある[103][104]。 しかし、コレステロール低値は、がん発症前の病態によるもの(たとえば、肝細胞がんの多くは肝硬変など肝臓のコレステロール合成能が低下しうる病態を背景に発症する)、 または、診断前のがんの有害作用による栄養障害の結果とも解釈されている。現在のところ、コレステロール低値そのものががんのリスクを高めるとは一般的には考えられていない[101][98][102]

スタチンとがん

高コレステロール血症で広く使われているスタチンは、がんのリスクを高めないと考えられている[105][106]。 また、コレステロール代謝ががんの進展に関与している可能性から、スタチン等によりコレステロールを低下させることががんの発症予防や予後改善に有用かどうかも検討されているが、 観察研究の結果は一貫しておらず、現状では、がんの予防や治療を目的として積極的にスタチンを投与することを推奨するに足る証拠はない[98][106][107]。 米国の2026 ACC/AHAガイドラインでは、がん患者においても動脈硬化性心血管疾患予防目的のスタチン投与を行うことができるとしている[93]

低コレステロール血症

血中コレステロール基準値を下回る状態を低コレステロール血症(低脂血症)と呼ぶ。 低コレステロール血症の多くは、肝硬変などの重症肝障害、栄養状態不良悪性腫瘍などに続発するものであり、原発性の低コレステロール血症はまれな遺伝性疾患である[70]

寿命とコレステロール

寿命・総死亡リスクとコレステロールの関係は複雑であり、解明されていない点も多い。

寿命と総コレステロール

観察研究では、総コレステロールと死亡の間にはU字型の関係が報告されている。すなわちコレステロールの高値と低値の両方が死亡リスクに関連するとの報告が多い[108]。 高齢者においては、コレステロール高値が死亡リスクと逆相関するとの観察研究結果がしばしば報告されている[109]

疫学的には、コレステロール低値は、がん、うつ状態、脳出血、感染症と関連することが指摘されており、その生理学的機序としては、膜や血管の安定性、神経ステロイドの合成、免疫能への影響などの仮説が提案されている。しかし、コレステロール低値でみられる死亡リスクの上昇は、むしろ、コレステロールの低下を伴う慢性疾患や栄養状態不良などによるもので、コレステロール低値は原因ではなく結果である可能性が指摘されている(コレステロール低値が死亡リスクに強く結びついているのは全身機能低下の著しいグループであるとの報告もある[110])。

寿命とLDL-コレステロール

LDL-コレステロール(LDL-C)は、俗に「悪玉コレステロール」と呼ばれることがあり、動脈硬化性心血管疾患のリスク因子である。 ランダム化比較試験により、LDL-C低下療法が動脈硬化性心血管疾患を減少させることが示されている[93]。ただし、総死亡への影響は、年齢、心血管疾患の既往の有無、基礎疾患、併用薬、その他のリスク因子などにより、異なると考えられる。

メンデルランダム化研究[注 25]においても、一般人口でのLDL-C高値と死亡リスク上昇の関連が報告されている[111]。(なお、メンデルランダム化研究でも、LDL-Cは心血管疾患と相関するが神経変性疾患とは逆相関し、総死亡とは関連しないとの報告もある[112]。LDL-Cと死亡リスクとの関係は単純ではないと考えられる。)

60歳以上の高齢者におけるLDL-Cと死亡リスクの関係の系統的レビューでLDL-Cは死亡とは逆相関(ないしは無関係)との報告[113]もあるが、この報告の解釈には方法論上の批判もある。すなわち、生存者バイアス[注 26]、併存疾患や栄養状態、治療介入、逆因果関係などの影響を考慮する必要が指摘されている[114]。 コレステロール低値と死亡リスク上昇の関係と同様に、LDL-C低値は慢性疾患や栄養状態不良の結果であり、それが寿命短縮につながっている可能性も指摘されている[114][110]

コレステロール低値と全死亡リスクの関連を解釈する上で、観察期間中のスタチン治療の影響の有無が問題になるが、スタチンを使用しない場合にU字型、すなわち、 高値と低値で死亡リスクがあるとの報告がある[115]。また、無作為化試験では、スタチンPCSK9阻害薬などでLDL-Cを低下させても、少なくとも試験期間中には、観察研究でコレステロール低値との関連が疑われたような病態の増加は示されていない[108][116]。 現在のところ、動脈硬化性心血管疾患の治療においては、試験で到達された程度のコレステロール(LDL-C)低下は有害とみなす根拠はないが、 ポリファーマシーの問題やリスク・ベネフィットを考慮すると、 どのような高齢者において脂質降下療法が有用であるかについてはさらなる研究が必要と指摘されている[93][114]

寿命とHDL-コレステロール

HDL-コレステロール(HDL-C)は、俗に「善玉コレステロール」と呼ばれることがあり、高いほどよいと考えられがちである。 しかし、観察研究では、U字型の関係、すなわち、HDL-C低値のみならず、著しい高値においても、心血管疾患による死亡や全死亡リスクの増加が報告されている[117][118][119]。その理由としては、大量飲酒によるHDL-C高値群で大量飲酒の有害作用が影響している可能性、HDL-CとHDL機能は別であり著しいHDL-C高値はHDL機能不全の徴候である可能性や、HDLの免疫・炎症調節機能が関連している可能性などが提案されている[119][117]

なお、HDLの主要アポリポタンパク質であるアポA-Iについては総死亡リスクやがん死リスクと逆相関するとの報告もある[112]

食事性コレステロールと健康

卵黄には多量のコレステロールが含まれる

コレステロールは必須栄養素ではなく、体内のコレステロールの過半は肝臓で合成されており、食事から吸収される外因性のコレステロール量は体内で合成される量の三分の一から七分の一程度とされる。また、生体には恒常性を保つ調節機構があり、コレステロールの経口摂取量が増えても、肝臓でのコレステロール合成がフィードバック機構により抑制されるため、健康な成人であれば体内におけるコレステロール量は大きくは変化しにくい(個人差はある)[28]。逆に、食事からコレステロールを取らなかったとしても脂肪炭水化物などを摂取すれば体内でアセチルCoAからスクアレンを経てコレステロールに転換されることになる[120][85]

食物由来コレステロール

食物由来コレステロールのほとんどは動物性食品に由来する。たとえば、卵黄(約1200 mg/100 g)、するめ(乾物; 約980 mg/100 g)、エビ類(約 170 mg/100 g)などがあげられる[121]。卵黄に多量に含まれるため、卵の摂取量と血中コレステロールや心血管疾患との関連については、多数の研究がある(後述)[122][123][124][125]

植物性食品(亜麻仁種子やピーナッツ)では、コレステロール類似化合物のフィトステロールが含まれ、腸管でのコレステロール吸収を阻害することにより、血中LDL-コレステロール(LDL-C)量を下げるとされている[126]

さらに見る 食品番号, 食品名 ...
食品に含まれるコレステロールと脂肪酸(可食部100 gあたり)
「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」[121] 第2章本表[127]および脂肪酸成分表編第2章第1表[128]より抜粋
食品番号食品名エネルギー
(kcal)
コレステロール
(mg)
飽和脂肪酸
(g)
一価不飽和脂肪酸
(g)
多価不飽和脂肪酸
(g)
12010卵黄(鶏卵、生)33612009.3913.004.54
10353するめ(乾物)3049800.600.120.89
10057たたみいわし3487101.531.411.35
12020ピータン1886803.068.191.64
10032あんこう(きも、生)4015609.2914.1511.88
10141すじこ2635102.724.026.17
12002うずら卵(全卵、生)1574703.874.731.61
12004鶏卵(全卵、生)1423703.124.321.43
11166豚レバー(生)1142500.780.240.76
14017バター(有塩)70021050.4517.972.14
10321えび(くるまえび、養殖、生)901700.080.050.12
17043マヨネーズ(卵黄型)66814010.3727.6931.54
11221鶏肉(もも、皮つき、生)190894.376.711.85
11130豚肉(もも、脂身つき、生)171673.594.241.24
11019牛肉(和牛肉、もも、脂身つき、生)235756.019.510.54
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食事性コレステロール摂取量と健康

コレステロール摂取量の現状

日本人成人のコレステロール摂取量の中央値[注 27]は、男性 370 mg/日、女性 321 mg/日とされる(平成30年・令和元年国民健康・栄養調査)[28]

コレステロール摂取量は世界的には大きなばらつきがあるが、日本人は摂取量上位グループに属する。 NutriCoDE(世界の疾病負荷(GBD)栄養・慢性疾患専門家グループ)による2010年の集計では、世界各国のコレステロール摂取量は最低の 97 mg/日(バングラデシュ)から最高の440 mg/日(ルーマニア)と大きなばらつきがあり、平均は 228 mg/日であった。日本は347 mg/日で、米国の296 mg/日を上回っていた [129]。 日本人のコレステロール摂取量が比較的多い理由の一つとして卵の摂取の多さがあげられている[130]

コレステロール摂取量と血中コレステロールの関係

コレステロールは体内で12〜13 mg/kg/日(体重50kgなら600〜650 mg/日)程度合成されている。経口摂取したコレステロールは、およそ半分が吸収される(個人差が大きい)[41]。すなわち、食事から吸収されるコレステロールより体内で合成される量の方がはるかに多い。さらに経口摂取の増減に適応してコレステロール合成も増減するため、コレステロール摂取量と血中コレステロールの関係は単純ではない[131]

コレステロール摂取が増加すると血中コレステロールも増加する傾向があり、欧米の研究のメタ解析では、コレステロール摂取量が100 mg/日増加すると血中コレステロールが2.2〜2.56 mg/dL増加[131]、血中LDL-Cが1.9〜4.6 mg/dL増加[132][133]すると報告されている。

ただし、コレステロール摂取の変動に対する血中コレステロールの変動の大きさは、遺伝的要因や日常の食事パターンにより、個人差が大きい。コレステロール摂取量が多い状況では、さらにコレステロールを増やしても血中濃度の上昇は鈍ってくる[131][133]。脂質異常症ではコレステロール摂取の増加によりLDL-Cが上昇しやすい傾向が指摘されている[134]。 また、日本におけるINTERLIPID研究では、教育程度が低く雇用されていない集団でのみコレステロール摂取量と血清LDL-Cの関連が認められる一方で、 教育程度が高い被雇用者(会社員等)においてはコレステロール摂取量と血清LDL-Cの逆相関がみられ[135]、 健康意識による因果の逆転(血中コレステロールが高いのでコレステロール摂取を控えている)の存在も疑われている[28]

コレステロール・飽和脂肪酸・トランス脂肪酸

血中LDL-C値上昇には、コレステロール摂取量そのものよりも飽和脂肪酸トランス脂肪酸の摂取量の影響のほうが大きいことが多くの研究で示されている[136][137]。 例えば、卵2個を含む高コレステロール低飽和脂肪酸食(EGG)と卵を含まない低コレステロール高飽和脂肪酸食(EGG-FREE)のクロスオーバー試験では、EGGでのみLDL-C低下が認められている[138]。 また、LDL-Cは、食事の飽和脂肪酸由来のエネルギーの5 %を多価不飽和脂肪酸に変更することにより 10.5 mg/dL低下、 一価不飽和脂肪酸に変更することにより 8.0 mg/dL低下、 炭水化物に変更することにより 6.5 mg/dL低下するとされる。機序としては肝臓のLDL受容体発現の増加があげられている[137]

トランス脂肪酸については、LDL-C/HDL-C比への悪影響(上昇)が飽和脂肪酸の2倍程度大きいとされる[28]。日本人のトランス脂肪酸摂取量はエネルギー摂取量の 0.3 %程度と欧米に比較して少ないが、海外ではエネルギー摂取量の1 %未満が推奨されている[28]

コレステロール摂取量と心血管疾患

前述のように、コレステロール摂取量が増加すると血中LDL-Cも増加する傾向があるので、心血管疾患のリスクも増大する可能性が考えられる。 しかし、実際には、食事性コレステロール量と心血管疾患のリスクの一貫した関連は示されていない。

観察研究では、食事性コレステロール量と心血管疾患のリスクは関連しないとする報告が多い[139][28]。 一方で、コレステロール摂取量と心血管疾患や死亡のリスクが関連するとの報告[140][141][注 28]もあるが、因果関係は確立されておらず、観察されたリスクはコレステロールの量そのものよりは食品や食事パターン全体(例えば飽和脂肪酸の多さなど)の影響を反映している可能性が指摘されている[139][93]

近年のガイドラインでは、食事からのコレステロール摂取量だけに注目するのではなく、健康的な食事パターンを重視する傾向にある[136][139][28][85]

コレステロール摂取に関する過去のガイドライン

かつては食事性コレステロール量のコントロールが動脈硬化性心血管疾患の予防において重視され、 国内外のガイドライン等では健常人の食事性コレステロール量の上限が目標量として設定されていた。 例をあげれば、2003年の世界保健機関による生活習慣病予防に関する報告書では、1日のコレステロールの摂取目標を300 mg未満と設定している[142]アメリカ合衆国農務省保健社会福祉省の"Dietary Guidelines for Americans 2010"では、健康な人の場合 300 mg/日 未満が推奨されていた[143]。また、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では、コレステロールの摂取目標量の上限は、成人男性で1日当たり750 mg、成人女性で600 mgと設定されていた[131][注 29]

コレステロール摂取に関する近年のガイドライン

近年の海外のガイドライン(たとえば、アメリカ心臓協会の「2026年版心血管健康向上のための食事ガイダンス」[136]や米国の「2026年版脂質異常症管理ガイドライン」[93])は、コレステロール摂取量の制限を一義的な目標とはせず、むしろ、健康的な食事パターンが重視されるようになってきている。 その理由としては、以下の三点があげられている[136][139]

① 観察研究では、一般に、食事性コレステロール量と心血管疾患のリスクの有意な相関はみられない。

② 血中コレステロールには、食事性コレステロール量そのものよりも、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取量の影響が大きい。

③ 食事性コレステロール量の制限を実行するのは煩雑であるが、健康的な食習慣(たとえば地中海食DASH食[注 30])を採用することにより、コレステロール含有量が相対的に少なくなるので、間接的にコレステロールの制限も達成できる。

なお、アメリカ心臓協会は、心血管系の健康を推進する健康的な食事パターンとして、適切な体重を維持できるエネルギー量を基本に、野菜・果物、魚介や植物性のタンパク質、全粒粉食品、不飽和脂肪酸の摂取を勧め、一方で、砂糖、食塩、超加工食品、アルコールなどを控えることを推奨している。また、健康的な食事には適度の卵の摂取を含めることができるとしている[136]

近年の日本のガイドライン

近年は、日本においても、健常人に対するコレステロール摂取の目標量は設定されていない。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、食事性コレステロールに目標上限量は設定していない。 理由として、コレステロールの大部分は体内で合成されており、摂取量と血中コレステロール値の関連について明確な閾値は知られておらず、 また摂取量と循環器疾患の発症や死亡についての疫学研究では一貫した関連が示されていないことをあげている [注 31]。 ただし、脂質異常症の重症化予防目的では、日本動脈硬化学会のガイドラインに従い、 コレステロール摂取量を200 mg/日未満に留めることが望ましいとしている[28][85]

日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版」は、 高LDL-C血症患者については、飽和脂肪酸を摂取エネルギー比率7%未満とし、コレステロール摂取量を 200 mg/日未満とすることを推奨している。 健常人(高LDL-C血症がない場合)については、目標量を設定する科学的根拠は不十分とし、 コレステロール摂取を低めに抑えることを推奨するにとどめている[85]

卵の位置づけ

鶏卵はコレステロール含量が多く、ばらつきはあるが、中ぐらいの大きさのもので1個あたり225 mg前後のコレステロールを含んでいるとされる[144][注 32]。 かつてのガイドラインは1日コレステロール摂取量の制限を重視していたことから、卵の摂取を避けることが推奨されることがあった[145]。しかし、観察研究においては、卵摂取量と心血管疾患の関連は一貫していない[146]。卵の摂取の血中脂質への影響は飽和脂肪酸の量などの食事のパターンに大きく左右されるとも考えられている[146]。メタ解析では、1日1個程度までの卵消費は心血管疾患のリスクとは関連せず、アジア人ではむしろ保護的な作用の可能性が指摘されている[147]

近年は、コレステロール摂取量そのものよりも健康的な食事パターンが重視されるようになり、脂質異常症のない健常人には適度の卵の摂取が心血管疾患リスクを増加させる明確な根拠はないと考えられるようになっている[136]

年表

ディールスの炭化水素

脚注

関連項目

外部リンク

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