ミャンマーの錫
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錫鉱石の生産量割合(2022年)
ミャンマーにおける錫採掘と精錬は、ミャンマー人と中国人によって古くから行われており、1599年には既に活動が報告されている。1839年には、タニンダーリ地方域ダウェイ近郊で錫鉱床が発見され、その後、カレンニー州でマウチ鉱山(Mawchi Mine)が発見された[1]。
イギリス植民地下でミャンマーの鉱業は機械化と大規模化が進展し、主に輸出向けにマウチ鉱山など錫とタングステンの主要鉱山も開発された。第一次世界大戦中、ミャンマーは徹甲弾や軍需用超硬合金の原料として用いられるタングステンの重要な生産国となった。続く日本統治下でもマウチ鉱山の操業は続けられた[1]。
1948年に独立した後も、錫やタングステン鉱山の採掘および輸出は継続していたが、1962年ビルマクーデターの後、「ビルマ式社会主義」体制が成立すると、すべての鉱山が政府の管理下に置かれた。しかし、鉱山の責任者には技術者や専門の行政官ではなく軍人が任命されることが多く、採掘は著しく非効率化し、生産量は低迷した[1]。
8888民主化運動弾圧後、ミャンマー軍(国軍)は国家法秩序回復評議会(SLORC)を設立し、のちに国家平和発展評議会(SPDC)へ改組した。この時期、西側諸国から経済制裁を受けていたSLORC/SPDCは、改革開放路線を推進し、外国からの投資を呼び込んだ。1994年には新たなミャンマー鉱山法が制定され、民間企業や鉱山協同組合が政府と合弁で鉱物の採掘を行うことを可能にし、外国企業や先住民族が特定の鉱山に少数出資する道が開かれた[2]。

その後、2009年から2014年にかけて、ミャンマーの錫生産は約4900%増加し、世界の錫生産の約10%を占めるにいたり、世界第3位の錫生産国に躍り出た。その大半が中国に輸出されているとされる[1]。
2022年、中国が輸入した錫精鉱約4万8,000トンのうち、およそ3分の2にあたる約3万2,000トンがミャンマー産であったと推定されている。一方、同年のミャンマー国内の錫鉱石生産量は約4万トンと推計されており、その約70%がワ州(ワ自治管区)で産出されたとされる[3]。
生産地
マウチ鉱山
2021年ミャンマークーデター以前、国軍系企業コングロマリットであるミャンマー・エコノミック・ホールディングス・リミテッド(MEHL)傘下のカヤー州鉱物生産会社(Kayah State Mineral Production Company:KMPC)が運営していた。しかし、2002年から2019年までのマウチ鉱山の鉱石生産量は累計8,410トン、年平均467トンにとどまり、最盛期であった植民地期の大規模操業と比べると、生産規模は大幅に縮小している[4]。
2024年1月、マウチ鉱山はカレンニー諸民族防衛隊(KNDF)の支配下に入ったと報じられた[5]。
ダウェイ錫地区
ダウェイ周辺には100以上の鉱山があるとされ、また、砂錫鉱床での採掘も行われている。ダウェイの北東25kmに位置するヘインダ鉱山は、100年以上にわたり操業を続けてきた大規模な露天掘りの砂金錫鉱山で、現在も主要な生産量を誇る。1999年以降、タイ企業のミャンマー・ポンピパット社(Myanmar Pongpipat Company)によって運営されていたが、2019年に同社の操業許可は失効し、現在はMEHLとミャンマー経済公社(MEC)の管理下にあるとされる[1][6]。
シャン州・ワ州
ナムカム、ムセ、モントン、モンサッに中・小規模な錫鉱床があり、生産された錫は中国に輸出されているとされる[1]。
また、ワ州には州都であるパンサンから南(約90km)に位置するマンモー鉱山(Man Maw Mine)は、敷地面積は約100平方キロメートルに及ぶとされる。同鉱山では2010年頃から採掘活動が活発化した。単一の鉱区であるものの、複数の小規模鉱山会社が操業している[1][7]。
鉱床は主に一次鉱石から構成されており、露天掘りでは錫品位[注釈 1]1~2%、坑内掘りでは局所的に最大40%に達する高品位鉱石が産出すると報告されている。年間生産量は錫含有量換算で約3万トンに達すると推定されており、ワ州には精錬能力がないので、生産された鉱石の大部分は、粉砕鉱石(通常錫品位約10%)または半加工精鉱(錫品位20~25%)の形で中国へ輸出されているとされる[1][3]。
2023年8月以降、ワ州では、違法採掘取り締まりを目的として、錫鉱石の採掘・加工が全面停止された。この発表を受けて錫の供給懸念が高まり、中国国内の錫価格が急騰し、停止直後、ロンドン金属取引所(LME)における錫価格は1トンあたり3万6000ドルを超えた[3][8][9]。2025年に入ってから、錫採掘が徐々に再開されていると報じられているが、その際、ライセンス料が大幅に引き上げられたので、小規模採掘が排除され、その多くが中国系の大手企業に経営権が集中しているとされる[10][11][12]。
採掘
ミャンマーには、多くの鉱脈型鉱床と砂錫鉱床があり、河川や川底の砂利中には錫石(錫鉱石)が高濃度で沖積している。沖積鉱床は初生鉱石の粉砕を必要としないため、手掘り採掘者にとってアクセスしやすく、シャベルや小型掘削機による簡易な採掘が可能である。採掘後、錫は水門や振動台を用いた重力分離によって濃縮される[13]。
錫精鉱回収の際に用いられる重力分離法は化学薬品を使用しせず、代わりに水が使用され、人体に対する有害性はない。ただし、錫がタングステンと共存する鉱床では、分離のために浮選や磁気分離が必要となり、一部の工程では化学物質が使用され、環境が汚染されることがある。タングステンを適切に分離できれば、有価な副産物となる[13]。
このように、錫精鉱回収の際に大量の水が必要となるので、錫採掘は季節に左右される。即ち、乾季の終わり(4月上旬)には水が不足し、雨季には大量の降雨があるため、地下採掘場が浸水し、沖積採掘が不可能となる。そのため、錫の生産と選鉱は年間8ヶ月間しか行われず、残りの4ヶ月間は休止期間または備蓄期間となっている[1]。
ヤンゴンには、第2鉱山公社が運営する国内唯一の製錬・精錬施設があるが、稼働は断続的で、そのため、ミャンマーで採掘された錫精鉱の大半は、合法違法を問わず、製錬・精錬のためにタイ、マレーシア、または中国に輸出されている[13]。