ミャンマーの森林破壊
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森林分布
ミャンマーには、地形や降水量の地域差を反映したさまざまな種類の森林が分布している。常緑林は主に南部の多雨地域や山岳地帯の低~中標高域に分布し、森林面積の約15~20%を占める。落葉樹林は国内で最も広く分布する種類の森林で、全森林面積の約40%を占める[1]。
乾燥林および落葉フタバガキ林は、アニャーと呼ばれる中央乾燥地帯を中心に分布し、合わせて森林面積の約15%を占める。北部および東部の丘陵地帯には、丘陵地・温帯常緑林が分布しており、森林面積の約25%を占める[1]。
また、エーヤワディ・デルタおよび沿岸部にはマングローブ林が分布している[1]。
ミャンマーでは森林はすべて国有で、その国有林のうち相当部分が木材生産を目的とする生産林として区分されている。国連食糧農業機関(FAO)の森林資源評価(FRA2020)によれば、生産林の森林面積は約2,000万ヘクタールで、その大半は天然林である。人工林の面積は限定的で、総森林面積に占める割合は数%程度にとどまる[2]。
林産物
ミャンマーの主要な林産物は木材で、天然資源・環境保全省(英語版)(MONREC)傘下のミャンマー木材公社(英語版)(MTE)が、木材の伐採・流通・輸出の過程を一元的に管理している。制度上、輸出用木材は、ヤンゴン港にある3つの港(Myanmar Industrial Port、Asia World Container Port、Myanmar International Terminal)からのみ輸出が認められており、陸路での木材輸出は違法である[1][3]。2023年の主要輸出先は中国、インド、トルコで、かつて多かったタイへの輸出は減少傾向である[4]。
輸出の対象となっている木材は、主に天然林から産出される高級広葉樹である。代表的な樹種としては、チーク(Tectona grandis)のほか、ピンカド(Xylia dolabriformis、Xylia kerri)、パダウ(ビルマカリン)またはローズウッド類(Pterocarpus macrocarpus)、タウッチャン(Terminalia tomentosa)などである。制度上は、2014年4月以降、原木(丸太)の輸出は禁止されており、これらの木材は、製材品や加工品で輸出されている[1][3]。
進行する森林破壊
ミャンマーでは人口の70%以上が農村部に居住しており、食料、飼料、住居資材、燃料などを森林資源に大きく依存している。このため、違法伐採、焼畑農業、薪炭材利用などを背景として、森林破壊および森林劣化が長期的に進行してきた[5][6]。
特に1988年以降、8888民主化運動の際の弾圧をきっかけに、西側諸国から経済制裁を受けたことは、森林破壊を加速させた。外貨不足に陥った国家法秩序回復評議会(SLORC)は、外資の導入、国境貿易の開設を進めるとともに、チーク材、翡翠、宝石、天然ガスなどの天然資源を中国やタイに積極的に輸出する政策を採用。その結果、公式の管理が行き届かない紛争地帯である中緬国境および泰緬国境において、木材の違法伐採、過剰伐採が拡大したとされる[7]。
国連食糧農業機関(FAO)の統計によれば、ミャンマーの森林面積は1990年以降、一貫して減少傾向にある。1990年には森林面積約3,920万ヘクタール、森林被覆率57.9%であったが、2020年には森林面積約2,850万ヘクタール、森林被覆率42.2%にまで低下した。特に1990年代の減少が著しく、この期間には年間約43万ヘクタールの森林が失われていた[5][6]。
その後、森林減少率はやや低下したものの、2015年以降も年間約29万ヘクタール規模の森林減少が続いており、森林資源の回復には至っていない。こうした状況から、ミャンマーは世界でも森林破壊の進行が著しい国の一つとされている[5][6]
北部(カチン州、シャン州北部)
カチン州

1994年2月24日、ミャンマー軍(国軍)とカチン独立機構/独立軍(KIO/A)との間で停戦協定が締結された。カチン州の支配地域における経済的自由を認められたKIO/Aは、翡翠、金などの鉱物資源の採掘を重要な資金源とするようになった。一方で、KIO/Aの支配地域では森林資源の多くがすでに枯渇しており、KIO/A自体は大規模な伐採は行っておらず、通過する木材輸送車両[注釈 1]から通行税を徴収することにより、木材取引に関与していると指摘されている[9]。
カチン州には、他にもカチン新民主軍(NDA-K)(2009年に国境警備隊に改組)、カチン防衛軍(KDA)(2009年にコンカー民兵に改組)という親軍派のカチン族の武装組織があり、いずれも支配地域内で伐採を含むさまざま経済活動に関与しているとされる[9]。
ただ、右地図から明らかなように、カチン州の大半は国軍支配地域であり、国軍の部隊のほか、森林局、警察、税関、入国管理当局などのさまざまな国家機関が、伐採から公式・非公式に利益を上げていたとされる。具体的には、伐採許可の発給をめぐる手数料や賄賂の徴収、検問所における通行税の徴収などが挙げられる[9]。
このように、複数の武装組織および国家機関が木材取引から利益を得る機会を得た結果、カチン州では違法伐採および違法な密輸出が広範に行われるようになった。国際NGOであるグローバル・ウィットネスの調査によれば、カチン州から中緬国境を越えて中国に輸出された木材の約98%は違法な密輸であったとされる。制度上、木材の合法的な国境輸出地点はムセに限定されているにもかかわらず、実際には複数の公式・非公式のルートおよび国境検問所を通じて、中国側へ木材が搬出されていると報告されている[9]。
シャン州北部(ワ州)
ワ州連合軍(UWSA)が支配するワ州でも、違法伐採および密輸出が広範に行われていると指摘されている。この際、伐採に対するUWSAの関与は限定的で、実際はUWSAから許可を得た中国系企業が、違法または過剰な伐採を行い、ムセを通過せず、違法なルートおよび国境検問所を通じて中国側へ木材が搬出されているとされる[10]。
地元住民や村人は伐採地への立ち入りを拒否され、木材の販売も禁じられているとされるが、当局による報復を恐れ、苦情を申し立てることができない状況にあるという。また、良質な森林の喪失により、湧水の枯渇、土壌汚染および河川の水質悪化が進行し、水産資源の減少も指摘されている。さらに、森林破壊は地滑りや鉄砲水、森林火災といった自然災害の頻発を招いているとも報告されている。 2005年に公表されたグローバル・ウィットネスの報告書では、この時点でUWSA支配地域内の森林資源はほぼ枯渇していたと指摘されている[10]。
東部(カレン州など)
1989年1月、森林破壊で原因で発生した大規模な洪水が原因で、タイでは泰緬国境地帯の森林伐採が禁止された。1988年12月から1989年末にかけての交渉で、SLORCは、新たな森林資源を求めていたタイ政府高官およびタイ軍高官が関与するとされるタイ企業に、1万8800平方キロメートルに及ぶ伐採権を売却し、1億1200万ドルの外貨収入を得たとされる[11]。
この伐採権の多くは、カレン民族同盟(KNU)、カレンニー民族進歩党(KNPP)、新モン州党(NMSP)などの反政府武装勢力の支配地域内に位置していた。しかし、当時、これらの武装組織は慢性的な財政難に直面しており、支配下にある豊富なチーク材などの広葉樹林へのアクセスを求めるタイ側の需要に応じることで、資金を確保せざるを得なかったとされる。ただ、その見返りとして、KNU、KNPP、NMSPは、タイの木材業者との提携を通じて伐採事業からの収益の一部を得るようになった[11]。
さらに、伐採による収益性を認識した反政府武装勢力の一部将校は、独自に伐採権を付与し、地元木材商と非公式な取引を行うようになった。この結果、反政府武装勢力とタイ企業、さらにはSLORCとの間で複雑な利害関係が形成された。実際、1988~1989年には、反政府武装勢力支配地域で伐採された木材が、ミャンマー政府当局による検査を受け、正式な輸出許可を得てタイへ輸出される事例も確認されている[11]。
しかし、その結果、タイ企業による野放図な伐採が進み、森林破壊に伴う土壌汚染、水資源の劣化、生物多様性の喪失などの問題が生じた。事態を重く見たSLORCは、1992年7月、泰緬国境地帯における新たな伐採許可を発行しない方針を発表した。しかし、この措置は違法伐採および密輸出を完全に抑止するには至らず、その後も泰緬国境地帯ではこれらが断続的に続いていると指摘されている[11]。
中央乾燥地帯(アニャー)

ミャンマー・上ビルマの中央部、マグウェ地方域、マンダレー地方域、ザガイン地方域を中心とする、ミャンマー中央部の乾燥地帯アニャーは、人口約1,800万人を抱え、国の総人口の約3分の1が居住する地域である[12]。人口の約80%が農業に従事しており、同国の耕作可能地域の3分の2、穀物生産量の35%を占めている[13][14][15][16]。
しかし、人口増に伴う薪炭材の需要増加は、森林減少の一因となった。また、平均年間降雨量は約500〜1,000ミリメートルと比較的少ないことも、伐採後の自然回復を著しく困難にし、森林の再生速度が需要に追いつかない要因となっている。その結果、土壌の裸地化や低木・草地化が進行し、さらに、保水力の低下により干ばつの影響が強まり、農業生産や住民の生活基盤に悪影響を及ぼしているとされる[12][17]。
そのため、アニャーの森林破壊は、長年にわたり国際協力の対象となっており、SLORCは1997年に乾燥地緑化局(Dry Zone Greening Department: DZGD)を設立し、アニャーにおける森林再生・保全プロジェクトを継続的に実施している[18]。また、日本の国際協力機構(JICA)も、ODAの一環として、2002年から複数回にわたり、中央乾燥地植林計画(The Project for Afforestation in the Dry Zone)を実施してきた[19]。
しかし、2021年ミャンマークーデター後、アニャーには、国民防衛隊(PDF)の半分に相当する、約300の地域型PDFが存在すると推定されている[20]。一方、国軍派民兵であるピューソーティーの活動が活発な地域でもあり、村落は国軍派、民主派に二分され、激しい紛争地帯となっている。このような事情から先述した森林再生プロジェクトの先行きは不透明であると指摘されている[20][21]。
南部・沿岸部

エーヤワディ・デルタ地帯やラカイン州沿岸を含むミャンマー南部・沿岸部では、熱帯湿地林やマングローブ林が広く分布している。これらの沿岸林は、沿岸の高潮や風水害の緩衝、土壌保持、魚介類の生育場所などを提供する重要な環境資源とされている[22]。
しかし、2019年の衛星画像解析にもとづく調査によれば、ミャンマーのマングローブ林は1980年に約53万1,000ヘクタールであったものが、2010年には約31万2,443ヘクタールにまで減少したと推定されている。この間、1975年から2005年の年平均減少率は約1%だったものが、2000~2014年には年平均約1万4,619ヘクタール(2.2%)となっており、減少率も上昇している。この結果、ミャンマー国内のマングローブ林は過去20年間で60%以上が他用途に転換された可能性が指摘されている[23]。
森林減少の要因としては、電力供給不足を原因とする沿岸域での薪炭材・燃料用木材の採取や木材伐採、養殖池・塩田への転換、農業開発などが挙げられる[24]。
ラカイン州沿岸部では、沿岸地域の住民や国際支援団体によるマングローブの保全・再林化活動が実施されている。しかし、依然として漁業者や伐採業者による違法伐採が続いてているとの報告もある[25]。
また、エーヤワディ・デルタ地帯では、2012年からJICAによるマングローブ植林計画が実施されている[26]。
西部(ラカイン州)
ラカイン州は州の東縁を南北に走るアラカン山脈(アラカン・ヨマ)を擁しており、この山脈地帯は急峻な地形と比較的多い降水量を背景に、かつては広範な森林に覆われていた。そのため、ラカイン州はミャンマー国内でも森林被覆率の高い地域の一つとされてきた[27]。
しかし、2021年の衛星画像解析にもとづく調査によれば、ラカイン州では、2002年から2014年までの間に約10万9,024ヘクタールの原生林が失われたと推定されている。この数値は、同期間における森林損失量としては国内で2番目に大きい規模に相当する[27]。
森林減少の要因としては、輸出目的の伐採に加え、農地への転換や道路建設などのインフラ開発なども挙げられる。また、紛争の発生による当局の統治能力や森林管理の実効性の低下にかこつけた違法伐採の増加もその一因と考えらている。2010年代後半はアラカン軍(AA)、アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)の活動が活発化し、2016年と2017年には大量のロヒンギャ住民がバングラデシュへ流出するロヒンギャ危機が発生、治安の悪化と大規模な住民移動により事態はさらに悪化したと指摘されている。2021年ミャンマークーデター以降も、国軍と関係を持つ業者による違法伐採が続いていたと報じられている[28]。
2025年2月、ラカイン州をほぼ掌握したアラカン軍(AA)は、アラカン山脈とその周辺地域での伐採を3年間禁止すると発表した[29]。
脚注
注釈
- ↑ 当然、国軍、NDA-K、KDAといった他の武装組織の支配地域内で伐採された材木を輸送する車両である。
出典
- 1 2 3 4 5 “Myanmar” (英語). FGP. 2026年1月5日閲覧。
- ↑ “Global Forest Resources Assessment 2020 | Global Forest Resources Assessment | Food and Agriculture Organization of the United Nations” (英語). GlobalFRA. 2026年1月5日閲覧。
- 1 2 “合法伐採木材等に関する情報:ミャンマー:林野庁”. www.rinya.maff.go.jp. 2026年1月5日閲覧。
- ↑ “Myanmar | Imports and Exports | World | ALL COMMODITIES | Value (US$) and Value Growth, YoY (%) | 2012 - 2023”. trendeconomy.com (2024年1月28日). 2026年1月5日閲覧。
- 1 2 3 “Global Forest Resources Assessment 2025” (英語). Global Landscapes Forum. 2026年1月5日閲覧。
- 1 2 3 “Myanmar” (朝鮮語). AFoCO. 2026年1月5日閲覧。
- ↑ 桐生, 稔、髙橋, 昭雄「「ビルマ式社会主義」体制の崩壊 : 1988年のビルマ」『アジア動向年報 1989年版』1989年、[479]–512。
- ↑ Global Witness 2005, p. 56.
- 1 2 3 4 Global Witness 2005, pp. 50–67.
- 1 2 Global Witness 2005, pp. 69–71.
- 1 2 3 4 South 2003, pp. 202–204.
- 1 2 “LOST AND FOUND: Climate action enhances water & food security in the Dry Zone of Myanmar” (英語). United Nations Development Programme. 2026年1月6日閲覧。
- ↑ “Improving access to water in Myanmar's Central Dry Zone” (英語). PreventionWeb (2018年11月6日). 2025年5月14日閲覧。
- ↑ “Running dry: A window into the Dry Zone of Myanmar” (英語). UNDP in Asia and the Pacific (2018年9月12日). 2025年5月14日閲覧。
- ↑ “The Dry Zone of Myanmar: A Strategic Resilience Assessment of Farming Communities”. Mercy Corps(英語版) (2015年3月27日). 2023年4月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月7日閲覧。
- ↑ “Greening the Dry Zone”. United Nations Development Programme (2015年6月5日). 2023年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月7日閲覧。
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- ↑ “中央乾燥地植林計画(第1期)”. www.jica.go.jp. 2026年1月6日閲覧。
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- ↑ “[true://www.dmediag.com/news/forests-in-post-coup-period.html Illegal logging continues to threaten Arakan State’s forests in post-coup period]” (英語). Development Media Group. 2026年1月6日閲覧。
- ↑ “AA Enforces Three-Year Logging Prohibition in Arakan Mountains and Nearby Areas” (英語). www.narinjara.com. 2026年1月6日閲覧。
参考文献
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- A Scalable Typology of People’s Defence Forces in Myanmar. Centre on Armed Groups. (2025). https://armed-groups.squarespace.com/reports-and-articles/typology-pdfs-myanmar
