北村五郎と柴野金十は偶然知り合い、お互いの趣味趣向が一致したため意気投合する。探偵小説が好きな二人はそれぞれ作家として文壇デビューする。一躍人気作家になった退屈屋の二人は、お互いの筆名を取り換えて作品を発表したり、勝手に外国作家の名前を創作して、翻訳して発表するなど悪戯を始めたが、彼等の悪だくみを看破したものはいなかった。
ある日のこと、柴野金十が北村五郎に、新しい筋の探偵小説を書くつもりだと話す。だがその話は、北村が柴野に以前話した筋だった。指摘されるまで忘れていた柴野は、北村に『空気男』と渾名を付けられる。
一方で、柴野の知合いである河口という挿絵画家の身の上に、不思議な事件が起っていた。河口は最近前妻である芳子を失って、お琴と同棲していたが、真夜中に芳子の幽霊を見たとお琴が騒ぎだした。芳子は、この話の一月ばかり前に睡眠剤の分量を誤り、不意の死にあった。もし幽霊というものがあるとしたら、芳子がその幽霊になって、彼等へ恨みを述べに来るというのは至極当然のことであった。河口は、もっと恐れなければならぬ、ある秘密を持っていた。