交通機関の精神障害者割引

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左下から4行目にJR等の割引に必要な「旅客運賃減額欄」が印字されている(手帳は2025年、茨城県発行)。
カードタイプの精神障害者保健福祉手帳の例(東京都発行)。「旅客鉄道株式会社等旅客運賃減額」制度の適用前後の変遷が記載されている。

交通機関の精神障害者割引(こうつうきかんのせいしんしょうがいしゃわりびき)では、日本の交通機関における精神障害者保健福祉手帳の所持者を対象とした障害者割引について解説する。

障害者手帳」という表記は狭義では精神障害者保健福祉手帳を指すが、本稿で取り上げる交通機関における「障害者割引」は歴史的経緯から身体・知的障害者を対象としている。精神障害者に対する割引は徐々に拡大しているが、障害者割引を適用する事業者の全路線が三障害同一で適用するまでには至っていない。そのため独立した項目として取り上げている。

これらの割引には原則として、顔写真付きで有効期間内の手帳原本が必要[注 1]であり、JRや一部事業者では「旅客鉄道株式会社等旅客減額欄」の表示が必要である。またミライロIDでは、後述の理由でJRや一部事業者では代用不可である。

戦傷病者の無賃取扱い

路線バス運賃

路線バスの割引の経緯

バス運賃は、大東亜戦争太平洋戦争第二次世界大戦)終結後の物価高騰(インフレーション)を抑制するため、物価統制令の下で物価庁によって決定されており、1951年昭和26年)の運賃改定で、従来通牒で行なっていた身体障害者や児童福祉法の要保護者の割引が、学生定期(通学定期券)、回数券、小児券の割引とともに設定された[167][168][169]。その後、1952年(昭和27年)8月にバス運賃の権限が運輸省に戻ることになったが[169]、当時の運賃定額制の実施に伴い、運輸省自動車局長通知「バス運賃の割引について」(昭和27年自旅第1691号)[170]において、それまでの割引を引き継ぎ、身体障害者及び同乗することが必要な介護者の運賃を半額とすることが通知された[2]。当時は普通乗車券のみ割引され、身体障害者手帳の交付を受けている者及び介護人を要する場合は介護人共に五割引であり、鉄道では多くの場合は近距離ではJR第2種障害者には割引がなく、たとえJR第1種障害者でも介護者がいなければ割引がないのに対し、バスでは単独乗車でも等級や距離の制限を設けない割引が実施されていた[170]

現在は戦後の物価の混乱も終わり、統一的な運賃ではなく、鉄道と同様に路線ごとの設定となっているため、回数券や通学定期券の発売の有無や割引率が任意であるように、障害者割引の有無や内容もそれぞれの事業者の判断となるが、国土交通省が告示する「一般乗合旅客自動車運輸事業標準輸送約款」に障害者割引の規定があるほか、上限運賃が認可制であり、輸送約款や上限運賃の認可の際に割引の実施を促す形となっている[2]

戦後の統一的な運賃での割引の対象は「身体障害者手帳の交付を受けている者」であり、旧国鉄とは異なり内部障害者に身体障害者手帳の交付が始まった際も内部障害者も除外されることはなく割引の対象であった[16]。ただし、当初のJRバスではJRグループの割引開始まで内部障害者は割引対象外であった[171]

1991年(平成3年)に標準輸送約款の割引対象に知的障害者が追加され、2012年(平成24年)7月31日に改定された標準運送約款の24条に「精神保健及び精神障害者福祉に関する運賃を割引する」旨明記された[172][2]

標準輸送約款を適用する場合は輸送約款の認可が不要であるが[173]、各社が独自に輸送約款の認可を受ければよく[174]、実際の割引の適用可否は事業者の判断となるが、精神障害者を割引の対象から外すことは、輸送約款の認可が必要になる点で身体障害者・知的障害者を割引の対象から外すことと同等となっている。しかしながら、標準輸送約款を用いる場合も約款と申請運賃が異なっても罰則はなく、独自の輸送約款で認可を受ければ障害者割引に関する規定のない約款を使用することができ、その場合も身体・知的障害者を割引の対象から外す事例はあまり多くない一方で、精神障害者のみ割引の対象から外す事例は少なくないのが実情である。

路線バスの割引の詳細

割引率は「一般乗合旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度[175]」で「原則として一定率を減じて運賃設定する」ことが書かれているのみであり、標準運送約款などにも具体的な記述はないが、上記のように戦後の物価の混乱の中で統一的な運賃が設定され、その後もバス業界の努力によって割引が行われていた経緯があり、過去の運賃および料金に関する制度の通知で、普通運賃は5割、定期券は3割の割引とすることとされていたため、大半の事業者はそれに沿った割引を実施しているが[2]、割引率の基準や目安などは存在しないため、事業者によっては異なる割引率や割引額が設定されることもある。なお大半の事業者ではミライロID呈示で代用可能だが、横浜市営バス(精神のみ不可)、秋田中央交通(全障害不可)のように、代用を認めていない事業者もある。

このように、割引の有無や割引対象、割引率や割引額は事業者が個別に決定するものであり、特に定期券の割引率は3割などが多いことから、バス運賃では介護者を必要とする障害者の二人分の運賃を実質的に一人分に割引くという本来の障害者割引の目的を完全には果たせていないことが多い。

一方、標準輸送約款でも割引の詳細は規定されていないが、鉄道では多くの場合で近距離ではJR第2種障害者には割引がなく、たとえJR第1種障害者でも介護者がいなければ割引がないのに対し、バス運賃の割引は障害者が単独で乗車した場合でも等級や距離の制限なく割引が受けられることが多く、さらに、介護が必要と認めた場合またはJR減額第1種などの条件(精神障害2級または3級も含めるなどJRと違う区分の場合もある)で介護者も割引となることが多く、障害者の単独乗車でも割引を受けられる場合が多い[注 41]

ただし、割引の詳細は個別の事業者によって決定されるため、例えば神戸市営バスのように、精神障害者のみ割引を行わない、または大阪シティバスのように、精神障害者のみJR第1種の割引に限られる反面、割引対象となる障害者の定期券の割引率はバスで採用例が多い3割よりも高い5割であったり[176][177]名古屋市営バスのように、全障害に対し、普通運賃は5割引を行う上に、通勤定期券の割引率が51.7%程度、通学での利用有無を問わず発売する学生定期券が33.33%程度と、いずれの定期券の割引率もバスで採用例が多い3割よりも高かったり[178]、関東のバス会社で多く見られるように、普通運賃は全障害で5割引とするが、精神障害者のみ定期券の割引を行わない[179][180]、または精神障害者のみ定期券の割引は第1種障害者に限定したり[181]京都市営バスのように、精神障害者に対しては割引を行わないが、身体・知的障害者に対しては、運賃だけでなく事実上の特急料金にも5割引を適用するなど[注 42][184]、障害等級の制限(1級や1・2級)、割引率、介護者の割引を認める条件や人数[注 43]、定期券の割引の有無などは様々である。同一事業者でも路線によって適用される路線とされない路線が混在する場合があり、例えば阪神バスでは精神障害者割引は旧尼崎市交通局のエリアのみとなっている[190]

特にコミュニティバスと呼ばれる自治体(複数もあり)が運営主体で、主に事業者に委託しているバスは、個別に運賃を決定しているため割引形態はさまざまであり、無料(10割引)から身体障害者でも割引がない場合[191]まであり、委託先事業者とも異なるケースがあるので、制度を都度乗務員や自治体に確認する必要がある。

国土交通省から協力要請が行われていることや、標準輸送約款の割引対象に精神障害者が加わったことなどから、割引を開始する事業者もある。

定期観光運送[注 44]や空港発着バスを除く路線長がおおむね50 km以下の短距離路線バスの運賃は対キロもしくは均一の上限運賃制で、認可を受けた上限運賃の範囲内で設定、もしくは協議運賃となる。

上限運賃の設定の根拠となる原価計算の際に障害者割引を前提としていた場合は、廃止には再度運賃の審査または協議が必要になる可能性が考えられる。短距離の一般路線バスでは割引の廃止はあまり行われていないが、大阪シティバスの自社運行路線では2017年度頃までは精神障害者に対しても割引が行われていたが[192][193]、精神障害者割引が存在しない旧大阪市営バスの事業を引き継いだこともあり、精神障害者のみ割引が廃止された[194][195]事例も存在する[注 45]

路線バスの特殊な割引

東京都内の一部バス事業者では、東京都居住の精神障害者限定の割引が行われている。例として東急バス[196]京王電鉄バス[197]では身体障害者・知的障害者は無条件で半額とする一方で、精神障害者は普通運賃に限り、東京都発行の精神手帳のみ、かつ都内区間だけ利用する場合のみ半額適用にする特殊な割引が実施されている。東京都発行の精神手帳のみを対象とした割引ではあるが、東京バス協会に加盟する事業者が自主的に決めたものであり、東京都との取り決めや補助が行われているわけではない[198][199][200][注 46]。宮城県内の路線バス事業者でも宮城県又は仙台市が発行する精神手帳のみ、かつ宮城県内だけ利用する場合のみ適用としている事業者があるが、仙台市バスや仙台市地下鉄でも同様の取り扱いが行われていた事例がある。(便宜上#福祉乗車証節に記載)

なお京急バスは都内は上記ルール、神奈川県内は川崎・横浜市内以外の路線で神奈川県手帳所持者が割引対象と言う特殊なルールがある[201]。また東京都から山梨県丹波山村小菅村に入る路線がある西東京バスでは、山梨県を含む全ての道府県発行の手帳では割引にならない[202]

そして、特殊事例として新潟交通佐渡は、大人通常運賃の半額を基準とする点はかわらないが、半額運賃が250円に達した場合はそこが上限となる。半額運賃が250円を超過する分であっても、以降は250円から上昇することはない[203][204]。一例として、新潟交通佐渡内海府線の佐和田バスステーションから両津港 佐渡汽船 ・大野亀経由真更川バス停までは大人運賃で840円であるが、この場合でも障がい者割引運賃は250円となる[205]

東京都および埼玉県を走る西武バスでは、手帳の発行する都道府県にかかわらず普通運賃が5割引になるのは他社と同様だが、定期券に関しては、利用する区間の運賃にかかわらず、初乗り180円(金額式)を基準とする、路線バス全線フリー定期券を発売している(秩父・軽井沢地区および一部路線除く)[206]

さらに沖縄本島の路線バスでは精神障害者手帳2・3級であっても付添人も割引になる事例が多い[207][208][209]

一方で、補助金によって割引が実施される事例もあり、旭川市では事業者による自主的割引が困難な現状から、3障害共通の取扱いを進めるために補助金を支給しており[210][211]、市内に路線を持つバスでは、身体障害者・知的障害者は事業者の負担で無条件で半額、精神障害者は市内区間だけ旭川市の補助金で発行自治体に関わらず半額という事例もある。

また、共同運行路線で事業者により扱いが異なる路線がある。例えば横浜市営バスが精神障害者割引を導入している一方で、適用外の神奈川中央交通(横浜市内完結路線[注 47])や東急バス若葉台団地からJR十日市場駅や東急青葉台駅まで共同運行をする、あるいは北海道で千歳相互観光バスが精神障害者割引を導入しているが、適用外の道南バス北海道バスと共同運行する例がある。

ちなみにJRグループでは、ジェイ・アール北海道バス以外の一般路線バス[注 48]及び旅客鉄道会社が運営するBRT[注 49]では精神障害者割引を導入している[212][213][214][215]

高速バス運賃

高速バスの障害者割引の概要

路線バスのうち、専ら一の市町村(特別区を含む)の区域を越え、かつ、その長さが概ね50 km以上の路線、または空港発着で、停車する停留所を限定する路線は、影響が比較的小さい「軽微運賃」として、認可された上限運賃の範囲で決定する上限運賃制よりも緩い事前届出制であるため[216]、変更命令が出されるような極端な事態を除き、基本的に自由に運賃および料金を設定することができる。

前述の路線バスの項目で示したように、割引率に基準や目安があるわけではないが、通常の路線バスと同じく5割引が採用されやすく、路線バスと同様に、等級や距離の制限を設けないことが多い障害者本人の割引と、JRの第1種または独自の条件で介護者の割引の両方を実施していることが多い[注 50]。また、高速バスでは停留所が限られていることから、割引率ではなく、割引額を設定する形態も採用されやすい[217]

また、バスでは急行・特急料金や設備料金などが設定されていることが少なく[注 51]、全額が運賃の扱いであることが多いため、割引率で5割を採用した場合は鉄道よりも割引率が高くなりやすい傾向にある。

ただし、身体障害者・知的障害者に対する割引についても全く行われていなかったり、一部の予約サイトでは割引が適用できないなどの制限がある場合[注 52]もある他、割引率(または割引額)を引き下げたり、また、認可が必要な上限運賃の制約を受けずに運賃を設定できるため、通常運賃を高めに設定した上で、障害者割引と併用できない割引の設定や恒常的なセールの実施、ダイナミック・プライシングの変動運賃(閑散・繁忙期または時間帯や残席数による変動)の普及による普通運賃の形骸化により、割引率が著しく低下していたり、障害者割引を利用しないほうが安価となる場合もある。

障害者割引のある高速乗合バスとない旧高速ツアーバス

高速バスには、道路運送法を根拠とし、一般乗合旅客自動車運送事業標準運送約款によって少なくとも身体・知的障害者割引(2012年以降は精神も含む)の設定を促されている高速乗合バス(路線バス)と、旅行業法を根拠とし、標準旅行業約款の下では障害者割引が存在しない高速ツアーバスが存在したが、乗合バスの規制緩和とツアーバスの規制強化によって2013年に新高速バスとして統合された。これは、奇しくも精神障害者割引が標準輸送約款に加わった翌年であった。

ツアーバス事業者は撤退した事例も多いが、新高速バスに転換する上では、障害者割引なしで運行を続けるか、他の高速バスと横並びで身体・知的障害者割引に限定して導入するか、標準輸送約款と同じ身体・知的・精神障害者割引を導入するかを検討することになった。それ以外の高速バス会社でも、わずかではあるが精神障害者割引が設定される事例も出てきた。

相次いだ精神障害者割引の廃止

都市間高速バスの割引は、競合する高速バスや他交通機関と比較した考えであったり、通常の路線バスで多くみられる公営バスコミュニティバスなどの行政が主体の運営や、行政の赤字補填によって維持されている赤字前提の路線ではないことなどから、精神障害者割引はごく一部の事業者の路線に限られていた。一方で、障害者割引が基本的に存在しない高速ツアーバスと競合していながら、身体・知的障害者割引は設定されていることが多いという状況であった。

そのような割引が実施されていたごく一部の路線でも、2010年代後半ころから精神障害者割引の廃止が相次ぎ、2020年代前半にはさらに新型コロナウイルス感染症 (2019年)が追い打ちをかけ、次々に割引が廃止された[注 53]

JRの鉄道割引発表まで精神障害者割引の廃止を免れていた路線は、加越能バス名古屋高岡(氷見)線、ブルーライナー遠鉄バスの浜松=横浜線や空港連絡バス、しずてつジャストラインの静岡=横浜線、平和交通全線と同社が単独運行開始して後に参入したJRバス関東京成バスの「エアポートバス東京・成田[注 54]」、関東、名古屋、九州=四国各方面「コトバスエクスプレス」(琴平バス)、広島県内[224]沖縄本島[225]の高速バス及び、2017年より実施した福岡県内及び一部県外路線の西鉄バス[226]などである。

JR割引発表後の高速バスの精神障害者割引

その後JR鉄道割引発表を境に、大手のウィラー(一部の共同運行路線を除く)はJRや大手私鉄などの鉄道割引導入に先駆けて2024年6月1日より割引を開始し[227]、また西鉄バスが、上述の路線に加えて2024年10月1日[228]から大部分の路線[注 55][229]、及びJR九州バスを含む九州内の各事業者[230]が九州島内路線[注 56]に適用した。

更には2025年4月1日乗車分から奈良交通・関東バスの「やまと号」「ドリームスリーパー号[注 57][231][232]が、その後も奈良交通の奈良=名古屋線、関東バスの新宿~岡山・倉敷などで開始された。

また2025年4月1日発券分より名鉄バス[233][注 58]の名古屋発着の路線の多く[234]で開始された。7月1日より名鉄バスと三重交通の名古屋上野線/名古屋南紀高速線[235]で開始された。

同日発券分からは北海道を除くJRバスグループ[236][237]、あるいは前述の遠鉄バス[238]やしずてつジャストライン[239]やJR東海バス、JRバス関東に加え、通常精神障害者割引を行っていない京王電鉄バス[注 59]も共同運行している新宿・渋谷からの浜松線、静岡線[240]、同年5月1日からJR四国バスなどの高松・高知・松山相互を結ぶ路線で開始された。

同年10月1日からJRバス関東・茨城交通[241]関東鉄道[242]の東京と常磐道沿線を結ぶ「みと号」「ひたち号」などで開始された。

2026年1月15日からJRバス関東・JR東海バスの「ファンタジアなごや号」[243]でも開始されるなど対象路線を増やす流れが出来つつあるが、やや西日本(特に九州・四国)の事業者の方が適用事業者が多い。特に地域を問わず西鉄・名鉄を除く大手私鉄系(グループを含む)バス事業者[注 60]、或いは山陰、JRバス東北以外の東北や北海道のバス事業者では今のところ実施率が著しく低い[注 61]

このように、2026年時点ではウィラーのほか、沖縄本島内、九州島内、西鉄バス[244](福岡)、JR九州バス[245]、四国の高松・高知・松山相互を結ぶ路線、高知駅前観光[246](高知)、琴平バスコトバスエクスプレス[247](香川・徳島)、ジェイアール四国バス[248]、広島県内[224]JRバス中国[249]ブルーライナー(関東=関西または=名古屋、関西=北陸または=福岡かつ通常運賃予約時のみ)[250]西日本ジェイアールバス[251]奈良交通[252](奈良)、名鉄バス[233](名古屋)、ジェイアール東海バス[253]加越能バス[254](富山)、遠鉄バス[255](浜松)、しずてつジャストライン[256](静岡)、関東バス[257](東京)、ジェイアールバス関東[258]平和交通[259](千葉)、関東鉄道[260]茨城交通[261](茨城)、ジェイアールバス東北[262]などの高速バスで精神障害者割引が行われている。ただし共同運行の関係で、これらの会社でも実施されない場合やこれら以外の会社でも実施される場合もある。

ただし、上記の路線バスの項目で示したように、以前は身体障害者・知的障害者に対する割引さえ実施していれば輸送約款の認可を省略できたものの[注 62]、2012年(平成24年)以降標準輸送約款の割引対象に精神障害者が加わったことから、精神障害者を割引の対象から外すことは、輸送約款の認可が必要になるという点で身体障害者・知的障害者を割引の対象から外すことと同等の扱いとなっている。しかしながら、標準輸送約款を用いる場合も約款と申請運賃が異なっても罰則はなく、高速バスでは運賃設定が自由であることから障害者割引と併用できない割引を設定して事実上の普通運賃とするなど容易に回避でき、約款自体も独自の輸送約款で認可を受ければ障害者割引に関する規定のない約款を使用することができるため、割引を実施しない場合も多いが、その場合も、身体・知的障害者を割引の対象から外す事例はそこまで多くない一方で、精神障害者のみを割引の対象から外す場合が大半であるのが実情である。

定期観光バスの割引

一部の定期観光バスについても、地域やコース、運行会社などによって異なるが、「はとバス[263]」(コース番号のアルファベットがA・B・Cで始まる「定期観光」のみ対象。要電話予約。Web予約不可)「亀の井バス別府地獄めぐり(割引率は低いが、実質、地獄組合加盟7地獄の入場券分が割引となる。ハイウェイバス・ドットコム@バスや電話で予約可能)等が可能。

貸切バスの割引

貸切バスでは、標準輸送約款で身体障害者福祉法、知的障害者福祉法及び児童福祉法の適用を受ける者の団体は3割引、学校教育法による学校(大学及び高等専門学校を除く)の団体は2割引のどちらか高い方を適用することが規定されていたが、精神障害者の団体に関する規定はない[264]。ただし、2014年4月から適用された新運賃制度では下限運賃が割引の限度となり[265]、さらに2024年3月1日の制度見直しで割引率の規定が標準輸送約款から削除された。しかし、依然として標準輸送約款では割引が定められているため、割引を完全に廃止する上では独自の約款の認可(標準適用方法と異なる理由の聴取のみ[266])が必要である[267]

福祉乗車証制度

精神障害者全体への割引制度がないが、その地方公共団体の住民である精神障害者(精神障害者手帳所持者・療育手帳や身体者手帳の場合は条件が異なる)に対しては一般会計から福祉乗車証などといった証明書を交付し、公営交通などの運賃を無料とする例もある(例:京都市交通局[268])。

ただし、#路線バスの特殊な割引節で示したような住民のみを対象とする障害者割引と同様に、公営事業者が乗車証によらず住民およびそれに類する精神障害者のみ割引する事例があった。宮城県内の路線バス事業者では宮城県又は仙台市が発行する精神手帳のみ、かつ宮城県内だけ利用する場合のみ本人の普通運賃又は回数券のみ半額適用としている事例があるが[269]、これは公営事業者である仙台市交通局の地下鉄・路線バスでも、2009年6月1日から2021年3月31日まで仙台市または宮城県発行の精神障害者福祉手帳を提示した場合のみ、本人分の普通乗車券に限って割引対象としていた。仙台市以外の宮城県発行の手帳でも割引されていたのは仙台市の配慮であった[270]。2021年4月1日以降は手帳の発行自治体を不問とし、あわせて介護者や定期券への割引を開始した[271][注 63]

地域独自のICカード乗車券では自動的に割引運賃を引き去る機能のある障害者用カードを発行するものがあり、手帳を提示することで購入できるが、多くのカードにおいて手帳に対応した有効期限が1年あるいは当初翌々年の誕生日、以後毎年更新など地元在住者以外では使用しにくいケースが多い[274][275][276]交通系ICカード全国相互利用サービス加盟のICカードについては、中京圏各社で導入されている「manaca」と西日本鉄道などで導入されている「nimoca」、福岡市交通局の「はやかけん[277]などの障害者用カードがあるものの、いずれも導入各社の障害者割引制度との関係から、身体、知的も含めて利用できる事業者は限定される。また割引カードで乗り越しても乗り越し運賃を支払えない問題もある(例:名古屋市=名鉄、福岡市=JR九州)。

なお堺市以外の政令指定都市では、静岡市広島市相模原市などで手帳発行自治体に問わず一律の割引措置を行うか、在住者に自治体内の無料パス交付、或いは双方の措置をとっている。また名古屋市においては、手帳所持の市民に福祉特別乗車券を配布した上、2015年(平成27年)10月1日から名鉄バス2016年(平成28年)4月1日から千葉市モノレールを含む、また県内も一部事業者を除き全社)に続き、名古屋市が主に出資する全ての交通機関(地下鉄市バス名古屋ガイドウェイバスガイドウェイバス志段味線あおなみ線)で全都道府県・全等級の精神障害者保健福祉手帳所持者に対して、半額割引を行っている[278]。(地下鉄は日進市、ガイドウェイバスは春日井市、市バスは両市を含む9市町に跨がるがいずれも対象である。)名鉄、JR東海、近鉄の名古屋市内区間は福祉特別乗車券の対象区間であり名古屋市在住者は実質無償であるが市外在住者が介護者なしで利用する場合は半額割引は対象外(名鉄、近鉄、JR東海は名古屋市内のみ乗車の場合は100 km以内の為介護者なしの場合は対象外)、市も僅かに出資しており、藤が丘駅にて地下鉄と乗り換えが可能なリニモ(筆頭株主は県)は介護者同伴1級のみ対象(身体、知的も介護者同伴のJRの第1種のみ対象、なお100 kmを超える区間は存在しない)のため注意が必要である。)なお三重交通は一般路線バスと一部の高速バスで半額割引を実施しているほか、名古屋市内区間は名古屋市の福祉特別乗車券が有効であり[279]、名古屋市営バス、名鉄バスと同様名古屋市内では市内在住は実質無償、市外在住は半額となる。

船舶運賃

船舶運賃は、離島等の住民が日常生活・社会生活を営むために必要な船舶による輸送が確保されるべき区間とする指定区間は上限認可制であるが、それ以外の航路は事前届出制であり[280]、運賃の自由度は高い。

船舶運賃については国土交通省や運輸局の協力要請により適用事業者が多く、シルバーフェリー太平洋フェリー新日本海フェリー商船三井フェリー[281][注 64]東海汽船[282][注 65]、小笠原海運[283]東京九州フェリー名門大洋フェリー阪九フェリー四国オレンジフェリー松山・小倉フェリーフェリーさんふらわあマルエーフェリーなどの中長距離フェリー事業者の大半が、身体・知的と同様の内容で2等船室若しくは2等寝台相当額に対して割引を行なっている。これらは運賃(更に2等寝台等の付加料金、あるいは高速船料金)が半額もしくは割引になる場合があるため[注 66]、相対的に他交通機関に比べ割引額が高い。 そのほか短距離の航路(自治体直営船含む)も割引が実施されている地域がある。但し青函フェリー(2020年10月1日に復活)[284]泉房穂前市長が「福祉が充実している」として有名にした明石市も出資しているたこフェリー(現:淡路ジェノバライン[285]のように廃止された例もある。

船舶運賃はJRの割引とほぼ同等であることが多いが、JR第1種障害者の割引は介護者が同伴でなければ割引が無効となるという扱いをしていないことが多い[286]。そのため、JR第1種障害者は単独乗船でも距離にかかわらず割引、JR第2種障害者は101 km(100.1 km)以上で割引と、単独乗船でもJRの減額種別で距離制限の有無が異なる結果となっている。また、JR第1種障害者の定期券の割引率は5割ではなく3割であることが多い[286]。しかし、JR第2種障害者が単独で乗船する場合は「101キロ以上の行程」としてある航路でも、鉄道とは異なり単独ではなく他交通機関とトータルで超えるとみなして、実際は一律で割引きにしている場合が多い[注 67]。特殊な事例として、障害者本人はJR第1種・第2種を問わず割引の対象となるが、JR第2種障害者の介護者の割引のみ101 km以上で割引という扱いをしている会社もある[290]

航空運賃

航空運賃は長距離の高速バスと同様に事前届出制であり[291]、運賃の自由度は高い。

航空運賃割引の経緯

1974年昭和49年)12月10日より航空5社で国鉄で定める第1種身体障害者に該当するものが介護能力があると認める満12歳以上の介護者とともに搭乗する場合に本人と介護者に25%(当時)の割引が適用された。単独で搭乗した場合は距離等にかかわらず割引の対象外であった[292][293]

1980年(昭和55年)3月1日より国鉄第1種身体障害者は介護者を伴わず単独で搭乗する場合にも適用することとされた[292][294]

同年6月15日より国鉄第1種身体障害者以外にも身体障害3-4級程度[注 68]まで拡大され[294][16]、対象者で手帳に「航空割引、本人」と捺印がある者も対象となった。また、戦傷病者手帳に「航空割引、本人・介護者」と捺印がある者や「航空割引・本人」と表示がある者についても同様に本人と介護者、または本人に対する割引が行われるようになった[292]。しかし、内部障害者は割引対象外であり、第2種障害者の多くも同様であった[16]

1990年平成2年)2月1日にはJRと同時に内部障害者も割引の対象となった。対象はJR第1種の内部障害者の本人と介護者及び、ぼうこう又は直腸の機能障害による4級の身体障害者の本人であり[16]、すなわち内部障害者は全て割引の対象であった。

1991年(平成3年)12月1日には知的障害者も割引の対象となった[16][295]。しかし、知的障害者が単独で搭乗する際の割引はJR第1種「以外」に対してのみ規定されており、身体障害者とは異なり、JR第1種知的障害者が単独で搭乗することは想定されていなかった[16]

2003年(平成15年)1月1日からは第2種身体障害者も全て割引の対象になった[296]

航空運賃割引の概要

航空運賃では、国際線および主要な格安航空会社(LCC)、一部の離島発着便の場合は、従前から身体障害者・知的障害者・精神障害者を問わず障害者割引自体が存在しない。更にLCCの場合は、小児運賃についても存在しない。外資系の格安航空会社では障害者割引を設定していない事も多く、ジェットスター・アジアの様に、規格外や電動車椅子の持ち込みや乗務員による介助手伝いが必要な場合は追加料金を徴収している所もある[297]。また、大手・中堅航空会社は、12歳から25歳までの若年者を対象とした割引運賃である「スカイメイト」(名称は各社により異なる)を利用でき、多くは搭乗当日購入に限られるものの、障害者割引より安いことが多い。

他方、障害者割引を実施している航空会社[298][299]については、2016年以降に国土交通省と航空各社の間で精神障害者への割引導入に向けて協議し、準備を進めていた[300]日本航空とJALグループ各社[301]が2018年(平成30年)10月4日予約・搭乗分より、天草エアライン[302]が同年12月22日搭乗分(同年10月22日予約分)より、全日本空輸[303]ソラシドエア[304]スターフライヤー[305][注 69]AIR DO [306]IBEXエアラインズ及びオリエンタルエアブリッジが2019年1月16日予約・搭乗分より、フジドリームエアラインズが同年3月31日搭乗分(同年1月31日予約分)より、東邦航空東京愛らんどシャトル)が同年6月1日予約・搭乗分より従来から設定していた国内線の身体障がい者割引が、新たに精神障害者も対象となった。新中央航空も2020年10月1日より身体障害者割引運賃を障がい者割引運賃に変更する形で、精神障害者も対象とした[307]。2024年1月31日就航のトキエア[308]にも設定がある。同伴者も1名に限り、同様の割引が適用となる。但し、ストレッチャー持込の場合は別途追加料金がかかるので通常運賃よりも割高になる[309]

なお、航空運賃では小児の障害者本人は割引の対象にならず、小児の介護者も割引の対象にならない[16]

航空各社の割引の詳細

航空各社の障がい者割引は、航空会社や区間により割引率が異なる。特に、JALグループとそれ以外、また2026年5月19日以降のANAグループでは大きくルールが異なる。

JALグループ(日本航空日本トランスオーシャン航空等)では2023年4月から障がい者割引は「ディスカウント方式」となっており、「フレックス」、「セイバー」、「スペシャルセイバー」、「往復セイバー」、「プロモーション」の5区分の運賃について、約20%の割引を行う。予約変更等の取り扱いは、各運賃区分によって取り扱いが異なり、ベースとなる運賃区分に準ずる。したがって、フレックス以外は予約を変更することができない[310]

JALグループ以外の航空会社の場合、JALグループのフレックス同様に通常運賃の一定額を割り引いた運賃[注 70]を設定している早期購入割引(ANAスーパーバリュー等)や株主割引、パッケージツアーと比較すると割高になる場合が多い(当日等の割引運賃適用外で搭乗する場合や、繁忙期はこの限りでない)一方で、障がい者割引の場合は、早期購入割引等やパッケージツアーのように発売できる座席数や予約変更に制限がなく、空席があれば片道から購入可能で、且つ予約変更可能であるのが利点となる。ANAの「プレミアムクラス[311]」は、シート料金(ANAは運賃と料金が一体で発売されるため、路線ごとに普通席との差額にバラツキがある)は割引対象外だが、運賃が普通運賃扱いのため、早期購入割引や株主割引と違い、幾分予約しやすい。JALグループも2023年4月の運賃制度変更前は、ANA等と類似の制度であった。

2026年5月19日以降のANAグループでは、現在(2025年6月24日時点発売分)では基本運賃が安価かつ柔軟性が低いものからエコノミー/ファースト(現在のプレミアムシート)で「フレックス」「スタンダード」「シンプル」になり、それぞれの運賃に障害者割引率(2割)をかけて発売しているので、JAL類似の制度になる[312]

障がい者割引で利用の際、大手2社(JAL・ANA)以外は、チェックインカウンターにて手帳を提示し、搭乗券が渡されるが、JALANAマイレージ会員であれば、障がい者手帳のコピー(要写真付き)と申請書(各航空会社ホームページから印刷入手可能)に必要事項を明記の上郵送もしくは空港カウンターで登録し、登録作業完了後は通常利用時と同じく、空港でのチケットレス・チェックインレスで搭乗が可能[注 71]で、大手2社のマイレージカードを使用しない予約や大手以外では下記の2種がある。独自のマイレージシステムを持つAIRDOソラシドエアではマイレージ情報に対して初回登録時だけ手続きが必要である。それ以外の航空会社では、搭乗都度有人カウンターにて、手帳かミライロIDを提示して手続きを行う必要があるため、特に混雑期や悪天候時などは早めの来港が必要となる[注 72]。また登録済みであっても精神手帳の場合は、有効期限が存在するため、手帳の有効期限が切れた場合は改めての手続きが必要であることが、身体・療育手帳とは異なる。期限切れの場合は手帳と紐付けた予約が出来ない。この場合、会員外で予約して、当日チェックイン時に窓口で手帳を提示すれば可能である(マイルは後付けが可能)。また制度ではないが、事前搭乗サービスを実施している航空会社では、手帳かミライロID提示で等級に関係なく対象者となるため、騒がしい待合室での待機が軽減される[注 73]

タクシー運賃

タクシーでは事業者の自主的な取り組みにより、身体・知的障害者に対する1割引が行われている。財産権を規定する日本国憲法第29条第三項により、私有財産を公共のために使う場合にも、正当な補償が要るということから、国が民間事業者に障害者割引を義務付けることは困難であるが[18]、タクシーは同一地域同一運賃の原則などが影響し、バス事業等とは異なり、事業者単独の判断で障害者割引を廃止することができない場合があるという特徴がある。

タクシーの運賃制度

日本のタクシー運賃は、原則として全ての事業者からの申請(実際には事業者団体による一括申請[313][314])を前提とする同一地域同一運賃制度であったが、1993年平成5年)10月から同一地域同一運賃が廃止され、上限運賃の改定申請事業者の車両数の合計が当該運賃適用地域における全体車両数の5割を超えた場合に運賃改定手続を開始することになり、1998年(平成10年)3月からは個人タクシーは除外され、申請があった法人事業者の車両数の合計が7割を超えた場合に運賃改定手続を開始することとなった[315]。タクシー運賃は地域ごとの設定であるが、現在は運賃改定申請は各事業者が個別に行うこととなっている。

なお、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)を所管する公正取引委員会との調整で、事業者団体が申請内容を決定したり、事業者に対する申請額の変更などの要請・強要は行わないよう指導されており、申請する運賃は事業者が個別に決定しなければならない。ただし、無線による配車事業を共同して行うことを目的として設立され、無線事業共同化の実態を備える法人タクシーと、無線協同組合の組合員であって組合の無線事業に参加している個人タクシー事業者は、共同して連名で申請することができるが、当該事業区域において支配的な地位を占める無線協同組合については、この限りでない。また、当該無線協同組合による無線事業に参加しなければ無線事業の継続が困難な場合に、他の組合員とは異なる運賃を選択しようとする組合員を当該無線協同組合がその無線事業から排除したり差別的に取り扱うことがないよう指導される[316]

タクシー運賃は地域ごとに上限運賃と下限運賃(上限運賃から約10%)の範囲内の運賃が申請された場合は自動的に認可される自動認可運賃が設定されており、この範囲内で運賃を申請した場合は審査を省略することができる制度となっている。下限運賃割れは個別審査となるが、個人タクシーについては審査が困難であること等から当該地域の法人タクシーで認められた下限割れ運賃以外の下限割れ運賃は認められていない[317]

タクシーの障害者割引の沿革

タクシーの身体障害者割引は、愛知県でいち早く運転手と愛知県の自動車交通労組の負担で実施されており、熊本県と山梨県でも一部実施されていた[318][319]1979年には MKグループが独自の身体障害者割引(1割引)の認可を受け[320]1981年には国際障害者年にあたり大阪市の日進交通が単独で身体障害者割引(1割引)の認可を受けるなど[321][322]、自主的に割引を設定する動きがあった。

現在の形の障害者割引は、東京都では1990年(平成2年)5月26日[323]、大阪府では府下同一運賃となると同時に[1991年]](平成3年)3月20日に開始された[321]

対象は身体障害者だけであり、知的障害者(当時の精神薄弱者)を割引の対象外としたことに対しては驚きの声が上がった。地方公共団体の独自制度である福祉タクシー制度による補助は知的障害者も対象であったため、「新たな差別だ!」との声が上がることになった[324]

一方で旧国鉄で永らく割引の対象外であった内部障害者は割引の対象外とされることはなく、身体障害者手帳は全て割引の対象であった。

当初は割引の実施は六大都市等に限られており[325]、各運輸局は、申請があれば認可するが、行政サイドから指導する内容ではないと言い切ったため、全国で導入されるかどうかは不透明であった[324]。もっとも、日本国憲法第29条財産権の問題から障害者割引を義務付けることができないため[18]、当然の対応であったと言える。

事業者による運賃改定申請で身体障害者割引が含まれる運賃の申請が行われた地域では新たに実施されたが、負担増を理由に申請しない事例もあり[326]、地域によって判断が分かれていたが[327]1992年(平成4年)の夏までに全国で順次導入されることとなった[328]

知的障害者割引(当時の精神薄弱者割引)は大阪府では1991年(平成3年)12月1日[321]、東京都では1992年(平成4年)5月に開始された[323]

身体・知的障害者ともに割引が全国に広がり、現在は国土交通省自動車局長通知「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度について[329]」(2001年(平成13年)10月26日)では身体障害者手帳、療育手帳を所持している者に対してタクシー業界が決定した割引率である1割を割引することが規定され、タクシー制度に割引率や対象の記載があるという他の交通機関に見られない特徴があり、2025年時点では1割引以外の割引率の採用や距離や金額の条件の設定、同一手帳内で障害の種類や等級で差を設けるような事例は起きていない。なお、統一的な実施がない精神障害者割引は、同様に公共的割引として設定可能である被爆者・戦傷病者・その他とともに「事業者の申請に基づき個別に設定するものとし、割引率は1割とする」とされている[2]

タクシーの精神障害者割引の動向

タクシーでは、精神障害者に対する割引は2026年時点では統一的な実施がなく、手帳の種類で個別の事業者での不実施や廃止の可否が異なるという状況のまま固定化している。

ただし、個別の事業者で割引が実施される場合があり、遅くとも1998年(平成10年)には既に精神障害者割引を実施するタクシー事業者が出てきており[330]、精神障害者保健福祉手帳への写真の貼り付けが行われるようになった2006年以降は徐々に実施する事業者が増えている。

法人タクシーでは、2024年4月1日時点で全事業者の29.7%が精神障害者割引を実施している[286]

沖縄県では2015年のおおよそ10年前、つまり2005年頃に全社で精神障害者割引が適用された[225]。2006年に精神障害者手帳にも写真の貼り付けが行われるようになったことから、その頃に全社で適用になったと考えられ、2024年現在も全社で実施されている[331]

九州では事業者団体で導入の方針を取る事例が多い[332][333]など割引の導入が進んでおり、法人タクシー(ハイヤー、福祉限定含む)では2024年3月末時点で全ての県で半数以上が精神障害者割引を導入している[331]

四国も導入割合が非常に高く、おおむね半数に近い導入率となっている[331]

近畿ではおおむね導入割合が2割を上回っており、導入割合が高い地域である。特にタクシー協会が導入の方針を決めた[334][335][336] 滋賀県では57%と特に高く、京都府も39%と導入割合が高い地域である[331]

それ以外の西日本地域では導入割合が高い[337][338] 石川県 (49%)や富山県(78%)のように特に導入割合が高い県もあり[331]、名古屋を除く愛知県内でもタクシー協会が中心となって導入したため導入割合が高い[339][340]。しかし、0%や1%のように導入割合が低い地域も数多く存在する[331]

東日本の法人タクシーでは精神障害者割引は基本的に行われていない。しかし、神奈川県(99%)、東京都(33%)、福島県(20%)、秋田県(57%)のように、事業者団体が中心となるなど[341][342][343][344]、導入割合が特に高くなっている地域も存在する[331]。また、岩手県タクシー協会 胆江支部[342](岩手県奥州市胆沢郡金ケ崎町[345])、むつ市タクシー協会(青森県むつ市[342]、千葉県松戸市[346]のような市町村単位のタクシー協会や支部等でも実施される場合がある。もちろん、タクシー協会等で導入の方針をとっていない地域でも自主的に精神障害者割引を導入している事業者も存在する。

個人タクシー組合でも導入の方針を取ることも多く[332][347][348][349]、各地域の個人事業者の多くが賛同し精神障害者割引を導入している。

ただし、地域内でも事業者団体に加盟していないタクシー事業者もあるほか、割引の有無はあくまでも個別の事業者が決定し、前述のように事業者団体による申請の要請・強要は独占禁止法の観点から困難であることから、加盟各社の任意で行われているため、導入の方針を決めた協会に加盟していても割引を実施していない事業者も存在する[342][341][339]

このように、身体・知的障害者割引は地域単位の申請運賃に含まれる割引として開始され、現在もタクシー業界の努力によってタクシーの運賃制度という形で維持されているため、事業者が個別に廃止することはできない一方で、精神障害者割引は設定されるまでには至らず、各事業者の判断で実施されるため、同じ地域でも会社により異なり、割引が行われる場合は障害等級や距離にかかわらず10%引となる。運賃料金の内容は車内の見やすい位置に表示があり、精神障害者割引の有無も記載されている。

他の交通機関と異なり障害者割引の運転手負担化、もしくは歩合給などの制度が影響し、会社によっては障害者割引によって運転手の給与が下がることがあるため、クレジットカードでの支払いとは併用出来ないなどと意図的な不正拒否も行われることもある。障害者割引利用時のクレジットカードの利用拒否は、全ての取引でクレジット決済を認めることを求める決済会社の規約に違反する可能性がある。なお、実施している割引自体を拒否することは道路運送法違反に該当する[350]。また、乗務員の不正防止等を目的として障害者の個人情報を記録している事業者もあるが、個人情報を記録されそうになり不快な思いをしたため、障害者割引自体を受けなかったとの苦情も発生している[351]

また、地方公共団体の独自制度によって障害者に対してタクシー利用券が交付されることもある。

有料道路料金

有料道路の障害者割引の概要

有料道路料金は介護者が同伴の場合でも料金が変わらないため、介護者を伴わなければ旅行できない重度の障害者の二人分の運賃を実質的に一人分に割引く障害者割引は存在しない。

有料道路の身体障害者割引は、身体障害者が移動する場合に、ハンドル操作や各種装置の運転操作に困難を伴い、身体的な苦痛や疲労が著しいため、走行の条件のよい有料道路を利用することが相当程度余儀なくされている実情があり[352][353]、通勤、通学、通院等の日常生活において、有料道路を利用する障害者に対して、自立と社会経済活動への参加を支援することを目的としている[354]。また、肢体不自由者が運転する場合には、走行条件のよい有料道路を通行することが交通安全上も望ましいという判断も働いている[355][353]。また、障害者本人が運転しない場合も、重度の障害者に対しては、長時間乗車等による苦痛や疲労が著しいため有料道路の通行の必要性が認められるというJR等の割引では見られない独特の理由で介護者が運転する場合も割引が行われている。

有料道路の割引率は5割引であるが、ETC割引[356][357]、ETCの休日・夜間割引などの時間帯割引[358]、ETC2.0割引[359]などとは併用できないため、実質的な割引率が低下している場合もある。しかし、交通政策上行われる長大トンネルなどの特別区間を他の区間と同水準に引き下げるETC限定の割引やETCマイレージサービスとの併用は可能である[360][361][362]。また、制度の趣旨から対象となる自動車の範囲は限定されている[363]

有料道路の障害者割引の経緯

有料道路の身体障害者割引は、1977年(昭和52年)6月9日の衆議院及び参議院における「身体障害者に対する有料道路の料金の減免に関する請願」の採択並びに地方公共団体及び関係団体からの要望等を受け、建設省内に設置された「身体障害者の有料道路通行料金に関する検討会」で検討が行われ、その結論を基に道路公団等が料金の変更許可手続を行い[364]1979年(昭和54年)6月1日に開始された。道路公団ではなく、建設省で検討されたというのが旧国鉄の割引とは異なるところである。とはいえ、あくまでも有料道路制度の枠組みとして実施するものであるから、各公団をはじめ公社、道路管理者の実施主体の協力があって初めて実施可能となった[365]

対象は歩行機能が失われた下肢または体幹の不自由な身体障害者であり、これは、足がわりとして自動車を運転する障害者に対する割引が目的であり、より重度の障害者は対象外であった[366]。さらに、聴覚障害者等の他の身体障害者は、歩行機能が失われているというわけではなく、自動車を足がわりとしなければならないという程度が低く、道路の場合は一般道路の通行もでき、有料道路の通行を余儀なくされる程度も下肢体幹不自由者に対してかなり低いため、対象外となった[367]。また、日常活動で利用する範囲という観点から、日本道路公団(現:NEXCO)以外の道路の割引は、隣接する都道府県までに制限されていた[368]

上肢(手)に障害のある人が運転できる自動車も開発されたこともあり[369]、歩行機能が失われているというわけではないが、1986年(昭和61年)12月から手の不自由な障害者が運転する場合も割引されるようになった[355][370]

しかし、1992年(平成4年)6月15日に出された道路審議会の中間答申で[353]、内部障害者等の肢体不自由者以外の身体障害者本人の運転を割引の対象とすることを検討する必要があるとの答申が出され[371]、結局1994年(平成6年)10月には、歩行機能、運転の苦痛や疲労、交通安全上の望ましさの程度にかかわらず、すべての身体障害者本人の運転が割引対象となった[372][373]

また、この答申では介護運転として、単独での移動が困難であること、自動車に頼らなければ移動が困難であること及び長時間乗車等による苦痛や疲労が著しいことにより、介護者の運転で有料道路を通行することが特に必要と認められる重度の身体障害者または重度の知的障害者(当時の精神薄弱者)の介護者の運転も割引の対象とすることを検討する必要があるとされ[353]、重度障害者の介護運転も割引の対象となった[372][373]。なお、重度の障害の範囲はJRの区分の第1種と同等である。

有料道路の精神障害者割引の動向

一方で、精神障害者は、そのような身体障害者の割引の趣旨とは少し違うため、割引は行われていない[374][375]。また、上記のように制度の趣旨から身体障害者と知的障害者の間でも格差が存在する[注 74]

2024年時点では、減収により収支に与える影響や本制度のこれまでの経緯、他の公共交通機関における割引の実態等を踏まえつつ、制度の趣旨に該当する精神障がいの程度とそれに伴う移動の困難性を考慮する必要があるとして、現時点で精神障がい者の方に直ちに障害者割引を適用することは難しいとしている[376]

なお、重度の身体・知的障害者の介護者の運転が割引となった際は、精神障害者保健福祉手帳の制度ができる1995年(平成7年)の前年であり、精神障害者は障害の事実が手帳等で確認できないため、対象外とされたが[377]、手帳の制度ができた後の1999年(平成11年)に開始された身障者等割引制度研究会では、精神障害者のうち、単独では移動が著しく困難な者の介護者運転の場合についてのみ割引の対象としてはどうかという議論もあった[374]。しかし、この時は結局重度の精神障害者の介護者の運転も対象にはならなかった。

これは、以前は精神障害者保健福祉手帳に本人の写真が貼付されていなかったため、身体障害者や知的障害者に対して実施している本人が乗車していることの確認が困難であることも課題の一つではないかとされていたが[378]、写真の貼り付けが行われた2006年以降も割引の対象とはなっていない。

山口県の精神障害者割引導入方針と建設省の反対

有料道路の割引は、各有料道路事業者が定めた「障害者割引措置実施要領」に基づき実施しているものであり、割引率等の割引内容については、道路整備特別措置法第2条の4等の規定に基づき国土交通大臣の許可事項又は認可事項とされている[378]

しかし、山口県1999年(平成11年)に有料道路の精神障害者の料金の減免について当時の建設省に協議したところ、「料金の減免は、道路整備特別措置法の規定に基づいて、建設大臣(当時)の許可を必要とすることから、国で検討し、全国一律で実施するものである」との回答があり、県独自の精神障害者割引の実施は困難であった[379]

当時の建設省がこのような方針であったことから、地方道路公社などが精神障害者を自主的に割引の対象に加える動きは起きていない。

ただし、山口県の有料道路では2000年度(平成12年度)から精神障害者の住民に対しても精神障害者に対しても通行料金を支払った後に半額を助成しており[380][381][382]山口宇部有料道路が無料開放され、山口県道路公社の有料道路が消滅するまで継続された。

このように、現在ではNEXCO管轄の高速道路有料道路[383]都市高速本州四国連絡橋公団地方道路公社道路管理者の多く[384]では本人運転と介護運転で高速道路料金の割引が行われており、本人運転では等級にかかわらず全ての身体障害者が全ての距離で対象になり、介護運転では重度(JR第1種)の身体・知的障害者が介護者の運転する車に同乗する場合に対象となる。身体障害者で本人が運転しない場合は割引の条件が厳しくなっており、知的障害者は本人の運転は割引されず、重度の障害者の介護運転の割引に限られる。

2021年7月19日~2021年8月9日の東京オリンピック期間中と2021年8月24日~2021年9月5日の東京パラリンピック期間中に首都高速道路が行う1000円上乗せは通常割引の対象とならない精神障害者も事前申請により免除となる。(新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い東京オリンピック・パラリンピックが364日延期した為対象期間が変更された)。また熊野大花火大会が行われる日には大規模な交通規制がひかれるが、その規制除外証は精神障害者保健福祉手帳所持者にも発行される[385]

精神障害者への割引誤適用の問題

障害者手帳カバーの統一に関する埼玉県の案内[386]
障害者手帳の色や表記を統一する動きがあり、割引対象外の精神障害者の判別が難しく、割引の運用に影響が出ている

精神障害者を割引の対象外としている事業者では手帳の判別が必要となるが、手帳の種類の判別が困難な実態がある。

精神障害者手帳の表紙には「障害者手帳」とのみ表示され「精神」の表示がないことから、乗務員の知識不足や不注意などから割引対象の身体障害者手帳と誤認して割引してしまっていたという事態も起こり得る[351]

一部の事業者では障害者手帳の種類をカバーの色によって識別している実態があるが、他県の手帳カバーの色までは把握できていないため確認に手間取ることがあり、さらに他県の利用者を色で見分けてしまった場合、色の組み合わせによっては誤って割引対象外の精神障害者を割引してしまったり、逆に割引対象の身体障害者手帳療育手帳を割引対象外と誤認する可能性が指摘されている[351]。手帳は都道府県だけでなく政令指定都市、身体障害者手帳に至っては中核市も発行し、必ずしも都道府県が発行する手帳と同じ色とは限らないことが事態をより一層複雑にしている。

その上、障害の種別が色でわからないように障害者手帳の色を統一する動きがあり、割引の運用に影響が出ている。

さらに、色だけでなく、表記によっても障害が区別されないように、またカバーの共通化による経費削減などを目的として[387][388]、カバーの表記も「障害者手帳」等に統一されることもあり[389][390][391][386]、精神障害者手帳を提示された際に、従来のように「『障害者手帳』は割引できない」などと容易に割引を拒否できなくなってきている実態がある。

手帳の色や表記が統一された地域では障害者手帳の判別の難しさが問題となっている[351]。しかし、一部の交通機関を除けば障害の種類を外観から容易に区別できる必要性はほぼないため、手帳を異なる様式とする理由もあまりなく、割引額を負担するわけでもない行政側も、業務への支障や精神障害者への割引の誤適用を問題視するどころか、精神障害者も同様に割引の対象とするように要請している状況であり、解決の見込みは全くない。

もちろん、障害者割引はまったく義務ではなく、単なる事業者の独自制度に過ぎない以上、自社の独自の割引の対象の識別が多少難しくなったところで不当性を訴える余地もなかった。

一方で、精神障害者にだけ割引を適用しないのは差別ではないかという意見も存在する[351]

カード型精神障害者手帳の表(上)と裏(下)の例
手帳カバーが統一されたとしても、手帳台紙の表紙または表示面最上部の「障害者手帳」の表記から精神障害者手帳を識別可能である。ただし、厚生労働省の手帳の様式から逸脱し、手帳台紙の表記まで統一する事例があるため、表記が「障害者手帳」であったとしても必ずしも精神障害者手帳であるという保証はない。ただし、有効期限の表記[注 75]、等級欄の種類[注 76]、根拠法令の記載から識別することができる。

手帳カバーの様式が統一され、見分けが難しくなったことで、精神障害者も割引の対象とすることを決定する事例も発生している[351]

ただし、必ずしも一方的に手帳の統一が行われる訳ではなく、統一に当たって交通事業者との協議や調整、周知等が行われるなど配慮が行われることがある[393]。しかし、愛媛県の事例では交通事業者から特にワンマン運転の電車・バス等で運賃割引を実施する際に手帳の種類の確認に手間取るとの懸念が示されながらも、結局手帳カバーの統一に踏み切っているように[393]、精神障害者のみを割引対象外とすることに対して行政側の理解がなく、交通機関の声はあまり受け入れられない実情がある。しかし、以下のように手帳を統一しない事例や、手帳カバーの色を統一しても、表記は統一しない事例も多く、交通事業者に対しても一定の配慮が行われている可能性もある。

手帳の統一の判断の違い

手帳の統一の方針は判断が分かれている。精神障害者に対しても身体障害者や知的障害者と同等の運賃の割引を適用するか否かという点では、民間事業者だけでなく、地方公共団体が出資または直接運営する地下鉄、バス、路面電車などの交通事業者の間でも必ずしも一致しておらず、統一してしまうと公営の交通事業者にも影響をもたらす場合もある。

また、障害者割引はそれぞれの事業者の負担で実施されている独自制度ではあるが、赤字の路線バスでは経常費用-経常収益の差額が国による地域公共交通確保維持事業(最大1/2)や地方公共団体による補助で補填されることがあり、民間事業者でも精神障害者への割引誤適用が発生したり、精神障害者も割引の対象とするようになると、身体・知的障害者に対してのみ割引を適用する場合と比べ赤字補填という形で実質的に行政の負担が増大する可能性もある。

手帳を区別する方針

例えば手帳の統一を全く行わない地域も存在する[394][395]。手帳統一の要望がないことなどが統一しない理由であることが多いが、精神障害者保健福祉手帳による福祉施策が、身体・知的の手帳と比べて進んでいないためや、重複障害で複数の手帳を所持している場合に識別がしにくくなる問題と、鉄道やバスの運賃割引等の際にカバーを開いて障害内容を確認しなければならなくなり、割引を受ける当事者や交通機関に不便を強いるおそれがあることから手帳を統一しない方針をとっているなど[393][396]、積極的に手帳を区別している場合もある。

ただし、中核市では身体障害者手帳のみ独自の手帳を発行するため、中核市が身体障害者手帳の表記を「障害者手帳」とするなどによって療育手帳以外が結果的に統一される可能性や、逆に身体障害者手帳のみ区別される可能性もある。

JRの減額種別で色を区別していることもある。身体・療育・精神で3色に分けるのではなく、身体と療育の手帳は似た色とし、実質的に第1種・第2種・精神という形の3色で色分けするなどである[351]。運賃の割引の際の判別に特化した色分けであり、JRの減額種別で介護者の割引の有無が分かれているバスなどで介護者も割引対象であることを容易に認識でき、介護者の割引漏れを防げるなどの利点がある。しかし、これは手帳の色以外を使用して行われることもあり、色だけでなく表記まで「障害者手帳」で統一した上で、カバーの表紙に「一種」のシールを貼るという形で第1種とそれ以外で区別する事例もある[397]。しかし、この場合は精神障害者手帳が区別されない。第1種の手帳の表示面に介護スタンプを押すという手法で識別を容易にする事例もあり[398]、以前は第1種・第2種・療育・精神の色分けであったが、色を統一し、第1種への介護スタンプ押印に切り替え、手帳の種類は表記のみにした事例もある[399]

色のみを統一し表記は区別する方針

色の統一には踏み切ったが、表記は引き続き「身体障害者手帳」「療育手帳」「障害者手帳」の区別を残し[400][401][402][403][404]、色の統一後も手帳の種類が容易に判別できるようにしている場合も多い。外観から障害を区別されたくない障害当事者と、容易に手帳を判別したい交通事業者の双方に配慮できる手法であると言える。

窓式カバーによる表紙の透明化

手帳カバーの表紙部分を窓とする形でカバーの様式を統一する事例もあり[405][406][407]、この場合は内部の手帳台紙の表紙が表示されることになるため、手帳の種類による表記の区別を残しながら手帳カバーの統一が可能であり、手帳の判別性と経費削減を両立できる手法である。

窓式カバーでは表示面を表にすることもあり、手帳台紙を折り曲げる方向によって窓から手帳表紙または表示面のどちらを表示するかを選択可能な場合もある[408]。このような手帳では本人確認がしやすいことから写真のある表示面を提示することを推奨している場合もある[409]。この場合は手帳を開かずに確認を行うことを意図しており、提示する表示面が表紙を兼ねる、または兼ねる可能性があるため、表示面上部に手帳の種類の表記を行っている[409][410][399][411][412]

しかし、夜間などは手帳内の文字は見えにくく、割引対象外の精神障害者手帳の識別が難しいという指摘もある[351]。窓から見ると精神障害者手帳のみ有効期限の更新欄が多数並んでいることから判別しやすいことも多いが、更新欄を設けずに毎回台紙を更新し、最新の有効期限のみを表示する場合や[413]、手帳の外観の統一が優先された結果、有効期限が内部に表示され手帳の区別がつきにくく、そもそも手帳を開かずに確認することを意図していながら、手帳を開かなければ精神手帳の有効期限の確認すらできない場合もある[409]

このような窓式手帳では、窓から見える手帳台紙の表記から手帳の種類が識別できる一方で、手帳カバーには全手帳統一で「障害者手帳」の表記がされ[408]、紛らわしい場合もある。カバーに比べて台紙は色の区別が容易であり、手帳台紙のみ色を区別していることがある[410]

手帳を完全統一する方針

色だけでなく、手帳カバーの表記まで「障害者手帳」等で統一する場合もあり、この場合は手帳を開くまで判別することはできない。ただし、手帳を開けば厚生労働省の様式では表記がない内側にも自主的に手帳の種類の表記を行うなど、識別が容易となっている場合もある[414]

外観では判別が難しくても、手帳を開くと内側にも「身体障害者手帳」等の表示を自主的に設けるなど、意外にも判別が容易であることも多い

ただし、手帳台紙の表記すらも統一される場合もあり、表紙部分を窓としながら[415]、手帳台紙の表記を厚生労働省が通知する手帳の様式から逸脱して[注 77]「障害者手帳」で統一している場合もあるため[419][406][420]、手帳台紙の表記であったとしても必ずしも精神障害者手帳が判別ができるわけではない。このような場合でも、有効期限の表記[注 75]や等級欄の種類[注 76]、手帳の根拠法令の記載などから判別は可能であるが、手帳は発行体によって様式が異なるため記載位置を探す必要があり、判別に手間取ることがある。

手帳識別の問題

療育手帳と精神障害者手帳には障害名の欄自体がないため、手帳の障害名の部分から割引対象外の精神障害者を判別できないという構造上の問題を抱えている。しかし、その代わりに厚生労働省が通知する様式では台紙の表紙や最上部に手帳の種類の表記があり、むしろ障害名の記載部分を探す必要がなく、識別を容易としている。ところが、色だけでなく、手帳カバーの表記、さらには手帳台紙の表記まで統一されたり、表記を撤廃されると一気に判別が難しくなる。また、身体障害者手帳であってもプライバシーへの配慮などから、表示面に障害名を記載せず他の面に記載する場合があり[421]、一見すると等級のみが存在する場合があるため[414]、精神障害者手帳と誤認しやすい。

判別の難しさが問題になった身体(左)と精神(右)の手帳の例[422]。秋田県は手帳カバーの色と表記を統一の上で表示面(第1面)のみを窓から表示し、精神の手帳の特徴である有効期限まで内側に記載するという独特の手法で統一された[409]。手帳台紙の表記の統一は避けたため、左上の「身体障害者手帳」等の表記による判別には対応しているが、手帳カバーの色で見分けられない場合には割引対象外の精神障害者手帳の判別が難しいとの意見もみられる[351]

また、カバー表紙などによる手帳の判別が難しい場合は手帳内の記載まで確認する必要があるが、その確認が苦情・トラブルの原因になるおそれがある。特に窓式手帳で外側からも最低限の事項が確認できる場合、またはそれ以外でも障害名や有効期限の欄を別のページに設けている場合などは、どうして手帳の確認ができているのに内側(または別ページ)まで見るのかなどと事情を理解していない障害者から不信感を受けやすく、特に問題になりやすい。障害名の記載欄の存在や障害等級の記載方法などは割引対象の身体障害者手帳であることを判別する上で正当な行為であるにもかかわらず、手帳の確認の際に障害の程度まで見られて不快な思いをしたとの苦情を受けることがあり、事業者は対応に苦慮している[351]

しかし、多くの場合で色の統一後も表記は区別しているため、ほとんどの場合において「障害者手帳」の表記によって割引対象外の精神障害者手帳を区別することができる。特に手帳台紙は様式の規定のない手帳カバーとは異なり、厚生労働省の様式では手帳の名称の表記が区別され[423]、そのような表記が推奨される形となっているため、カバーの表記が統一されたとしても手帳台紙の表記まで統一されることは稀である。

療育手帳は表記の統一とは関係なく「愛の手帳(○○市療育手帳)」などの表記とし、手帳台紙の表記が厚生労働省の様式から逸脱していることも多い[392]

ミライロIDは標準では最低限の情報のみ表示され、障害名などは表示されないが、手帳の種類を表示する欄があり、位置や色も異なるため容易に識別することができる。また、精神障害者の表記も「障害者手帳」ではなく「精神」の表記を使用しているため、身体障害者手帳と誤認する恐れもなくなっているが、文字や色の面積が小さいため注視しないとわからない。期限の判定がアプリ側で行われるという特有の利点もある[424]。しかし、当然ながら利用は障害者本人の選択であり、事業者が能動的に利用することはできない。

有料道路の割引は市区町村の福祉担当窓口で手帳に有料道路の割引対象であることを示すシールを張り付けるかマイナポータルを使用したオンライン申請でETCに登録するため、料金所で手帳の種類を確認する必要はなく、精神障害者や割引対象以外の知的障害者を誤って割引する恐れはない。

JRの割引開始後の問題

JRが精神障害者割引を開始することで精神障害者手帳にもJRの減額種別が記載されるようになると、JRの減額欄を使用しながら精神障害者割引でJRに追従しない事業者(一部のJRバスの路線を含む)ではJRの第1種・第2種を使用した識別を行うと誤って精神障害者も割引してしまうことになった。JRが内部障害者と知的障害者の割引を開始して以来、鉄道・バス事業者などの割引はおおむねJRと同じ対象であることが多く、区分を利用しない場合でもJRの減額種別の記載の存在自体が手帳の識別で利用でき、かつて一部の身体・療育の手帳に存在した航空割引表示とは全く状況が異なっていた。

JRグループでは精神障害者の第1種・第2種の区分を決定し[17]、手帳の「旅客鉄道株式会社旅客運賃減額」欄に第1種または第2種の記載のある精神障害者手帳を割引の対象とすることを公表したため、精神障害者手帳にもJRの減額欄が追加されることになった。

これは、JRの減額区分を使用しながら身体・知的障害者に対する割引のみを継続し、精神障害者割引ではJRに追従しない事業者に多大な影響をもたらすことになるが、手帳の第1種・第2種はJRの判断であり[17]、記載が進められることになった。

「等」の違い

精神障害者手帳のみ「旅客鉄道株式会社旅客運賃減額」と「等」のある形で記載された(画像再掲)

ところが、厚生労働省はJRの減額欄の追加に当たって「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領」を改正したが、追加されたのはJRグループが発表した

  • 「旅客鉄道株式会社旅客運賃減額」欄[58]

ではなく

であったのである。

「等」のある記載が行われたのは精神障害者のみであり、身体・療育の手帳は2025年に至っても「等」を追加する変更は行われず、新規に発行される手帳を含め2019年改定の様式[428]から変更されず、「等」のない表記のままであった[423]。JRの精神障害者割引開始後もJRの減額欄の「等」で区別できるという状況が生まれた。

「等」のない誤表記の発生

しかし、一部の地方公共団体では手帳に異なる表記を追加してしまった事例が出た。例えば「鉄道旅客運賃減額[429]」や単に「旅客運賃減額[430]」など[431]の完全に誤った表記をしてしまう事例が出てしまい、記載内容の訂正に追われることとなった。

特に問題となったのは誤って「旅客鉄道株式会社旅客運賃減額」の「等」がない表記を記載してしまった事例である[432][433][434]。精神障害者手帳のみ「等」のある表記を追加するという説明が十分ではなく、それどころか当初は厚生労働省からも「等」のない「旅客鉄道株式会社旅客運賃減額」欄とする通知が出され[46]、大きな混乱を生むことになった。

当初は「等」の記載が無い場合はJRグループでの割引ができない方針が伝えられたため[435]、JRでの割引を希望する者に順次「等」のある記載へ変更を行ったが、「等」の有無はあまりにも些細な違いであり、精神障害者のみ「等」の一文字がないだけで割引ができないという運用は大きな混乱を招くだけであった。また、JRの係員も身体と療育の手帳は「等」がない手帳で割引し、精神障害者手帳は「等」がない手帳は割引を拒否するという難しい判断を強いられることになった。「等」のない表記はほとんどがスタンプやシールによるものであるが、新規発行の手帳の印字で「等」が抜けていた事例もあり[432][434]、特に見分けが難しい場合もあった。 [[|thumb|埼玉県の「等」の追加例[433]
当初は精神障害者のみ「等」のない手帳ではJRの割引が受けられなかったため、抜けていた場合は追加する必要があった]]

その後、一転して厚生労働省より「等」がなくても割引適用可となる旨通知があり[432]、「等」の追加は終了した。

「等」の記載が無い精神障害者手帳が一定数出回ることとなったが、新規発行の精神手帳は全て「等」がある表記で発行されるようになり、「等」で精神障害者手帳と認識する要素の一つとすることは割引の誤適用を防ぐ上で依然として有効性が高い状況となっている。また、再発行や等級の変更、手帳発行体が異なる地域への転出、有効期限の更新欄の使い切りなどによる新たな手帳への移行[432]で順次「等」がある様式へ変更され、「等」の表記がない精神障害者手帳は減少することが予想される。

ただし、厚生労働省の通知する手帳の様式でも誤表記を追認する形で「等」のない表記とすることができると追記されたため[436][437]、JRの割引規則上は引き続き精神障害者のみ「等」が存在する表記を前提としているものの[注 78]、精神手帳でも必ずしも「等」がある表記を使用する必要はなくなっている。なお、身体と療育の手帳では「等」のある表記を容認する変更も行われていないため、「等」は精神障害者専用の表記となっており、「等」の存在から割引対象外と認識しても誤って身体や療育の手帳を割引対象外と認識する恐れはない。

身体・療育の手帳は「等」の追加の見通しは立っていないが、地方公共団体情報システムの標準仕様書は身体・療育の手帳も同様であるとして[427]全て「等」がある様式に変更しており[438]、地方公共団体が新規に調達する障害者福祉システムでは全ての手帳で「等」の記載準備が完了したシステムであると考えられる。ただし、厚生労働省は2026年に至っても身体・療育の手帳は「等」がない表記のまま様式を変更していないため[423]、実際に精神以外の手帳に「等」が追加されるかは不明である。

精神障害者への割引適用拡大の動き

上記の問題に対し、国が主体となって3障害一律の割引を行なうために動くべく、2016年3月頃から各地の都道府県議会で「障害者差別解消法に基き、精神障害者に対しても同一の交通機関の割引を行う」決議が全会一致でなされている[439][440][441]

2021年6月11日、赤羽一嘉国土交通大臣から国土交通省内各局に対し、「真の共生社会実現に向けた新たなバリアフリーの取組」に関する大臣指示を行った。その中で、精神障害者割引の導入促進に関して、「本取組の具体的な方向性や目標等を早期に定め、その実現に向けた検討等を開始すること。」を指示内容として明記している[442]

なお療育手帳では、全日本手をつなぐ育成会等、関係諸団体の運動の結果、JR運賃や鉄道料金の割引制度が設けられた[443]

脚注

関連項目

外部リンク

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