本作の主題と構図は、まだ王立絵画彫刻アカデミーの画学生であったフラゴナールが、1756-1761年の最初のイタリア滞在時に描いた小品の風俗画を思わせる。彼はローマとその近郊のピクチャレスク的生活に魅せられたようで、見たものにもとづき、数多くの絵画と素描を制作した。しかしながら、初期作品との類似性にもかかわらず、本作は、フラゴナールが2度目のイタリア滞在 (1773-1773年) を終えた後の1770年代半ばに描かれたものである[1][2]。
本作の主題はフラゴナールの最も人気のあったものの1つで、数々の変種があるだけでなく、2度版画化されている[1][2]。作品は、女性と何人かの子供のいる室内を表している。左側の窓の外には男性の姿が見える。彼は通常、子供たちの父親であると解釈され、屈んで家族を愛おしそうに見つめている[1]。白いブラウス、赤いスカートの若い母親が幼子を抱いて坐り[3]、子供たちに囲まれているが、18世紀半ばの、特に田舎における高い幼児死亡率を考えると、子供の数は多い。1人の子供は犬と戯れ、もう1人はロバに干し草を与えている。背景の暗がりの中には、おそらく召使と思われる老女が見える。5番目の子供が彼女の後にいるが、あたかも石柱の後で燃えている火を怖れるかのように彼女にしがみついている[1]。
フラゴナールの水彩画『幸福な家族』 (1775年ごろ)、コニャック=ジェイ美術館、パリ
フラゴナールは家族の貧しさを強調している。彼がジャン・シメオン・シャルダンの工房で画業を始めたことを想起させる、画面右側のわずかなリーキ (セイヨウネギ) 、最前景の帽子に入っているリンゴ、一家が廃墟に家を建てたことを示す古代建築などが貧しさを表している。このような物質的困窮にもかかわらず、家族は愛情に満ちていおり[1]、家畜の犬とロバもまるで家族のようである。人々の視線により、彼らが互いに深く結びついている様子が見て取れる。ここには、質素な生活であるが、子宝に恵まれて、幸福な生活が表現されている[3]。
この家族像は、18世紀フランスで活躍した思想家ルソーの「家庭は社会の基本であり、家族愛は道徳の根本」という思想にもとづく「理想の家族像」を描いたものである。同時に、「聖母子」、「聖家族」、「羊飼いの礼拝」といった伝統的なキリスト教絵画の主題を当時の人物に置き換えて表した作品ともなっている[3]。加えて、幸福な家庭生活に恵まれたフラゴナール自身が、当時流行した官能的な絵画のみならず、こうした素朴な絵画にも才能を持っていたことが示されている[3]。
なお、1760年代と1770年代のフラゴナールのほかの風俗画同様、本作は18世紀後半の最も革新的な画家であったジャン=バティスト・グルーズの明らかな影響を受けている[1][2]。