Wikiwand AI

国旗の損壊等の処罰に関する法律

日本の法律 From Wikipedia, the free encyclopedia

国旗の損壊等の処罰に関する法律(こっきのそんかいとうのしょばつにかんするほうりつ)は、日本の国旗を損壊することに対する刑罰を規定した「国旗損壊罪」を新設する法律[1]。報道などでの略称は国旗損壊処罰法で、2026年令和8年)8月13日に施行された [2][3][4]

通称・略称 国旗損壊処罰法
法令番号 令和8年法律第69号
提出区分 議法
種類 刑法
概要 国旗の損壊等の処罰に関する法律, 通称・略称 ...
国旗の損壊等の処罰に関する法律
日本国政府国章(準)
日本の法令
通称・略称 国旗損壊処罰法
法令番号 令和8年法律第69号
提出区分 議法
種類 刑法
効力 現行法
成立 2026年7月17日
公布 2026年7月24日
施行 2026年8月13日
所管 法務省刑事局
主な内容 公然と、人に著しく不快・嫌悪の情を催させる方法で日本の国旗を損壊等した者を処罰する
関連法令 外国国章損壊罪
国旗及び国歌に関する法律
航空法
船舶法
など
条文リンク e-Gov法令検索
ウィキソース原文
テンプレートを表示
閉じる

成立・施行前の通称は「国旗損壊罪法案[5]

主務官庁

歴史

日本国旗を尊重することを法律で義務付ける試みは、1999年平成11年)の国旗及び国歌に関する法律制定時にも存在していた。当時内閣官房長官を務めていた野中広務はそのような考えを示していたが、1999年(平成11年)6月29日の衆議院本会議内閣総理大臣小渕恵三が「国旗に対する尊重規定や侮辱罪を創設することは考えておりません[6]」と答弁した後、条文化は見送られた[7]

2012年(平成24年)5月25日、自由民主党は、総務会日章旗を傷つけることに対する罰則を定めた「国旗損壊罪」の刑法改正案を了承した。この法案は、日本国を侮辱する目的で国旗を損壊、除去、汚損した者に対して2年以下の懲役または2万円以下の罰金を科すものであった[8][9]。この法案は、高市早苗長勢甚遠平沢勝栄柴山昌彦が議案提出者となり、議員立法第180回国会法務委員会に提出されたが、審査未了で廃案となった[10][11]

2021年(令和3年)1月26日、自民党保守団結の会城内実や高市早苗は、外国国章損壊罪が存在するにもかかわらず、日本の国旗に対する国旗損壊罪がないのはおかしいと主張し、政調会長下村博文に、国旗損壊罪の提出を要請した[12][13]。高市はまた、「国旗損壊罪がないのは敗戦国だから」とも自身のホームページのコラムに記述していたが、『毎日新聞』はこの記述に対しファクトチェックで否定した。記事が掲載された後、記述は削除された[14]。なお、表現の自由が重んじられているデンマークは日本と同様に、自国の国旗損壊は容認する一方で、他国の国旗を損壊する場合のみ外交問題を理由に犯罪としている[15][16]。自民党内では、岩屋毅が「過度な規制につながる」として本法案に反対の立場だという[5][17]。また、2025年自由民主党総裁選挙で高市を支持した西田昌司も反対の姿勢を示している[18]

2025年(令和7年)10月20日、自由民主党と日本維新の会は、2026年(令和8年)の通常国会で「国旗損壊罪」を制定することを記載した連立政権合意書を締結した[19]。国旗損壊罪が連立政権合意書に盛り込まれたことは、ほとんど党内議論を経ていなかったという[20]。吉井透の取材によると、国旗損壊罪の制定を盛り込んだのは高市の意向によるものであり、日本維新の会にとってはそれまで関心の範囲外だった[21]

10月27日、第219回国会において、参政党が日本国国章損壊罪の創設を内容とする刑法の改正案を参議院に単独提出したことを発表した[22]。本法案によれば、日本国に対して侮辱を加える目的で、日本国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処することとされている[23]高市政権で法務大臣を務める平口洋は、10月31日の記者会見で、「法改正の要否を含め対処」すると述べた[24]。同日、ABEMA Primeで本件に賛否があることが取り上げられ、その回の同番組の司会を担当したカンニング竹山と賛成派の梅村みずほが議論を交わした[25]。11月4日、高市早苗は所信表明演説代表質問で国旗損壊罪の制定について「政府として必要な取り組みを進める」と述べた[26]

11月7日、参議院議員の齊藤健一郎NHK党の会見にて日本弁護士連合会(日弁連)などが国旗損壊罪に反対していることについてどう思うか問われ、「正しく情報を取っていない人がいるので気をつけてください」「外国国章損壊罪は親告罪アメリカの国旗を破って燃やしたとしてそれが即犯罪になるかと言うとならない。アメリカから親告されて罪になる。(国旗損壊罪における)日本の国旗でも一緒」「日本の国旗も官邸参議院会館が掲げるような公の国旗と個人が所有している個人の国旗に分かれる」「個人の国旗を破いたりして罪になるかと言うとまた別の話。今法律で縛ろうとしているのは公の国旗」と説明している[27]。一方、自由民主党のプロジェクトチームは、公の国旗だけでなく個人の国旗を対象に含めることを視野に入れている[28]

2026年(令和8年)3月、小林鷹之は現行法の改正ではなく、議員立法による新法の提出を軸に検討する旨を述べた。また、小林は罰則が必要とも主張した。与党内では、罰則を設けるのは困難であるという見方もあり[29]、国旗の尊重を規定するが罰則は科さない理念法に留める案も浮上した[30]大濱崎卓真は、刑法改正ではなく新法が検討されているのは、野党が委員長である法務委員会ではなく別の委員会で審議されるようにするためと指摘している[31]。また、政府は内閣委員会に付託される見通しの国旗損壊罪の成立を優先するため、同じ内閣委員会に付託される旧姓使用法案の第221回国会での提出を断念した[32]。 6月16日 、自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党の4党は第221回国会において国旗損壊罪を創設する法案を衆議院に共同提出した[33][34][35]

6月26日 、衆議院内閣委員会で国旗損壊罪法案が賛成多数で可決された[36][37]。法案を提出した自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党の4党のほか、チームみらいが賛成に回った[36]

6月30日、衆議院本会議で採決され、自民党と日本維新の会などの賛成多数で可決された[38]。法案の共同提出者であった国民民主党、参政党は同時期に与党が提出した議員定数削減法案や国会対応に反発し、中道改革連合日本共産党と共に本会議を欠席した[39]。また、法案に反対していた自民党の岩屋毅は採決前に本会議場から退場し棄権した[40][41]

7月7日、参議院内閣委員会で審議入りした[42][43]。7月16日、参議院内閣委員会で賛成多数で可決した[44]。賛成は自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党[44]。反対は立憲民主党、公明党、共産党、れいわ新選組[44]。7月17日の参議院本会議に於いて可決され成立した[45]。賛成は自民党、日本維新の会、国民民主党、参政党、日本保守党の5党で、参議院にのみ議席をもつ日本保守党が賛成に回った[46]

成立した「国旗の損壊等の処罰に関する法律」は、日本の国旗を損壊・汚損する行為を処罰の対象とし、これに違反した者に拘禁刑または罰金を科すものである[45]。制度設計の出発点となった2026年(令和8年)5月15日時点の自民党骨子案では、公の国旗のみならず自己所有の国旗も対象に含めたうえで、「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」で損壊する行為を罰するとともに、その行為を撮影した動画や画像をSNSなどに投稿し不特定多数が閲覧できる状態に置くことも処罰対象とし、非親告罪とすることが想定されていた[47]が、SNSへの投稿を処罰対象とする点には懸念が強く、6月16日に自由民主党・日本維新の会・国民民主党・参政党の4党が共同提出した段階では、SNS投稿を処罰対象から削除し、損壊後に事後的に投稿する行為を除外する修正が行われた[34][35]。一方で、損壊行為そのものをその場でライブ配信する行為は、7月17日に成立した法律でも処罰対象として残された[46]

8月4日、国会内で憲法研究者らが記者会見し、国旗損壊罪法の成立に抗議して速やかな廃止を求める声明を発表した[48]。「国旗を使った芸術表現を公的な場で展示することが困難になり、深刻な萎縮効果が及ぶ」と指摘し、「表現行為に対する規制としては漠然とし、違憲と判断されるべきものだ」と批判した[49]

「国旗の損壊等の処罰に関する法律」は7月24日に公布され、8月13日より施行された[3][4]

与党の動向

自民党のプロジェクトチーム

自民党は2026年4月に国旗損壊罪について検討するプロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、法案について議論した。PTによると、保護法益は「国旗を大切に思う国民の感情」であり、社会的法益であるとされている(ただし保護法益の最終的な判断は何らかの裁判が起きた際に最高裁に委ねられる)[注釈 1]。また、国民が個人として所有する国旗も対象とし、「意図や目的で判断せず」損壊行為が罰則付きで禁止される見通しが示された[51]。PTは、「意図や目的で判断しない」のは、表現の自由や思想・良心の自由に配慮した結果と主張しているが[52]、処罰範囲がかえって拡大する可能性が指摘されている[51]。法学者の江藤隆之は、「意図や目的」を要件から外したとしても、表現の自由の問題は回避できないと指摘している[53]松宮孝明は、表現という内心の発露を罰する以上、内心の自由を侵害することは明らかであり、外形的に判断するから内心の自由に反しないということにはならないと述べている[54]

自民党は、国旗の損壊行為に加え、その行為を撮影した映像を送信したり損壊された国旗を陳列することを処罰対象とする方向で調整していると報じられた[55]

6月1日 、自由民主党内閣第一部会(部会長・長谷川淳二)と国旗の損壊等に関する制度検討PT(松野博一座長)は、合同で会議を開き、国旗損壊罪を新設する法案を了承した[56]

骨子案

2026年(令和8年)5月15日に示された自民党の骨子案によると、自己所有のものを含め、「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」で国旗を損壊した場合、2年以下の拘禁または20万円以下の罰金を科される。また、国旗の損壊行為に加え、その行為を撮影した動画や画像を不特定多数の人が見られる状態に置くことも処罰対象となり、非親告罪としている[47]。同日に開かれた会合で、罰則が設けられていることへの慎重論や[57]SNSへの投稿も処罰対象とすることに懸念が出たため、修正案が作成されることとなった[58]

5月22日に開かれたPT会合で、罰則を規定し、SNSへの投稿も処罰対象とするが「お子様ランチの旗」や「絵画の一部として描かれた旗」は対象外とする案で了承され、座長の松野博一に対応が一任された。岩屋毅はまだ議論が尽くされていないとして一任に反対した[59]。「国民の感情」を保護法益とし、「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」を表現規制の対象とすることには、曖昧さや他の表現にも規制対象が波及することが見込まれる点において懸念が示されている[60][61]

22日に骨子案が大筋で了承された後、自民党の日本の尊厳と国益を護る会は「一刻も早く罰則付きで法整備をする必要がある」との声明を発表し、今国会で成立させるために「一致団結した行動を取る」と述べた[62]

野党の動向

2026年(令和8年)3月31日、中道改革連合階猛立法事実を疑問視した。公明党竹谷とし子は、法制化が必要なのかも含めて慎重な議論が必要と述べた[63]。『北海道新聞』が道内関連の国会議員31人に対して行った調査によると、野党で法案の制定に賛成した議員はゼロだった[64]

法学的観点

旗の冒涜の合法性
  旗の冒涜は合法
  外国国旗の冒涜は違法
  国旗の冒涜は違法
  国旗および外国国旗の冒涜は違法
  不明またはあいまい

日本と同様に表現の自由を規定した成文憲法を有するアメリカ合衆国(米国)では、1989年のテキサス州対ジョンソン事件で、国旗の損壊や侮辱を禁じるテキサス州法が最高裁で違憲となっている[65]。この事件では、共和党ロナルド・レーガンによって指名された保守派のアントニン・スカリア判事も違憲を支持した。ウィリアム・J・ブレナン・ジュニアによって執筆された判決文によると、「政府は例え国旗が関係するとしても、人々がそれを不快に感じるという理由だけで、言語か非言語かに関わらず表現を禁止することはできない」「国旗損壊は喧嘩言葉ではないため、必ずしも治安を乱し、差し迫った違法行為を誘発させるとはいえない」[66]。2026年(令和8年)3月31日、国民民主党玉木雄一郎はアメリカのこの判例を引用し、「思うことを信じて発信する権利は憲法上最も優越的に保護されており、日本での法案の議論も慎重な議論が必要になる」という見方を示した[67]。また、玉木は親告罪否かも論点になると指摘している[68]

米国では、1943年のウェストバージニア州教育委員会対バーネット事件で、公立学校で生徒に対し国旗への敬礼を強制させる規則も違憲となっている[69]。また、1990年のアメリカ合衆国対アイクマン事件では、テキサス州対ジョンソン事件の射程を超えて、「侮辱目的」や「不快にさせる」という文言が含まれない、単純に国旗の損壊を禁止する法律を違憲無効とした。それらの文言が含まれていなかったとしても、国旗の損壊を禁止すること自体が言論に対し内容中立的な法律とは言えないことが理由に挙げられている[70]

イギリス[71]カナダ[71]オーストラリア[16]ベルギー[72]オランダ[73]スイス[74]などには、自国国旗損壊を処罰する法律はない。2008年、ノルウェーは自国国旗および他国国旗の損壊を犯罪とする1902年の刑法を廃止した。ノルウェー政府は、「これらの法律は制定された時代背景に基づいて理解されるべきであり、現代では表現の自由、デモの自由を侵害するこれらの規定は必ずしも必要な干渉ではない」「外国の国旗および自国国旗に対する尊重は、刑法以外の方法で達成されるべきである」としている[75]。2011年に、国連自由権規約人権委員会は「国旗やシンボルに対する不敬」に関する法律に懸念を表明しており、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国旗損壊罪は市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)に反する恐れがあるという見解を示した[76]

United Nations Human Rights Committee, General comment No. 34, Article 19: Freedoms of opinion and expression, CCPR/C/GC/34, para. 38

38. As noted earlier in paragraphs 13 and 20, concerning the content of political discourse, the Committee has observed that in circumstances of public debate concerning public figures in the political domain and public institutions, the value placed by the Covenant upon uninhibited expression is particularly high. Thus, the mere fact that forms of expression are considered to be insulting to a public figure is not sufficient to justify the imposition of penalties, albeit public figures may also benefit from the provisions of the Covenant. Moreover, all public figures, including those exercising the highest political authority such as heads of state and government, are legitimately subject to criticism and political opposition. Accordingly, the Committee expresses concern regarding laws on such matters as, lese majesty, desacato, disrespect for authority,  disrespect for flags and symbols, defamation of the head of state and the protection of the honour of public officials, and laws should not provide for more severe penalties solely on the basis of the identity of the person that may have been impugned. States parties should not prohibit criticism of institutions, such as the army or the administration.[77]

(口語訳)

国連自由権規約人権委員会 一般的意見34 第19条: 意見および表現の自由 第38項 (CCPR/C/GC/34)

38. 第13項および第20項において先に述べたように、政治的言論の内容に関して、委員会は政治分野の公人および公的機関に関連する公的討論という状況において、規約は抑制されない表現へ特に高い価値を置いていると見ている。ゆえに、単にある表現形態が公人に対して侮辱的であると考えられるという事実だけでは処罰を科すことの正当化には不十分であり、とはいえ公人もまた規約の諸規定から保護を受けることがありうる。さらに、すべての公人は、国家元首および政府の長のような最高位の政治的権限を行使する者を含めて、正当に批判や政治的な反対の対象となる。したがって、委員会は不敬罪、公務員・公的権威への侮辱罪、権威への無礼、国旗および国家象徴への無礼、国家元首への名誉毀損、公務員の名誉保護などの法律に関して懸念を表明し、また法律は非難されたとされる人物の身分・地位だけに基づいてより厳しい刑罰を定めるべきではない。締約国は、軍隊あるいは行政部門のような機関への批判を禁止するべきではない。

国連の自由権規約の締約国は2026年4月1日時点で175か国となっており、日本は1979年に批准し締約国となった。自由権規約は締約国を国際法上拘束するが一般的意見の個別の項目には直接的な法的拘束力は及ばない。国連に対してはむしろ抵抗することもでき、日本は2025年に国連の女性差別撤廃委員会に対して皇位継承を男女平等にする皇室典範改正の勧告に従うどころか抗議し、さらに日本から国連人権高等弁務官事務所への拠出金を女性差別撤廃委員会へ充当しないように要求した[78]

一方で自国国旗損壊罪を制定している国もある。何を重視するかは各国特色を持ち、中華人民共和国イタリアは国家、フランスは公的行事への敬意や秩序、また韓国は憲法裁判所がその保護法益を国家のアイデンティティや国民の感情等[79]としている。

ドイツの場合、現行の憲法にあたるドイツ連邦共和国基本法第22条第2項に国旗が明記され、ナチス・ドイツの国旗と異なる新国旗が採用されている。現行のドイツ刑法第90a条により新国旗の毀損や侮辱に罰則がある[80]スペインの場合、スペイン1978年憲法第4条に国旗が明記され、刑法第543条によりシンボルもしくは紋章の侮辱や不敬が処罰の対象となる[81]

フランスでは、フランス共和国憲法第2条に国旗が明記され、刑法第433条の5の1により公的な行事等での国旗の侮辱に罰則がある[82]

イタリアでは、第二次世界大戦後の王政廃止に伴い制定されたイタリア共和国憲法の第12条に国旗が明記され、刑法第292条により国旗または国家標章への侮辱や毀損に罰則がある[83]

中国では、中華人民共和国憲法第136条に国旗が明記され、さらに憲法第52条は公民(国民)に「国家の統一及び全国諸民族の団結を維持する義務」を、憲法第54条は公民に祖国の栄誉等を擁護する義務を規定している。国旗法第23条および刑法第299条に国旗の侮辱に関する罰則がある[84][85]

日本と同様に国旗が憲法に明記されていない国家としては韓国がある。韓国の場合、国旗法第4条に太極旗を国旗とする規定があり、国旗法第5条に国旗の尊重・愛護の義務付け等の規定がある。刑法第105条に国家の侮辱目的で国旗や国章を毀損等することに対して罰則がある[86]デンマークも憲法に国旗に関する条文がない。同国の刑法第110e条は、外国国家、外国国旗その他の公認された国家標章、国際連合の旗欧州評議会の旗を公然と侮辱する行為に罰則を定めている。憲法学者のHenning Koch教授によると、これは「外交危機への対応」である[15]。自国国旗ダンネブロの毀損は規制がなく、デンマーク国民党は自国国旗にも法整備を求めている[15]。Koch教授はデンマーク国民党の主張は外交危機対応と別の観点として「国民感情侵害の禁止」と分析し、区別している[15]

賛否

賛成意見

弁護士の堀内恭彦は、2021年(令和3年)の日本国旗損壊等の罪を新設する動きへの「表現の自由を侵害する」との批判に対し、表現の自由は無制限に保障されるものではなく、国旗を引き裂いたり焼損する行為は保護されるべき「表現」とは言い難いとしている[87]。ただし反対意見もあるため、法律の制定には国民的な議論が必要と述べている[88]

日本大学名誉教授百地章は、外国国旗の損壊には刑法で罰則規定がある一方、日本国旗にはないと強調した上で、「独立した主権国家として明らかにバランスを欠いており、不合理だ」「国旗の尊厳を保護するためにも速やかに国旗損壊罪を導入すべきだ」[注釈 2]と訴えた。また、「先ごろまで国旗国歌法の制定に反対し、国旗掲揚時の起立に抗議した教員がいたり、職務命令による君が代の伴奏を拒否し、裁判にまでなった教員までいた。このような異常事態を解消するためには、積極的に国旗を保護する法律は必要だ」と主張した[89][90]

中央大学法科大学院教授の野村修也は「器物損壊罪、ヘイト行為にあたる場合には、表現の自由の制限が認められることは、現行法からもすでに明らかだ」と強調した上で、「現行法上、外国の国旗を用いた外国人に対するヘイト行為は外国国旗損壊罪によって抑止されているが、日本の国旗を用いた日本国民全体に対するヘイト行為は処罰の対象とはなっていない」と問題意識を語り、国旗が「社会の分断の道具」として用いられる危険性があるとして立法の必要性を主張した。具体例として、「外国人やそれを支援する日本人の市民団体が日本の国旗を大量に持ち寄り、棺桶に入れて火をつけるような事態が起こっても、これは現行法上、致し方ないということになりかねない。そういう事態は起こってほしくない」と述べた[89][90]

海将金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸は、他国の認知戦で国旗を燃やす映像が利用されているとして、安全保障上のリスク管理の観点から一定の立法の必要性に理解を示した[91]

地方議会では、北海道議会が「表現の自由は憲法により保障された極めて重要な権利であり、最大限尊重されるべきものであるが、自由は社会の秩序や公共の利益との均衡の下に成り立つものであり、侮辱を目的とした極端な損壊行為については、思想信条そのものを規制するものではなく、社会の基本的価値を守る観点から一定の法的整理を検討することは否定されるものではない 」とし、「日本国の国旗の法的保護の充実を求める意見書」を可決した[92][93][94]。政令指定都市の議会では初めて仙台市議会が「日本国国章損壊罪」の検討・制定を求める意見書を可決した[95][96]。このほか、北九州市議会[97][98][99]旭川市議会[100]吹田市議会[101]鳴門市議会[102]小松島市議会[103]和歌山市議会[104]南国市議会[105]鳥栖市議会[106][107]大村市議会[108]沖縄市議会[109]菊陽町議会[110]の各議会など、2025年12月から2026年6月にかけて少なくとも13の地方議会が同様に国旗損壊罪(国章損壊罪)の制定を求める意見書を可決している。

産経新聞は法案及び罰則規定を設けることについて賛成の社説を掲載し、「菊花紋章などについても検討すべき」としている[111][112]。他、2025年以降、読売新聞[113]北國新聞[114]が賛成の社説を掲載している。

日本最大の保守団体日本会議は長年にわたり国民運動を展開するなか小渕政権下において国旗・国歌の法制化に関して小渕首相に要望しており[115]、日本会議・日本会議国会議員懇談会[注釈 3]設立十周年記念大会において日本会議会長の元最高裁長官三好達も、日本会議の国民運動が国旗・国歌法制定に寄与したと自負を語っている[116]。2025年、日本会議は国旗損壊罪に関して連立政権合意書に明記している自民・維新連立政権に対して「国旗その他国章の尊重を掲げている点は、戦後長く置き去りにされた課題」として期待を寄せるメッセージを発した[117]大日本帝国憲法下の日本においても国旗損壊罪は存在していないが、不敬罪大逆罪治安維持法のように、より大きな法令群が存在した)。

法案成立の約1か月前に実施された2026年6月の世論調査では、法案への賛成が反対を上回る結果が示された[118]時事通信社の調査では「賛成」56.7%に対し「反対」20.9%であった[118]。また、同月の産経新聞社FNN合同調査でも「賛成」56.9%、「反対」34.9%で、賛成が反対を上回った[118]。この世論調査の結果は、法案が可決・成立した2026年7月17日の参議院本会議における賛成討論でも取り上げられた[118]。国民民主党の堂込麻紀子は、これらの世論調査を引用し、法案への支持を示す根拠として用いた[118]

反対意見

2012年の法案に際し、日本弁護士連合会は表現の自由を侵害する恐れがあるとして反対声明を発出した[50][119][120]

2026年1月に札幌弁護士会、同年2月に広島弁護士会は国旗損壊罪に反対の声明を出した[121][122][123]。さらに6月26日、日本弁護士連合会は改めて「『国旗の損壊等の処罰に関する法律』案に反対する会長声明」を発表し、本法案が表現の自由を侵害する恐れがあると指摘した[124]

同年6月以降、札幌弁護士会[125][注釈 4]仙台弁護士会[126]、山形県弁護士会[127]、秋田弁護士会[128]青森県弁護士会[129]東京弁護士会[130][131]第二東京弁護士会[132]神奈川県弁護士会[133]、千葉県弁護士会[134]、茨城県弁護士会[135]群馬弁護士会[136]、静岡県弁護士会[137]、山梨県弁護士会[138]長野県弁護士会[139]三重弁護士会[140]岐阜県弁護士会[141]、福井弁護士会[142]金沢弁護士会[143]大阪弁護士会[144]兵庫県弁護士会[145]、滋賀弁護士会[146]、島根県弁護士会[147]福岡県弁護士会[148]、宮崎県弁護士会[149]沖縄弁護士会[150]が国旗損壊罪の創設に反対する声明を発出した。

弁護士の伊藤真は、この法案の賛同者が主張する「外国でも国旗損壊罪があるから日本でも新設するべき」という考えについて、アメリカ合衆国連邦最高裁判所が国旗の棄損を禁止する法律を「象徴的言論の自由」を侵すものとして違憲無効としたアメリカ合衆国対アイクマン事件の判例を引用し、疑問を呈した。

民族派団体一水会代表の木村三浩は、「国を憂う心も必要」として、国旗損壊罪に反対の考えを表明した[151]

慶應義塾大学名誉教授の小林節は「日の丸は好きだが、日の丸損壊罪の新設には反対する」とし、日の丸の取り扱いは誰にでも出来る簡単で自然な表現手段であることを理由に挙げた[152]

弁護士の猪野亨は、国旗損壊罪は表現の自由を保障した日本国憲法第21条に照らし、違憲であるとの考えを示した。同様に「イスラエルによるガザへの軍事行動の際に大使館前でイスラエル国旗を毀損すること」を直ちに処罰することは疑問があると述べ、外国国章損壊罪についても無制限の適用は違憲の疑いがあると付け加えた[153]

品川区議会議員で弁護士の松本常広は、外交問題が保護法益の外国国章損壊罪と異なり、国旗損壊罪の保護法益は「日本人の集団的な感情」になると指摘し、個人の権利ではなく特定の集団の尊厳を保護法益とするのは様々な方面の表現規制に道を開くとして反対を表明した[154]

慶應義塾大学教授の駒村圭吾は、国旗損壊罪は国旗に敬意を表したくない人にまで敬意を表することを強制する法律であることを理由に、日本国憲法第21条だけでなく、思想・良心の自由を規定した同第19条にも抵触するとの考えを示した[65]

武蔵野美術大学教授の志田陽子は2021年(令和3年)、国旗損壊罪は芸術文化的な表現を制約することにも繋がりかねないと懸念を表明した[155][注釈 5]。2026年(令和8年)にも、表現の自由などに抵触する可能性があるとして、「現在の案では将来憲法訴訟になったときには、違憲と判断される可能性が非常に高い」と指摘している[89][90]

桃山学院大学教授の江藤隆之は「規制する対象が『表現の自由』であると考えると、単に国民感情だけでは保護法益として不十分だと考えられる」[90]「刑罰は国家が個人に科す最も強力な制裁で、用いるには必要性、相当性、処罰範囲の明確性が求められる」と指摘し、これらが不十分であるとして「廃案にすることも含めて、より慎重な議論が求められる」と主張した[89]

弁護士の林朋寛は、国旗の損壊を通して政治的抗議を行うことも「侮辱目的」とされるおそれがあり、また萎縮効果漫画アニメの表現にも波及する可能性を指摘した[159]

2025年(令和7年)11月4日、弁護士の橋下徹は国旗損壊罪に反対を表明し、「この部分は吉村維新と考え方が真反対」であると述べた[160]

内閣法制局長官で弁護士の阪田雅裕は「今、この法案を必要とするような社会的な状況はない」と指摘し、「差し迫って国旗がいっぱい壊されるとか、国民がものすごく不愉快に思う、という状態が近い将来あるとも思えない。いつかあるかもしれないことで人を処罰することにしたり、人の権利を制限するということは、法律としては行きすぎだと思う」と述べた[161]。また、国家の名誉を守るべきだという倫理観を全国民に押しつけるような法律は、現在の憲法下では許されないとした上で、本法案は「『国旗を大切に思う』よう刑罰で強いることになりかねず、憲法が保障する内心の自由や表現の自由との関係で問題」であると主張した[162]

神戸大学教授の木下昌彦は、国旗を燃やすなどの行為は思想を伝達する政治的表現の典型であり、規制される権利の重要性や具体的な立法事実の乏しさから「合憲性を論証することは困難」であるとして、日本国憲法第21条表現の自由に違反すると述べた[163][164]

中央大学教授の橋本基弘は、犯罪の成否の判断基準が曖昧で「後出しじゃんけん的な解釈を許すような刑罰法規は、法の支配の全面否定だ」と述べ、罪刑法定主義と対立すると批判した上で、本法案を「史上初のあからさまな政府批判禁止法」と評した[165][164]

立命館大学教授の松宮孝明一橋大学教授の本庄武ら11名は「『国旗損壊罪』は制定してはならない」とする刑事法研究者の声明の呼びかけ人となり、賛同者を含め148名の研究者が名を連ねた。声明では、処罰対象となる国旗の定義が「漠然かつ不明確」であること、「不快」という感情を処罰の根拠とすることは危険であり刑事法の観点から重大な疑義があること、外国国章損壊罪は外交的危機への対処を目的とするものであって国民感情の保護を目的とする本法案とは保護法益が異なることなどを指摘した[166][167]

東京大学教授の石川健治早稲田大学教授の長谷部恭男ら14人が呼び掛け人となり、賛同者の大学教授らを合わせ201人が国旗損壊罪法の成立に抗議し、速やかな廃止を求める声明を発表した[168]。呼び掛け人の1人である早大教授の愛敬浩二は「『自分にとって不愉快』という形で表現行為を権力者が規制し始めると、表現者が萎縮する」と訴えた[49]

自由民主党衆議院議員の岩屋毅は、日本で誰かが日章旗を焼いたというニュースは見たことがなく、立法事実がないのに法律を作れば国民への過度な規制につながるとして、国旗損壊罪は必要ないと主張した[169]。また、政治的なアピールのための立法となることを危惧しているとも語った[170]

信濃毎日新聞』は、2025年(令和7年)11月1日の社説で、中国の支配強化に反対する香港の住民の事例を挙げ、国旗をあえて燃やしたり破ったりする行為は政治的意思を表す方法の一つであり、国旗損壊罪は表現の自由の保障に抵触し、内心の処罰や思想の統制に繋がると述べた。また、沖縄国体日の丸焼却事件器物損壊罪に問われたことからも実害を伴う行為は現行法で対処できるとした。そのため、外国国章と同じに扱うのならば外国国章損壊罪を廃止するべきであると論じている[171]

このほかに2025年(令和7年)以降、以下の各紙が社説で法案を批判した。

脚注

関連項目

Related Articles