AIDA (マーケティング)
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AIDA(アイダ)は、セント・エルモ・ルイスによって作られた消費者が商品やサービスを認知してから購入に至るまでの心理的プロセスをモデル化したものである。このモデルは、消費者の心理が以下の4つの段階(Attention:注意を引き、Interest:関心を引く、Desire:欲求を生み出し、Action:行動を促す)を経て変化する効果階層モデル(Hierarchy of Effects Models)をベースとしている。これは、消費者が購買決定を行う際に一連のステップや段階を経ることを示唆している。消費者が認知的段階、情動的段階を経て、行動(購入や試用など)的段階に至るという仮定に基づいた、線形で順次的なモデルである[1]。
現在では、多くのマーケターによって、カスタマージャーニーの最初の部分を表すものとして再利用されている。
基本的なAIDA
AIDAモデルで提唱されている4つの段階は以下の通りである[2][3]。
- 注意(Attention) – 消費者がカテゴリー、製品、またはブランドを(通常は広告を通じて)知る。
- 関心(Interest) – 消費者がブランドの利点や、そのブランドが自分のライフスタイルとどのように適合するかを知ることで関心を持つ。
- 欲求(Desire) – 消費者がそのブランドに対して好意的な意向を抱く。
- 行動(Action) – 消費者が購入意図を形成し、買い回りをし、試用し、または購入を行う。
このモデルの現代的なバリエーションの中には、「注意(Attention)」を「認知(Awareness)」に置き換えるものもある。
消費者理論による裏付け
マーケティングや心理学において、広告を見る(S)という作用が、物を購入する(R)という刺激反応モデル(S-Rモデル)が存在する。このSとRの間に、プロセスを加えたものを効果階層モデルという。AIDAや、ラビッジの効果階層、DAGMAR、およびAIDAの派生形などのモデルは、この効果階層モデルを応用したものである。効果階層モデルは広告理論を支配しており[4]、これらのモデルの中でAIDAモデルは最も広く適用されているものの一つである[5]。
この階層モデルは、消費者が効果階層を移動する際、認知的処理段階と情動的処理段階の両方を通過するとしている。効果階層モデルの基礎となる行動シーケンスの核心的なステップとして、
- 認知(Cognition:認知または学習)
- 情動(Affect:感情、関心または欲求)
- 行動(Behavior:行動)
が定義されている[6]。これをまたはCAB(認知的-情動的-行動的)と呼んでいる。
さらに、一部のテキストでは、このCABの名称を変えたLFDといったものがある。
- 学習(Learning)
- 感情(Feeling)
- 行動(Doing)
さらに
- 認知(Awareness/learning:認知/学習)
- 情動(Feeling/ interest/ desire:感情/関心/欲求)
- 行動(Action:行動 例:購入/試用/消費/使用/情報共有)
と、名称を変えて扱っているものもある[7]。
消費者はこの順序で線形的(リニア)にステップを経ると仮定されており、長年にわたりマーケティング・コミュニケーションや広告分野の理論的支柱となってきた。AIDAモデルの主な欠陥は、満足、消費、リピート購入行動、および紹介やオンライン製品レビューの作成への参加といったその他の購入後の行動意図など、購入後の効果が欠落していることである[8]。さらに、AIDAでは、デジタル時代のマーケティングに対応していないという批判がある。このような批判は、AIDAの代替モデルの開発につながった[9]。

パーチェス・ファネル
基本的なAIDAモデルは、1世紀以上にわたって使用されている最も長く続く効果階層モデルの一つである。AIDAのような階層モデルを使用することで、マーケターはターゲットオーディエンスが時間とともにどのように変化するかを詳細に理解でき、どのタイプの広告メッセージがどの時点でより効果的であるかについての洞察を得ることができる。このとき、段階から段階へと進むにつれて、見込み客の総数は減少する。この現象のことを「パーチェス・ファネル(購買の漏斗)」と呼ぶ。多数の潜在的購入者が製品やブランドを認知し、その後、より小さなサブセットが関心を持ち、実際に購入に至るのは比較的小さな割合のみである。この効果は「カスタマー・ファネル」「マーケティング・ファネル」「セールス・ファネル」としても知られている[10]。
このモデルは、販売や広告の分野でも広く使用されている。オリジナルのモデルによれば、「各段階で売り手がとるべきステップは以下の通り」である。
- 注意(Attention)を確保する。
- 関心(Interest)を通じて注意を維持する。
- 欲求(Desire)を喚起する。
- 確信(Confidence)と信念(Belief)を生み出す。
- 決定(Decision)と行動(Action)を確保する。
- 満足(Satisfaction)を生み出す[11]。
派生モデル
モデルの欠陥の一部を是正するために、AIDAモデルを修正または拡張した、派生モデルが誕生している。派生モデルでは、テップ数が拡張され[12]、購入後の顧客満足度を含めるもの(例:AIDASモデル)や[13]、インターネットやSNSでの消費者行動を反映したモデルがある(例:AISDALSLoveモデル)[14]。すべてのモデルにおいて「認知(Cognition: C)→ 情動(Affect: A)→ 行動(Behaviour: B)」を含む基本的な順序に従っている[15]。一部の派生モデル(AIDCA・AISAS・AISCEAS・VISAS・SIPSなど)は、日本の広告代理店などが時代のトレンドに合わせて提唱したフレームワークである[16][17][18][19]。
- 基本モデルの派生
- AIDCA:注意(Attention)→ 興味(Interest)→ 欲求(Desire)→ 確信(Conviction)→ 行動(Action)
- AIDMA: 注意(Attention) → 関心(Interest) → 欲求(Desire) → 記憶(Memory) → 行動(Action)
- ラビッジらの効果階層: 認知(Awareness) → 知識(Knowledge) → 好意(Liking) → 選好(Preference) → 確信(Conviction) → 購入(Purchase)[20]
- マクガイアのモデル: 提示(Presentation) → 注意(Attention) → 理解(Comprehension) → 同意(Yielding) → 保持(Retention) → 行動(Behavior)[21]
- 修正AIDA: 認知(Awareness) → 関心(Interest) → 確信(Conviction) → 欲求(Desire) → 行動(Action:購入または消費)[22]
- 購入後・顧客満足を含むモデル
- インターネットやSNSでの消費者行動を反映したモデル
- AISAS: 注意(Attention) → 関心(Interest) → 検索(Search) → 行動(Action) → 共有(Share)[注釈 1]
- AISCEAS: 注意(Attention) → 関心(Interest) → 検索(Search) → 比較(Comparison) → 検討(Examination) → 行動(Action) → 共有(Share)[注釈 2]
- AISDALSLove: 認知(Awareness) → 関心(Interest) → 検索(Search) → 欲求(Desire) → 行動(Action) → 好悪(Like/dislike) → 共有(Share) → 愛憎(Love/Hate)[25]
- DECAX: 発見(Discovery) → 関係構築(Engage) → 確認(Check) → 行動(Action) → 体験共有(Experience)
- SIPS: 共感(Sympathize) → 確認(Identify) → 参加(Participate) → 共有・拡散(Shared & Spread)[注釈 3]
- ULSSAS: UGC(User Generated Content) → いいね(Like) → 検索(Search 1: SNS) → 検索(Search 2: Google等) → 行動(Action) → 拡散(Spread)
- VISAS: 口コミ(Viral) → 影響(Influence) → 共感(Sympathy) → 行動(Action) → 共有(Share)
- AIDAの概念を運用・管理用に再定義したモデル
- RACE: 到達(Reach) → 行動(Act) → 転換(Convert) → 継続(Engage)
批判と課題
AIDAの派生モデルはマーケティングの実務において広く普及している一方で、学術的・実証的な観点からは批判が存在する。
VakratsasとAmblerらの批判
VakratsasとAmbler(1999)は、250以上の論文を調査し、効果階層のいずれに対しても実証的な支持がほとんどないことを発見した[1][5]。つまり、これらのモデルは、厳密な認知心理学的実験や統計的なデータ分析によって導出されたものではなく、マーケターが市場トレンドを言語化した便宜的な仮説としての側面が強い[1][26]。そのような批判にもかかわらず、一部の著者は、特にマーケティング・コミュニケーションと広告の分野において、階層モデルが理論を支配し続けていると主張している[26]。
バイロン・シャープ『How Brands Grow』において、「マーケティングの定説の多くは、データによる裏付けのない神話である」とし、従来のセグメンテーションや差別化、ロイヤルティの概念を統計データを用いて否定している。複雑な人間の意思決定を単一の直線的なプロセスに集約しようとする試みは、科学的妥当性よりも運用の容易さが優先されており、裏付けのないまま派生モデル乱立していると批判している[27]。
線形プロセスへの批判
その他の批判としては、線形で階層的な反応プロセスという概念に依存している点である[28]。実証研究において、このモデルは実際の消費者行動の予測因子としては不十分であることが判明している[29]。さらに、VakratsasとAmblerによって行われた広告効果に関する文献の広範なレビューでは、階層モデルに対する実証的な支持はほとんど見られなかった[1]。実際、一部の研究は、消費者が認知(思考)と情動(感情)の両方の二重経路を通じて同時にプロモーション情報を処理することを示唆している[9]。
Googleは『Marketing in the Messy Middle』において、従来のAIDAや一般的なマーケティング・ファネルのような直線的なモデルでは、現代の消費行動を説明しきれないことを指摘している。そこでは、消費者は「認知→興味→欲求→購入」という一直線のルートを辿らず、動物が餌を探すように情報を採集し、探索と評価のループを何度も行き来し、途中で新たな選択肢が加わったり、振り出しに戻ったりすると指摘されている[30]。
マッキンゼーは『The consumer decision journey』というWeb記事において、消費者の意思決定はパーチェス・ファネルのような直線ではなく、購入後もブランドとの関わりが続く循環型であるとした[31]。消費者は情報をリサーチする過程で、選択肢を絞り込むだけでなく、新たなブランドを追加したり、最初考えたブランドを外したりする。また、商品を使用した体験が、次の購買行動に影響を与え、次回の初期検討段階での優位性に影響を与えるとしている[31]。
ダニエル・カーネマンの批判
ダニエル・カーネマンは『Thinking, Fast and Slow』において、人間の脳には 2つの思考モード が存在し、それらがどのように意思決定を支配しているかを解き明かした[32]。人間の意思決定の多くは直感的(システム1)に処理されており、熟慮(システム2)は、システム1が下した直感的な結論を後付けで正当化するために使われることが多いとしている。AIDAは、段階的に消費者の心理が変容するという製品システム2(熟慮)が働くプロセスを仮定としているが、実際には、システム1が瞬時に判断するため、その仮定が成り立たない。
起源
AIDAという用語と全体的なアプローチは、一般的にアメリカの広告および販売の先駆者であるE・セント・エルモ・ルイスに帰せられる[33]。ルイスは広告に関する著作の一つで、広告が適合すべき少なくとも3つの原則を仮定した。
広告の使命は、読者を引きつけ、広告を見て読み始めるようにすること(attract)。次に、読者が読み続けるように関心を持たせること(interest)。そして、読み終わったときに信じるように説得すること(convince)である。広告がこれら3つの成功の質を含んでいるならば、それは成功した広告である。[34]
F. G. Coolsenによれば、「ルイスは、優れたコピーは注意を引き、関心を喚起し、確信を生み出すべきであるという公式に基づいて、コピー原則の議論を展開した」[35]。実際、3つのステップを持つこの公式は、1898年2月9日発行の『Printers' Ink』誌に匿名で掲載された。「広告の使命は商品を売ることである。これを行うには、当然ながら注意を引かなければならない。しかし、注意を引くことは補助的な詳細に過ぎない。告知には、注意を引いた後に関心を持たせ、納得させる内容が含まれていなければならない」(50ページ)。
1910年1月6日、ルイスはロチェスターで「広告の背後に科学はあるか」というテーマで講演を行い、次のように述べた。
昔の広告マンたちが、ライターが『すべての広告は、注意を引き(attract attention)、関心を維持し(maintain interest)、欲求を喚起し(arouse desire)、行動を起こさせる(get action)ものでなければならない』と言うのを、諦めと優しい寛容の気持ちで聞いていたのを覚えている。広告芸術を公式に従わせようとするその原始的な試みさえも、10年前の選ばれし者たちの怒りを買い、我々は多かれ少なかれ善意のある冷やかしを受けなければならなかった。しかし、今ではそのようなことはあまり聞かれない。10年前の『成り上がりの若造たち』の一部は、今やその単純な公式を機能させることで高給を得ている。[36]
コピーライティングの最初のステップとして読者の注意を引くことの重要性は、広告文献において早くから認識されており、『Handbook for Advertisers and Guide to Advertising』には次のように示されている。
最初の言葉は常に大文字で印刷され、目を引くようにする。そして、それが呼びかける相手の注意を引き(arrest the attention)、さらに読み進めるように誘導する(induced them to read further)ようなものであることが重要である。[37]
ルイスの前駆者として、ジョセフ・アディソン・リチャーズがいる。彼はニューヨーク市の広告代理業者で、米国で最も古い広告代理店の一つを父親から継承した。1893年、リチャーズは自身のビジネスのために、AIDAモデルのほぼすべてのステップを含む広告を書いたが、個々の要素を階層的に順序立ててはいなかった。
広告で言われていることにいかに注意を引くか(attract attention)。ニュースが語られるまでそれをいかに維持するか(hold it)。言っていることの真実性にいか信頼を吹き込むか(inspire confidence)。さらなる情報への食欲をいかに刺激するか(whet the appetite)。その情報が第一印象を強化し、いかに購入につなげるか(lead to a purchase)。これらすべてをいかに行うか。ああ、それは伝えること、ビジネスニュースを伝えること、そしてそれが私のビジネスだ。[38]
1899年12月から1900年2月にかけて、Bissell Carpet Sweeper Companyは、最高の広告文案を募集するコンテストを開催した。当時広告の専門家と見なされていたミシガン州グランドラピッズのFred Macey Co.の会長フレッド・メイシー(Fred Macey)が、会社への応募作品を審査する任務を割り当てられた。決定に至る際、彼はとりわけ以下の点において各広告を検討した。
1. 広告は「注意(Attention)」を受けなければならない。2. 注意を引いたら、それは「関心(Interest)」を生み出さなければならない。3. 読者の関心を得たら、それは「買いたいという欲求(Desire to Buy)」を生み出さなければならない。4. 買いたいという欲求を生み出したら、それは「決定(Decision)」を助けるものでなければならない。[39]
しかし、一般的な概念が最初に出版された例は、1904年のフランク・ハッチンソン・デュークスミス(Frank Hutchinson Dukesmith, 1866–1935)による記事であった。デュークスミスの4つのステップは、注意(attention)、関心(interest)、欲求(desire)、および確信(conviction)であった[40]。AIDAという頭字語(アクロニム)が最初に登場したのは、1921年のC. P. ラッセル(C. P. Russell)の記事であり、彼は次のように書いている。
この公式を覚える簡単な方法は、記憶補助の中で古くから信頼されている「連想の法則」を呼び出すことである。読み下すと、これらの単語の最初の文字がオペラ「Aida(アイーダ)」を綴ることに注目されたい。手紙を書き始めるときは、自分自身に「Aida」と言えば、少なくとも手紙の形式に関しては大きく間違うことはないだろう。[41]
このモデルの有用性は広告だけに限定されなかった。AIDAモデルの基本原則は、1911年にアーサー・シェルドンの著書『Successful Selling』が出版された後、効果的なセールスプレゼンテーションを準備するためにこのステップを使用した営業担当者によって広く採用された[42]。シェルドンは、リピート購入の重要性を強調するために、元のモデルに「満足(satisfaction)」を追加した。
AIDAは、マーケティングミックスの4Pのプロモーション(Promotional)部分の要であり、ミックス自体が顧客のニーズを組織を通じてマーケティング上の意思決定に結びつけるモデルの重要な構成要素である[43]。
大衆文化における言及
デヴィッド・マメットの映画『Glengarry Glen Ross』では、ブレイク(アレック・ボールドウィンが演じる)がスピーチを行うシーンで、AIDAモデルが黒板に書かれているのが見える。この架空のモデルの説明と一般的に使用されているモデルとの小さな違いは、ブレイクの動機付けのトークにおいて「A」が「認知(awareness)」ではなく「注意(attention)」と定義され、「D」が「欲求(desire)」ではなく「決定(decision)」と定義されている点である。