酸化バナジウム(IV)
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![]() VO2粉末 | |
サファイア上の結晶性VO2薄膜 | |
| 物質名 | |
|---|---|
酸化バナジウム(IV) | |
別名 二酸化バナジウム | |
| 識別情報 | |
3D model (JSmol) |
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| ChEBI | |
| ChemSpider | |
| ECHA InfoCard | 100.031.661 |
| EC番号 |
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| Gmelin参照 | 873472 |
PubChem CID |
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CompTox Dashboard (EPA) |
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| 性質 | |
| VO2 | |
| モル質量 | 82.94 g/mol |
| 外観 | 青黒色粉末 |
| 密度 | 4.571 g/cm3(単斜晶) 4.653 g/cm3(正方晶) |
| 融点 | 1,967 °C (2,240 K)[1] |
| 磁化率 | +99.0·10−6 cm3/mol[2] |
| 構造 | |
| 歪んだルチル型(70 °C (343 K)未満,単斜晶) ルチル型(70 °C (343 K)超,正方晶) | |
| 危険性 | |
| 労働安全衛生 (OHS/OSH): | |
主な危険性 |
有毒 |
| GHS表示:[3] | |
| Warning | |
| H315, H319 | |
| P264, P280, P302+P352, P305+P351+P338, P332+P313, P337+P313, P362 | |
| NFPA 704(ファイア・ダイアモンド) | |
| 引火点 | 不燃性 |
| 関連する物質 | |
| その他の 陰イオン |
二硫化バナジウム 二セレン化バナジウム 二テルル化バナジウム |
| その他の 陽イオン |
酸化ニオブ(IV) 酸化タンタル(IV) |
| 関連するバナジウムの酸化物 | 酸化バナジウム(II) 酸化バナジウム(III) 酸化バナジウム(V) |
酸化バナジウム(IV)(さんかバナジウムよん)、別名、二酸化バナジウム(にさんかバナジウム)は、化学式 VO2 をもつ無機化合物である。暗青色の固体である。二酸化バナジウムは両性であり、非酸化性の酸に溶けて青色のバナジルイオン [VO]2+ を与え、アルカリに溶けて褐色の [V4O9]2− イオン、または高pHでは [VO4]4− を与える[4]。VO2 は 68 °C (341 K) 付近に相転移を示す[5]。電気抵抗率や不透明度などが数桁単位で変化し得る。これらの性質により、表面コーティング[6]、センサー[7]、画像化などに利用されてきた[8]。さらに、メモリ素子[9][10]、相転移スイッチ[11]、温度に応じて冷却または加熱へ切り替わる受動放射冷却(スマート窓や屋根など)[12][13][14]、航空宇宙向け通信システムやニューロモルフィック・コンピューティングなどへの応用も議論されている[15]。自然界では鉱物パラモントローズ石(paramontroseite)として産する。
構造
臨界温度 Tc = 340 K (67 °C) 未満では、VO2 は単斜晶系(空間群 P21/c)の結晶構造をとる。Tc を超えると、ルチル型TiO2に類似した正方晶構造となる。単斜晶相では V4+ イオンがc軸に沿って対をなし、隣接V原子間距離が 2.65 Å と 3.12 Å の短長が交互に現れる。これに対しルチル相では V4+ イオン間距離は 2.96 Å に固定される。その結果、結晶学的単位格子に含まれる V4+ イオン数は、ルチル相から単斜晶相への移行で2倍になる[5]。
ルチル型VO2粒子の平衡形態は針状で、横方向は(110)面で拘束される。(110)面は最も安定な終端面である[16]。表面は化学量論組成に対して酸化されやすく、(110)面に吸着した酸素がバナジル種を形成する[16]。VO2薄膜表面に V5+ イオンが存在することは、X線光電子分光法により確認されている[17]。
記憶効果
2022年、本材料について、それまで知られていなかった特徴が報告された。外部刺激の履歴を「記憶」できる可能性があり(電子状態ではなく構造状態を介する)、データ保存や処理、ニューロモルフィック・コンピューティングなどへの応用が示唆されている[18][19]。
電子的性質
ルチル相から単斜晶相への転移温度(67 °C (340 K))では、VO2の電子構造も金属相から半導体相へ転移する。すなわちルチル相は金属的で、単斜晶相は半導体的である[20]。低温単斜晶相におけるVO2の光学的バンドギャップは約0.7 eVである[21]。
熱的性質
金属状態のVO2は、金属では電子による熱伝導率(κ)と電気伝導率(σ)の比が温度に比例するというウィーデマン・フランツの法則に反する。電子の移動に由来するとみなせる熱伝導率は、同法則が予測する値の約10%であった。原因として、電子が材料中を流体的に移動し、典型的なランダム散乱に基づく挙動が弱まることが示唆されている[22]。熱伝導率は約 0.2 W/m·K、電気伝導率は約 8.0 ×10^5 S/m と報告されている[23]。
応用として、エンジンや家電などの廃熱を電力へ変換すること[24]、建物を涼しく保つ窓や窓用被覆などが挙げられている[12]。また、VO2を他材料と混合した場合、低温では断熱材として、より高温では熱を通しやすい材料として振る舞うなど、熱伝導特性が変化することがある[22]。
製法と構造
ベルセリウスが記述した方法に従い、VO2はコンプロポーショネーションにより、酸化バナジウム(III)と酸化バナジウム(V)から調製できる[25]。
- V2O5 + V2O3 → 4 VO2
室温ではVO2は歪んだルチル型構造をとり、V原子対の距離が短くなることから金属-金属結合の存在が示唆される。68 °C (341 K) を超えると、構造は歪みのないルチル型へ変化し、金属-金属結合が切れる。このとき電気伝導率と磁化率が増大し、結合に関与していた電子が「解放」されると説明される[4]。この絶縁体-金属転移の起源は依然として議論があり、物性物理学[26] と実用の両面から関心が持たれている。応用例として、電気スイッチ、可変電気フィルタ、パワーリミッタ、ナノ発振器[27]、メモリスタ、電界効果トランジスタ、メタマテリアルなどが挙げられている[28][29][30]。
赤外反射
VO2は温度依存の反射特性を示す。室温から 80 °C (353 K) まで加熱すると、熱放射は通常どおり増加した後、74 °C (347 K) 付近で突然、見かけ上 20 °C (293 K) 程度まで低下したかのように振る舞う。室温ではVO2は赤外にほぼ透明だが、温度上昇とともに徐々に反射性へ移行する。中間温度域では強い吸収を示す誘電体として振る舞う[31][32]。
高反射基板(特定の赤外波長に対して)であるサファイアなどの上に形成したバナジウム酸化物薄膜は、温度に応じて吸収性または反射性を示す。放射率は温度により大きく変化する。転移に伴い構造が変化すると、放射率が急減し、赤外カメラには実温度よりも低温に見えることがある[33][31]。
基板材料(例:酸化インジウムスズ)を変えること、あるいはドーピング、歪み付与などでバナジウム酸化物コーティングを改変することにより、熱効果が現れる波長域や温度域が変化する[31][33]。
転移領域で自然に形成されるナノスケール構造が、温度上昇に伴う熱放射を抑制し得る。タングステンをドープすると、効果が現れる温度域を室温付近へ下げられる[31]。





