TRPA1

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TRPA1は、TRPチャネルの一つである。マスタードオイルワサビに含まれるアリルイソチオシアネート(AITC)により活性化されることが広く知られており、辛味物質による痛覚の受容のために重要である。これらの辛味物質以外でも活性酸素種麻酔薬メントールなど多種多様な物質による活性化・阻害を受ける。他のTRPチャネルと同様にイオンチャネルの中ではイオン選択性が低く、Na+、K+、Ca2+などの陽イオンを細胞膜を横切って透過させる。このようなTRPA1の作用は痛覚以外にも痒みの受容や血管の拡張、腸管運動などに寄与することが報告されている。ほとんどの動物においては温度感受性が高く、熱刺激によって活性化されることが確かめられているが、ヒトやげっ歯類を含め哺乳類においてはまだその機能については明らかでない。TRPA1の遺伝子異常は家族性エピソード性疼痛症候群英語版(FEPS)という常染色体顕性遺伝の疾患の原因であると考えられており、TRPA1阻害薬の治療応用への研究が進められている。

TRPA

細胞膜に存在する膜タンパク質の中でも細胞内外のイオンの通過に寄与するような膜タンパク質はイオンチャネルと呼ばれる。イオンチャネルの中でもTRPチャネルは熱刺激、機械刺激、化学刺激といった様々な物理的刺激により開いたり閉じたりすることで、温度覚・痛覚の受容に重要な役割を担っている[1]。TRPチャネルはそのタイプによって作用や刺激への感受性が多様であり、動物のTRPチャネルには実に9種類ものタンパク質ファミリーが存在している[2]。TRPチャネルの中でもアンキリンというタンパク質にあるアンキリンリピート英語版という配列を持っていることが特徴的なファミリーはTRPAと呼ばれており、そのTRPAチャネルの1種としてTRPA1が存在する[注釈 1][5]ヒトを含め哺乳類においてはTRPA1が唯一のTRPAファミリーに属するタンパク質である[注釈 2][7]

遺伝子

遺伝子としてのTRPA1はヒトにおいては8番染色体の長腕にコードされており、遺伝子座は8q21.11と表される[注釈 3][9][10]。1999年に培養線維芽細胞において悪性形質転換によりmRNA発現量が減少する遺伝子として発見された[11][8]。発見当初は遺伝子名も別の名称がつけられており、後述のように分子量が12万(=120k) Da程度であったことからp120[8]、複数のアンキリンリピートを有することからANKTM1などと呼ばれていた[12][13]

TRPA1遺伝子一つがコードするタンパク質を構成するアミノ酸の数は約1100個であり、これは分子量でいうと12万~13万Da程度となる[9]。なお、ヒトやラットにおいては確認されていないものの、マウスにおいては選択的スプライシング産物として30アミノ酸短いアイソフォームが確認されている[9]。そのため、マウスでは全長が翻訳されたTRPA1をTRPA1a、選択的スプライシングにより生じた短いTRPA1をTRPA1bと区別して呼ぶことがある[9]。TRPA1bはイオンチャネルとしては機能せず、TRPA1の発現を調節する可能性がある[14]

分子系統学

TRPA1を分子系統学的に見ると全ての後生動物の祖先にあたる単細胞生物から発生したと考えられる。なぜなら後生動物に最も近縁である襟鞭毛虫がTRPAチャネルを有するためである[15]。襟鞭毛虫のMonosiga brevicollis にはTRPA1-1、TRPA1-2という2種類のTRPAチャネルが存在する[16]

後生動物の分類で最初に分岐する海綿動物ではAmphimedon queenslandica がTRPA1-1からTRPA1-12まで12種類ものTRPA1チャネルを有することが知られている[16]。ただし、その代わりにA. queenslandica においてはTRPCやTRPM、TRPVのような他の種や襟鞭毛虫で見られていたチャネルが見られないという特徴がある[16]

左右相称動物姉妹群である平板動物刺胞動物にもTRPチャネルは存在する。しかしながら、平板動物のセンモウヒラムシにはTRPAチャネルが存在しない[17]。一方で刺胞動物においてはNematostella vectensis に2種のTRPAチャネルが、チクビヒドラ英語版には4種のTRPAチャネルが存在しており、いずれもTRPA1に関係のあるTRPAチャネルであると考えられている[18]

節足動物のTRPAチャネルには機能が異なるTRPAチャネルが存在しており、つまりはTRPA1以外にも名前の付いたTRPAチャネルが存在する。多くの節足動物にはTRPA1チャネルもこの中に含まれるものの、ハチ目の昆虫についてはTRPA1に相当するタンパク質が存在しない[19]。その代わりにハチ目の昆虫にはそれを代償するためと考えられる別のTRPAチャネルが存在しており、ハチ目特異的(Hymenoptera-specific)よりHsTRPAという[20]。昆虫にはHsTRPA以外にも節足動物でしか見られないようなTRPAチャネルが存在する。その例として熱侵害受容や求愛行動に関与するPain、熱環境からの逃避に関与するPyx、湿度知覚に関与するWtrw、機能不明なTRPA5などがある[20]

脊椎動物においては哺乳類以外にも鳥類爬虫類両生類魚類のいずれにおいてもTRPA1が確認されている[21]

構造

TRPA1は主に4つの同一のタンパク質(4つのサブユニット)が集まってホモ四量体(ホモテトラマー)を形成することによりイオンチャネルとして機能すると考えられている[22]。複数の研究においてTRPV1とヘテロ四量体(複数種類のタンパク質から成る四量体)を形成しうることも示されているが、それが生理的条件下においても起こるものであるかは定かでない[22]。以下にTRPA1の構造をイオンチャネルの細胞膜を越えてイオンを通過させるという機能に重要な膜貫通領域とそれ以外の細胞内領域に分けて述べる。

膜貫通領域

TRPA1を細胞外側から見た図。真ん中の空いている部分をポアといい、ここを陽イオンが通る。四量体であり各サブユニットを色分けした。図のように周囲に存在するVSLDに対してPDが隣のサブユニットに近いような構造はdomain-swapped構造といわれる。例えば赤のPDと青のVSLDが近くなっている。

TRPA1は他のTRPチャネルと同様、6回細胞膜を貫通した構造を有する[5]。この膜貫通領域はN末端側から順にS1-S6、またはTM1-TM6と呼ばれる[注釈 4]。このような構造は電位依存性イオンチャネルの膜貫通領域に似ているが、決定的な違いとしてTRPチャネルの膜貫通領域は電位依存性という性質を有さない[注釈 5]。それゆえ、S1-S4は電位依存性イオンチャネルでは膜電位の変化を感じることから電位センサードメイン(VSD)と呼ばれるのに対して、TRPチャネルにおいてはVoltage Sensing-Like Domain(VSLD)と呼ばれる[23]。S5-S6は電位依存性イオンチャネルと同様にイオンが通過するポアを構成する部分となるため、ポアドメイン(PD)と同様に呼ぶ。TRPA1のVSLDとPDの立体的な配置は隣り合うVSLDとPDが互いに別のサブユニットであるような関係となっており、このような位置関係をdomain-swapped構造という[9][24]

ポアドメインの部分のみをリボンダイアグラム主鎖のみ表示)で表した図。マゼンタがS5、シアンがS6、白がPループである。重要なアミノ酸残基は特に側鎖を表示した。画像上の棒状に表したものが3つのグルタミン酸、中央の球で表したものが選択性フィルターのアスパラギン酸、画像下の球で表したものが疎水性アミノ酸である。

ポアドメインを構成するS5とS6の間には膜を貫通はしないものの膜を通過するループ構造があり、これをpore loop(Pループ)と呼ぶ。TRPAチャネルにおいてはPループが2つのヘリックス構造によって構成されているが、ここには負に荷電したアミノ酸であるグルタミン酸単量体あたり3個含まれており、これが細胞外側に電気的に負となった領域を形成する[23]。Pループの膜中央側にはアスパラギン酸残基が存在し、この部分でTRPA1のポアは最も狭くなっている。この部分を選択性フィルターと呼び、細胞内側と細胞外側のやや広くなった空間を隔てる役割を有する[23]。グルタミン酸とアスパラギン酸は負の電荷を帯びているためにCa2+のような正電荷を透過させやすくし、陰イオンを通しにくくしている[9][25]。一方で細胞内側にあるのが各サブユニットのイソロイシン残基やバリン残基といった疎水性アミノ酸により構成される部分で、これにより水和した陽イオンを通りにくくしている[9]。このS6の細胞内側に相当する部分のアミノ酸残基を変異させると恒常的に開口した変異チャネルや平均開口時間が長くなる変異チャネルが生じることから、開閉の状態に重要であることが示唆される[26]

細胞内領域

TRPA1チャネルをドメインごとに色分けした図。画像下が細胞内側である。緑色系はS1-S4、水色系はS5-S6。S1から続く黄緑色の部分がpre-S1ヘリックス、そこから続く茶色・黄色・卵色の部分がリンカードメイン、更に細胞内側がアンキリンリピートである。S6から続く青色の部分がTRP-likeドメインで、紫色の部分がコイルドコイルドメインである。色の詳細を注釈に示した[注釈 6]

TRPA1の膜貫通領域から伸びるN末端およびC末端はTRPA1全体の約80%をも占める[9]。うちN末端が全長の約64%とTRPA1タンパク質全体の過半数を占めており、C末端は反対に全長の約14%程度しかない[12]

N末端の大部分はTRPAの特徴の一つであるアンキリンリピートが占めている[5]。アンキリンリピートはリピートごとに約33アミノ酸含まれており、これが種によって数は変わるが14-18個ほど連なっている[23]。ヒトの場合はこのアンキリンリピートが16個となっている[9]。構造的に見ると個々のアンキリンリピートは逆平行にヘリックス構造が走るヘリックスターンヘリックスとその後のβヘアピンにより構成される[12]。アンキリンリピートは細胞膜へのメンブレントラフィック細胞骨格との結合のために重要であると考えられている[27]

アンキリンリピートと膜貫通領域S1の間をpre-S1領域といい、その中にはリンカードメインとpre-S1ヘリックスという細胞内のヘリックス構造が存在する[28]。リンカードメインは逆平行に走るβストランド構造とその前後のヘリックスターンヘリックス構造で構成される[28]。pre-S1ヘリックスには求核性の高いシステイン残基やリシン残基が存在しており、求電子性を有する物質が結合しうる[29]。また、このシステイン残基はN末端の他の部分にあるシステイン残基とジスルフィド結合を形成し、TRPA1の活性化機構に関与する可能性がある[21]

アンキリンリピートは一つのサブユニットにおいては半月状になっており、これが四量体として組み合わさって構成されることで風車状に配置され、サブユニット間での相互作用に寄与すると考えられる[30]。ただし、後述のコイルドコイル構造の方が相互作用が強く、アンキリンリピートによる相互作用は大したものではないとする意見もある。構造解析ではアンキリンリピートの多くは除去されており、その詳細が不明となっている[30]

上の画像のTRP-likeドメイン付近の拡大図。青色(TRP-likeドメイン)・黄緑色(pre-S1ヘリックス)、青色の直上の白い部分(S4-S5リンカー)が近接していることが分かる。更にこの相互作用は、青色、茶色、卵色、橙色、金色と続くことでアンキリンリピートの変化がポアにも影響しうる可能性がある。また、この図からは黄色とその直上の白色による3層のβシートを構成しうる部分も見える。

C末端のS6のすぐ細胞内側にはTRP-likeドメインというTRPA1のリガンド結合による影響を調節するための領域が存在する[31]。TRP-likeドメインはpre-S1ヘリックスやS4-S5リンカーなどと近接しており[9]、疎水性残基による相互作用を形成する[31]。pre-S1ヘリックスのシステイン残基に求電子剤のアゴニストが共有結合的に結合するとTRP-likeドメインに情報が伝達される[31]。TRP-likeドメインはそれ以外にリンカードメインの後半のヘリックスターンヘリックス構造とも疎水性残基を介して相互作用している。この相互作用は更に細胞内側では後半のヘリックスターンヘリックスと前半のヘリックスターンヘリックス、前半のヘリックスターンヘリックスと16番目のアンキリンリピート、16番目のアンキリンリピートと15番目のアンキリンリピート、といった風にN末端側との相互作用を介する役割を果たしていると考えられ、これによってアンキリンリピートがポアにも影響するという考えの基盤となっている[31]。TRP-likeドメインのすぐ後ろの配列は後続のコイルドコイルドメインまでのリンカーとなっており、N末端にあるリンカードメイン内の逆平行なβストランド構造と合わせて3層のβシートを形成すると考えられている[28]

βシートに続いてC末端側にはαヘリックス構造を介してコイルドコイルドメインが存在する[28]。コイルドコイルドメインは名前の通りコイルドコイル構造を形成し、ポアの細胞内側直下の部分にあたる[9]。コイルドコイル構造の外側には正に帯電したアミノ酸残基が含まれているため、チャネルの活性が負に帯電したリン脂質フィチン酸により調節される[9][28]。このコイルドコイル構造はサブユニット間の相互作用に役立っていると思われる[28]。コイルドコイルは通常、ヘプタットリピート英語版配列で構成されている。このヘプタッドリピート配列はアミノ酸の性質が7アミノ酸ごとに同じ順番で並んだ配列のことであり、N末端側からabcdefgの順とするとaとdのところに疎水性残基が存在するのが典型的である[28]。しかしながらTRPA1においてdのうち2つがグルタミン、つまりは親水性残基となっており、一方は構造を不安定化させ、もう一方は水素結合により相互作用しているという特徴がある[28]。不安定化させる方のグルタミン残基はフィチン酸が配位する残基のすぐ隣であることからフィチン酸にはグルタミン残基による不安定化を安定にする作用があると考えられる[28]。コイルドコイルはサブユニット内でも相互作用を行っていることが構造解析から明らかにされており、アンキリンリピートやリンカードメインの前半のヘリックスターンヘリックスと相互作用している[31]

生物物理学的性質

TRPA1の電位依存性を示すグラフ。電流は画像の上が外向きである。マイナスの膜電位からプラスの膜電位に徐々に上げたとき、プラスの膜電位における外向き電流の方がマイナスの時より顕著である。
-100mVから100mVまで25mV刻みにある膜電位に固定したときのTRPA1を流れる電流。固定した後は-100mVの膜電位に固定しており、急激な膜電位の低下によりテール電流が見られる。

TRPA1チャネルは膜電位がマイナスのときはわずかながら内向きの電流を生じるが、これがプラスに転じると外向きの電流を生じるようになる。これはTRPA1チャネルが電位依存性という性質を持っているために起こる[32]。電位依存性という性質を持つ証拠としてテール電流(tail current)が挙げられ、活性化している途中に急に膜電位を下げると徐々に脱活性化(deactivation)が起こることで開口率が小さいはずの膜電位でも電流がよく見える[32]。開口率と膜電位をプロットした曲線は細胞内Ca2+、寒冷刺激、メントールなどにより左方シフト(負の方向にシフト)する。このシフトの度合いは数百mVと非常に大きい場合もある[32]

なお、通常の電位依存性イオンチャネル(電位依存性ナトリウムチャネル電位依存性カリウムチャネルなど)では電位依存性という性質はS4に存在するアルギニンリシンといった正に荷電したアミノ酸残基が細胞外方向に動くことで構造変化を伴っている。しかし、TRPA1を含むほとんどのTRPチャネルではこれが非常に弱い。アルギニンやリシン残基が膜電位の変化によって動くことで生じる電流はゲーティング電流(gating current)と呼ばれるが、これを1チャネル辺りの電荷(ゲーティングチャージ)に換算すると電位依存性カリウムチャネルの一つであるShaker型チャネルでは13-14 eも動くのに対し、TRPA1では1 e未満となっている[33]。このように従来のS4のアミノ酸残基がゲーティングチャージを担うとするとTRPA1の電位依存性と辻褄が合わないことから、別の場所にゲーティングチャージを担う残基があると考えられている。ゲーティングチャージ候補として、C末端に存在するアルギニン・リシン残基が挙げられている[25]。実際にこれらの残基の変異体は電位依存性に影響を及ぼすことが確かめられている[25]

TRPA1の不活性化を示すグラフ。活性剤の追加により上に挙げたグラフよりも活性化・不活性化ともに電位依存性がシフトし、100mVのあたりから不活性化を認める。

TRPA1チャネルは膜電位がよりプラスである方が開口しやすいものの、膜電位が上昇しすぎると逆に電流が減衰しうる。このような開口率の低下は脱活性化ではなく、不活性化(inactivation)と呼ばれるタイプの開口率の低下に含まれる[32]。活性化も不活性化もともに電位依存性という性質があり、さまざまな条件によってシフトが起こり得る。それゆえに以前は研究者のグループ間でTRPA1が電位依存的に不活性化を起こすのか起こさないのかで議論となっていた[25]

TRPA1は陽イオンを通らせるようなチャネルであるが、これはTRPA1のポアの細胞外側に存在する負に帯電したアミノ酸残基が正に帯電した陽イオンを引き寄せるためであると考えられている[32]。無機陽イオンではLi+Na+K+Ca2+Rb+Cs+Ba+などが通過できる[注釈 7][34]。これらの陽イオンの中でもCa2+を比較的よく通し、Na+の透過率を1とするとCa2+の透過率は6とかなり高くなっている[34]。このようなCa2+を通す性質はTRPチャネルの中では最も高いと考えられている[32]。なお、1価陽イオンの中での透過しやすさはRb+ ≧ K+ > Cs+ > Na+ > Li+であると考えられている[25]

TRPA1が膜電位がマイナスの状況下で電流を流しにくい原因はポアの部分を二価イオンのCa2+が塞いでしまうためであると考えられている[32]。それを裏付ける例として、Ca2+やMg2+を除去した細胞外液と含んだ細胞外液では後者でコンダクタンスが2倍も低下したという実験的証拠がある[32]

TRPA1はのちに#薬理学の節で挙げるようなさまざまな物質によって活性化を受けるが、その中にはポアを拡張させるようなものも存在する。ポアが拡張することにより通常はあまり透過できないNMDGや二価陽イオンなどの透過率が上昇する[32]。ポアの拡張にもかかわらず上に挙げた1価陽イオンの順が変動する[注釈 8]ことからカルシウムがポアの途中で結合し、1価陽イオンの透過が様々な程度で起こりにくくなっていると思われる[25]

薬理学

TRPA1は様々なリガンドに反応して活性化されたり阻害されたりする。このような活性化・阻害はある種では活性化を引き起こすものの、また別の種では何も作用しない、もしくは逆に阻害作用を発揮する物質もあるので注意が必要である[35]。以下にサブセクションに分けて説明する。

まず、TRPA1を活性化する物質は前提としてシステインのチオール基に共有結合するような求電子剤と非共有結合的に作用する非求電子剤に大きく分かれる[36]

求電子剤

システインリシンのような求核性の高い物質に対して電子を奪って結合する物質は求電子剤と呼ばれる。この求電子剤がTRPA1のN末端に存在するシステイン・リシン残基に結合して機能を調節する働きを持つ[35]。ただし、全てのN末端に存在するシステイン・リシン残基がTRPA1の調節に重要というわけではなく、求電子剤の結合できる位置に露出しているかで種によって変わってくる[35]。求電子剤による求核性残基との求核付加反応は直接付加と共役付加の2つがある。どちらの付加形式をとるかは求核剤と求電子剤に依存するが、TRPA1においては直接付加による活性化が優勢であると考えられている[37]

ヒトTRPA1ではN末端のpre-S1ヘリックスに存在するC621・C641・C665という3つのシステイン残基が求核性残基として重要であることが明らかになっている[38][39]。これら3つのシステイン残基は互いに近接していることが結晶構造解析から分かっており、求電子剤が結合するためのポケット状の構造を形成しているのではないかと考えられている[38]

求電子剤でTRPA1を調節する物質として広く知られているのが活性化剤のイソチオシアネートである。イソチオシアネートはいわゆる辛味物質であり、マスタードオイルワサビホースラディッシュなどに含まれている[35]。ワサビに含まれているのはアリルイソチオシアネート(AITC)という辛味物質が主であるが、他にも6-(メチルスルフィニル)ヘキシルイソチオシアネート英語版(6-MSITC)や6-(メチルチオ)ヘキシルイソチオシアネート(6-MTITC)といった辛味がやや少ないもののTRPA1の活性剤として作用する成分が含まれており、特有の風味を生み出していると考えられている[40]

他にも以下のような物質が求電子剤として働くTRPA1活性剤として知られている。

硫化水素硫化水素ナトリウムといった硫化物にもTRPA1を活性化させる作用がある[45]。硫化物の中でも多硫化物はTRPA1チャネルのシステイン残基のチオール基-SHを過硫化英語版して-SSHとすることで活性化作用を持つ共有結合を介した活性剤であると考えられている[46]

TRPA1を活性化するものには活性酸素種活性窒素種活性炭素種英語版のような活性の高い物質もある[45]。活性酸素種としては過酸化水素が、活性窒素種としては一酸化窒素や9-ニトロオレイン酸が、活性炭素種としてはPGD2英語版の代謝産物である15d-PGJ2が例として挙げられる[41]。活性酸素種の産生を増やすタバコの煙も間接的にTRPA1を活性化するため、TRPA1を原因とする片頭痛(#チャネロパチー参照)にタバコの煙が関与している可能性がある[47]

求電子剤の多くは共有結合によりTRPA1を活性化させるものの、セスキテルペンでは該当するシステインを変異させた状態でも活性化が起こったという報告がある。ゆえに、セスキテルペンは他の求電子剤とは異なった分子機構によってTRPA1を活性化していると思われる[48]

非求電子剤

システインやリシン残基と共有結合する求電子剤以外にもさまざまな活性化剤が存在する。以下に列挙する。

阻害剤

TRPA1を阻害する物質としてはカンフルボルネオールが天然物由来成分として知られる[50]ユーカリ油に含まれるユーカリプトールはAITCやメントール、フルフェナム酸といった特定の物質によるTRPA1の活性化を阻害する作用があることが分かっている[50]ω-3脂肪酸から生成されるレゾルビンは種類により様々な効果があり、レゾルビンE1はTRPV1を選択的に阻害する作用を持つものの、レゾルビンD1はシンナムアルデヒドによるTRPA1の活性化を阻害する作用がある[51]レスベラトロールピノシルビンといったスチルベノイドはAITCによるTRPA1の活性化を阻害する作用がある[51]。動物の毒としてはクロドクシボグモの毒であるPha1βがAITCによるTRPA1活性化を阻害する作用を持つ[52]

合成化合物として知られる阻害剤は2007年に初めてキサンチン誘導体が複数報告された。中でもHydra Biosciences社のHC-030031は研究においてTRPA1阻害剤としてよく使われている[51]解熱鎮痛剤としての作用があるピラゾロンジピロンプロピフェナゾンにもTRPA1の阻害作用があり、Ca2+に対する応答や電流を低下させる[52]

二面性のある物質

ペパーミントなどに含まれているメントールは他の活性化剤とは違い、独特な性質を持つ。メントールには濃度が低いときにはTRPA1を活性化する作用があるが、高くなってくると逆にTRPA1を阻害してしまう[53]。このようなメントールの二面性はメントールが既に開口しているTRPA1チャネルを阻害するような性質があることに起因すると考えられている[53]。なお、ヒトのTRPA1チャネルではこのような二面性はなく、活性化は起こるが阻害は起こらない[53]

カリフォルニアゲッケイジュ英語版に含まれるウンベルロンにも二面性があり、低濃度では活性化するように働くが、高濃度では阻害作用を持つ[44]セロリなどに含まれるリグスチリド英語版は活性化作用を有する可能性があり、脱水素化すると阻害作用が高まると考えられている[44]

その他の機能調節

上の#薬理学の節ではさまざまなTRPA1を調節する物質を挙げたが、以下では物質にとどまらないTRPA1の化学的・物理的な調節機構について説明する。

無機イオンによる調節

TRPA1は細胞内のCa2+によっても調節を受ける。TRPA1自体にCa2+を透過する性質があるため、まず細胞外からTRPA1を通ってCa2+が細胞内に入り、そのCa2+がTRPA1を活性化したりときには不活性化したりすると考えられている[54]。ラットTRPA1においてCa2+透過性が減少するような変異体を用いた場合、細胞外Ca2+を操作しても活性化の上昇や不活性化が起こらなかったことから裏付けられる[54]。また、Ca2+は膜電位がマイナスの場合、TRPA1の不活性化(inactivation)を早めるという作用も持つことが知られている[54]

Ca2+の結合する構造としてはEFハンドという構造が想定されている。EFハンドはN末端のアンキリンリピート中に存在し、ここにCa2+が結合することで構造変化を起こし、チャネルの調節に寄与すると考えられている[30]。C末端の終わりにあるCa2+結合ループも重要であると考えられている。このループ状構造は不活性化に関与しており、この部分を除去した変異体においては活性化に影響を与えずに不活性化を抑制することができることが報告されている[30]。また、C末端にはこのCa2+結合ループの上流にカルモジュリンの結合できる領域が存在しており、カルモジュリンを介したCa2+による活性化・不活性化といった調節も起こることが確認されている[30]

その他の無機イオンとして、重金属であるCu2+亜鉛Zn2+カドミウムCd2+などがTRPA1を活性化する作用を持つことが報告されている[55]

酸素による調節

酸素濃度が高いときにTRPA1は活性化する一方で、低酸素においても活性化されることが分かっており、TRPA1の活性は生理的条件下において最も低くなると考えられている[45]。このようなジレンマ的状況になってしまうのは低酸素状態のときにプロリルヒドロキシラーゼの活性が低下してN末端のアンキリンリピート中に存在するプロリンの水酸化による抑制が外れて逆に活性化するためであると思われる[1][45]。このような低酸素・高酸素によるTRPA1の活性化は実際のマウスにおける研究でも確認されており、TRPA1を欠損させたマウスの肺障害が低酸素・高酸素で増悪することが報告されている[1]

温度による調節

TRPA1は当初は主に18℃以下の寒冷刺激によって活性化されると考えられていたが、現在は温度による調節が起こるかについて議論がある[56][57]。人工的に形成された脂質二重膜にヒトTRPA1チャネルを発現させたところ、寒冷刺激への感受性を示したことからTRPA1については細胞・組織などの発現系を問わず寒冷刺激感受性を内在的に有するものであるという考えがある[56]。一方でこれに対して人工的な脂質二重膜であったから寒冷刺激感受性を示したという見方もできるとの意見もあり、決着はついていない[56]

このような寒冷刺激に対する感受性があるかないかの議論が収拾しない理由としてさまざまな因子が挙げられる。例えば、TRPA1の中でも種によって違いがあること、実験者によってそれを発現させる培養細胞が異なること、寒冷刺激の与え方も実験者によって異なること、などが挙げられる[58]

人工的な脂質二重膜にヒトTRPA1を発現させた実験においては寒冷刺激にも温熱刺激によっても活性化されるような結果が得られている[56]。従来は温熱刺激はヒトやラットといった哺乳類TRPA1に対して抑制的に働くと考えられていたが、侵害受容という機能に付随して熱刺激に対する侵害受容も担っている可能性がある[59]。このように哺乳類のTRPA1チャネルの温度感受性については更なる研究が必要である[60]

一方で哺乳類以外の動物(ハエメダカカエルトカゲニワトリなど)においては寒冷刺激ではなく熱刺激によって活性化されることが示されている[注釈 14][58]。例えばキイロショウジョウバエのTRPA1は27-29℃以上の熱刺激により活性化され、これはTRPA1を活性化するような痛みを引き起こす物質のみならず熱からも回避するためであると考えられている[61]

その他の物理的刺激による調節

TRPA1が機械受容により活性化されるチャネルであるかどうかについてはまだ不明確である[62]。細胞外液の高張(高浸透圧)、物質投与による細胞膜の形状変化といった一部の機械刺激によりTRPA1チャネルが活性化されたという報告もあり、更なる研究が必要となっている[62]

TRPA1は光、特に紫外線によっても活性化が起こり、活性酸素の産生が活性化の原理の根底にあると考えられている。光線力学療法においてはがんなどの治療においてこのときに産生された活性酸素を利用するが、TRPA1も同時に活性化されることによって痛みや灼熱感を与えると考えられている[62]。このような作用は光増感剤であるアクリジンオレンジヒペリシンといった物質によって増強する[62]

脂質による調節

TRPA1はリン脂質の一つであるホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸(PIP2)によっても機能が調節される。TRPA1の電流は活性化ののちに脱感作(desensitization)を起こすが、PIP2はこの脱感作を遅延させる作用がある[63]。脱感作以外に活性化にも寄与すると考えられているが、他の活性化剤による増強を阻害することもあり、一概に活性化作用があるとはいえない[63]

リン酸化による調節

TRPA1はリン酸化によっても機能が調節されると考えられているが、その分子機構についてはあまりよく分かっていない。プロテインキナーゼA(PKA)やプロテインキナーゼC(PKC)によりセリントレオニン残基がリン酸化されることで機能の調節が起こることが示されてきている[64]

他のタンパク質との相互作用

TRPA1は物質による機能の調節以外にも、他のタンパク質との相互作用による機能の調節も行われる。

TRPA1と相互作用するタンパク質の中でも同じTRPチャネルとして知られるのがTRPV1である。TRPA1はTRPV1が存在するときに開口率が上昇することが報告されており、これらが共役している可能性がある[34]。逆にTRPA1とTRPV1が互いに抑制するような調節もみられる[65]末梢神経系の感覚受容ニューロンの中でもTRPA1を発現しているニューロンはほとんどTRPV1を共発現していると考えられている[64]。TRPA1-TRPV1相互作用の根底にある分子機構についてはTRPA1・TRPV1がヘテロテトラマーを形成するのか、ホモテトラマー同士で相互作用するのかという点も含めてよく分かっていない[66]。TRPA1とTRPV1の相互作用を弱めるように働く膜タンパク質にTMEM100がある。TMEM100は相互作用を弱めることでTRPA1のみによる作用を強めると考えられている[50][65]

直接的な相互作用を示すかは不明であるが、機能的には作用しあうため相互作用しうる候補となるタンパク質もいくつか存在する。例えば、T型カルシウムチャネル英語版は活性化によってCa2+を細胞内に流入させ、その流入によりTRPA1を活性化させたり脱感作させたりする[50]

発現の調節

TRPA1は脱ユビキチン化酵素のCYLDと相互作用を行う[67]。CYLDによりユビキチン化修飾が外れて分解されにくくなるため、CYLDは細胞におけるTRPA1発現量を調節する役割を担っている[67]

TNF-αもTRPA1の発現量を上昇させるといわれている。この膜発現量上昇はTRPV1CGRPとともに行われ、一部のボツリヌストキシンにより阻害される[67]。ボツリヌストキシンはSNAP25を分解することでTRPA1やTRPV1の膜移行を阻害していると考えられており、それゆえTRPA1の細胞膜における発現のためにはSNARE複合体による膜融合が必要なことが示唆される[67]

TRPA1の発現調節には温度も関わっていることが考えられており、寒冷刺激と温熱刺激どちらにおいてもTRPA1発現が上昇することが報告されている[67]。他に、Ca2+流入により発現が変化することから、何らかのCa2+依存性の物質も関与する可能性が疑われている[67]

生理的機能

TRPA1は主に三叉神経節英語版後根神経節といった末梢神経系に存在しており、痛覚の受容に重要である[22]。これらの細胞ではTRPV1やカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)も同時に発現するもののTRPM8英語版は発現しないことが知られている[11]ボルテゾミブオキサリプラチンといった抗がん剤の使用によりアロディニア(異痛症)が引き起こされる機序として抗がん剤に伴って生じた酸化ストレスによるTRPA1活性化が考えられている[68]。実際にTRPA1を阻害することで抗がん剤使用に伴うアロディニアが減弱することが示されている[68]。痛覚を受容する神経細胞においてはTRPA1の作用によりMAPK経路を介してカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が活性化されるという機構が考えられている[69]

TRPA1は痛覚の受容のみならず、痒みの受容も行う。痒みの受容にはヒスタミンという物質が重要であることが広く知られているが、TRPA1が関連する痒み受容はヒスタミン非依存的であり、マスト細胞の産生するケミカルメディエーターやクロロキンなどにより生じる[70]。このときにTRPA1の上流でMas関連Gタンパク質共役受容体(MRGPR)と呼ばれる一連のタンパク質が働くことが必要となる[70]。このようなヒスタミン非依存的な痒みは慢性の痒みの原因として多いといわれている[71]

以上のような神経障害以外に糖尿病初期の末梢神経障害合併にもTRPA1が関連している可能性がある。糖尿病の高血糖状態によりさまざまなTRPA1アゴニストが産生され、それによってアロディニアを引き起こしうる[72]。なお、糖尿病においては逆にTRPA1アゴニストであるAITCがインスリン分泌を促進したりインスリン抵抗性を改善するGLP-1分泌を促進したりすることがマウスで報告されていることから逆に治療標的になり得ることも示されている[73]

TRPA1は動脈の一部を拡張させる作用ももっている。ラットにおいては動脈の種類によって異なるものの、外膜内皮細胞、血管平滑筋などでの発現が確認されている[74]。TRPA1を介した血管拡張の機序としては複数の説が存在する。一つはTRPA1を発現した感覚神経細胞でCa2+流入によりカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が放出され、それが血管平滑筋の受容体で受け取られて膜電位の過分極を起こすことで平滑筋弛緩により血管拡張が起こるとする説である[75]。また一つの説にTRPA1を発現した血管内皮細胞でCa2+流入によりカルシウム活性化カリウムチャネル英語版が活性化して過分極を起こし、付近の血管平滑筋細胞も過分極・弛緩させることで血管拡張に至るとするものがある[75]

TRPA1は心臓の組織にも発現しており、マウスにおいては心内膜心筋心外膜のいずれにおいても発現が確認されている[76]。TRPA1により細胞内の一過性のCa2+上昇やそれに伴うCaMKII活性化などを行うことができるが、それが生理的に重要なほど寄与するのかは定かでない[76]

TRPA1は消化器系を支配する神経の神経節でも発現が確認されており、特に迷走神経下神経節英語版後根神経節などの内臓感覚を担う神経線維のニューロンで確認されている[76]。内臓感覚を担う神経で確認されている一方、内臓運動に関する腸管神経系英語版を構成する神経においても発現が確認されており、腸管運動やイオン分泌などに関わっている可能性がある[76]

クロム親和性細胞にも発現しており、セロトニンの分泌制御に関わることで腸の運動や化学感覚を担っている[22]。また、腸管に入ってくる刺激性物質が粘膜下の組織を直接障害しないために前もって刺激性物質を感知する役割もあると考えられている[77]

TRPA1は呼吸器系を支配する神経にも存在しており、TRPA1のアゴニストであるアクロレインやイソシアネートといった刺激性の物質を吸入したときに活性化することで有害な物質を咳・くしゃみなどの反射で排出するために重要である[73]

膀胱尿道の機械受容を支配する神経や膀胱・尿道壁の尿路上皮、平滑筋においてもTRPA1の発現が確認されている[78]過活動膀胱においてはTRPA1の発現量上昇がみられ、この発現量上昇が膀胱排尿筋の収縮といった過活動膀胱の機構に関与しているのではないかと考えられている[78]

チャネロパチー

TRPA1の関与する希少疾患として、家族性エピソード性疼痛症候群英語版(FEPS)という常染色体顕性遺伝病がある[61]。FEPSは幼少期から始まる上半身の疼痛を特徴とし、ときにその痛みが腹部や下肢にも放散する[52]。空腹時や寒冷曝露により好発する[52]

FEPSの患者ではTRPA1のS4に存在する855番目のアスパラギンセリンミスセンス突然変異(N855S)することでTRPA1の機能が異常に上昇してしまうことが原因であると考えられている[22]。N855残基は通常ではS1の細胞内側に存在するN724残基と水素結合により相互作用している。これがセリンに変わると相互作用が起こりにくくなることが生物物理学的な機序であると考えられている[79]。TRPA1アンタゴニストによりN855Sによって生じた異常な電流が阻害されたことから治療に応用できる可能性がある[52]

TRPA1は痛覚受容に関係するため、上記の家族性エピソード性疼痛症候群以外に、一般的な慢性疼痛にも関連していると考えられている。例えば、歯痛肺気腫気管支炎線維筋痛症変形性関節症術後イレウスなどに伴う疼痛が挙げられる[80][81]。また、がんではがんそのものの病態としての疼痛や抗がん剤の副作用としての疼痛が治療上問題となっている。そこで、TRPA1アンタゴニストがこれらに対する治療に有用な可能性がある[82]。がんの中でもTRPA1が関与していることが明らかになっているのは乳癌悪性黒色腫である[82]

TRPA1は片頭痛にも関連しているといわれている。片頭痛では名称の通り片側の頭痛が症状として特徴的であり、他に悪心嘔吐や光・音への感受性増強なども併発しうる[80]。この頭痛という痛覚受容がTRPA1の片頭痛の病態に関与する部分であると考えられている[83]。TRPA1は痛覚の受容の際にCGRPという神経ペプチドの活性化を行うが、この機序により片頭痛における頭痛も起こっているものと思われる[69]。一方で脳血管に対しては血管拡張作用を有し、脳虚血に対して脳梗塞への進展を防止するので神経保護的に働く[83]。つまりは、血管の拡張により脳の循環を保つもののその代償として片頭痛を起こしている可能性がある[83]

TRPA1の生理的機能に痒みの受容があるが、これに関連して搔痒を症状とする疾患でもTRPA1が異常となっている場合がある。例えば、アトピー性皮膚炎のマウスにTRPA1アンタゴニストを投与したところ、搔痒による引っ搔く行動が目に見えて減ったとの報告がある[73]

TRPA1は中枢神経系のアストロサイトにも発現が確認されており、アルツハイマー病の初期段階における過剰な活性化に関与していると考えられている[73][57]。アストロサイトのTRPA1は周囲で生じた炎症による一酸化窒素や活性酸素種によって活性化されCa2+を流入させる。これによってNFATNF-κBPP2Bなどが活性化され、アルツハイマー病の増悪に寄与すると考えられている[57]。アルツハイマー病を患ったモデルマウスにTRPA1アンタゴニストのHC-030031を投与したところ、アストロサイトの活性が通常どおりとなり神経障害も減じたことから神経保護作用的な治療薬として利用できる可能性がある[73]

アルツハイマー病以外でもTRPA1は中枢神経疾患に関与していると考えられており、その一つに多発性硬化症がある。多発性硬化症は神経炎症により髄鞘の破壊が起こる脱髄疾患である。TRPA1の阻害により脱髄が改善されたとの報告があり、治療標的となる可能性がある[84]

TRPA1は呼吸器系を支配する神経にも存在するため、これが喘息に関係している可能性がある。例えば喘息を罹患したモデルマウスにおいてTRPA1が存在するマウスではIL-4IL-13といった喘息に関与する炎症性物質の上昇とともにTRPA1の発現が上昇したものの、TRPA1を欠失させたマウスにおいては炎症性物質の変化がそれほど見られなかったとの報告がある[85]

TRPA1-like

TRPA1に類似するが別物のTRPAチャネルにTRPA1-likeがある。TRPA1-likeは刺胞動物前口動物において確認されているTRPAチャネルであるが、その機能についてはまだ研究途上である[86]

脚注

参考文献

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