赤い指
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加賀恭一郎シリーズの第7作であり、加賀が練馬署の刑事として活躍する最後の作品となる。本作から加賀の従弟の捜査一課刑事・松宮脩平や看護師の金森登紀子など、『新参者』を除く以降のシリーズ作品にも登場するシリーズキャラクターが生み出された。息子の犯罪を隠匿しようとする家族と、加賀の父親・隆正が病床に伏した加賀一家の様子を交互に描かれ、加賀親子においては『卒業』で触れられてきた確執の詳細が綴られている。尚、本作の刊行前に発表している『新参者』収録の短編において加賀が一皮剥けた印象になっている理由について、著者は「『赤い指』での苦労を経て約束の場所に辿り着けたんだと思います」「『赤い指』によって何かが変わったのだ」として本作がそのきっかけになったと述べている[2]。
元々は『小説現代』1999年12月号に短編として発表された。当初はシリーズ6作目となる短編集『嘘をもうひとつだけ』の一編として収録予定だったが、後に短編向きではなかったと思い直した東野が長篇として書き直したいと構想を練り直した背景があり[3][4]、構想6年の期間を経て2006年7月25日に講談社から刊行され、2009年8月12日に講談社文庫版が刊行された。尚、著者はその6年間は、『手紙』や『さまよう刃』を上梓し、犯罪に関わる家族について考える機会が多く、作品の比重をどう置くかに悩んでいたといい、構想6年の内訳を停滞6年、執筆2ヶ月だったと語っている。また本作は家族の話であり加害者側、被害者側と描く中で、事件の謎を解く加賀にどんな家族がいたかを描く必要があるという著者の考えから、加賀を長く見ていた人物として語り役の松宮が生み出されたという背景がある[4]。
このミステリーがすごい! 2007年版では9位、2006年の週刊文春ミステリーベスト10では4位を記録する[5]。 ネプチューンの名倉潤は東野作品の中で怒りに打ち震えた作品に『さまよう刃』と共に本作を挙げており、「加害者の少年の母親の態度に一発ビンタを食らわしたくなった」としながらも、「親の子に対する愛情は無償だからこそ、考えなくてはならない愛情があるのでは、愛情の掛け方でこんなにも深い闇が出来るのかと考えさせられた」として特に本作を薦めている[6]。
文庫本は2009年8月24日付のオリコン“本”ランキングの文庫部門で首位での初登場以来、7週連続首位を獲得し、2010年2月22日付のランキングでは15位の記録と共に100万部を突破し、その年の文庫部門の記録では外山滋比古の『思考の整理学』に次いで2作目でミステリとしては初となり、著者にとっては2009年8月31日付の『さまよう刃』以来のミリオン達成となった[1]。そしてドラマ化が発表された時点では累計部数は135万部を記録している[7]。
あらすじ
前原昭夫は、妻と一人息子、そして母親と一緒に暮らしているごく普通のサラリーマン。しかし、妻の八重子は義母を疎み、夫である昭夫をなじり続け、息子の直巳は周囲との親和性に欠けていた。そして母・政恵は認知症を患っており、それぞれが問題を抱える「家庭」は、昭夫にとって安らぎとは程遠い場所となっていた。そんな状況から少しでも逃れたいとオフィスに留まっていた昭夫のもとに、妻の八重子から「早く帰ってきてほしい」という電話が入る。切迫した様子を不審に思い、急いで帰宅した昭夫は、自宅の庭でビニール袋を被せられた幼女の遺体を発見する。それは、直巳が少女を自宅に連れ込み、身勝手な理由で殺害した結果だった。一時は警察に通報しようとした昭夫だったが、八重子に強く懇願され、やむなく息子のために事件の隠蔽を企てる。遺体を自宅から運び出すため、深夜、住宅街に近い銀杏公園に少女の遺体を遺棄する。
ほどなくして事件は発覚し、練馬警察署に捜査本部が設置された。捜査一課の若手刑事である松宮脩平と、その従兄で練馬署の刑事である加賀恭一郎は、事件現場付近の住宅街で聞き込みを開始する。事件を追う加賀と松宮もまた、それぞれ個人的な事情を抱えていた。加賀の父親であり、松宮の伯父でもある加賀隆正が末期がんに侵され、入院しているのだ。だが、母親の失踪以来、隆正との間に確執を抱える加賀は、一度も隆正を見舞おうとしなかった。敬愛する隆正の身を案じる松宮は、そんな加賀の心情を理解できず、反発心を抱きながら複雑な感情を抱いていた。
地道な聞き込みを続ける中で、2人はあるきっかけから前原家に疑念を抱き、彼らの嘘に迫っていく。一方、犯行が露見するのも時間の問題だと悟った昭夫は、最終手段として愚かで非道な行動に出ようとしていた。
登場人物
- 加賀恭一郎
- 練馬署刑事。
- 松宮脩平
- 捜査一課刑事。加賀の従弟。
- 加賀隆正
- 加賀の父親で、脩平は甥にあたる。
- 金森登紀子
- 隆正の担当看護師。隆正の将棋相手にもなっている。
- 小林
- 捜査一課主任。松宮の上司。
- 松宮に加賀と組むように命じ、「加賀と組むことは必ずいい経験になる」と加賀を評価する。
- 前原昭夫(まえはら あきお)
- 47歳、茅場町にある照明器具メーカー本社勤務。
- 約3年前から母・政恵が足を悪くしたため、母の住む実家に移り住んでいる。表層的には父親然としているが、強く物を言えない押しの弱い性格。嫁姑の不仲など家族の問題にはその場しのぎな言動で、目を背けて逃げ出しがちな事なかれ主義な一面がある。冷え切った仲にある家族に安らぎを見出せず、家に帰る足は重くなり、一時期、新橋のバーで働く女性と浮気していたこともあった。
- 前原八重子(まえはら やえこ)
- 42歳、昭夫の妻。
- 自分の生活スタイルを固持する我が強い性格で、自分と息子の直巳のことしか頭にない。政恵が自分に家事について意見して以来、姑の政恵とは折り合いが悪く、同居前から昭夫の両親とは直巳と共に一切交流しようとしない。直巳の機嫌を取ることに終始しているが、直巳への愛情は溺愛に近く、直巳が罪を犯しても償わせようとはせず、彼の将来を守ることを第一としている。
- 前原直巳(まえはら なおみ)
- 14歳、昭夫と八重子の一人息子・中学三年生。
- 気弱で臆病な反面、癇癪持ちで堪え性がなく、両親に対しては気に入らないことがあれば感情を爆発させる内弁慶なところがある。小学校時代からイジメに遭い、今ではクラス中から無視されている。普段は部屋に籠ってゲームばかりしている引きこり気味の性質。また何かと少女に接近しようとする行動により八重子からは幼児性愛の傾向を疑われている。少女を殺した罪悪感は欠片も無く、後処理を昭夫に押し付ける。
- 前原政恵(まえはら まさえ)
- 昭夫の実母。
- 夫の章一郎が認知症になり、あまりに元気過ぎることから、長い間自宅で章一郎の介護をしてきた。
- 章一郎の死後、階段から転んで足を悪くしたため、実家に戻る形となった昭夫とその家族と同居することになったが、今度は自身が認知症となって昭夫らを理解しなくなってしまった。
- 田島春美(たじま はるみ)
- 昭夫の実妹。
- 結婚して「田島」姓となり、駅前の洋品店「タジマ」を営んでいる。
- 認知症になった政恵を思い出ある実家から出すべきではないと想い、施設に入れたがる八重子に自分が政恵の世話をすると説得し、毎日前原家に通って政恵の面倒を見ている。政恵ら家族に関する問題を何一つ知らず、八重子にも強く物を言えない兄には呆れる思いを隠さない。
- 春日井優菜(かすがい ゆうな)
- 7歳、小学2年生。直巳に絞殺され、昭夫に銀杏公園の男子トイレに遺棄された。
- 活発な少女で、度々勝手に外に出ることがあった。美少女アニメ「スーパープリンセス」のファンで、そのフィギュアをたくさん持っている直巳に誘われて前原家まで赴いていた。
- 春日井忠彦(かすがい ただひこ)
- 優菜の父。
- 殺されていると知らず、行方不明になった優菜を懸命に探し回り、直巳が起こした事態を知らない昭夫にその様子を目撃されていた。事件発覚後は、毅然として捜査員の聞き込みに応じている。
- 春日井奈津子(かすがい なつこ)
- 優菜の母。
- 優菜が殺されたことが発覚した際には、悲しみに打ちひしがれ、憔悴していた。
書籍情報
- 単行本:2006年7月25日発売[8]、 講談社、ISBN 978-4-06-213526-9
- 文庫本:2009年8月12日発売[9]、講談社文庫、ISBN 978-4-06-276444-5