ラプラスの魔女
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| ラプラスの魔女 Laplace's Witch | ||
|---|---|---|
| 著者 | 東野圭吾 | |
| 発行日 | 2015年5月15日 | |
| 発行元 | KADOKAWA | |
| ジャンル | サスペンス、ミステリ | |
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| 言語 | 日本語 | |
| 形態 | 四六判並製 | |
| ページ数 | 456 | |
| 次作 | 魔力の胎動 | |
| 公式サイト | www.kadokawa.co.jp | |
| コード | ISBN 978-4-04-102989-3 | |
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『ラプラスの魔女』(ラプラスのまじょ)は、東野圭吾による長編小説。「ラプラスの魔女」シリーズの第1作。
あらすじ
映像プロデューサーの水城義郎は、妻・千佐都と訪れた赤熊温泉の山中で硫化水素中毒により死亡する。事件は自然発生したガスによる不慮の事故と処理されるが、麻布北署の刑事・中岡祐二は不信感を抱いていた。義郎の母・ミヨシから三か月前に「息子の身に危険が及ぶ」と相談を受けていたからだ。中岡はミヨシに連絡するが、彼女は義郎の死後に自殺していたことが判明し、背後に不可解な事情を感じ取る。さらに老人ホームでミヨシの遺品を整理する千佐都と遭遇した際、彼女の不敵な笑みと挑発的な態度から、中岡は義郎の死への関与を確信する。
一方、事故を調査する泰鵬大学教授・青江修介は「屋外で硫化水素を使った殺人は不可能」と断言する。しかしその直後、苫手温泉の山中で売れない役者・那須野五郎が同様に硫化水素中毒で死亡する。現地を訪れた青江は、赤熊温泉で目撃した謎めいた少女・羽原円華と再会し、彼女から立て続けに物理法則を超越する現象を見せられ、二つの死が単なる偶然ではないと疑念を深めていく。
青江は調査を進める中で、水城と那須野の双方に接点を持つ映画監督・甘粕才生に辿り着く。才生のブログには、娘の硫化水素自殺で妻が巻き添えとなり、息子・謙人だけが脳手術で植物状態から奇跡的に回復するも記憶を失ったという「理想の家族」を喪った悲劇が記されていた。しかし中岡の聞き込みにより、才生は実の家族から疎まれていた人物であり、完璧な家族像を映像作品で表現しようと執着していたことが明らかになる。
やがて青江は、円華を監視する桐宮玲の案内で数理学研究所を訪れる。そこで円華の父で脳神経外科の権威・羽原全太朗と対面し、才生の息子・謙人が脳神経細胞再生手術によって回復する過程で、周囲の物理的事象を正確に予測する「ラプラスの悪魔」の能力を獲得したと知らされる。国家はその能力を研究対象として管理しており、さらに円華自身も、母を竜巻で亡くした過去から悲劇を回避する力を求め志願して同様の手術を受け、「ラプラスの魔女」となったことが明かされる。羽原はまた、謙人の脳検査を通じて甘粕親子に遺伝性の「先天的父性欠落症」があると突き止め、才生が映像で理想の家族像を描こうとして実の家族を躊躇なく殺害したのではないかと推測していた。
羽原の推測通り、謙人は回復の過程で才生が水城に家族殺しを漏らす電話を聞き、記憶喪失を装って復讐を決意していた。成人となった謙人は研究所を脱走し、木村浩一と名乗り千佐都に近づき、彼女を操ることで才生の家族殺しに加担した水城と那須野を「ラプラスの悪魔」の力を利用し硫化水素事故に偽装して殺害する。円華はその行動を察知し、謙人の暴走を止めるために研究所を抜け出して追跡する。やがて謙人は千佐都を利用して才生を最後の舞台である廃墟へと誘い出す。そこは才生が最後に映画を撮影した「廃墟の鐘」のロケ地であり、謙人は「ダウンバースト」と呼ばれる強烈な下降気流の発生時刻を正確に予測し、建物を崩壊させて才生と共に命を絶つ計画を立てていた。
しかし円華は謙人の計画を見抜き、青江の自動車をダウンバーストの気流に乗せて壁を破壊し、内外圧の差を調整することで崩壊を最小限に抑え二人を救出する。瓦礫に埋もれた才生に止めを刺そうとする謙人を円華は必死に説得し、彼はその場から姿を消す。才生は病院へ搬送されるが、後日首を吊って自殺したことが知らされる。
事件後、警察は円華たちの存在を秘匿するため、硫化水素事故を「犯人不明の悪戯」として処理し、中岡も上層部の圧力で捜査を断念する。青江は真相を知りながらも沈黙を選ぶ。そして円華は研究所へ戻り、護衛の武尾に「この世界の未来は、知らないほうがきっと幸せだよ」と告げ、物語は幕を閉じる。
登場人物
主要人物
- 羽原 円華(うはら まどか)
- 硫化水素中毒死が相次ぎ発生したD県とL県の双方の温泉地で青江に目撃された、謎の少女[注 1]。
- 通常では考えられない現象を目撃した青江から正体を問われると、自らのことを「ラプラスの魔女」と名乗る。
- 甘粕 謙人(あまかす けんと)
- 才生の長男。円華より2歳年上。12歳のとき、姉・萌絵が起こしたとされる硫化水素自殺に巻き込まれ植物状態となる。
- その後、羽原医師による脳神経再生手術で奇跡的に植物状態から回復する一方、事故以前の記憶をすべて失う。
- 甘粕 才生(あまかす さいせい)
- 謙人の父で、「映画の鬼」と称される著名な映画監督。髪が長く痩せており、キリスト像と餓鬼を同時に想起させる風貌。
- 47歳のとき、娘の硫化水素自殺に巻き込まれ妻を失い、長男・謙人は植物状態から回復するも記憶を失い、映画制作の現場から遠ざかる。
- 青江 修介(あおえ しゅうすけ)
- 泰鵬大学地球化学科の教授。D県の警察から赤熊温泉の、L県の地元新聞社から苫手温泉での硫化水素中毒死の調査を依頼される。
- 円華が有栖川宮記念公園で示した現象から、屋外での硫化水素による殺害は不可能とする結論に迷いを抱き、謙人をめぐる円華の動きに深く関わる。
円華の関係者
- 羽原 全太朗(うはら ぜんたろう)
- 円華の父親。開明大学病院の脳神経外科医。脳神経細胞再生研究の第一人者。
- 羽原 美奈(うはら みな)
- 円華の母親。故人。円華が10歳のとき、帰省先である北海道で竜巻に遭遇し命を落とす。
- 桐宮 玲(きりみや れい)
- 開明大学総務課。全太朗の部下。やや面長で、鼻筋が綺麗に通った美人。
- 数理学研究所で円華を監視する立場にあり、武尾に円華の「護衛」を依頼する。
- 武尾 徹(たけお とおる)
- 元N県警本部警備部の警察官。40代後半。警備会社を解雇された直後に詳細を知らされぬまま桐宮から警備の仕事の誘いを受ける。
- 2年前、数理学研究所の要人を警護した際に任務に対する疑問を口にしなかった姿勢が評価され、円華の護衛に抜擢される。
- 蛯原 弓子(えびはら ゆみこ)
- 円華の祖母(美奈の母親)。円華が10歳のころは夫と北海道在住だったが、現在は数理学研究所から通える郊外で一人暮らし。
甘粕家
- 甘粕 由佳子(あまかす ゆかこ)
- 才生の妻。謙人、萌絵の母親。元女優で資産家の次女。娘の硫化水素自殺に巻き込まれ亡くなる。
- 甘粕 萌絵(あまかす もえ)
- 謙人の姉。自宅で硫化水素自殺を図ったとされる。
- 甘粕 太生(あまかす たいせい)
- 才生の父親。天才彫刻家。自然界に存在するものをすべて精緻な木の彫刻で表現する作風。才生が小学生のころ家を出ている。
- 才生の友人によれば、才生は父の才能を強く意識し、同じ血が流れる自分は映画でその才能を発揮しようとしていた。
青江の関係者
- 奥西 哲子(おくにし てつこ)
- 泰鵬大学での青江の助手。堅物で几帳面な性格の持ち主。
- 青江 敬子(あおえ けいこ)
- 修介の妻。
- 青江 壮太(あおえ そうた)
- 修介の息子。中学2年生。
麻布北警察署
- 中岡 祐二(なかおか ゆうじ)
- 刑事課の刑事。30代後半。スポーツマンのように引き締まった体形で、日焼けした精悍な顔つき。
- 水城義郎の死は事故ではなく、千佐都が関与した遺産目当ての殺人と疑い、独自に捜査を行う。
- 成田(なりた)
- 刑事課係長。中岡の上司。
ガス中毒死事故の関係者
- 水城 義郎(みずき よしろう)
- 日本を代表するといわれる作品を手掛けた映像プロデューサー。68歳。千葉の名家の出身。
- 財産目当てであることを承知の上、千佐都と3度目の結婚をするが赤熊温泉の山中で硫化水素中毒で死亡する。
- 事故の3か月前、千佐都の勧めで総額3億円の生命保険に加入している。
- 水城 千佐都(みずき ちさと)
- 義郎の後妻。28歳前後。銀座のクラブ「レッド」で源氏名・レイカとして働いていた元ホステス。2年前に義郎と結婚する。新潟出身。
- ミヨシ曰く、男性を惑わせる妖気のようなものを漂わせた女性。
- 水城 ミヨシ(みずき ミヨシ)
- 義郎の母。88歳。7年前に調布にある介護サービス付きの高級老人ホームに入居し、一人暮らし。息子と千佐都との結婚には反対していた。
- 千佐都が義郎に生命保険を勧めたと聞きき、恐ろしいことを企んでいるのではないかと感じ、麻布北署に相談の手紙を出していた。
- 那須野 五郎(なすの ごろう)
- 39歳の売れない役者。本名は森本五郎。苫手温泉で硫化水素中毒で死亡する。
- 村山
- 義郎の下で長年働いていた男。50代半ばの小男。狸のような風貌でずる賢く見える。葬儀で千佐都が初見の義郎の関係者の案内役を務める。
中岡の調査相手
中岡が聞き取り調査で接触した人物たち
- 矢口 直也(やぐち なおや)
- 銀座のクラブ「レッド」で5年以上、千佐都と一緒に働いていた黒服。闇サイトと関わりを持つ。
- 1年前、千佐都から夫の義郎が闇サイトを扱った映画を作る予定なので、闇サイトのアドレスを教えてほしいと頼まれる。
- 山田 佳代(やまだ かよ)
- 元開明大学病院の看護師。退院後の謙人の行方を調べる中岡に対し、何も知らないと歯切れの悪い返事をする。
- 大元 肇(おおもと はじめ)
- 脚本家。硫化水素自殺事件の後に才生と会っている数少ない人物。50歳前後。無精髭が頬を覆い、痩身で小柄。
- 才生がブログの内容を含めた今までの生き様をまとめたノンフィクション小説を出版すると中岡に教える。
- 根岸(ねぎし)
- 文芸書籍編集部の編集長。40代半ば。才生の映画のノベライズを担当し彼と面識がある。
- 口外しないことを条件に才生のノンフィクション小説の内容と、その小説を映画化する情報を中岡に明かす。
- 西村 弥生(にしむら やよい)
- 八重洲にあるデンタルクリニックの受付。謙人の姉・萌絵の高校時代の同級生で、ダンス部の部活仲間。
- 才生のブログに書かれている萌絵が、自分の知る彼女の人物像とは異なると中岡に教える。
- 川上 誠也(かわかみ せいや)
- 謙人が小学時代に通っていたサッカークラブで最も仲が良かったとされる同級生。
- 謙人の家庭はブログに書かれているような仲の良い家族ではなく、ばらばらで冷めていたと中岡に教える。
- 宇野 孝雄(うの たかお)
- 才生の中高時代の友人。才生とは大学のころまで交流があった。
- 才生は他人には関心がない一方、交際相手の女性にだけは自身の理想を求める完璧主義者であったと中岡に教える。
温泉地の関係者
- 前山 洋子(まえやま ようこ)
- 水城夫妻が宿泊したD県の山中にある赤熊温泉の旅館「赤熊荘」の女将。
- 磯部(いそべ)
- 赤熊温泉を管轄する県の環境保全課職員。火山ガス事故対策本部で硫化水素濃度などのデータ収集・測定業務の責任者。
- 分厚いレンズの眼鏡をかけ前歯が少し出ており、かつて欧米などで揶揄的に描かれた日本人像そのままの外観。
- 内川(うちかわ)
- 北陸毎朝新聞社の記者。40代半ば。ショートカットで眼鏡をかけている小柄な女性。
- L県の苫手温泉での硫化水素中毒死事故に関し、青江に専門家としての見解を求める。
その他
- 木村 浩一(きむら こういち)
- 20歳そこそこの小柄な若者。円華がその行方を追う男性。
用語
- ラプラスの悪魔
- フランスの数学者・ピエール・シモン・ラプラスが提唱した、「この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば、その存在は、物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化を計算でき、未来の状態がどうなるかを完全に予知できる」という仮説。
書籍情報
- 単行本:2015年5月15日発売[1]、KADOKAWA、ISBN 978-4-04-102989-3
- 文庫本:2018年2月24日発売[2]、角川文庫、ISBN 978-4-04-105493-2

