ラングドック=ルシヨンのワイン

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ラングドック=ルシヨンのワイン生産地と各アペラシオンの位置

ラングドック=ルシヨンのワイン[注釈 1]フランス南部のラングドック=ルシヨン地域圏で生産されるワインである。「ラングドック」という語は歴史的にフランスとカタルーニャ北部のある一地域を指すが、20世紀以降、とりわけワイン業界においてはラングドック=ルシヨン地域圏の北部のスペイン国境からプロヴァンス地方にまでわたる地中海沿岸域を指すことが一般的である。フランスのワイン総生産の3分の1超を占め、ブドウ栽培面積は2800平方キロメートルにのぼるが、これは単一のワイン生産地としては世界最大である[1]。生産量の9割がラングドック地域で、1割がルシヨンで造られている[2]。2001年においては、アメリカ合衆国よりもワイン生産量は多かった[3]

リオン湾に面したヴィルヌーヴ=レ=マグローヌのブドウ畑

ラングドックでのワイン生産の歴史は、ギリシャ人によってナルボンヌ近くの海沿いにブドウ畑が拓かれた紀元前5世紀に遡る。これはプロヴァンス、ローヌコルシカ島といった地域と並んでフランスで最も古いブドウ畑であるといえる。13世紀からラングドックはフランスに属しており、ルーションは17世紀半ばにスペインが領有した。この2つの地域がひとつのワイン生産地として公的に扱われるようになったのは1980年代後半のことである[3]

4世紀から18世紀、あるいは19世紀初頭まで、ラングドックは高品質なワインを生み出す産地との評判を得ていた。14世紀のパリではサン=シニアンのワインが病院の「癒やしの力」であると規定されていた[4]。19世紀の産業革命の到来により、ル・グロ・ルージュ(le gros rouge)と呼ばれる安価な赤ワインの大量生産に移行したが、これは増加する労働人口を満足させるためである。多産なブドウ品種を用いることで収穫量は多いが薄いワインが生産され、多くはボディを補うためにアルジェリアのワインとブレンドされた[5]。この頃のワイン産業の伸長には、17世紀にミディ運河の建設、1845年のモンペリエ-パリ間の列車の開通も寄与していた[2]

19世紀のフィロキセラ禍はラングドックのワイン産業に多大な影響を与えた。ヴィティス・ヴィニフィラは虫害に感受性があるため、高品質なブドウが一掃されてしまったのである。アメリカ系の台木はフィロキセラに抵抗性を持つが、丘陵地の石灰質土壌には適合しなかった。これらの畑にはアラモン、アリカンテ・ブーシェ、カリニャンといった質の低い品種が多く植えられた[6]

第1次第2次世界大戦のさなかでは、ラングドックではフランス軍の兵糧となるデイリーワインの生産が課せられた[1]。1962年、アルジェリアがフランスから独立を果たしたことにより、ル・グロ・ルージュの薄さを補うためにより酒質の強いアルジェリアワインをブレンドすることはなくなった。このことと、1970年代にフランスの消費者が安い赤ワインを忌避するようになったことが組み合わさり、フランスにおいては数十年にわたるワインの過剰生産が引き起こされた。この「ワインの湖」と称される過剰の最大の原因がラングドックであり、減産を目的に欧州連合による補助金が復活する結果となった。このような社会情勢の変化により、生産者は再び高品質なワインを志向するようになったが[6]、同時に多くの局地的な抗議活動の引き金となった。なかには悪名高いブドウ栽培者行動委員会[7]Comité Régional d'Action Viticole, CRAV)による暴力を伴うものもあった。

大量生産ワインであるという一般的な評判や、ラングドックが経済危機に瀕しているという共通認識にも関わらず、一部のワイン事業者は外部からの投資を受け入れ品質向上に努めることで経済的に成功している。多くのブドウ畑では、評判を落としている地域名を用いずに良好なブランド名を立ち上げることで売れ行きを改善させている。産地の中には1990年代後半にアペラシオンの規定に採用されたものもあるが、生産者によっては指定された品種のブレンドを忌避し単一品種ワインの生産に移行することもあった。これはニューワールドにおいてワイン市場が拡大していることに応じた動きである[8]

ラングドック=ルシヨン地域圏の位置

気候と地理

ラングドック=ルシヨン地域圏は、隣接する南ローヌやプロヴァンスと地形や気候の特色が多くの点で一致する。この地域は240kmに及ぶ。西はスペイン国境のピレネー山脈に位置するバニュルスに端を発し、地中海沿岸に沿って東端のローヌ川とプロヴァンスに接する地域にまで広がる[3]。北端には中央高地が存在し、なかでもセヴェンヌ山脈と渓谷が当地の地形を特徴づけている。エロー川沿岸には多くのブドウ畑が存在する[9]

フーク近郊のブドウ畑。遠景にピレネー山脈が見える。

ラングドックのブドウ畑は一般的には地中海の海岸平野に発達するが、ルシヨンではピレネーの狭い渓谷に存在している。生育期である5月から8月は非常に乾燥しており、年間の降雨のうち多くは冬に降る。ラングドックの平野部はフランスのなかで最も暑く乾燥した地域である[5]。地中海性気候は様々な品種のブドウの生育に適しているため、大量生産を志向する生産者が多数を占めている。年間平均気温は14℃である。トラモンタンと呼ばれる北西から吹く内陸部の風によりさらに乾燥した気候となることがあるため、フランスのAOCとEUの規定により灌漑が禁止されていることも併せて、ブドウ栽培の障害としては旱魃が最も大きなものとなる。2006年12月には、フランス政府は地球温暖化の影響を懸念し灌漑に対する規制を一部緩和した[10]。乾燥した気候であることは病害を予防する観点では有利であり、ゆえにオーガニック栽培も盛んである[2]

1999年には異常気象によりこの地のワイン産業は被害を受けた。5月に発生した雹によりルシヨンが影響を受けたほか、11月半ばには1年分にあたる雨量が36時間内に降る豪雨がラングドック西部のコルビエールミネルヴォワで発生した[11]

ラングドックの土壌は、内陸部では白亜石灰砂利を主として構成され、海岸付近では沖積土壌となる。評価の高いブドウ畑のなかには、表層にかつての河床の石が存在する場合もあり、シャトーヌフ=デュ=パプに似た土壌となっている[12]

アペラシオン

ヴァン・ド・ペイ・ドックのシャルドネ

ラングドックのワインは500を超える協同組合によって造られる物が多い[13]。この地域におけるAOCの規定は今なお流動的であり、新たなアペラシオンが作られたり修正が加えられたりといった変更がなされている。近年の大きな変化としては、コトー・デュ・ラングドックがラングドックに改称され、ルシヨン地域も含まれるように拡張されたことが挙げられる[14]。広大なラングドックAOCはクリュと呼ばれるいくつかの小区域に別れており、それぞれ異なるスタイルのワインを生み出す。これらの小区域のなかには、ラングドック傘下のアペラシオンを付与されたものもあるが、なかには独自のアペラシオンとなるためにAOCの資格を保留しているものもある。ラングドック傘下のアペラシオンとしては、カトゥーズ、ラ・クラープ、モンペイルー、サン=サテュルナン 、ピクプール・ド・ピネ、テラス・デュ・ラルザック、 ピク・サン・ルーが挙げられる[15]

2004年には、ラングドック東部と南ローヌの境界がわずかに変更された。すなわち、以前はラングドックに属していたコスティエール・ド・ニームがローヌのアペラシオンとなったのである。この年には、INAO[注釈 2]はこのアペラシオンの管理責任をローヌ渓谷の委員会に移管した[16]。この変化はシラーやグルナッシュを用いたコート・デュ・ローヌに近いスタイルのワインを造っていた地元生産者のロビー活動によるものだが、これは法的な区分がワイン造りの伝統に必ずしも一致していなかったことに加え、ローヌのほうが市場においてはるかに名声があることもおそらくは関係している。このような境界の変更は極めて珍しい。

ブドウ品種

シラーはラングドックの多くの赤ワインでブレンドに用いられる。

ラングドック=ルシヨンでは様々な品種が栽培されており、そのなかにはメルローカベルネ・ソーヴィニヨンソーヴィニヨン・ブランシャルドネといった国際品種も含まれる。伝統的にローヌで用いられるムールヴェードル、グルナッシュ、シラーも重要である[17]

シャルドネはヴァン・ド・ペイ・ドックとスパークリングワインであるクレマン・ド・リムーで用いられる主要な白ブドウ品種である。シュナン・ブランとモーザックは同じくスパークリングのブランケット・ド・リムーで主要品種として使われる。甘口の酒精強化ワインであるミュスカ・ド・フロンティニャンとミュスカ・ド・サン・ジャン・ド・ミネルヴォワはミュスカ・ブラン・ア・プチ・グランという品種で造られる。ミュスカ・ド・リヴザルトでは酒精強化ワインがマスカット・オブ・アレキサンドリアから造られる。

赤ワインにおいては、コルビエール、フォジェール、フィトー、ミネルヴォワといったアペラシオンではグルナッシュ、シラー、カリニャン、ムールヴェードルが主に用いられる。サンソーではロゼワインを造るためにルドネール・プリュ、ピクプール・ノワール、テレ・ノワール、グルナッシュを使うのが一般的である。グルナッシュはバニュルスやリヴザルトの酒精強化ワインにも主に用いられる。フランスで最も古くから栽培されているブドウのひとつにカリニャンがある。この品種では担任を和らげるためにマセラシオン・カルボニックがなされることもある[18]

その他に用いられる品種としては、ルーサンヌ、マルサンヌ、ヴェルメンティーノ、ブールブラン、クレレット・ブランシュ、グルナッシュ・ブラン、グルナッシュ・グリ、ピクプール・ブラン、ピクプール・グリ、マカベオが挙げられる[17]。温暖化の影響を見据えてイタリア系・ギリシャ系の品種にも注目が集まっている[2]

ワインの種類

ラングドック産のワイン。左はAOCで規定されたアペラシオンであるコスティエール・ド・ニーム(Costières de Nîmes)のワインである。右はヴァン・ド・ペイであり、品種名が記載されている。

ラングドックのワインには膨大な銘柄がある。ヴァン・ド・ペイ・ドックのような広い地域が指定された規定からブドウ品種の制限付きの極めて限定された地域のアペラシオンまで幅広く、後者にはコルビエールやミネルヴォワがある。1990年代以降、INAOはラングドック=ルシヨンの複雑なミクロクリマと土壌を考慮した小規模なAOCを作っている。できて日の浅いアペラシオンとしてはカバルデスがあるほか、ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール、コルビエール・ブトナック、サン・シニアン・ベルルーといった小地域はさらに範囲が狭い[19]。これらの新しいアペラシオンの制定により品質の向上が続いているが、すでに難解な格付けをさらに複雑化させるものとして批判も受けている。

ラングドックで生産されるワインとしてはテーブルワインが最も多い。ヴァン・ドゥー・ナチュレルも相当量の生産がなされている[20]

ヴァン・ド・ペイ

AOCよりも制約が弱い格付けであるヴァン・ド・ペイが導入されたことにより、ラングドックではカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー、シャルドネといった国際品種を用いた単一品種ワインやブレンドワインが造られるようになり、ラングドックのワイン産業の可能性が開けた[6]。この例としては、ヴァン・ド・ペイ・ドックやヴァン・ド・ペイ・ド・オード、ヴァン・ド・ペイ・ド・レロー、ヴァン・ド・ペイ・デュ・ガールが挙げられる[21]

ヴァン・ドゥー・ナチュレル

ヴァン・ドゥー・ナチュレル(vin doux naturel)は天然甘口ワインとも呼ばれ、ブドウ果汁をアルコール発酵させている途中でアルコールを添加して発酵を止めることで糖分が残るため甘口のワインに仕上がる。ラングドックでは多くの甘口白ワインがミュスカから造られる。バニュルスではグルナッシュから赤の酒精強化ワインが造られるが、通常アルコール度数は16〜17%であり、残糖は8〜12%である[22]

バニュルスではワインを深いレーズン色にするために様々な手法でワインを加熱する。生産者によってはソレラシステムを用いるが、これは様々な熟成期間のワインを異なるサイズの樽に詰めておき、太陽光の当たる温かい場所に放置するというものである[23]。デミジョンと呼ばれるガラス製の容器に入れて直接日光に晒すこともある[2]。これらにより、色が濃くなることに加えてランシオと呼ばれるナッツのような特徴的な香りが生まれる。バニュルス・グランクリュでは2年半の木樽熟成が必要とされる[23]

クレマン・ド・リムー

ラングドック産のブランケット・ド・リムー

クレマンはメトード・トラディショネルと呼ばれる手法で造られるスパークリングワインである。かつてはシャンパーニュ方式とも呼ばれており、シャンパンの製法と同様の工程で造られる。メトード・トラディショネルでは2次発酵を瓶内で行うことによって、酵母によって造られる二酸化炭素を封じ込める。ラングドックにおいては、クレマンはリムーの街周辺に位置するいくつかの小さい村で造られている。通常はモーザックが70%、シャルドネやシュナン・ブランが30%という構成である。AOCの規定では澱を取り除かずに1年間の熟成が必要である。ブランケット・ド・リムーでは、ラベルにメトード・アンセストラルと記載されている場合、モーザックのみを用い、1度だけの発酵でスパークリングワインが造られる。澱を取り除かずに約3ヶ月間の熟成が行われるが、実際の期間は月齢を参照して決められる[24]

注釈

参考文献

関連項目

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