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衛星の命名

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衛星の命名 (えいせいのめいめい、Naming of moons) は、1973年以降は国際天文学連合 (IAU) の惑星系の命名に関する委員会の責任のもとで行われている。この委員会は、Working Group for Planetary System Nomenclature (WGPSN) という名称で知られており、衛星の名前のみならず太陽系内の天体の地物への命名も行っている[1]

IAUによる委員会が結成される前は、衛星への命名は様々な歴史がある。名前の選択はしばしば衛星の発見者によって行われてきた。しかし歴史的には、いくつかの衛星は発見後何年にも亘って名前を与えられないものもあった。例えば、土星の衛星タイタン1655年クリスティアーン・ホイヘンスによって発見されたものの、現在用いられているタイタンという名前が与えられたのはほぼ2世紀が経過した1847年のことであった。

IAUが天体への命名の責任を引き受ける以前は、広く受け入れられ現在まで使用されている名前を与えられていたのは25個の衛星だけであった[注 1]。それ以降は、2019年の時点で木星の衛星57個、土星の衛星53個、天王星の衛星27個、海王星の衛星14個、冥王星の衛星5個、エリスの衛星1個、ハウメアの衛星2つの合計129個への命名が行われた。現在の衛星発見報告が実証され、新しい衛星が発見されるにつれて、この数は増えるだろう。

2004年7月にシドニーで開催されたIAU総会でWGPSNは、CCD技術の発達によって直径 1 km 程度の小さな衛星を発見することが可能になったため、いずれ小さい衛星には名前を付けないことが賢明になるだろうと示唆した[2]2013年までは、衛星の大きさによらず発見された全ての衛星に対して名前が与えられていた。また、ほとんどの衛星は確定番号が与えられると同時に名前が与えられていた。それ以降は、確定番号が与えられたものの命名はされない場合や[3]、確定番号の付与から命名まで時間が空く場合が見られる。

地球

人類の言語が持つ地球を表すための固有の単語は通常天文学の文脈においても使用される。しかし、多くの月を表す架空のまたは神話に由来する名前も天文学の文脈で使用されており、天文学以外の文脈ではさらに多くの月を表す通称が使用されている。

17世紀には、月はローマ神話に登場する女神プロセルピナ (Proserpina) の名で呼ばれることがあった。より最近では、特にサイエンス・フィクションの文脈に置いて、月はラテン語のルナ (Luna) と呼ばれることがあった。これはおそらくは惑星のラテン名とのアナロジーか、あるいは月の形容詞形の lunar と関連している。専門用語では、語幹としてギリシア語selēnē に由来する seleno- や月の女神アルテミスの別名キュンティアー (Cynthia) に由来する cynthi- が月を指す時に用いられる場合がある。その例が月理学 (selenography) や月学 (selenology)、近月点 (pericynthion) である。

火星

火星の衛星フォボスダイモスは、アサフ・ホールによって発見されて間もなく、1879年にホールによって名前が与えられた。これらの名前は、ギリシャ神話に登場する軍神アレースの息子で、「狼狽」を表すポボスと「恐怖」を表すデイモスに因んでいる[4][5][6]。なおアレースはローマ神話ではマルス (Mars) に相当する。

木星

木星の四大衛星であるガリレオ衛星 (イオエウロパガニメデカリスト) の名前は、1610年ガリレオ・ガリレイによって発見された後、同時期に独立して発見した[7]シモン・マリウスが提案したものである[8]。しかし19世紀後半までにはマリウスが提案した名前は好まれなくなり、広く受け入れられなかった[9]。天文学の文献ではこれらの衛星はローマ数字を用いて "Jupiter I" や "Jupiter II" などと表記されたり、あるいは単に「木星の一番目の衛星」や「木星の二番目の衛星」などと表記された[10][11]

20世紀の最初の10年までに、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストという名前は再び使われるようになった。しかし後に発見された衛星は主にローマ数字を用いて V (5) から XII (12) と表記され、名前が与えられないままであった[12]1892年に発見された Jupiter V はアマルテアという名前が与えられたが[13]、これを最初に用いたのはフランスの天文学者カミーユ・フラマリオンである[14][6]

1904年から1951年の間に発見されたその他の不規則衛星は、天文学の文献の大多数においては名前が無いままであった。1955年ブライアン・マースデンがこれらの衛星への命名を提案するまでは、名前は提案されていなかった[15]。この時に提案された名前は、SF[16]やポピュラーサイエンスの記事[17]などではすぐに受け入れられたが、天文学の文献では1970年代までほとんど使われることはなかった[18]。またその後にソビエト連邦の天文学者 E. I. Nesterovich が1962年に、Yu. A. Karpenko が1973年にこれらの衛星への名称を提案したが[19][20]、これらは広く受け入れられなかった。

1975年IAU の外部太陽系命名のタスクグループは、前年のチャールズ・トーマス・コワルによるJupiter XIII (レダ) の発見を受け、正式に命名されていなかった V から XIII に名前を与え、さらに将来発見されるであろう衛星への命名プロセスを規定した。この新しい命名プロセスで、Jupiter V はそれまで使われてきたアマルテアの名前が引き続き採用され、Jupiter XIII には発見者のコワルの提案に従ってレダと命名された。その他の衛星に関しては、ドイツの文献学者 Jürgen Blunck による提言に従い、順行軌道にある木星の衛星名は a で終わる名称、逆行軌道の衛星は e で終わる名称を付けるという方針を取ることとしたのに伴い、Jupiter VI から XII までの7つの衛星に対してそれまで提案されていた名前は使われないこととなった[21]

これらの新しい衛星名はしばらくの間かなりの抗議を受けた。コワルは Jupiter XIII の名前を提案したにもかかわらず、木星の不規則衛星には名前を与えるべきではないという意見を持っていた[22]。またカール・セーガンは、IAU によって選ばれたこれらの名前は非常に分かりにくいものであると延べた (タスクグループの議長であるトビアス・オーウェンはセーガンへの返答でそれは意図的なものであると認めたという事実がある[19])。セーガンは1976年に独自の名称を提案しており、このうちのいくつかは1955年にマースデンが提案したものを引き継いでいる[23]。1973年に名前を提案していた Karpenko は彼の1981年の書籍『The Names of the Starry Sky』の中で、逆行衛星に対して選ばれた名前、つまり e で終わる名前は、必ずしも一般的な名前が選ばれたわけではなかったと記している[24]

これらの衛星に対して提案されていた名前は以下の表のとおりである。(注釈:IAU による名称については各衛星の現在使われている表記とし、衛星のページへのリンクを張っている。採用されなかった名称については、名称の由来である神話の登場人物へのリンクとし、便宜上表記も当該ページに合わせてある。)

確定番号 マースデン
(1955年)[15]
Nesterovich
(1962年)[25]
Karpenko
(1973年)[20]
国際天文学連合
(1975年)[19]
セーガン
(1976年)[23]
Jupiter VI ヘスティアー アトラース アドラステイアー ヒマリア マイア
Jupiter VII ヘーラー ヘルクレース ダナエー エララ ヘーラー
Jupiter VIII ポセイドーン ペルセポネー ヘレネー パシファエ アルクメーネー
Jupiter IX ハーデース ケルベロス Ida シノーペ レートー
Jupiter X デーメーテール プロメーテウス ラートーナ リシテア デーメーテール
Jupiter XI パーン ダイダロス レーダー カルメ Semele
Jupiter XII アドラステイアー ヘーパイストス セメレー アナンケ ダナエー

現在の慣例では、新しく発見された木星の衛星は、ギリシャ神話ゼウスやそれと同一視されるローマ神話ユーピテルの愛人や子孫に因んで命名されている。Blunck によって提言された外衛星への命名スキームは、順行衛星に対して o で終わる名前を用いても良いというルールを追加した上で維持された。2004年7月のIAU総会では[2]、最近になって多数の木星の衛星が発見されたため、WGPSNは衛星の名称について、これまで使用されてきたゼウスの愛人やお気に入りの人物の名前に加え、ゼウスの子孫の名前も加えることとした。Jupiter XXXIV (エウポリエ) 以降はゼウスの娘に因んで命名されていたが[6]、Jupiter LIII (ディア) はゼウスによって誘惑された人物の名前が由来である[6]。また Jupiter LXII (Valetudo) はユーピテルのひ孫娘に因んで命名されている[6][26]

Jupiter LI (第51衛星) 以降の衛星は、ローマ数字を用いた確定番号は与えられているものの、固有の名称は与えられていないものが多く存在する[3]。2018年までは、第51衛星以降で名称が与えられていたのはディアとValetudoの2つのみであり、確定番号の付与と同時に命名されていた。その後2019年2月に、これらの衛星のうち5つの名称の一般公募を行うことが発表され[27]、同年8月に国際天文学連合によって名称が承認された[6][28]

土星

1847年イギリス天文学者ジョン・ハーシェルによって、当時発見されていた土星の7つの衛星に名前が与えられた。ハーシェルは最も内側の2つの衛星にはギリシア神話巨人族から名前を与え (ミマスエンケラドゥス)、外側の5つにはティーターンの男性 (タイタンイアペトゥス) と女性 (テティスディオネレア) から名前を与えた[6]。それまでは、タイタンは発見者の名前から「ホイヘンスの土星の衛星」(Huygenian/Huyghenian satellite of Saturn) として知られ、その他は土星に近い順にローマ数字を用いた番号で呼ばれていた。その後に発見された土星の衛星への命名は、ハーシェルの方法にならったものになった。ハーシェルの命名の直後の1848年に発見されたヒペリオンと、1899年の発見直後に発見者によって名前を与えられた9番目の衛星フェーベは、それぞれティーターンの男性と女性から名前が与えられている。ただし発見者であるオドゥワン・ドルフュスによって命名されたヤヌスは、ローマ神話の登場人物から名前が与えられている[6]

新しく発見された土星の内側の衛星への命名におけるIAUの慣習はハーシェルの方法を踏襲したものであり、ティーターンやその子孫から名前を採っている。しかし21世紀に発見された衛星の数が増えたため、IAUは外側の衛星に対する新しい命名の指針を作成した。2004年7月のIAU総会で、WGPSNはギリシア神話ローマ神話以外の神話に登場する巨人や怪物の名前を土星の衛星に与えることとした[2]。土星の外部衛星は軌道要素から3つの群に分類することができるため、それぞれ北欧神話 (北欧群)、ケルト神話 (ガリア群)、イヌイット神話 (イヌイット群) の名前から命名されている[6]。この指針から外れている唯一の衛星は、北欧群に属するもののギリシア神話に由来する名前を持つフェーベである[6]

天王星

天王星の衛星へのローマ数字を用いた番号付け方式は、かなりの間流動的なものであった。ウィリアム・ハーシェルは当初6個の衛星を発見したと主張したが[29]チタニアオベロン以外の4つは確認されず、恒星を誤認していたことが後に分かっている[30][31][32]。その後50年近くに渡って、天王星の衛星はハーシェルが用いた観測装置以外では観測されていなかった[33]。1840年代になると、観測装置が発達したことと、天王星が空の観測しやすい領域に移動したことによって、チタニアとオベロンに加えてさらなる衛星が検出されるようになった。ウィリアム・ハーシェルによる記法ではチタニアとオベロンは Uranus II と IV とされ、ウィリアム・ラッセルの記法では I と II とされるなど、出版物の中でも表記は統一されていなかった[34]アリエルウンブリエルの確認を受け、ラッセルは天王星から近い順に衛星に I から IV までの番号を与え直し、これは最終的に固定された[35]

1787年に発見された天王星の最初の2個の衛星は、さらに2個の衛星が発見された翌年の1852年まで名前が与えられていなかった。これらの4つの衛星に名前を与えたのは、ウィリアム・ハーシェルの息子で天文学者のジョン・ハーシェルである[6]。彼はギリシア神話から名前を採用する代わりに、英文学に登場する精霊から命名した。オベロンとチタニアはウィリアム・シェイクスピアの戯曲『夏の夜の夢』に登場する妖精オーベロンティターニアから、アリエルとウンブリエルはアレキサンダー・ポープの詩『髪盗人』に登場する空気の精から名付けられている[6] (アリエルはシェイクスピアの『テンペスト』に登場する人物名でもある)。天王星の語源であり空と空気を司る神であったウーラノスの周囲には空気の精がいたことが名前の採用の理由であると考えられる。

その後の衛星の命名は、空気の精から名前を採るという方針ではなく、ハーシェルの原資料に焦点を当てるものであった (マブパックのみは空気の精から命名するという流れを受け継いでいる)。5番目の衛星ミランダは、1949年に発見者のジェラルド・カイパーによって、シェイクスピアの『テンペスト』に登場する人間の名前に因んで命名された[6]。現在のIAUによる天王星の衛星への命名の慣習は、シェイクスピアの戯曲かポープの『髪盗人』の登場人物に因んだ名称を付けるというものである。ただし現時点ではポープの『髪盗人』に由来する名前はアリエル、ウンブリエルとベリンダの3つのみであり、残りはシェイクスピアの戯曲に由来する[6]。当初は外側の衛星には全て『テンペスト』に因んだ名前だけが付けられていたが、マーガレットが『空騒ぎ』から命名されてこの傾向は終わった。

海王星

海王星はかつてはトリトンただ1つのみが知られていたが、何十年にも亘って名前は与えられないままであった。トリトンの名前は1880年にカミーユ・フラマリオン (木星の衛星アマルテアへの命名者でもある) によって提案されたものの[36]、20世紀半ばまではこの名称は一般的に使用されず、何年も「非公式」のものとして扱われた。天文学の文献では単に「海王星の衛星」と呼ばれていた。後に2番目の衛星ネレイドが1949年に発見され、すぐに発見者のジェラルド・カイパーによって命名された[37]

現在のIAUによる海王星の衛星への命名の慣習は、最初の2つの衛星への命名を踏襲したものであり、ギリシア神話の海の神に因んでいる。最も最近発見された海王星の衛星 ヒッポカンプ (S/2004 N 1) はローマ数字の確定番号が与えられた際に固有の名称が与えられなかったものの、およそ5ヶ月後に命名された。

冥王星

冥王星と5つの衛星[38]

冥王星の衛星カロンは、発見者であるジェームズ・クリスティーによって発見後間もなく提案された[39]

その他の4つの衛星は、ヒドラニクスケルベロスステュクスと命名されている[6]

カロン、ヒドラ、ニクスとケルベロスは全てギリシア神話の登場人物であり、冥界の王ハーデースと関連がある。ハーデースはローマ神話におけるプルートーに相当する存在である。カロンの由来であるカローンアケローン川で死者を船で運ぶ渡し守、ヒドラの由来であるヒュドラーは地下を守る怪物、ニクスの由来であるニュクスはカローンの母で暗闇と夜の女神、ケルベロスの由来であるケルベロスは3つの頭部を持つ巨大な犬であり、冥界の入り口を守る番犬である[6]。ステュクスは現世と冥界の間を流れる川であるステュクスが由来である[40]。またその川を神格化した女神の名前もステュクスである[6]

エリス

準惑星エリスの衛星ディスノミアの名前は、発見者であるマイケル・ブラウンによって提案されたものである。ブラウンはエリスの名前を提案した人物でもある。この名前は2つの意味を含んでいる。1つは、ギリシア神話の不和と争いの女神であるエリスの娘で、無法 (lawlessness) の女神デュスノミアーに因んだものである[41][6]。さらに、テレビドラマ『ジーナ』で主役のジーナを演じるルーシー・ローレス (Lucy Lawless) の名前とかけたものにもなっている。これには、エリスは発見以降しばらくの間公式に名前が与えられておらず、ブラウンが与えた愛称である "Xena" (ジーナ) が広まっていたという背景がある。ディスノミアも正式に命名される前は、『ジーナ』に登場する相棒に因んでガブリエルという愛称で呼ばれていた。エリスという名前が採用された時、ブラウンは衛星の名前としてディスノミアを提案した[42]。エリスとディスノミアの名前は2006年9月14日にIAUに承認された。

ハウメア

ハウメアとその衛星の名前は、発見した観測チームの一員でカリフォルニア工科大学デイヴィッド・ラビノウィッツによって提案されたものである。これらの名前は、ハワイ神話の女神とその娘に因んだものである[43]

小惑星とカイパーベルト天体

惑星と準惑星とは異なり、小惑星を公転する衛星のうち名前が与えられているものは比較的数少ない。それらのうちの一部は以下の通りである。

衛星の名前 主星の名前 ローマ数字
ダクティル イダ I
エキドナ テュフォン I
リヌス カリオペ I
メノイティオス パトロクロス I
プティ・プランス ウージェニア I
ポルキュス ケト I
レムス シルヴィア II
ロムルス シルヴィア I
サウィスケラ テハロンヒアワコ I
ゾエ ロゴス I

ローマ数字表記

衛星にはローマ数字を用いた表記もあり、Jupiter I や Saturn II などのように、主星+ローマ数字という形で表記される。この番号は、日本語では「確定番号」と呼ばれている[3]

衛星へのローマ数字での番号付けのシステムは、地球の月以外の衛星が初めて発見された時に生まれたものである。ガリレオガリレオ衛星に対して木星から近い順に I から IV と番号を与え、ライバルであったシモン・マリウスが提案した名前を使用しなかった。土星、天王星、火星の周りにも複数の衛星が発見されたことで、同様の番号付けが自然と使われることとなった。数字は当初は軌道の並ぶ順番に与えられており、新しい発見があると番号は振り直されていた。例えば、1789年にミマスとエンケラドゥスが発見される前は、テティスが Saturn I、ディオネが Saturn II、というように番号が振られていたが[44]、発見後はミマスが Saturn I、エンケラドゥスが Saturn II となり、テティスは Saturn III、ディオネは Saturn IV と変更された。

しかし19世紀半ばになると番号は固定となり、その後の発見は軌道の順番とは一致していない。1892年に発見された木星の衛星アマルテアは、イオ (Jupiter I) より内側を公転しているにもかかわらず Jupiter V という番号が与えられた。19世紀の終わり頃には、過去の歴史的な発見を例外として、数字は多かれ少なかれ発見された順番を反映するという暗黙の慣習ができた。短期間に多数の衛星が発見された場合でも、それらには軌道の順番で番号をつけることも、厳密には発見の順番以外の原則に従って番号をつけることもできる。この慣習は、小惑星シルヴィアの衛星ロムルス (Sylvia I Romulus)[45] に見られるように、小惑星の自然衛星にも拡張された。

確定番号は一般には衛星に固有の名称が命名されるまでは与えられないため、発見されたものの仮符号しか持っていないという衛星は、通常は確定番号も持たない。例外が土星の衛星ヘレネで、1982年に確定番号 XII が与えられたものの[46]、名前は1988年まで命名されていなかった[47]IAUは1975年から2013年までのすべての衛星に名前を与えていた間、ローマ数字を用いた確定番号の使用は減り、いくつかはめったに使われなかった。フォボスダイモスが Mars I と Mars II という名前で言及されることは稀であるし、またが Earth I と呼ばれることは無い。しかし最近になって発見された衛星のいくつかは、確定番号を与えるのに充分なほど軌道要素が確定した後になっても名前が命名されておらず、そうした衛星を呼んだり表記したりする際にはローマ数字の確定番号が用いられる。このような、命名されていないものの確定番号が与えられた最初の衛星は、Jupiter LI である[3][48]

土星の衛星のうちエーギル (Saturn XXXVI) からスルト (Saturn XLVIII) までの13個の命名された衛星は、名前のアルファベット順に確定番号が与えられている[3][49]

仮符号

衛星が発見されると、S/2010 J 2S/2003 S 1 という仮符号が与えられる。これはそれぞれ、2010年に発見された木星の2番目の新しい衛星、2003年に発見された土星の1番目の新しい衛星、という意味を持つ。冒頭の "S/" は衛星 (satellite) を意味しており、彗星に使われる "D/"、"C/"、"P/" という接頭辞とは区別される。また天体の周りのの場合は、環 (ring) を表す "R/" が用いられる。これらの仮符号はしばしば、2番目の空白を省略して "S/2010 J2" と表記される。

年数を表す数字の後は、惑星を識別するための文字が来る。木星 (Jupiter) は J、土星 (Saturn) は S、天王星 (Uranus) は U、海王星 (Neptune) は N である。なお火星 (Mars) と水星 (Mercury) は頭文字が被っているため、混同を避けるために水星に対しては Hermes から H を使うこととされている。これは水星の名前のもとになったギリシア神話メルクリウスの、ローマ神話における同等の存在であるヘルメースに由来する。

冥王星 (Pluto) に関しては、2006年に準惑星分類が変更される前は P を用いていたが、惑星から準惑星に変更になった後は小惑星番号が用いられている。例えば2005年に発見されたヒドラニクスの仮符号は S/2005 P 1 と S/2005 P 2 であったが[50]、2011年と2012年にそれぞれ発見されたケルベロスステュクスの仮符号は、冥王星の小惑星番号が 134340 であることから、S/2011 (134340) 1 と S/2012 (134340) 1 という仮符号が与えられている[51][52]。ただしニュー・ホライズンズのチームはケルベロス発見時にウェブサイトで S/2011 P 1 と紹介していた[53]。このように、小惑星や準惑星の場合は、主星を識別する部分には括弧の中に小惑星番号を記したものを使う。従って、1993年に小惑星イダ (小惑星番号 243) に衛星が発見された際の仮符号は S/1993 (243) 1 となった[54]。その後確認されてダクティルと命名され、確定番号が与えられた ((243) Ida I Dactyl)[55]

注記: 水星への "H" の割り当ては、USGS Gazetteer of Planetary Nomenclature によるものである。ここは一般にIAUの指針に厳密に従っているためIAUの慣習である可能性が非常に高いが、確認が必要である。

数ヶ月や数年が経ち、新しく発見された衛星の存在が確認されて軌道が計算された際に、恒久的な名称が選ばれ、"S/" を用いた仮符号は置き換えられる。しかし過去には、発見の後驚くほど長い期間に亘って名前が与えられていなかった衛星もいくつか存在する。

年表

ここでは、太陽系の惑星および準惑星への命名の歴史を年表として列挙する。あくまで命名に主眼をおいたものであるため、一覧表は太陽系の衛星の一覧、発見の年表については太陽系の惑星と衛星の発見の年表を参照のこと。

IAU以前の名称

以下の衛星の名前は、1973年にIAUが衛星への命名を管理するようになる前に、非公式のプロセスによって採用されたものである。

IAU以前の名称
日時
命名者
名前 画像 惑星と
確定番号
発見年 参考/注釈
17世紀
1614年
シモン・マリウス
イオ
Jupiter I1610年彼の著作『Mundus Iovialis』の中で命名。名前はヨハネス・ケプラーの助言を受けて提案したもの[56][57]
エウロパ
Jupiter II
ガニメデ
Jupiter III
カリスト
Jupiter IV
19世紀
1847年
ジョン・ハーシェル
ミマス
Saturn I1789年ハーシェルは既知の7つの衛星に対して、『Results of Astronomical Observations made at the Cape of Good Hope』の中で命名した。これらの衛星への命名はウィリアム・ラッセルによって論文で報告されている[58]
エンケラドゥス
Saturn II
テティス
Saturn III1684年
ディオネ
Saturn IV
レア
Saturn V1672年
タイタン
Saturn VI1655年
イアペトゥス
Saturn VIII1671年
1848年
ウィリアム・ラッセル
ヒペリオン
Saturn VII1847年ラッセルはジョン・ハーシェルの命名法を踏襲して名称を論文中で与えた[59]
1852年
ジョン・ハーシェル
アリエル
Uranus I1851年ハーシェルはウィリアム・ラッセルの依頼を受け1852年5月26日に4つの衛星に命名した。ラッセルはそれらの名前を記した論文を同年6月21日に出版している[60]
ウンブリエル
Uranus II
チタニア
Uranus III1787年
オベロン
Uranus IV
1878年
アサフ・ホール
フォボス
Mars I1877年ホールは当初 PhobusDeimus という綴りで命名していたが[61]、後に PhobosDeimos に変更された。
ダイモス
Mars II
1880年
カミーユ・フラマリオン
トリトン
Neptune I1846年フラマリオンは彼の1880年の著書『Astronomie populairep. 591 で名前を提案したが、その後長い間非公式なものとして扱われた。
1893年
カミーユ・フラマリオン
アマルテア
Jupiter V1892年フラマリオンは発見者のエドワード・エマーソン・バーナードとの手紙の中でアマルテアという名称を提案した[62]。しかしバーナードはいかなる名前の提案も拒否し[63]、1975年にIAUが採用するまでは非公式な名前であった。フラマリオンの他にも多数の名称提案があった[63]
1899年4月
ウィリアム・ヘンリー・ピッカリング
フェーベ
Saturn IX1899年発見し名称を提案したのはウィリアム・ヘンリー・ピッカリングだが、発見や名称について論文で報告したのは兄のエドワード・ピッカリングである[64]
20世紀
1939年4月セス・B・ニコルソンは新衛星の発見報告論文中で、彼が発見した木星の衛星への命名を辞退している[63]。ニコルソンは、バーナードが木星の明るいガリレオ衛星の固有名が滅多に使われていないのを理由にアマルテアは単に番号で "Fifth Satellite" (第5衛星) とだけ呼ばれるべきだと考えていたのを挙げ、今後発見されるであろう新衛星の名前を予測するのが簡単であるとして番号だけで呼ぶのを好んだ[63]
1949年6月
ジェラルド・カイパー
ミランダ
Uranus V1948年カイパーはミランダという名前を発見報告論文の『The Fifth Satellite of Uranus』の中で提案した[65]
1949年8月
ジェラルド・カイパー
ネレイド
Neptune II1949年カイパーはネレイドという名前を発見報告論文の『The second satellite of Neptune』の中で提案した[37]
1967年2月1日
オドゥワン・ドルフュス
ヤヌス
Saturn X1966年発見者のドルフュスは、発見後の追加観測のIAUへの報告の際にこの名前を提案した[66]

IAU以後の名称

以下の衛星の名前は、IAUによる公式の命名プロセスを経て命名されたものである。ごく少数例でのみ、名前を選んだ人が識別される。

20世紀

IAUによる名称 - 20世紀
日時 名前 画像 惑星と
確定番号
発見年 参考/注釈
1975年
10月7日
ヒマリアJupiter VI1904年IAUC 2846: Satellites of Jupiter
アマルテアの名前も同時に承認された。
エララJupiter VII1905年
パシファエJupiter VIII1908年
シノーペJupiter IX1914年
リシテアJupiter X1938年
カルメJupiter XI
アナンケJupiter XII1951年
レダJupiter XIII1974年
1982年エピメテウスSaturn XI1980年IAUC 3872: Sats OF JUPITER AND SATURN
ヤヌスの名称も同時に承認された。
テレスト
Saturn XIII
カリプソ
Saturn XIV
1983年
9月30日
テーベ
Jupiter XIV1979年IAUC 3872: Satellites of Jupiter and Saturn
アドラステア
Jupiter XV
メティス
Jupiter XVI
1983年
9月30日
アトラス
Saturn XV1980年IAUC 3872: Satellites of Jupiter and Saturn
1986年
1月3日
プロメテウス
Saturn XVIIAUC 4157: Satellites of Saturn and Pluto
パンドラ
Saturn XVII
1986年
1月3日
カロン
Pluto I1978年IAUC 4157: Satellites of Saturn and Pluto
発見者のジェームズ・クリスティーが発見直後の1978年にカロンと命名したが、1986年にIAUに承認されるまでは非公式の名前であった。
1988年
6月8日
ヘレネ
Saturn XII1980年IAUC 4609: Satellites of Saturn and Uranus
1988年
6月8日
コーディリアUranus VI1986年IAUC 4609: Satellites of Saturn and Uranus
オフィーリアUranus VII
ビアンカUranus VIII
クレシダUranus IX
デズデモーナUranus X
ジュリエットUranus XI
ポーシャUranus XII
ロザリンドUranus XIII
ベリンダUranus XIV
パック
Uranus XV1985年
1991年
9月16日
パン
Saturn XVIII1990年IAUC 5347: Satellites of Saturn and Neptune
1991年
9月16日
ナイアドNeptune III1989年IAUC 5347: Satellites of Saturn and Neptune
タラッサNeptune IV
デスピナNeptune V
ガラテアNeptune VI
ラリッサ
Neptune VII
プロテウス
Neptune VIII
1998年
4月30日
キャリバンUranus XVI1997年発見者のブレット・J・グラドマンらが発見報告論文『Discovery of two distant irregular moons of Uranus』の中で名称を提案した[67]。その後IAUがこれらの名前を承認している[68]
シコラクスUranus XVII
2000年
8月21日
プロスペローUranus XVIII1999年IAUC 7479: Satellites of Uranus
セティボスUranus XIX
ステファノーUranus XX

21世紀

便宜上、確定番号が与えられたものの、命名されていない衛星も含む。

IAUによる名称 - 21世紀
日時 名前 画像 惑星と
確定番号
発見年 参考/注釈
2002年
10月22日
カリロエJupiter XVII1999年IAUC 7998: Satellites of Jupiter
テミストJupiter XVIII2000年
メガクリテJupiter XIX2001年命名時の IAUC 7998 では Magaclite とされていたが、2002年11月29日の IAUC 8023: Satellites of JupiterMegaclite に修正された。
タイゲテJupiter XXIAUC 7998: Satellites of Jupiter
カルデネJupiter XXI
ハルパリケJupiter XXII2000年
カリュケJupiter XXIII2001年
イオカステJupiter XXIV
エリノメJupiter XXV
イソノエJupiter XXVI
プラクシディケJupiter XXVII
2003年
8月8日
アウトノエJupiter XXVIII2002年IAUC 8177: Satellites of Jupiter, Saturn, Uranus
スィオネJupiter XXIX
ヘルミッペJupiter XXX
アイトネJupiter XXXI
エウリドメJupiter XXXII
エウアンテJupiter XXXIII
エウポリエJupiter XXXIV
オーソシエJupiter XXXV
スポンデJupiter XXXVI
カレJupiter XXXVII
パシテーJupiter XXXVIII
2003年
8月8日
ユミルSaturn XIX2000年IAUC 8177: Satellites of Jupiter, Saturn, Uranus
パーリアクSaturn XX
タルボスSaturn XXI
イジラクSaturn XXII
スットゥングルSaturn XXIII当初 IAUC 8177 では Suttung と命名されたが、2005年1月21日に IAUC 8471: Satellites of SaturnSuttungr に変更された。
キビウクSaturn XXIVIAUC 8177: Satellites of Jupiter, Saturn, Uranus
ムンディルファリSaturn XXV
アルビオリックスSaturn XXVI
スカジSaturn XXVII当初 IAUC 8177 では Skadi と命名されたが、2005年1月21日に IAUC 8471: Satellites of SaturnSkathi に変更された。
エリアポSaturn XXVIII当初 IAUC 8177 では Erriapo と命名されたが、2007年12月14日に Erriapus に変更された[69]
シャルナクSaturn XXIXIAUC 8177: Satellites of Jupiter, Saturn, Uranus
スリュムルSaturn XXX当初 IAUC 8177 では Thrym と命名されたが、2005年1月21日に IAUC 8471: Satellites of SaturnThrymr に変更された。
2003年
8月8日
トリンキュローUranus XXI2002年IAUC 8177: Satellites of Jupiter, Saturn, Uranus
2005年
1月21日
ナルビSaturn XXXI2003年IAUC 8471: Satellites of Saturn
メトネSaturn XXXII2004年
パレネ
Saturn XXXIII
ポリデウケス
Saturn XXXIV
2005年
3月30日
ヘゲモネJupiter XXXIX2003年IAUC 8502: Satellites of Jupiter
ムネメJupiter XL
アオエデJupiter XLI
テルクシノエJupiter XLII2004年
アルケJupiter XLIII2002年
カリコレJupiter XLIV2003年
ヘリケJupiter XLV
カルポJupiter XLVI
エウケラデJupiter XLVII
キレーネJupiter XLVIII
2005年
12月29日
フランシスコUranus XXII2006年IAUC 8648: Satellites of Uranus
マーガレットUranus XXIII
ファーディナンドUranus XXIV
ペルディータUranus XXV
マブUranus XXVI
キューピッドUranus XXVII
2006年
6月21日
ニクスPluto II2005年IAUC 8723: Satellites of Pluto
ヒドラ
Pluto III
2006年
7月17日
ダフニス
Saturn XXXV2005年IAUC 8730: Saturn XXXV (Daphnis) = S/2005 S 1
2006年
9月13日
ディスノミアEris I2005年IAUC 8747: (134340) Pluto, (136199) Eris, and (136199) Eris I (Dysnomia)
2007年
2月3日
ハリメデNeptune IX2002年IAUC 8802: Satellites of Neptune
プサマテNeptune X2003年
サオNeptune XI2002年
ラオメデイアNeptune XII
ネソNeptune XIII
2007年
4月5日
コレJupiter XLIX2003年IAUC 8826: Satellites of Jupiter and Saturn
2007年
4月5日
エーギルSaturn XXXVI2004年IAUC 8826: Satellites of Jupiter and Saturn
ベブヒオンSaturn XXXVII
ベルゲルミルSaturn XXXVIII
ベストラSaturn XXXIX
ファールバウティSaturn XL
フェンリルSaturn XLI
フォルニョートSaturn XLII
ハティSaturn XLIII
ヒュロッキンSaturn XLIV当初 IAUC 8826 では Hyrokkin としていたが、2007年7月31日に IAUC 8860: Saturn XLIV (Hyrrokkin)Hyrrokkin に修正された。
カーリSaturn XLV2006年IAUC 8826: Satellites of Jupiter and Saturn
ロゲSaturn XLVI
スコルSaturn XLVII
スルトSaturn XLVIII
2007年
9月20日
アンテSaturn XLIX2007年IAUC 8873: Satellites of Saturn
ヤルンサクサSaturn L2006年
グレイプSaturn LI
タルクェクSaturn LII2007年
2008年
9月17日
ヒイアカHaumea I2005年IAU0807 プレスリリース[70]
ナマカHaumea II2005年
2009年
5月5日
アイガイオンSaturn LIII2009年IAUC 9041: New name/designation of satellite of Saturn (LIII), S/2008 S 1 (登録者限定)
2009年
11月11日
ヘルセJupiter L2003年IAUC 9094: Designation and name assigned to S/2003 J 17 (the 50th satellite of Jupiter to be so designated and named): Jupiter L (Herse) (登録者限定)
2013年
7月2日
ケルベロス
Pluto IV2011年IAU1303 プレスリリース[71]
ステュクス
Pluto V2012年
2015年3月7日(未命名)Jupiter LI2010年CBET (Central Bureau Electronic Telegram) 4075: 20150307: Satellites of Jupiter, March 7, 2015 (登録者限定)
Jupiter LII2010年
ディアJupiter LIII2000年
2017年
6月9日
(未命名)Jupiter LIV2016年MPC 105280: Numbering of Natural Satellites
Jupiter LV2003年
Jupiter LVI2011年
Jupiter LIX2017年
2018年
9月25日
Jupiter LXI2003年MPC 111804: Numbering of Natural Satellites

Name Approved for Jovian Satellite: Valetudo[72]

バレトゥードーJupiter LXII2016年
(未命名)Jupiter LXIII2017年
Jupiter LXIV2017年
Jupiter LXVI2017年
Jupiter LXVII2017年
Jupiter LXVIII2017年
Jupiter LXIX2017年
Jupiter LXX2017年
Jupiter LXXII2011年
2019年
2月20日
ヒッポカンプNeptune XIV2013年確定番号は MPC 111804 で2018年9月25日に付与
[73][74][75]
2019年
8月19日
PandiaJupiter LXV2017年確定番号は MPC 111804 で2018年9月25日に付与
ErsaJupiter LXXI2018年
EireneJupiter LVII2003年確定番号は MPC 105280 で2017年6月9日に付与
PhilophrosyneJupiter LVIII
EuphemeJupiter LX確定番号は MPC 106505 で2017年10月5日に付与

脚注

関連項目

外部リンク

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