辞書式選好
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辞書式選好(じしょしきせんこう、英: Lexicographic preferences)またはレキシコグラフィック選好は、ある財(X)を他の財(Y)よりも常に優先して評価する比較選好を表す。具体的には、複数の財バンドルが提示されたとき、エージェントはまず X の数量が最大のバンドルを選び、X の数量が同じ場合にのみ Y の数量を比較する。辞書式選好は、非標準的な無限小が実数を拡張するのと類比的に、効用理論を拡張する。このとき、ある財の効用は他の財に比べて無限小となる。
レキシコグラフィー(Lexicography)は辞書編纂を指し、辞書がアルファベット順で整理されること──まず第一文字に「無限の注意」を払い、同点の場合のみ第二文字を見る──を想起させるために用いられる。
例
バンドルを (X; Y; Z) とし、選好の規則が X ≫ Y ≫ Z で与えられているとする。このとき、バンドル集合 (5;3;3), (5;1;6), (3;5;3) は次の順に好まれる(左から高順位)。
- 5;3;3
- 5;1;6
- 3;5;3
- (1) は (2) より総量は少ないが、X が同数で Y が多いため好まれる。
- (1) と (3) は総量が同じでも、X が多い (1) が好まれる。
- (3) は (2) より Y が多くても、X が少ないため (2) が好まれる。
不連続性
辞書式選好は連続関係ではない。たとえば、減少する収束列 に対して となる一方、極限の は より小さい。
効用関数による表現
この種の選好の特徴は、複数財の実数値定義域から実数値値域への写像としての(連続か否かを問わない)通常の効用関数による表現が存在しないことである。すなわち、辞書式選好は実数値効用関数では表現できない古典的な例である[1]。
証明の概略:背理法で、2財の場合にこの選好を表す効用関数 が存在すると仮定する。このとき任意の について が必要であり、区間 は幅が正である。さらに なら でなければならないので、すべての に対するこれらの区間は互いに交わらない必要がある。しかしこれは非可算な の集合では不可能である。
財の種類が有限で、数量が有理数に制限される場合には、十分大きい に対し を無限小の大きさとみなすことで(非標準数の近似として)効用関数を構成できる。また、非標準実数を値にとる効用を許せば、Y や Z の効用は X に比べて無限小、Z は Y に比べて無限小として表現できる。
辞書式選好と一般均衡
全ての経済主体が同一の辞書式選好を持つ場合、劣位の財の価格が 0 より大きい限り主体はそれを売買しないため、標準的な価格体系では一般均衡は存在しない。「売らない」から「均衡が存在しない」への論理の補足と出典が必要。しかし劣位の財に無限小価格を許せば均衡を達成できる。
次のような場合には、辞書式選好が存在しても一般均衡の分析が可能である。
- 人によって辞書式の優先順位(財の順序)が異なる。
- 一部の主体のみが辞書式選好を持つ。
- 辞書式の優先が一定数量までに限られる。
交換経済の均衡価格は、効用と価格の値域を非標準実数に拡張し、標準の均衡手法を用いて決定できる。非標準実数は保存拡大を成すため、実数で成り立つ定理は非標準実数にも拡張されて成り立つ。