ヒックス需要関数
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ヒックス需要関数(ヒックスじゅようかんすう、英: Hicksian demand function)とは、消費者が一定の効用水準を維持しながら、支出最小化問題の下で必要となる財の需要量を表すものである。補償需要関数とも呼ばれる。
ヒックス需要関数は、消費者の効用が不変に保たれるように(すなわち同じ無差別曲線上にとどまるように)、価格変化に応じて消費者がどのように需要を調整するかを示す。すなわち、消費者の効用が変化しないように所得が調整(補償)されることを前提に、相対価格変化の影響のみを捉える[1]。
ここでは、価格ベクトルと効用水準の下でのヒックス需要関数(あるいは財の需要バンドル)を表す。は価格ベクトル、は需要量ベクトルであり、は全財に対する総支出を意味する。
ヒックス需要関数は、効用を一定に保ったまま相対価格の効果を分離するものである。これは、価格変化に伴う代替効果と実質所得の変化による所得効果の両方を含むマーシャル需要関数と対照的である。この関数はジョン・ヒックスにちなむ。
ヒックス需要関数は、所得や資産を明示的に導入する必要がないため、数理的な操作に便利である。さらに、最小化する目的関数はに線形であるため、最適化問題が単純化される。一方、マーシャル需要関数 は、価格と所得に依存するが、現実には直接観察しやすい。両者は次の関係式で結ばれている。
ここでは、所与の効用水準を達成するために必要な最小支出額を与える支出関数である。また、
ここでは、所与の価格下で与えられた所得のもとで得られる効用水準を与える間接効用関数である。これらの関数の導関数は、スルツキー方程式によってより根本的に関連している。
マーシャル需要が効用最大化問題から導かれるのに対し、ヒックス需要は支出最小化問題から導かれる。両者は双対関係にあり、この双対性定理によって上記の関係が証明される。さらに、もし効用関数が局所非飽和かつ厳密に凸であれば、シェパードの補題によりが成り立つ。ただし、ある効用水準に対して最小支出を与える数量ベクトルが複数存在する場合、ヒックス需要は関数ではなく対応となる。
ヒックス需要と補償された価格変化
マーシャル需要曲線は、価格変化が需要量に与える効果を示す。価格が上昇すると通常は需要量が減少するが、必ずしもそうとは限らない。価格上昇は代替効果と所得効果をもたらす。
- 代替効果は、予算制約の傾きを変化させることによる需要量の変化であり、同じ無差別曲線上にとどまる。代替効果は常にその財の需要を減らす方向に働く。
- 所得効果は、価格変化が消費者の購買力に与える影響による需要量の変化である。名目所得が一定に保たれるため、価格上昇は実質所得を減少させる。財が正常財であれば所得効果は代替効果を強め、劣等財であれば代替効果をある程度相殺する。ギッフェン財の場合、所得効果が代替効果を上回り、価格上昇にもかかわらず需要量が増加する。
ヒックス需要関数は、価格上昇後に消費者に補償として追加所得を与え、同じ無差別曲線上のバンドルが選択できるようにすることで、代替効果のみを分離する[2]。ヒックス需要曲線がマーシャル需要よりも急であれば、その財は正常財であり、そうでなければ劣等財である。ヒックス需要は常に右下がりの曲線となる。