氷雨 (松本清張)
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冷たい雨の降る夜、渋谷の割烹料理屋「ささ雪」は客足が乏しく、女中たちは馴染みの客に電話をかけて店に呼ぶ。加代は、得意客に電話するも不在、もつれられてきそうで加代にとって気の重い川崎に、やむなく電話をかけるが、川崎は意外にも「初枝は来ているかい?」と云う。初枝は、二か月前に初めて店に入った最年少の若い女中だが、新参の割に腰が重く、妙になれなれしいところがあり、見ていて不愉快であった。
来店した川崎の、加代に対する口吻に、これまでになかった冷たさを感じ、初枝を残し他の得意筋に顔を出したのち、川崎の座敷に戻った加代は、留守にした四十分間、初枝との間の、ただならぬ空気の形跡が残っているのを感じる。
座敷の扱いがうまいとか客を沸かせるとかいう技術の自負だけが、加代らベテラン女中の支えであるが、近ごろの客は、そんなことよりも、やはり「若い」ほうがいいのだ。川崎が惜しいからではない、初枝なんかに負けるものか、一人でも自分の客をのがしてはならぬという焦燥が加代に起ってきた。