渡された場面
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| 渡された場面 | |
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小説中の「坊城町」のモデルとなる呼子港 | |
| 作者 | 松本清張 |
| 国 |
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| 言語 | 日本語 |
| ジャンル | 長編小説 |
| シリーズ | 「禁忌の連歌」第1話 |
| 発表形態 | 雑誌連載 |
| 初出情報 | |
| 初出 | 『週刊新潮』 1976年1月1日 - 7月15日 |
| 出版元 | 新潮社 |
| 刊本情報 | |
| 刊行 | 『渡された場面』 |
| 出版元 | 新潮社 |
| 出版年月日 | 1976年11月10日 |
| 装画 | 清塚紀子 |
『渡された場面』(わたされたばめん)は、松本清張の長編推理小説。「禁忌の連歌」第1話として『週刊新潮』に連載され(1976年1月1日号 - 1976年7月15日号)、1976年11月に新潮社から刊行された。並行する二つの場面の、一つの筋への繋がりを描くミステリー長編。
これまでに3度テレビドラマ化されている。
佐賀県の玄界灘に面した漁港の大旅館・千鳥旅館に、二月中旬から、作家の小寺康司が滞在していた。係女中の真野信子は、小寺の不在中に、好奇心にひかれて未完の原稿を読み、書き写した。恋人の下坂一夫の役に立てばとの思いからであったが、下坂は小寺の文章を陳腐・古臭いとして嗤った。
秋がきた頃、四国の県警捜査一課長・香春銀作は、好きで時々文芸雑誌を拾い読みしていたが、ある時、下坂一夫という人物の新作小説「野草」が、『文芸界』の同人雑誌評で取り上げられているのを目にする。読み終えて、去年の十月に発生し起訴になっている未亡人・山根スエ子殺害事件の実況見分調書の一部と、引用掲載された下坂の文章の一部がそっくりであるのに気づく。
山根スエ子殺害事件の容疑者・鈴木延次郎は取調べで、現金強奪および暴行について認めたものの、殺害については否定していた。下坂の文章には、鈴木延次郎の自供のなかの腑に落ちない点を説明する重大な鍵が出ていると思う香春は、下坂が作品創作のために、山根スエ子殺害事件の現場付近に行ったことがあると考え、県警の越智達雄と門野順三を九州へ出張させる。
しかし、今では景子と結婚し博多に移り住んでいた下坂は、あれは体験ではなくフィクションと答えた。山根スエ子殺害事件の前後、当時唐津の家を下坂が一晩も空けていなかったことは確実で、編集会議に出ていた古賀吾市も同様であった。空想が、実際の風景と偶然に暗合するということがあり得るだろうか。東京ほかの地から職業作家が去年の十月に来て泊まっていないか調べる中で、小寺康司が事件現場の市内に滞在していたことを突き止めた香春は、下坂が小寺の文章を借用したものであると判断する。
下坂は、作品が権威ある文学雑誌にとりあげられたというので、地元でにわかに「著名人」に押し上げられていた。他人の文章を借用したと告白するのは、文学好きの連中にかつぎあげられているおみこしから転落するのを意味する。下坂を訊問しても徒労であると思った香春は、越智と門野を小寺の滞在した千鳥旅館に向かわせる。
主な登場人物
- 原作における設定を記述。
- 香春銀作(かわらぎんさく)
- 四国の瀬戸内海に面した県の県警捜査一課長。文学好きで、県警部内の同人雑誌に小説を投稿している。
- 下坂一夫(しもさかかずお)
- 唐津市の下坂陶器店の次男で、同人雑誌『海峡文学』に作品を発表する。抽象的な文学理論を云い、非文学的なものを軽蔑している。29歳。
- 真野信子(まののぶこ)
- 千鳥旅館の女中で、下坂の恋人。小説を読むのが好きで、林芙美子にひかれている。多久市の出身。24歳。
- 小寺康司(こでらこうじ)
- 中堅どころとして期待の声もあがっている小説家。千鳥旅館に滞在している。
- 古賀吾市(こがごいち)
- 『海峡文学』同人。坊城町で漁船員として働く傍ら小説を書く。
- 景子(けいこ)
- 博多のバーの女。東京出身。下坂の子を身篭る。
- 越智達雄(おちたつお)
- 四国の県警捜査一課警部補。香春捜査一課長の部下で、未亡人強盗強姦殺人事件の訊問者。
- 門野順三(かどのじゅんぞう)
- 四国の芝田警察署巡査部長。
- 山根スエ子(やまねすえこ)
- 四国の芝田市戸倉で発生した未亡人強盗強姦殺人事件の被害者。
- 鈴木延次郎(すずきえんじろう)
- ××工業芝田工場の工員で、未亡人強盗強姦殺人事件の容疑者。
- 末田三郎(すえださぶろう)
- 芝田市の建設会社の事務員。独身者。芝犬を飼っている。
- 益田サク(ますださく)
- 鹿児島本線城山トンネル付近から山中に入った場所にある菅原集落の寡婦。芝犬「タロ」を飼っている。
エピソード
- 著者は「林芙美子を志す女」として、本作の手控えのメモを以下のように記している。「作家志望の旅館の女中。佐賀県の呼子町。そこへ東京から作家が来て泊るが、彼は毎日出歩いて遊んでいる。その留守に女中は、作家が机上に置いた原稿をぬすみ読みする。女中はその原稿の一部を自分の作品の中に書き、雑誌の懸賞小説に応募して入選する。その箇所が特異な描写。犯罪事件に関係あり。作家はそれを経験していた」「発表作品では、女中が作家志望の恋人にその原稿の反古を見せることに変えた」と記している[1]。
- 佐野洋は「『渡された場面』に出てくる証人の供述で足音がピタピタ聞こえる場面[注釈 1]は、松山事件で冤罪を着せられた斎藤幸夫さんの上申書と同じ」と述べ、著者が同事件の調書を入手し読んでいたと推測している[2]。
- 評論家の川本三郎は、本作について「『点と線』の面白さに匹敵する」と評した上で、「多久の鉱山が閉山し、町がさびれてしまったために、坊城(呼子)に働きに出てきた。信子の背景に、石炭から石油への時代の変化(それはとりわけ石炭で栄えた北九州で顕著だった)が見てとれる」「刑事の「香春」という名前にも注意したい。北九州に香春という町がある」「刑事の名前にも、炭鉱の時代がすけて見える」と述べている[3]。
- 中国本土において、本作を原作と銘打ったテレビドラマ「錯位(zh:错位 (网络剧))」が2023年に制作され[4]、2024年7月11日から7月20日にかけて、iQIYIで全15回のテレビドラマとして配信された[5]。刑事が作家の新作の内容が事件の詳細と非常に類似していることを発見したことで事件の捜査が進展するモチーフが使用され、無名だったものの最新作が評判となった作家を佟大為が演じた。