日本の世界遺産

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日本世界遺産(にっぽんのせかいいさん、にほんのせかいいさん)はユネスコに26件登録されており、文化遺産が21件、自然遺産が5件である。

画像ID登録名登録年所在地登録基準備考
660法隆寺地域の仏教建造物1993年奈良県(1), (2), (4), (6)
661姫路城1993年兵庫県(1), (4)
688古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市)1994年京都府
滋賀県
(2), (4)
734白川郷・五箇山の合掌造り集落1995年岐阜県
富山県
(4), (5)
775原爆ドーム1996年広島県(6)負の世界遺産と言われることもある。
776厳島神社1996年広島県(1), (2), (4), (6)
870古都奈良の文化財1998年奈良県(2), (3), (4), (6)
913日光の社寺1999年栃木県(1), (4), (6)
972琉球王国のグスク及び関連遺産群2000年沖縄県(2), (3), (6)
1142紀伊山地の霊場と参詣道2004年和歌山県
奈良県
三重県
(2), (3), (4), (6)文化的景観
2016年に軽微な変更
1246石見銀山遺跡とその文化的景観2007年島根県(2), (3), (5)文化的景観
産業遺産
2010年に軽微な変更
1277平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―2011年岩手県(2), (6)
1418富士山―信仰の対象と芸術の源泉2013年静岡県
山梨県
(3), (6)
1449富岡製糸場と絹産業遺産群2014年群馬県(2), (4)産業遺産
近代化遺産
1484明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業2015年山口県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
鹿児島県
岩手県
静岡県
(2), (4)産業遺産
近代化遺産
稼働遺産
1321ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-2016年東京都(1), (2), (6)現代建築
国境を越える世界遺産
1535「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群2017年福岡県(2), (3)
1495長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産2018年長崎県
熊本県
(3)
1593百舌鳥・古市古墳群 -古代日本の墳墓群-2019年大阪府(3), (4)
1632北海道・北東北の縄文遺跡群2021年北海道
青森県
岩手県
秋田県
(3), (5)
1698佐渡島さどの金山2024年新潟県(4)産業遺産

自然遺産

画像ID登録名登録年所在地登録基準保護管理
662屋久島1993年鹿児島県(7), (9)屋久島国立公園
屋久島原生自然環境保全地域
663白神山地1993年青森県
秋田県
(9)白神山地自然環境保全地域
1193知床2005年北海道(9), (10)知床国立公園
遠音別岳原生自然環境保全地域
1362小笠原諸島2011年東京都(9)小笠原国立公園
南硫黄島原生自然環境保全地域
1574奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島2021年鹿児島県
沖縄県
(10)生物多様性保全地域
奄美群島国立公園
やんばる国立公園
西表石垣国立公園
自然環境保全地域崎山湾網取湾

複合遺産

まだ、日本には自然遺産かつ文化遺産の特徴を持つ遺産は存在していない。

危機遺産

なし

地域別

現在、47都道府県中28都道府県(北海道青森県岩手県秋田県栃木県群馬県東京都新潟県富山県山梨県岐阜県静岡県三重県滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県和歌山県島根県広島県山口県福岡県佐賀県長崎県熊本県鹿児島県沖縄県)に世界遺産がある。

分布図

日本の世界遺産位置図(2024年7月時点)

北海道

東北地方

関東地方

中部地方

近畿地方

中国地方

四国地方

なし

九州・沖縄地方

暫定リスト掲載物件

日本政府は、登録の前提となる暫定リストに文化遺産4件をリファレンスナンバー(Ref No.[注 2])順に掲載している[3]。英語名は世界遺産センターの暫定リスト[3]、日本語名は文化遺産については文化遺産オンライン[2]による。

文化遺産の候補

画像日本語名
(リスト記載名・英語)
記載年月
Ref No.
備考
古都鎌倉の神社・寺院ほか1992年10月
Ref No.370
武家の古都・鎌倉」として2012年に推薦されたが、翌年、第37回世界遺産委員会での審議前に「不登録」勧告が出されたため推薦を取り下げた。勧告内容を是正するためのコンセプト修正には相当な時間を要するため、2019年11月に神奈川県と鎌倉市・横浜市・逗子市が文化庁に提出する推薦書(原案)の作成活動を同年度限りで休止すると発表した。規模は縮小するが基礎研究と文化財調査および整備事業は継続され、世界遺産登録は諦めない方針も明らかにされた[4]
Temples, Shrines and other structures of Ancient Kamakura
彦根城1992年10月
Ref No.374
姫路城や法隆寺とともに日本で最初の暫定リスト掲載物件となって以来、四半世紀以上を経て、2020年3月30日に初めて推薦書原案を文化庁に提出したが[5]新型コロナウイルス感染症の流行の影響で候補地の選定が行われないことになり[6]2021年2022年と相次いで推薦書原案を提出したが[7][8]、2023年審査予定だった佐渡島の金山が書類不備のため1年順延となったため2024年審査候補の選定は行われないこととなった[9]2023年7月4日に文化審議会が彦根城の扱いについて同年から運用が始まった事前評価制度を利用する方針を示し、9月5日に推薦書を提出[10]。2024年10月9日、事前評価制度の結果が公表され、一定の評価は得られたが、単独ではなく類似する国宝木造天守と連携するシリアルノミネーションが望ましいとの指摘もあった[11]。引き続き単独推薦で2026年の推薦を目指すとしたが、2025年8月26日に文化審議会が説明が不十分であるとして推薦を見送った[12]
Hikone-Jo(castle)
飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群2007年1月
Ref No.5097
2022年の登録審査を目指し2020年3月30日に初めて推薦書原案を文化庁に提出したが[13]、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で候補地の選定が行われないことになり、2021年・2022年と相次いで推薦書原案を提出したが[14][15]、2023年審査予定だった佐渡島の金山が書類不備のため1年順延となったため2024年審査候補の選定は行われないこととなった[9]。2023年7月4日、文化審議会は追加の法的保護体制強化やなどを理由に2023年の推薦は行わず、2024年に推薦し2026年の登録を目指すとした[16]
Asuka-Fujiwara: Archaeological sites of Japan’s Ancient Capitals and Related Properties
平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―(拡張)2012年9月
Ref No.5760
2008年の「登録延期」決議で除外された柳之御所遺跡達谷窟白鳥舘遺跡長者ヶ原廃寺跡骨寺村荘園遺跡一関本寺の農村景観)の拡大登録を目指してきたが、現時点で「仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」を証明できるのは柳之御所遺跡だけとし、発掘調査で得られた知見も含めた提案をまとめたが、文化審議会は柳之御所の居館あるいは政庁である性格付けを明らかにすることや中尊寺との一体性の主張のより具体的な説明を求めた[17]
Hiraizumi - Temples, Gardens and Archaeological Sites Representing the Buddhist Pure Land(extension)

自然遺産の候補

なし

複合遺産の候補

なし

暫定リストへの過去の提案

文化遺産推薦に向けた公募

文化庁は2006年と2007年に文化遺産候補を全国から公募した。その中には「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」、「「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群」、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」のように、すでに世界遺産に登録されているものもあり、「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」のように暫定リストに記載済みのものもある。また、「萩-日本の近世社会を切り拓いた城下町の顕著な都市遺産」は「萩城下町」として「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」に組み込まれて世界遺産に登録されている。その一方で、暫定リスト入りを果たしていない提案も以下のように多く残っている(カッコ内の年は最初に提案された年)[18][19]。以下の提案は文化審議会によって評価や課題が示されている[20]

なお、「飛騨高山の町並みと祭礼の場-伝統的な町並みと屋台祭礼の文化的景観-」の無形文化財の要素については、無形文化遺産山・鉾・屋台行事」の構成資産となった。また、ユネスコの遺産事業とは異なるが、日本遺産に組み込まれた例に四国霊場や足利学校および「水戸藩の学問・教育遺産群」と「近世岡山の文化・土木遺産群」の構成資産候補から弘道館閑谷学校の指定があり[注 3]、阿蘇は世界ジオパークおよび世界農業遺産、宇佐・国東は世界農業遺産、松島は世界で最も美しい湾クラブに登録されるなど、異なる枠組みで評価されている要素を含む物件もある。

自然遺産推薦に向けた選定

自然遺産の候補については、2003年に環境省林野庁が主催する「世界自然遺産候補地に関する検討会」でリストアップと検証が行われ、その中から、有力候補として知床小笠原諸島奄美・琉球が選定された[22][注 6]。その過程で漏れた候補は以下の通りである(「比較対象」は、審議の際に、候補地よりも優越するとして挙げられた他国の世界遺産などであり、選定された3件のみが他国の世界遺産よりも優越する可能性を指摘された)[23]

なお、2013年に環境省が検討会にリストアップした候補地(自然遺産に登録された物件を除く)に対し、その後の活動状況や現在も世界遺産を目指す意思があるのかなどの意識調査を実施している[24]

名称所在地分野比較対象国際的要素
利尻・礼文・サロベツ原野北海道混交林(日本・満州)カムチャツカの火山群サロベツ原野ラムサール条約登録地。
大雪山北海道混交林(日本・満州)カムチャツカの火山群
トンガリロ国立公園
シホテアリニ山脈中央部
阿寒・屈斜路・摩周北海道混交林(日本・満州)イエローストーン国立公園
ンゴロンゴロ保全地域
阿寒湖はラムサール条約登録地。
日高山脈北海道混交林(日本・満州)シホテアリニ山脈中央部
早池峰山東北地方
岩手県
夏緑樹林(東アジア)(該当多し)
飯豊朝日連峰東北・中部
山形県・新潟県・福島県
夏緑樹林(東アジア)白神山地
奥利根・奥只見奥日光東北・中部・関東
福島県・栃木県・群馬県・新潟県
夏緑樹林(東アジア)カムチャツカの火山群
白神山地
「尾瀬」「奥日光の湿原」はラムサール条約登録地。「只見」は生物圏保存地域
北アルプス中部地方
新潟県・富山県・長野県・岐阜県
夏緑樹林(東アジア)カナディアン・ロッキー山脈自然公園群
ヨセミテ国立公園
富士山中部地方
静岡県・山梨県
常緑樹林(日本)キリマンジャロ国立公園
ハワイ火山国立公園
グヌン・ムル国立公園
文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」としては世界遺産リストに登録された。
南アルプス中部地方
長野県・山梨県・静岡県
常緑樹林(日本)カナディアン・ロッキー山脈自然公園群「南アルプス」は生物圏保存地域。
祖母山傾山大崩山、九州中央山地と周辺山地九州地方
大分県・宮崎県・熊本県
常緑樹林(日本)ガラホナイ国立公園
マデイラ島の照葉樹林
祖母・傾・大崩」は生物圏保存地域。
阿蘇山九州地方
熊本県
常緑樹林(日本)イエローストーン国立公園
ンゴロンゴロ保全地域
阿蘇ジオパーク」は世界ジオパーク
霧島山九州地方
宮崎県・鹿児島県
常緑樹林(日本)カムチャツカの火山群
ハワイ火山国立公園
伊豆七島関東地方
東京都
常緑樹林(日本)ハワイ火山国立公園
三陸海岸東北地方
岩手県・宮城県
海岸地形グロス・モーン国立公園
ドーセットと東デヴォンの海岸
山陰海岸近畿・中国地方
京都府・兵庫県・鳥取県
海岸地形グロス・モーン国立公園
ジャイアンツ・コーズウェーとコーズウェー海岸
山陰海岸ジオパーク」は世界ジオパーク。

今後の在り方について

ユネスコ・世界遺産委員会・諮問機関の動向と傾向

創設から40年を経過した世界遺産は、一見して解る著名な建築物遺跡自然環境を網羅し、文化遺産では産業遺産自然と人間の共生が見られる文化的景観などに移行しつつあり、諮問機関の国際記念物遺跡会議(ICOMOS)がこれまで行ってきたテーマ研究に基づき「世界遺産グローバル・ストラテジー(世界遺産一覧表における不均衡の是正及び代表性・信頼性の確保のための世界戦略)」を開示、その中で「世界遺産リストにまだ充分に反映されていない分野」として土木遺産・運河文化の道20世紀建築近代都市都市遺産聖なる山岩絵先史時代遺跡・化石人類遺跡などを挙げ[25]、「遺産としての農村景観に関する原則」に基づき地域多様性を反映する一般家屋や集落景観の可能性も示唆[26]

一方、自然遺産に関しては、地形地質学的特性から生物多様性固有種生態系の保護へと移行し、諮問機関の国際自然保護連合(IUCN)が生物多様性条約において生態系保全のため2030年まで国際社会が取り組むべき行動指針として、全世界の陸海域の30%を生物・生態系保護区にするという目標を定め(2010年制定の愛知目標では陸域の17%、海域の10%と設定)、各国の制度下で国立公園や国営保護区を積極的に設けるよう求める方向性を示し、ユネスコとしても世界遺産に登録枠を設けることができないかや公海の世界遺産の可能性も検討することになった[27]

加えてユネスコと世界遺産委員会は、無形の要素と絡めたりストーリー性がある展開や、文化遺産・自然遺産を問わず「システム」という枠組みや流れの中における対象物の存立意義を解説すること、構成資産に含まれなかった関連する場所の顕彰と連携(ヘリテージ・エコシステム)を求めるようになったほか[28]災害等を含めた管理体制と被災時における適正な復旧手法の事前構築、緩衝地帯を含めた景観保護や開発の監視・規制、世界遺産管理のエッセンシャルワーカーとしてのサイトマネージャーの育成、文化遺産維持に必要な文化資材の確保、遺産の価値や意義の周知徹底[注 7]観光公害対策[注 8]、緩衝地帯における文化的空間文化的環境の確保を求めるようになった[29]。また、2012年に開催された「世界遺産条約採択40周年記念-世界遺産と持続可能な開発:地域社会の役割」(京都ビジョン)で世界遺産存続のためコミュニティの存在の重要性が確認され、世界遺産を維持するためには地域コミュニティの持続可能性も必要であるとともに、保存活動への地域社会関与や世界遺産を活かした地域貢献の具体案(遺産の商品化)なども示さなければならない[30]

2021年に開催された第44回世界遺産委員会では、世界遺産保全に気候変動対策を盛り込むことが決定し、新規推薦に際して遺産影響評価(HIA)として被害想定シミュレーションと対策案を盛り込むことが義務付けられた[31]

さらに、国連機関の一員であるユネスコは、国連が推進する持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みから持続可能な開発のための文化を採択し、持続可能な開発を世界遺産にも反映させるべく求めるようになり、今後の世界遺産登録を目指す際には官民一体となった対応が不可欠とされる。SDGs目標11「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」の第4項に「世界の文化遺産および自然遺産の保全・開発制限取り組みを強化する」と明記されており、特に世界遺産候補地周辺での開発は慎重かつ国際ルールに則った適切なもので実施しなければならない。

世界遺産の推薦は2020年から文化遺産・自然遺産を問わず審議対象は一国一件に限られるようになり、全体審議数も35件までとして登録数の少ない国を優先するため推薦物件が多い場合には日本からの推薦が受理されない可能性もあるなど(2024年の第46回世界遺産委員会での新規登録で日本の世界遺産は26件となり保有数で世界11位になった)、一層狭き門となるつつある状況に加え、正式推薦に先立ち「潜在的顕著な普遍的価値(POUV)」などを書面審査する「事前評価」制度を導入することが決まり、推薦書作成に際してさらに手間と時間を要するようになる[32]

新たな暫定リスト追加の可能性

文化遺産

上記のような情勢の変化をうけ、文化遺産分野の諮問機関であるイコモスの国内組織「日本イコモス国内委員会」の岡田保良副委員長(国士舘大教授)は2018年2月8日に宮崎県庁で行われた講演の中で、「政府が選定する国内の推薦候補地について、2019年度までに追加など見直し作業を行う可能性がある」との見解を示し[33]、2020年から文化庁文化審議会世界文化遺産部会が「我が国における今後の世界文化遺産の在り方に係る検討について」のテーマ研究を開始[34]。この過程の中で同部会は「特殊な資産に係る世界遺産一覧表への登録に関する指針」として、文化的景観に加え「歴史的町並みと街区」「運河に係る遺産」「遺産としての道」に優位性があるとした[35]

2021年1月21日に開催した同部会は新たに推薦されるべき候補として、

  • 地震洪水といった防災に係るもの
  • 対象の保護に無形文化遺産が必要不可分に関わっているもの
  • 独自の信仰形態を表すもの
  • 自然の尊重や自然との共生という古来からの精神を体現したもの
  • 自然環境と生活の相互作用が独自の文化的価値を表現しているもの
  • その時代の日本文化を象徴する資産が全国に展開されているもの
  • 戦後の復興を象徴するもの

という指標を示し、文化ナショナリズムが台頭していることをうけ国際軋轢を生まない物件にする配慮も必要とした[28]

さらに同年2月4日の部会では、トランスバウンダリー(国境を超える遺産)での国際協調も重視するとし、ユネスコの求めに沿った複数の都道府県をまたぐシリアル・ノミネーションの増加を指摘。2006年・2007年の「文化遺産推薦に向けた公募」の時のように単体の自治体推挙による公募制は採らないこと(シリアル・ノミネーションの優位性を示唆)や各既登録地の拡張登録を模索すること、文化遺産であっても自然環境地質学的特性が遺産に与える影響などを検証する必要性があるとして自然面での保護根拠にエコパークジオパークを充てる試みなどを決めた[36][注 9]

同年3月30日の最終部会では単独自治体推挙による公募制を採らないとした前回会合の決定をうけ、新候補地の選定方法として、文化審議会と外部有識者による書類審査・現地調査・ヒアリングで、前述の諸条件を満たし証明してるかを検証するとし、こうした条件に対応できる物件・地域(自治体等の地方行政機関)でなければ世界遺産の候補とすることは難しいとした[37]、文化庁幹部は「有力候補を一本釣りする」としている[38]

2023年7月4日の同部会では、2030年代の登録候補となるものの選定を始めるとし、2024年になり部会の下に「今後の我が国の世界文化遺産の候補として暫定一覧表に記載することが適当と考えられれる資産の具体的な検討を行うためのワーキンググループ(WG)」を設置した(以前から設置されていた審議会をサポートするアドバイザリーボードを改組)[39]

文化遺産推薦に向けた公募」に立候補し、その後も登録を目指す活動を継続する自治体に加え、新たに名乗りを上げる自治体も現れ、学術的視点で関係各方面から具体的な提言も出されるようになり、明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業の登録に尽力し内閣官房参与も務めた加藤康子黒部ダム[40]、そして日本イコモス国内委員会委員長・文化審議会世界遺産特別委員会(現 世界文化遺産部会)委員長を務めた西村幸夫と元ユネスコ事務局長の松浦晃一郎らも黒部に加え立山の砂防システムの登録の可能性を公言しており、立山の自然環境を含めれば複合遺産の可能性もあると示唆している[41]。特に西村は今後の日本の世界遺産について、ユネスコが認める保存活用事例(アダプティブユース遺産と創造性)も勘案しつつ、近代化遺産・産業遺産や稼働遺産としての土木構築物、戦後建築に移行せざるをえないのではないかと言及[42][注 10]。文化庁長官を務めた近藤誠一は、「日本は文化多様性条約はまだ批准していないが、世界的に見ても島国の中で育まれた地域多様性があり、文化多様性の視点からさまざまな独自の文化的価値があるものを探し出して推薦する努力が足りていない」とする[43]

この他、特定地域の文化財を推すのではなく、例えば各地の日本庭園茶室などを一つのテーマとするオールジャパン体制のシリアルノミネーションも有効とする[44]

また、日本イコモス国内委員会は2017年に、将来的に世界遺産になる可能性がある日本の20世紀遺産を選定している。

こうした提言に対し、奈良文化財研究所の所長で文化庁職員時代に京都の世界遺産登録を担当した本中眞は、「これまで世界文化遺産は自国の独自の文化を象徴するものである必要性があったが、今の時代の世界遺産に求められるのは“日本を代表する”という名目だけでは足りず、歴史に照らし往時に国際的な協調性開放性文化循環を伴っていたことも重視される」とし[45]、彦根城の登録を支援する読売新聞による講演会で世界遺産を取材してきた同紙編集委員からは「日本人が日本人の感性で彦根城の魅力を力説しても世界(世界遺産)には通じない。世界遺産に求められる国際基準に合致する価値観を示さなけらばならない」「富士山を自然遺産で推薦しようとした際に日本人の美意識に基づく自然美を根拠としたが、それは抽象的で日本人だけの価値観であり世界には通じないとされ、その感性や自然観を信仰や芸術という具象的なもので証明する文化遺産として認められた」と次なる世界遺産候補に必要な要点・視野を示唆[46]、2025年12月7日付の日本経済新聞電子版では「日本の世界遺産は弾切れか」と題し暫定リスト掲載物件が減ったことに関して「日本にはまだ秘めたポテンシャルがあり、新しい価値観に基づく候補選出が望まれる。それを怠ることは文化的自殺行為である」とした[47]

他方、諮問機関のICOMOSが2017年に『CONCERNING RURAL LANDSCAPES AS HERITAGE(遺産としての農村景観に関する原則)』を採択し文化的景観の拡大解釈が図られたり[48]先住民族の文化を取り込む方針を示して2026年の第48回世界遺産委員会では先住民を招聘して意見聴取を行う[49]。これらは世界農業遺産認定地やアイヌ文化の可能性を示唆するものになる。

自然遺産

環境省では環境審議会中央環境審議会)の下に自然環境部会を設け、自然遺産の動向について定期的に懇談会・意見交換会を開催している[50]

日本の世界遺産条約締約作業に携わった筑波大学吉田正人は、上記の「自然遺産推薦に向けた選定」が気候と地形に応じた植生を基にしたものであり[注 11]、近年ユネスコと自然遺産の諮問機関IUCNが重視する生物多様性や固有種生態系の観点からすれば奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島をもって打ち止めの感はあるが、登録基準ⅷが示す「地球の歴史」については第1に地質分野として生物圏が評価された小笠原諸島の中から火山噴火に伴い「無の状態からの新しい生態系構築が観察できる場所」[注 12]として西之島だけ分離独立させることの現実性[注 13]、第2に太平洋プレート北米プレートユーラシアプレートフィリピン海プレートの4つが衝突する上に形成された弧状列島の特異さと地震や火山にみられる現在進行形の地質活動が物語るダイナミックな地球の胎動を表現すること、また第3に公海の世界遺産への注目を受けた海底域からの世界遺産推薦の可能性を挙げ、日本海溝伊豆・小笠原海溝などのプレート境界線、その延長線上に位置する小笠原諸島-伊豆諸島-伊豆半島-丹沢山地を一体的に捉えた視点の検討を提唱する[51][52]

東京大学名誉教授岩槻邦男植物学)は、前述の自然遺産候補地選定に用いられた気候・地質・植生に基づく指標に縛られる必要はなく、例えばマリモの生態系を含めた阿寒湖の再評価や、鳴門の渦潮の可能性も示唆する[53]

福井県三方五湖の水月湖で確認される年縞堆積物が万年単位での年代測定の目安となっていることから世界遺産として保護すべきと提言する研究者が多く[54]、三方五湖が評価されるなら更新世中期の指標となったチバニアンの地層を確認できる千葉セクション国際地質科学連合が新たに設けた地質年代区分である人新世期の試料となる堆積物が採取でき国際的に注目されている別府湾(の海底)などと合わせ、「世界標準層序年代英語版の試料群」などとする意義はあるとの見解もある(日本のみならず各国に分布する国際標準模式層断面及び地点などを共同推薦する案も)[55]

2024年にアホウドリ天然記念物)が伊豆諸島鳥島で繁殖する型と尖閣諸島で繁殖する型が別種であることが判明し、日本鳥学会が繁殖地を世界遺産など国際的保護機構下に置くべきと提言した[56]。但し、2018年の登録審査に奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島を推薦した際、中国が「釣魚島(尖閣諸島)に領土領海問題がある」(尖閣諸島問題)として反対を主張し、日本は環境省が「奄美・琉球と尖閣諸島は成り立ちが全く異なり、同じ価値で登録することは考えにくい」とし、外務省も「バッファーゾーン(緩衝地帯)も含め、範囲を外に拡張することはない」と反論する応酬があり[57]、2020年の登録決定後に中国は「先の約束を反故にしないように」と尖閣への拡張登録を行わないよう釘を刺す見解を述べており[58]、尖閣諸島を世界遺産とするのは難しい状況にある。

拡張登録

世界遺産は登録数抑制策の一環として同一国内における類似物件の追従登録を容認しない傾向がある一方で、先行登録物件に類似物件を加える拡張登録を推奨しており、文化審議会世界文化遺産部会も拡張登録の有効性を認めているが[28]、国内においては紀伊山地の霊場と参詣道(熊野古道)と石見銀山において既存登録地に隣接する区域に対象を広げた「軽微な変更」が行われたのみで、拡張登録の実績はなく、現時点では平泉#世界遺産への拡大登録を目指す遺跡群だけが暫定リストに掲載されているのみである。

既存登録地の京都ではかねてから古都京都の文化財の拡張登録が取り沙汰されているほか、群馬で富岡製糸場と絹産業遺産群の拡張登録や、和歌山でも紀伊山地の霊場と参詣道の再拡張登録(未登録の紀伊路を含む)を目指す動きもある。

日本イコモス国内委員会は、「文化遺産推薦に向けた公募」の内、松島の貝塚群は北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群に加えることを検討すべきと示唆したり、松本城は暫定リスト掲載の彦根城や公募に名乗りを上げなかった犬山城と合わせて既登録の姫路城への「近世日本の木造天守閣式城郭」といったような枠組みでの拡張登録にすべきとしている[20][注 14]

自然遺産では上掲の吉田が、ユネスコとIUCNが推奨する海洋域への展開として除外された奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島の海洋域の海洋域への拡張登録も提案しているほか[51]伊豆・小笠原海溝が2020年に海洋保護区として沖合海底自然環境保全地域となったことから[60]、小笠原の世界遺産の範囲を端に海洋域に広げるだけでなく深海にも言及すべきとの見解がある[61]

複合遺産化の可能性

上掲の吉田は、1982年にIUCNが発行した『The World's Greatest Natural areas(世界の優れた自然地域)』に将来の自然遺産候補として阿寒国立公園日光国立公園富士箱根伊豆国立公園が上げられており、いずれも「自然遺産推薦に向けた選定」で俎上(そじょう)した後、日光日光の社寺として、富士山富士山-信仰の対象と芸術の源泉として文化遺産に鞍替えして登録された点に着目すると文化的景観の要素も含む複合遺産の可能性も示唆し、日光は男体山中禅寺湖から流れ落ちる華厳滝など自然崇拝の要素、富士山は前述の海底から地上に至る地質活動の終着点として、さらに阿寒湖界隈はアイヌとの密接な関係を備えるとした[51]

鳴門の渦潮に関しては現時点で自然現象を保護する国内法がなく[注 15]、風光明媚な景勝地として名勝に指定されていることから、文化的景観を伴う可能性を探究しており、複合遺産化の可能性も考えられている(「鳴門の渦潮#世界遺産を目指して」参照)。

越境遺産の提案

外国から越境遺産(トランスバウンダリー)の共同提案の可能性が打診されている事例や、日本側から呼びかけるもの、諮問機関が示唆するものなどがある。

文化遺産
自然遺産

暫定リストからの削除

文化審議会は新たな暫定リスト掲載物件の選定のみならず、登録の可能性が潰えたと考えられるものに対し、暫定リストからの削除も検討する方針も示している。一つの指標として、一定期間(5年間程度)活動実績が無い物件を有する自治体に対して継続か断念するかの意思を確認する[28]

そもそもユネスコ指針としては、暫定リストは10年前後毎に見直しを図ることが望ましいとしているが、2025年時点で暫定リストに掲載されているものの中で、武家の古都・鎌倉彦根城は1992年に日本の世界遺産候補第一号として暫定リストに掲載され、鎌倉は2012年に推薦したものの、諮問機関の調査を経て「不登録」勧告が出されたため推薦を取り下げ、2019年に神奈川県と鎌倉市・横浜市・逗子市が推薦書(原案)の作成活動を同年度限りで休止すると発表。文化財としての基礎研究や発掘調査および保存・整備事業は継続し、世界遺産登録は諦めない方針も明らかにしたが、再推薦に向けた活動実績(新たなコンセプトに基づく推薦書作成など)は行われておらず、既に5年以上が経過している[4]

新たな保護体制

世界遺産は登録の条件に完全性として法的保護根拠を求めるが、文化遺産であれば文化財保護法を拠り所とし、そこに景観法などを組み合わせて対処しているが、世界遺産のための専用の法令は存在しない[注 20]。これは文化財保護法による体制が充分有効に作用しているためで、それが「世界遺産という保護制度は日本には不要」と世界遺産条約の批准を遅らせたともされる[70]

しかしながら、世界規模での自然災害が頻発して世界遺産の被災が相次ぎ、特に地震が多い日本には必要な対策を講じるようユネスコからの要請もあり、2004年に内閣府・文化庁・消防庁・国土交通省により「地震災害から文化遺産と地域をまもる対策のあり方」を取りまとめたが、法的保護の裏付けは伴わないものであった[71]。そうした中、2019年に発生したノートルダム大聖堂の火災や首里城の火災をうけ文化庁は『世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画』を策定(~2024年度)し、2020年には国立文化財機構文化財防災センターを設立。世界遺産を含む文化財が災害対策基本法災害救助法の対象となった[72]。その後、強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法に基づき、2025年6月に閣議決定された『第1次国土強靱化実施中期計画』に『第1次文化財防災対策5か年計画』(~2030年度)を盛り込み、「不特定の者が立ち入る世界遺産または国宝のうち、特に優先して対策すべきものに係る防災設備対策」「世界遺産、特別史跡に所在する災害時のリスクが高い斜面等のうち、特に優先して対策すべきものに係る水害・老朽化対策」を国の責任として実施することになった[注 21]。さらに、新たに発足する防災庁との連携も検討。この取り組みの対象となった世界遺産は世界遺産委員会に提出する保全措置報告(SOC)に新たな保護政策が加わった旨が記載される[73]

また、世界遺産条約関係省庁連絡会議には参加していない観光庁(同会議に参加する国土交通省外局)が所管する観光立国推進基本法では、世界遺産登録地や世界遺産を含む国際観光文化都市などにおける「環境および良好な景観の保全」やオーバーツーリズムによる環境負荷の軽減案の策定も義務付けており、これらはユネスコも求めるものとなっている。観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律では、世界遺産登録地でも認定されている観光圏において、認定に際し提出する「観光圏整備計画」に記載がない整備(無認可開発=不法行為)を行った場合の罰則条項があることから、その運用の見直しが図られることになり、観光圏認定地であれば世界遺産保護の根拠となる[74]

環境省所管のエコツーリズム推進法では、サステイナブルツーリズムを実践するエコツーリズム推進協議会を立ち上げた自治体として、自然遺産から屋久島町小笠原村奄美市竹富町(西表島)、文化遺産では白川村を指定しており、同法では「観光旅行者その他の者の活動により損なわれるおそれがある自然観光資源の保護」「特定自然観光資源を汚損し、損傷し、又は除去すること。ごみその他の汚物又は廃物を捨て、又は放置する行為をしてはならない」とし、罰則条項もある。

さらに、内閣府総合特別区域法の地域活性化総合特区として「奈良公園観光地域活性化特区」や「和歌山県『高野・熊野』文化・地域振興総合特区」など世界遺産区域が特区認定されており[75][76][注 22]政令として対象地周辺に規制を課すことが出来ることから、今後の活用が期待される(規制をするための支援補給金も給付される)。

前述したアイヌ文化の可能性に関しては、「アイヌの伝統と開拓による沙流川流域の文化的景観」(平取町)が重要文化的景観となっているほか、アイヌ古式舞踊(重要無形民俗文化財・日本遺産)が無形文化遺産となっているものの伝承地は旭川市に限定指定されている。しかし、内閣官房主導のアイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律に基づく施策推進地域は北海道全域に広まっており、アイヌによる祭事の場における自然環境保全やアイヌ遺跡の発掘調査が行われるなど有形物としての顕彰も進められている[79]

脚注

関連項目

外部リンク

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